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『僕』と『先輩』の迷宮と日常  作者:
第二話 白雨亭は安心安全な宿屋です。
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scene3 白雨亭1

 





「いいですかシャーロック君? どんな理由があろうと他者に首を掴ませるなんてことはしてはいけません。まして今日会ったばかりの相手、しかも柄の悪い男に、など言語道断です。わかりますね?」


 僕はオーナーのお説教にうんうんと、神妙に頷きながら風切り鳥の羽根を毟り続ける。お説教中のオーナーと柄の悪い男呼ばわりさせている先輩も一緒だ。



 僕達は白雨亭に帰って来た。そして鳥の処理をしている。先輩もオーナーもお願いしたら二つ返事で頷いてくれたからね。……ん、


「あ、先輩、風切り羽根と尾羽根はこっちに、矢の材料にしますんで」


 風切り鳥の羽根は矢羽根の最高の材料になるからね。


「ん」


「あ、オーナー。終わったの保管庫の右から二番目のラックに掛けて来てくれます? 足を縛って指三本分くらい開けて」


 風切り鳥は野生味があるから三日くらい寝かした方が美味しいんだー。


「……ええ、行ってきます」


 オーナーは長い前髪と髭でわかりにくいけどきっと優しい笑みを浮かべて保管庫に向かってくれます。ふふ、紳士的な同僚達で幸せだよね。



   *   *   *



「後れ毛無し! 服とエプロンにシミシワ無し! 営業スマイルもちろんOK!」


 キッチンカウンターに設けられた姿見で指差し確認を済ませ、エプロンの紐をキュッと締めた、僕ことシャーロック君。オーナー達が手伝ってくれたおかげで鳥の処理が早く終わり、キッチリとシャワーと着替えを行え清潔可憐な美少年です。


 よしっ! さてと、先ずは……、


「サラダを作って冷やしとこう」


 今日はメインに葉物野菜を使ってるから豆とカッテージチーズのサラダの予定。豆の下茹では午前の内に終えてるからサラダボウルにベビーリーフを敷き詰めて……、


「トマトと紫玉ねぎ、オリーブをみじん切りに……よしっ! バルサミコベースのドレッシングに豆と和えてサラダボウルに……うん、完了、じゃあ保冷庫に入れて……後は出す直前にカッテージチーズとオリーブオイルと黒胡椒を掛ければ……よしっ次! 保冷庫内の新鮮な鶏モツを……」


 レバーやハツのねっとり系は甘辛のタレ、ハラミや砂肝のコリコリ系は香草塩で串焼きにすることにします。


「……ふう、完了。……って!? うわっ先輩!? 何時から居たの!?」


 串打ちをし終え、顔を上げたら七十五日ぶりにまともなお風呂と着替えを済まし、男前っぷりが上がった先輩がカウンターの向こうから観察していました。……怖いよ!


「……ん、少し前から……手伝うべきかと思ったが……大惨事は避けるべきかと」


「……ああ、先輩もオーナー同様料理の才能は皆無、なんですよね?」


 僕の確認に深く深く頷く先輩。さっき羽根を毟りながら聞いたところによると、先輩は食材が爆発や炭化を起こす類いの料理下手、ちなみにオーナーは味付けが珍妙な類いの料理下手…………僕の目が青い内は厨房には出禁ってことに決定しました。


「……んー、じゃあ食堂の軽い掃除お願い出来ます? 午前に一応しといたけど清潔第一で」


 僕の要請に先輩は手をヒラリと振ることで応じ、用具入れからモップを取り出し掃除を開始する。掃除と洗濯は担当だけあってパーフェクトだから任せて良いとのオーナーの御達示です。


 そして僕らは黙々と夜の営業の開始準備を続けます。僕は午前に作っといたライ麦パンと白パン、ロールキャベツ──今日は特製ブイヨン仕立てです──を温め直し始めつつ、先輩にテーブル用のふきんを手渡しながら、あっ、と思って尋ねました。


「先輩何か食べたい物あります? 時間かからなくて特別な材料を使わないのなら、大体作れますよ?」


 そうだ、先輩は七十五日も迷宮でさもしい食生活を送ってたんだ、労らねば。と、


 ……遅いだろ、とか言わないで、この日寝る前に深ーく反省したから。


 で、先輩の返答は、視線をそらしてぽつり、


「……甘い物……出来ればホイップクリームの」


 ……先輩はまさかのスイーツ男子でした。


 ……ナイスギャップ?



   *   *   *



 先輩の要望にはホイップクリームを山のように絞り、ドライベリーを散らしたパンケーキで答えることにしました。


 ……あー、っていうかこれまで長々と料理話をしてたけど…………不快じゃない? そりゃいまさらだけど、さぁ…………ん? 美味しい物の話を聞くのは不快じゃない。下手物料理の話を始めたら追い出す、か…………うん、僕も下手物は嫌いだし……料理は大得意だからね! これからも料理話はふんだんにするね!


