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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。
8/63

scene1 ギルドホール1

 





 やあ、宣言通りまた来たよ。


 え? 挨拶はいいから早く続きを話せ? えー……せっかちさんはモテないよ?


 ……ああ、もう、わかったから! そんな怒らないで! ちょっとした冗談だから!


 はぁー、じゃあ、まず……うん、僕が証言をしたところから。


 特に山も落ちも無いよ?






「あの十人は簡易裁判にかける」


 本日、僕を襲いかけた七人と先輩を『放置』した三人、合わせて十人の犯罪者達を拘束した自警団員の皆さん、応急手当だけをしたこの場の三人を奥に連れてってる人達を見送り、説明の為残ってくれた三班副班長のラウさんが僕と先輩に声をかける。ちなみにラウさんは職場の常連さん、三十代独身、昨日も朝晩と料理を食べに来てくれた。………………ん?


「あれ? どっちも先輩の証言だけですよね? もう裁判なんですか?」


 それはちょっとまずくない?


「ああ、いや、『バルカン』の方は『黒竜』の顔を見るなり攻撃っていうほぼ現行犯だからな、七人はちょっとシャーロック君の証言ももらいたいが……まあ、多忙な『賢人』達を召還するんだ、ついでに奴らも裁きたい」


 ええと、『バルカン』っていうのは先輩を『放置』した人達だよね? ……へー、あっちから先輩に喧嘩売ったのか……うん、身の程知らず。で、『賢人』さん、かー。うーん、僕的には三日と空けず来てくれる常連さん達で忙しいようには思えないけど実は大変なお仕事だったんだね。じゃあ、僕も早く仕事に戻る為に、


「じゃあ、ラウさんが忙しく無ければ直ぐに証言しますよ? 僕もああいう人達とは早くお別れしたいですし」


 うん、早めにバイバイしたいよね。変態とお馬鹿さんには、


「ああ、助かる。こちらは大丈夫だ。……では、証言をお願いできるか? まずは、名前と年齢、職業から」


 ふむ、まずはそこからなのか。じゃあ、


「はい、僕の名前はとりあえずシャーロック=ロイカ、年齢は多分十四歳、職業は白雨亭の料理人兼会計、あっ、ついでに冒険者登録している狩人です」


「……えー、ああ、そうか……では、次に今日の行動を、出来れば朝から」


 了解、了解、


「はい、まず五時に起床、洗顔等の支度をし、朝食を作りました。ちなみにメニューはBLTサンドとオムレツサンドに甘いのってことでフルーツサンド、それとクラムチャウダーでした。で、泊まりと朝食だけのお客さん、あわせて十六名に料理を提供。その後オーナーと残りで朝食、後片付けと夕食の下準備をしてから自室に戻りました」


「……えー、ああ、そうかー…………」


 ふふ、実はラウさんはクリーム系のスープが好きなんだよねー。へへ、今朝、余所に浮気したからだよ?


「そして、迷宮に入る為、着替えと武装をしてから迷宮に入り、ギルド依頼の討伐対象、風切り鳥のいる上層第二階層に上りました。そこで違和感を感じ、安全地帯セーフゾーン近くの行き止まりを覗き意識不明の先輩を発見、生存を確認したのでとりあえず安全地帯に運び軽く診断、強制停止シャットダウン だと判断し、手持ちのハーブでの応急手当を試みました」


「うん、そこまでは『黒竜』の証言と齟齬が無いな」


「はい、それで、ハーブによる体調の回復が見られたので、先輩に差し迫った危機は無いと判断。当初の目的、風切り鳥の捕獲に向かい、六羽を捕獲、その後ついでにラプラの実も採取、安全地帯に戻りました」


「……はい、それから」


「安全地帯に戻ったところ先輩は目覚めており、ちょうどお昼だったんで一緒に昼食を摂りました」


「ああ、そこも問題無い」


「で、依頼品も手に入れたので帰還しようと思い、互いの安全も兼ね先輩に共に行くことを提案、快く受け入れてもらいロビーフロアを目指しました。その途中、ついでに第一階層でポロ茸とシド水の採取をしました」


