表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。
11/63

scene4 白雨亭2

 


   *   *   *



 酒盛りテーブルは賑やかだけどこっちのノンアルコールテーブルでは穏やかに紅茶で談笑中。こっちのメンバーは理性の弱体化を嫌う魔法師達と下戸なカミキリさんに明日も早いフレッド団長だ。ちなみに全員山のようなホイップクリームの三枚重ねパンケーキに相好を崩している。……スイーツ男子がこんなにも……、


 作った僕は一枚のパンケーキにちょこっとクリーム、多めのベリーで食べてます。……甘い物は好きだけど量は、ね。


「あっ、スノー、明日から依頼魔具の作製と販売品の修理頼むわ」


 で、先輩がクリームの山を崩さ無いようにナイフを入れた瞬間、ギルマスのフエンさんにそう声を掛けられた。


「……あぁ」


「ぁあ!?」


 クリームは儚くも崩れ、フエンさんのグラスの中身が火を噴いた。……理性弱っ!


 すぐさま同席しているオーナーが空いてる皿を被せ消火、そして先輩にスプーンを投げる。……おー、命中! ……って!?


「えっ!? 先輩がギルド販売の魔具の作製者なの!?」


「だよ~、と、言うより市内流通品の六割はスノー製さ~」


 もちろん白雨亭の魔具もね? と、カミキリさん…………そっ、それは!


「うわー、ありがとうございます先輩! 僕の文化的生活の大恩人だよー!」


 思わず抱き着いてしまった……だって凄い感動したんだもん!


「……そこまで感動することか?」


 すると団長に呆れた顔で見られた。……何言ってるのさ!


「団長! 今日のサラダも美味しかったでしょ! ホイップクリームもふわふわでしょ! 全部保冷庫と冷凍庫の魔具のおかげなんだよ!」


 もう生温いサラダとか最悪だよね! 氷水が無ければクリームも上手く泡立てられ無いし! その上!


「鶏モツを焼き過ぎず食べれるのも、足の早い挽き肉を作り置き出来るのもこの広い白雨亭をこれまで僕とオーナーの二人で清潔に保ててたのも全部魔具のおかげ!」


 洗濯機って超便利だよね! そして掃除用の魔具! ゴミを片付け、水拭きし、さらにから拭きもする、三体の球状ゴーレム達! もう最高だよ!


「あっ、後、お風呂場の髪を乾かす魔具! 凄い評判ですよね? 僕は部屋風呂派だから使ったことが無いけど」


 大浴場にしか置いて無いからねー、従業員としては、ね、


「……とにかく! 魔具のある生活は素晴らしいんです! ……もうここに来るちょっと前まで居たところは……せめて保冷庫ぐらいあっても……」


 すぐ傷む食材に悩まされた日々だったよ……その前は魔女の母さんと文化的に暮らしてたからさー、さらに辛くて……、


「どんなど田舎に居たんだ?」


 苦難の日々を思い返していたら団長に不思議そうに聞かれた。……ああ、保冷庫の魔具はちょっとおっきい村なら一台ぐらいあるね……まあ、美少年も十何年も生きれば色々あるのさ!


「……僕の過去は置いといて……とにかく! 皆さんもっと先輩を讃えるべきです!」


 文化的生活バンザーイ、と!


「……えーと、ありが」


「別にただの趣味だから感謝も賛辞はいらん」


 団長の感謝をバッサリ切り捨てる先輩……照れ屋さんだなぁ。


 ……ん? 先輩が作製者? ってことは!


「先輩! 新たな魔具を作製するご予定は?」


「……ギルド依頼のをしばらくやる予定だが?」


 その後の予定は未定らしい、


「じゃ、じゃあ、それが終わったらで良いんでその……ミキサーとフードプロセッサーとハンドミキサーを作って下さい!」


 調理スピードアーップ!


「……なんだその三つ?」


 ん、知らないのか……えーと、


「……ミキサーはこう円筒形で底の刃の無い刃が回転して……えーと、フードプロセッサーはもうちょっと平べったい円筒形で刃のある刃が回転して……で、ハンドミキサーは泡立て器が二つ回転して……えーと、とにかく! 料理が格段に早く美味しく作れる調理器具なんです!」


 ……うーん、どれも回転することしか伝えられ無い……後で絵でも描くかな?