 え、節度は守れ? ……えー、さじ加減がー、……不快だったら止める? うん、OK。


 じゃ、続けるね? で、何時もより一時間近く遅れたけど料理があらかた仕上がって、良い匂いに誘われた泊まり客の皆さんが頭上でうろうろ、食事オンリーなお客さんがドアの前でうろうろし始めた頃、接客担当のオーナーが食堂に来、僕と先輩に声をかけた。


「では、営業を始めましょう」


 と、そしてオーナーは泊まりのお客さんに魔具で連絡、降りて来た皆さんから席にご案内。続いて食堂のドアを開き食事客の皆さんから前払いの料金を受け取り席にご案内。……ああ、白雨亭はビュッフェ形式食べ放題なんだ。ちなみに料金は夕食二十プロフで朝食十プロフ、女性客は宿泊費も含めて全料金二割引き。


 大浴場と女性専用フロア、洗い立てのリネンと豊富なアメニティ! 女性の皆さん十三迷宮に来た際は是非白雨亭にご宿泊を! 迷宮まで徒歩五分の最高の立地でお待ちしております!


 ……え? 誰に宣伝してるんだって? ……ふふ、まあ、良いじゃん、性分なんだよ。


 ……うん、またまた話を戻すね。……で、その間、僕と先輩は料理をカウンターに並べてた。あっ、ちなみにビュッフェ形式だけど料理はこっちでサーブ、食堂あんまり広く無いからね。定員最大三十人ぐらい? で、泊まりは最大五十人……うん、二交代制になるね。まあ、基本泊まり十五で食事客二十五ぐらいかな? でも泊まりのお客さんには夕食頼まない人もいるから……まあ良い感じ?


 ……え? 商売として成り立ってるのかって? ……うーん、食堂は、ね……宿としては……まあ、オーナー半分道楽だから……うん、大丈夫!


 で、先ずは第一陣の皆さんに料理を提供。こちらの事情で遅れたことを謝罪して──今日は一割引きです──……で、基本第一陣は明日迷宮な皆さんだから食事を終えたらすぐに部屋や自宅にお帰りに、そしてテーブルを片付けてると、第二陣の皆さんが酒瓶片手にやって来る訳です。


「シャロ君、来ちゃった」


 と、


 ……賢人達は大体この時間帯です。

 


   *   *   *



「あっ、ホントにスノーが帰ってる」


 僕が明日の仕込みと、ある程度の片付けを終え、ノンアルコールテーブルで遅い夕食を摂っている頃、食堂のドアを賑やかに開き華やかな赤毛の美女が飛び込んで来た。


 グラマラスな肢体を白いローブで包んだ、その美女の名前はマチルタ=ローゼ、白蓉聖歌会の歌姫で十三迷宮市の副聖歌長。


「おー、相変わらず見てくれはイイオトコだねぇ……一晩遊びたいぐらいさ」


 そして、酒とイイオトコが大好物の豪快な僕の姐さまだ。


「……面倒なのが来た」


 姐さまに頭をガクガク揺らされる勢いで撫でられている先輩は口と表情は迷惑そうに、けれどその手を振り払うこと無く受け入れています。


「……結構仲良し?」


「ええ、姉弟のような関係ですね」


 僕の呟きにオーナーが酒盛りテーブルから返事。……なるほど……、


「で、姐さま、姐さまは昨日から泊まりがけで近くの村のお産でしたよね? 母子共に?」


「健康元気、大安産さ。かわいい男の子だったよ」


 オーナーにコインをピーンと弾いた姐さまに皿とグラスを渡しながら聞くとウインクしながら答えてくれた。おー、それは、


「めでたいですねー、ふふ、では乾杯を」


「ああ、そうさね……じゃあスノーの無事の帰還と未来のイイオトコの誕生に……乾杯ー!」


「それから命懸けのお産を無事に行った立派なお母さんと凄腕の姐さまに……乾杯ー!」


 僕は子供を大切にする母親は無条件で尊敬してる。





 

 

『白雨亭』


伝説の冒険者ロムス=マージがオーナーの宿屋。

シャーロックとギュスノが働いている。

素泊まりが部屋によって六十、九十、百二十で洗濯、大浴場付き、

夕食が二十プロフ風呂込みだと二十五、

朝食が十プロフ女性は全て二割引き。

三階建て、一階は共用フロア、

二階は男性フロアで六人部屋二つ三人までの個室三つとトイレと洗面所、

三階は女性フロアで二階と間取りは変わらず階段の上下に内鍵が掛かる。

はなれが一棟あり、部屋数は四、

広い、けれど客は少ない。

ちなみに職員寮もあります。

 


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