「……あー、うん、色々聞きたいけどそこまでは齟齬は無い」


「? ええと、それでロビーフロアに下りたところ、前方に三人、後方に四人、あわせて七人に囲まれ、風切り鳥をよこせ、と武器をちらつかせながら言われ、先輩をなだめていたところ突然激昂、全員で襲い掛かられました。で、先輩が倒しました」


「……うん、大丈夫だな、齟齬は無い……まあ、ツッコミどころは多々あったが……とりあえず簡易裁判に報告に向かうよ……」


 ……ええと、ツッコミどころ? うーん? どこが? まあ、いいや、


「じゃあ、帰っても良いですか? 早く鳥の羽根毟りたいんで」


「うん、却下……あー、とりあえず判決が出るまで二人はここで待機していてくれ」


 チェッ、駄目かー、まあ仕方ないなー、


「……わかりました」


「ああ、了解した」



   *   *   *



 職員用のドアに消えたラウさんを見送った僕と先輩。目を閉じ、体を休め始めた先輩をどれくらいかかるかなー? とか、やっぱり先輩って睫毛長いなー、とか考えながらボーッと眺めてると、


「な、なあ、上一うえいちでポロ茸を採ったって本当か?」


 と、目端が利きそうなオジサンに隣に来られ、小声で聞かれた。


「んー、嘘つく理由って何かあります?」


 だって、事件以外のことは記憶力のテストと、時系列にそって思い出すことによる正確さの為でしょ? 嘘つく理由無いよね?


「マ、マジか、じゃ、じゃあ、ええと、上四うえよんの隠し通路情報と交換しないか?」


 あー…………へー、なるほどねー、あのポロ茸が生える隠しスペースはレア情報だったのかー。オジサン以外の採取屋ピッキード系の人達もお耳がダンボだね。……ふふ、でも、


「五千。今すぐ払えるなら教えるよ? 情報系と交換はしない」


 これぐらいの条件じゃなきゃ、教えられないよねー。あっ、ちなみに五千はまあまあの剣や防具を買うか、もしくは一ヶ月文化的な暮らしを送る、それぐらいの金額。


「……随分と吹っ掛けるねぇ、坊ちゃん」


 オジサンは笑顔で怒りを隠してる。えー? 心外だなー、


「そう? だって教えたら僕の採取量きっと残ん無いよね? ポロ茸は高級食材だから市場では一個二十から四十、今は月に十くらい使ってるから五千じゃ一年半分ぐらいにしかならないよね? ふふ、結構良心的な条件だと思うよ?」


 僕は結構気前が良い貧乏人だからね。


「……現金ゲンナマだけかい?」


「んー、魔石でも良いけど三個以内かなー」


 魔石はサイズが小さいと変動率が高くて現物資産としての価値は低いからねー。と、僕が至極真っ当な条件を伝えたらオジサンは笑顔を取っ払って僕を睨む。……酷いなー。


「はは、最近ケチが付いてるデンには出せねぇよなぁ、……よう坊ちゃん、おいちゃんでも良いよな? ……この魔石三個でどうだい?」


 採取屋っぽいオジサンに代わって商人っぽくって油っぽいオジサンが僕の隣に来て魔石を見せる。どうやら選手交代らしい。……んー、別に代わるのは良いけど、ね、


「ふふ、冗談が下手なおいちゃんだねー。それじゃ精々二千じゃん」


 どれも大きさはそこそこだけど保有魔素がスカスカ、ちょっと綺麗なだけの石。


「あはは、ねー、オジサン達、僕はどうしても売らなきゃって訳じゃないんだよねー、っていうか売らない方が得、凄く欲しいって頼まれて最低限の対価が得られるなら売っても良いって感じなんだなー、ふふ、僕がか弱い美少年だからってあんまり馬鹿にしないで欲しいな」


 僕は弱いからね。一度ナメられたら骨の髄までしゃぶられ尽くして闇市にポイッ、だよ。そんな目には遭いたく無いからねー。


「あはは………………で、買うの?」


 オジサン達は僕を脅しつけようとした……んだろうね。けど、


「まあー! シャロ君! 変態に襲われかけたのですって! 大丈夫! 怖かったでしょう!」


 職員用のドアを外れる勢いで開いてそこから猛スピードで僕の前まで突進して来た熟し豊満な魅力溢れる美女──GGジジ姉さんに弾き飛ばされた。……って!?


