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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。
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scene2 ギルドホール2

 


   *   *   *



 かなりの恩情判決で一時間も猶予時間を設けたそうだ。見張り付きとは言え何かあったらあれ、ってことで僕と先輩はこのままここに待機です。………………はあー、


「……先輩、お茶、飲みますか?」


 お昼のお茶から飲まず食わずです。……お菓子の一つでも持って来るんだったよ……。


「……頼む」


「はーい……」


 怠そうな先輩の返答に僕は力無く頷き、お姉さん方に挨拶し、受付の中に入れてもらう。ちなみに先程まで交渉していたオジサン達は僕が『賢人』さん達と話している間に消えました。皆さんが仕事やらに戻って、さて、と、思ってホール内を見渡したら何処にもいなかった。あれ? と、僕が首を傾げると、


「……あれだけ権力者共に可愛がられている奴に脅しはかけられ無いからだろう」


 と、先輩に呆れたように言われた。


「……普通の交渉って選択肢は無かったのか……」


 ……大人って汚い。まあ個人の資質だけど。


 そして僕と先輩はビミョーに遠巻きにされている訳です。まあ、元々僕の職場を知っている人はいい人は仲良く、悪い人は逃げるって感じだから気になら無いけど……ん? 何故かって? ああ、それはこれから出て来る人を知ればわかるよ。


 で、僕は受付のお姉さんに茶葉を貰い先輩にお茶を出した訳です。……それが大惨事の原因になるとは知らずに……。



   *   *   *



「……お前魔力が、それもかなりあるな」


 僕が入れたお茶を一口飲み先輩が言った。


「ん、そうらしいですけど……何でわかるんですか?」


 確かに僕は魔法師として大成するほどの魔力があるって言われたことがあるけど……、


「……自覚無しでやってるのか? ……料理や茶にかなりの魔力が込められている。……そのおかげか俺の魔力もかなり回復している」


「………………ええっ!? ……あの、それ身体には……」


 『魔素』みたいに中毒を起こしたり……、


「『魔素』と違いよほど過剰摂取しない限り体調は崩さん。……俺のように回復する者の方が多いだろう」


「………………はあー、よかった」


 料理人として致命的になるところだったよ。


「……計って良いか?」


 計って? ……ああ、魔力を、


「良いですよ」


 昔、魔女の『お母さん』に計られたっきり三年以上計って無いからね、自分の身体ぐらい把握しときたいよ。


 そして先輩は頷いた僕の首に手を伸ばす。魔力は体液に多く蓄積されるから太い血管やリンパがある首が一番計りやすいんだ。意外と温かい先輩の手は僕のか細い首を片手でほぼ一周するぐらい大きくて、僕は、


 ──んー、先輩がちょっと力を入れたらポキッと逝っちゃうな……。


 と、不思議と落ち着いた心境で思った。……まあ、先輩は何時でも僕を殺せる人だから心配するだけムダって言うか疲れて損って思っているだけだけど。


 そう、あの安全地帯セーフゾーンで殺気を向けられた時もさっき話しかけた時もそう言う感じ。だって実力違い過ぎるし……頑張って一矢報いれるかな? レベルでレベルが違うし……だからさ、僕は危機感が無いんじゃ無くてムダが嫌いなだけなんだ。……そこのところ理解してね?


 だからこの後登場する人に僕が受けることとなるお説教は筋違いだったんだけど……まあ、愛情故だから甘んじて受けました。



   *   *   *



 はーい、今僕の目の前では大怪獣大決戦が繰り広げられています。実況はわたくしシャーロック君です。解説ももちろんわたくしシャーロック君……まあ脳内だから当然だけど。


「くっ、闇の茨(ダークネスブライア)


 おおっと! 先輩の魔法が発動! 今日の昼過ぎにも見たそれだけど無詠唱と簡易詠唱の違いか太さと棘の凶悪さが段違いだ!


「ふ、児戯を」


 だがオーナー、一見ごく普通の作業ナイフでそれを輪切りに! どういう材質なんだあのナイフ! いや、それともオーナーの技術か!?


「斬!」


 おお! 魔法は囮で本命はカタナによる斬撃だ!


「は!」


 しかしオーナー動じずどこからか出したもう一本のナイフで受け止める、そして絡めるようにカタナを下げさせ魔法を切った方のナイフで攻撃に! おお! 先輩魔法で膜を作りナイフを包む! そしてすかさず上段蹴りだ! だがオーナー、のけ反り避ける! そしてその勢いのままサマーソルトキック! 先輩紙一重でかわす!


「はん、オッサンの癖に相変わらず俊敏だな」


「スノー、君も弱い者イジメをするほど堕ちたかと思いきや太刀筋は変わらず綺麗なままですねっ!」


「誰が弱い者、だ! ありゃかなりしたたかだろ!」


「……否定はしません」


 目で追うのも大変なほどの応酬を繰り返しながらもどこかほのぼのと会話を繰り広げている先輩とオーナー。……で、


「なんで僕がディスられてるの!?」


 酷くない!?


 と、まあ思わずツッコミを入れた僕ですがそれを聞いてくれる人はいません。だってホール内僕達白雨亭の三人だけだからね。オーナーと先輩は戦いに夢中だし。


 ……ん? 何なんだその状況、って? ……んー、簡潔に言うと僕が先輩に魔力を計られてると迎えに来てくれたオーナーが突然、先輩に殴り掛かったんだよね。……理由? ……んー、多分会話の内容からすれば僕がイジメられてるみたいに見えたのかな?


 で、かれこれ三十分以上仲良く戦ってる訳です。……オーナー当初の目的見失ってるよね……先輩は最初から戦闘バトル楽しいー! って感じだけど。


 ……ん? ああ、オーナーって何者!? って? ……えーと、名前はロムス=マージ、年齢は多分四十代、で、十三迷宮のこの時点ではたった二人の最上階到達者、……いわゆる伝説の冒険者、かな? ……え、そんな男が何故宿屋の店主に? ……さあ? まあ四十年も生きてれば色々あったんでしょ?


「…………どういう状況なんだこれは……」


 で、話を戻すと、……まあ僕がそんな風に脳内実況しながら生温く見守ってると背後から第三者の声が聞こえ。振り返るとラウさん達三班の皆さんが呆然と立っていた。


「あ、お帰りなさい。市外退去の見張りだったんですよね? あの人達出て行きました?」


「あ、ああ」


 よしっ! じゃあ……、


「いやいや!? 帰るな! 帰るならあの二人も回収してからにしてくれ!」


 さて、と帰ろうとしてら慌てて三班の皆さんに止められた。……やだなー、


「冗談ですよー」


「……っていうか本当にどんな状況なんだ?」


「………………んー、過激な再会の挨拶?」


 少なくとも今はそうだよね。


「……おい」


「はは、大丈夫ですよー。ほら、建物も家具も無事でしょ? 二人も怪我してないし」


 そうなんだ。あれほどの応酬をしながら周囲への被害は皆無……凄いよね。


「……じゃあ、回収してくれ」


「ん、了解です」


 呆れ顔のラウさんの要請に頷き僕は二人の側にトコトコと寄り、二人の袖を掴み、


「帰ろ?」


 と、潤んだ上目遣いでお願いした。


「……あざとい」


 背後でボソリと呟かれた言葉は聞かなかったことにします。






 


『魔素』


迷宮に充満している物質、

多量摂取で動植物に『変化』を、

人間に中毒を起こす。

許容量は魔力の強さに比例する。

 




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