「……ちなみにどんな料理に使う?」


 ん? えーと、


「ミキサーはシェイクって言う甘くて冷たい素敵な飲み物に使えて……フードプロセッサーはパイ生地を完璧に作れて……で、ハンドミキサーはスポンジケーキを極上に作れます」


 ……スイーツ男子を刺激する使用例にしたけど……如何に!


「すぐ作る……詳しい内容を話せ」


 先輩は即頷いてくれ、その上同席者三人と話を聞いてたGG、コルリア、両姉さんの猛プッシュで、急ぎ以外の依頼品を後回しにすることも決定しました。……ふふ、出来たら美味しいスイーツをたんまり作らないとね。



   *   *   *



 その翌日、僕は何時も通り夜明け前に起きた。宿屋の朝は早いのだ。で、バスルームでシャワー等を済まし、紅顔の美少年シャーロック君として屋上の物干し場に向かった訳です。


 ……ん、ああ、従業員寮の、三階建ての一階に僕の部屋が、……うん、足を伸ばせるバスタブもあるよ?


 で、そこには先客が居た訳です。


「あっ、先輩、おはようございます」


「ん、おはよう」


 物干し中の先輩でした。……違和感凄いね! ……いや、洗濯担当なのは知ってるけど。


「……干す?」


「え、……えーと、自分のは自分で……」


「……そうか」


 ……ううう、まだ慣れない……これまでほぼ一人暮らしだったから……オーナーは普段接触して来ないし……、


「ええと……朝ごはんの準備に行きますね?」


「……ああ、期待している」


「……が、頑張ります」


 と、まあ、僕は自分の城である厨房に走った訳です。……緊張したー。



   *   *   *



 今日のメニューはカボチャのポタージュ、チーズオムレツ、リーフサラダ、コールドポークに白パン、バゲット、そして大人気のドーナツです。……ああ、ミキサーが欲しい、カボチャの裏ごし腕がプルプルするー。


 コールドポークは昨晩の内に作ってあるからパンをコネるのと裏ごしが……僕は細腕なのさ……筋肉ってどうしたらつくの?


 そんな感じで体質を呪いながらパンを最終発酵に回し、僕はサラダを作る。……グリーンリーフとレタスをちぎり……ルッコラを加えて……、


「よしっ、後は冷やして食べる直前にドレッシング……じゃあ次はドーナツの……」


「ドーナツ?」


 ……ん?


「え、あ!? 先輩!?」


 またしてもカウンター内を観察中の先輩と目が合いました。……デジャヴュ……怖いよ!


「……ええと、料理してるの見るの、好き?」


「……どうやら」


 ビミョーに楽しそうな様子に思わず尋ねたら頷かれた。……無下に出来無いほど無邪気に……でも、


「ええと、掃除……」


「………………わかった」


 先輩は微かに切なげに用具入れに向かう……良心の痛みには目をつぶります。



   *   *   *



 バゲットと白パンをオーブンに入れ、僕は型抜きしたドーナツ生地を油に入れる。今日はアイシングで飾ったのとチョココーティングの、そして定番かつ一番人気のオールドファッションだ。


「……先輩、揚げたて味見」


「する」


 食い気味に頷かれた。……甘党だなぁ。


「熱いですよー、あーん」


 僕は穴の部分、一口サイズのそれを差し出す。持てる程度の温度です。


「………………」


 屈み、頬張った先輩は幸せそうです。……うん、味に問題はなさそうだ。


「……すっかり仲良しですねー」


 すると、やって来たオーナーに微笑ましそうに笑われた。……うん、仲良し? ……ええと、


「あっ、もうパンも焼き上がりますよー」


 コールドポークも切ってあります。


「では、営業を開始しましょう」


 そしてオーナーはパンっと手を叩き連絡用の魔具のスイッチを押した。



   *   *   *



「お気をつけてー、お土産よろしくねー」


 これから迷宮だと言う最後のお客さんを笑顔で見送り、僕はやっと息をついた。


「……ふー、オーナー、先輩、お疲れ様ー、すぐ朝ごはんにするねー」


 そして僕は取り置いておいたカボチャポタージュをカップに注ぎ、残りのサラダとコールドポークの切れ端でバゲットサンドを作る。チーズオムレツは白パンでサンドだ。そしてドーナツを籠に入るだけ入れ厨房を出る。……おっと、コーヒーも忘れずに……ふふ、オーナーはコーヒー党なんだ。