「んー!? んー!?」


 そ、その豊満さの象徴に埋めないで!? い、息が…………、


「GG、シャロ君が窒息するぜ。俺が変わりにその乳に埋もれてやるから解放しな」


「!? まあ! ごめんなさいねシャロ君! 大丈夫!?」


 渋い男性の声で僕の状況を理解した二層歓楽街組合代表のGG姉さんが慌てて解放してくれた。……ふー、


「……ふふ、はい、天国から天国に行けそうだったけど大丈夫」


 僕はGG姉さんに笑って見せその背後を覗き見、


「ふふ、フエンさん救出ありがとう、でもセクハラはダメだよ?」


 ギルドマスターのフエンさんに感謝を伝える。どうやら裁判は終わったらしいね。


「はは、つい、な…………それより、今日は色々災難だったな」


「んー、そうでも無いかな? 強盗は先輩が未遂で終わらしてくれたから僕は無傷だし」


 ま、あの程度なら自力でもどうにか出来たと思うけど……まあ労力は少ない方が良いからね。


「……あー、それもだが……そこの、黒いのを止めてくれたんだって? ……ったく、自警団の連中も情けねぇなぁ」


「へ? 先輩を止めたののどこか災難なの?」


 普通に話しただけだよ?


「……いや、『狂黒』状態のスノーに話し掛けることは災難だろう」


「……襲われるとは思わなかったの?」


「襲われ? ……ええと、僕そこまで先輩を怒らせることしてないし……むしろ命の恩人? 的な?」


 僕にとっても恩人だし、


「…………だが殺気を放っている男に話し掛けたり側に寄ったりするのは止めるべきだ」


「あ、コルリア姉さんも裁判してたんだ」


もいるよ~。……やあスノー、この度は我の同輩がに迷惑をかけたみたいだね~。ゴメンね?」


「おお、カミキリさんもか……あれ? 簡易なのに『賢人』四人も?」


 十三迷宮市の黒荊戦士団戦士長のコルリア姉さんと青鳳教会の教会長カミキリさんも登場。そういえば僕を襲った強盗一味の中に黒の神官服が、先輩にペチャッとされてた人の中には青の神官服が……なるほど、と、僕が納得していると、


「………………」


 唐突に隣に立っていたボロボロのローブを着た年齢不詳の男性に無言で頭を撫でられた。


「うわっ!? あ、博士も? へ…………もしや、市内在住の全員に招集かかったの?」


 無言のこのお方は十三市の魔法師のドン、みたいなお人、魔法師らしく名前も不詳、僕は雰囲気から博士って呼んでます。


「ふふ、可愛いシャロ君が襲われたなんて聞いたら居ても立ってもいられなかったもの」


「…………………………」


「ふふ、ありがとうGG姉さん、博士」


 今度は埋もれさせ無いようにギュッとしてくれたGG姉さんと穏やかに頭を撫で続ける博士……僕ってば人気者だなぁ、


「わしとカミキリは同輩の不始末だと聞いてな」


「本当にすまんな~」


 神官長達は酷くすまなさそう。……いや、謝ることは、


「それはそれは……大変っすねー、聖職者は、アホが一人でも出たら連帯責任で」


 無いのにね、結局、個人の資質だし。


「フハハ、相変わらずシャロ君は神官嫌いだな」


「個人としては好きな人は多いんだけどねー」


 ……大嫌いな個人も多いけど、


「……仕方ない、好悪は個人の自由だ」


「ハハッハ、我も同輩連中は嫌いなのも多いしね~」


 まあ、ここの神官長達は皆さんおおらかだから堂々と言えるんだけどね。


「……裁判の結果」


 おおっと、先輩がしゃべった!


「あ、そうですね、結果出たんですよね? じゃあ帰って良いですか?」


 羽根!!


「駄目だ」


「わ、フレッド団長!? え、何でですか?」


 おお、自警団長のフレッドさんまで……ホント在市『賢人』オールスターだ。


「あれらは市外退去処分になった。恩情で最低限の荷物は持たせてやることにしたので全員が門の外に行くまでここでの待機を要請する」


 ………………羽根ぇ。

 





 

 

『賢人』


十三迷宮市の自治組織の代表十二人。

多数決で決定を下す。

エクストラメンバーが一人いて彼の決定は絶対。

個性的なナイスミドル達。

 


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