表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/40

#30.5 Dawn

「ねえ、私、今までずっと騙されていたみたい」


「どういうこと?」


「私、好きだと思ってた人、沢山いるの。恋人もいたし、それに、いるの」


「いるの?」


「そう、いるのよ。だけど、そうじゃなかったみたい」


「そうじゃなかった」


「そう、好きじゃなかったんだ、私、あの人たちのこと」


「どうして、そう思うの?」


「あなたへの感情が、あまりにも強すぎて」


「だけど、それはきっと勘違いでしかないのよ、あなたはその人たちのことも、ちゃんと好きだったの、きっと」


「ありがとう、でも、私は背負っていくべきなのよ」


「彼らを、騙していたこと?」


「そう、私は、彼らに好きと言って、でも本当はそうじゃなかった。騙していたのよ」


「でも、恋なんて、きっとそんなものよ、気にしなくていい」


「ありがとう、ねえ、私。なんか急に恥ずかしくなってきちゃった」


「どうしたの?」


「こんな風に、見つめて。それに、私今化粧もしてない」


「いいじゃない、そんなこと。それに、あなたはずっと綺麗よ。本当に、綺麗」


「そんな風に言われると、本当に恥ずかしくなる」


「あなたは、綺麗よ。どこも、全てが。顔も、腕も、胸も。脚も。ほんとうに、十分すぎるくらいに。それにね、いいじゃない。着飾って、化粧して。そんなに、隠さなくても」


「ねえ、私、まさかこんなことになるなんて、思わなかった」


「こんなこと?」


「そう。私、あなたが好きだなんて」


「そんなことも、あるわ」


「ねえ、私、想像もしてなかった。こんな、アンナチュラルな」


「ううん、大丈夫。ねえ、これはきっと、すごく自然なこと、だから」


「自然なこと?」


「そう、たぶんあなたが思っているよりずっと、これは自然なことなのよ」


「そうなの?」


「そう」


「そうなんだ」


「ほんとうに、ごめんなさいね」




 私は結局朝までずっとアカネの部屋にいて、時間を過ごしていました。


 ずっと手を繋いで、あるいは少しばかり抱き着いて、それだけ。何というか、少しだけ気持ちが悪かったのです。彼女に、それ以上のことをされると。好きだ、とか、そういう気持ちとは、別に。


 不思議なことでした。




 それから私たちは朝食を摂り、彼女の父親を見送って、昼までのんびりと過ごしました。冬に帰省して、さらにこんな時期にも帰るなど、彼女にしたら随分多いようで。あるいは私は、だから歓迎されたのかもしれません。


 私は彼女の母親の話す、冬に帰省した時の話を、アカネに時々遮られながら聞いていて。そして私は彼女の成人式の時に着ていた服を、思い出したように尋ねました。何色だったのか、と。そうすると彼女の親は何色って、と、少し戸惑うような表情を浮かべて、そう言いました。特に難しいことではないと思うんだけれど、と私もそれに少し戸惑って。少しの時間、空白があって、それからアカネが、紺、と口を動かしました。紺色、と。


 紺色、と私は想像しました。




 そして私たちは昼を食べて、家から出ました。


 とても暖かく、見送ってくれて。私は本当にありがたいという気持ち以外に、何の気持ちも持てないくらいでした。


 それから私たちは行きと同じように路面電車に乗って、バスに乗り換え、飛行機に乗りました。お土産分、私の荷物は大きくなってしまって。空港では、彼女のバックにもいくつかを入れてもらって、機内持ち込み分だけに何とか荷物を抑えるなんていう、少し滑稽なこともしました。


 その前日と同じく、よく晴れた日でした。


 飛行機は殆ど揺れることもなく、滑らかに空を進んでいっていました。私たちは機体の後ろの、エンジンから大分離れた位置に席を取っていて。つまりはその飛行機の中で一番静かな空間に座っていました。


 私は彼女にずっと寄りかかっていました。


「どう? 楽しかった?」、と彼女は聞きました。


「うん、楽しかった。宮島も、ほんとに綺麗で」


 彼女は私の頭を撫でてくれました。「ねえ、ありがとう」


「どういたしまして」


「何だか、眠くなってきちゃった」


「大丈夫、成田に着いたら、また起こしてあげるから」


 それから私は目を閉じて、そうすると意識がどこかに吸い取られていきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