 そして三人でいただきますをしてバゲットサンドにかぶりつきました!


「んー! やっぱり、バゲットにカラシバター塗って正解! 味がしまるー」


 僕はプライベート時の恒例、自画自賛タイムに入る。……美味しい物は美味しいんだよ!


「……ええ、そしてポタージュも滑らかで……ああ、本当にシャーロック君が家に来てくれて幸運です」


 白雨亭の厨房は立派なのに僕が来るまで未開の地だったそう、お客さん達が持ち寄って食堂スペースは賑やかだったらしいけどね。


「んふふ、僕もギルドでここを紹介してもらって幸運でしたよー……安全と安心はお金では買えないですからねー……」


 僕が十三迷宮市に来た時。身分証ゲットを恙無く終え、窓口のお姉さんにオススメの宿を聞いたら真っ先にここの名前が出たんだ。僕みたいな食い物にされそうな子供には必ずそうするんだって。


 で、あれこれ話してる内に厨房が使われていないことを聞き、自炊したいと借りて……で、食堂で飲み会をしようとしていた賢人の皆さんにねだられ作り、認められ、で、雇われたんだ。……本当、


「幸運だなぁ……」


 別名芸は身を助く。……料理を仕込んでくれた母さん……ありがとう!



   *   *   *



「……ああ、三階の掃除は終わったか」


 リネンを詰めた洗濯籠を持ち、三体のゴーレムを引き連れた僕に二階を掃除中の先輩が声を掛ける。……女性専用フロアに男前な先輩はちょっと……ってことで引き続き僕が三階の掃除担当だ。


「んふふ、はい! ……いやー、やっぱりこの子達便利ないい子ですよね! もうアン、ドゥ、トロア! 君達は最高だ!」


 僕は洗濯籠を先輩に奪われながらもゴーレムズを褒めたたえる! 掃除はほとんどお任せだもん! 僕の仕事ははたき掛けと最終チェックのみ! 楽って良いよね!


「アン、ドゥ、トロア?」


「………………あ、えーと、その、可愛いからついあだ名を……ええと、正式名とか……」


 うっかり自分だけのあだ名で呼んでいました……いやー、恥ずかしい!


「…………いや、ただ一号、二号、三号と……」


「えっ!? じゃあ三体揃ってトライスターとかの名前も!?」


「……無い、が……トライスター」


「!? ……エヘヘ、つい……」


 だって可愛いんだもん!


「…………これからも好きに呼べ」


「はい!」


 っと、言う訳で僕のあだ名が彼らの正式名になって行きました。……いやー、恥ずかしい……。



   *   *   *



「はい、これで最後です」


 はーい、現在僕は裏庭の物干し場で先輩のお手伝い中でーす。暇だしね。で、今、先輩が干した枕カバーでラスト、……うーん、これから何しよう? すると、


「お疲れ様です。スノー、シャーロック君」


 何時も通りナイスタイミングでオーナーが登場。そして僕らにこう声を掛けた、


「ふふ、スノー、久方振りの市内を散策しませんか? お昼も好きな物を奢りますよ? ……ああ、もちろんシャーロック君の分も」


 !?


「……行く」


「行くー!」


 自分の料理を自画自賛するのも良いけどやっぱり作ってもらった料理を食べる方が幸せだ!




 

『トライスター』


いわゆる一般的な掃除機のアン、

汚れたら拭く面を変える雑巾掛けのドゥ、

そしてから拭き担当のトロア、

……一家に一台欲しいゴーレムズである。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