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樋影プロト  作者: ハルキ
9/13

第九幕

 さぁ、この時がやって参りました。

 世紀の大対決。

 その勝利は誰の手に。

 第何百回、1年6B組委員長総選挙。

 実況は不肖この俺、並木 守が務めさせていただきます。

 いやー、おかしなことになりましたねー。

 それもこれも、我らが担任、クワセ先生のお気まぐれに遊ばされるが故。

 そうは言っても俺も嫌いではありません。

 その尽力を尽くして栄光を掴み取らんとする人々の情景はなんだか熱くなるものがあります。

 ちなみに、クワセ先生には解説を引き受けていただきました。

 お忙しい中ありがとうございます。そして、どうぞよろしくお願いいたします。

「よろしく」

 如何ですか?

 準備は滞りなく順調の様子ではありますが。

「そうですね。これは一種のレクリエーションのようなものですが、思った以上に彼ら全員のモチベーションが高い、それがわかるようでとてもワクワクしますね」

 なるほど。

 確かに、皆さんのイキイキがこちらに骨伝導してくるようです。

「ああ、それ言いたかった」

 じきに準備が整いそうですが、まず先に立候補者を出席番号順に紹介して参りましょう。

「そうですね。時間は有効活用すべきだ」

 まずエントリーナンバー1っ!

 木村 拓海っ!

 性別と一文字が違えば大騒ぎしそうな、いい名前です。

 彼女は所謂、アスリートのような出で立ちで、肌の見える部分がほとんど黒く焼けている、爽やかな印象を放っております。

 今は演説の原稿を最後の確認に回っていますね。自身でする辺り文章に強いのだということでしょうか?

 どのような演説になるのか楽しみです。

「得意は水泳だそうですね。私は泳ぎが苦手なので、一度指南してほしいな」

 俺もです。

 泳ぎは時に命に関わる節がありますね。

 その折はぜひ俺もご同伴させていただきましょう。

「並木くん、その時に命に関わらないよう表情筋の緩みに気をつけてお願いします」

 おっほっほ。まさか俺に下心があるだなんて言うんですか?

 そんな馬鹿な。

 怖い。

 続きましてエントリーナンバー2ぅ!

 七草 八根っ!

 メガネっ!

 まさにメガネですっ!

「まさにメガネってなに?」

 訊けば、勉強をすることは生き甲斐。

 そのために視力を犠牲にしてまで夜も寝ずに本を読んでいたといいます。

 その知識から一体どれ程の説得力を発揮できるのか、乞うご期待であります。

「七草くんはいずれどこかの世界の独裁者になると言いました。それが如何なものかはさておき、今日の戦いはいい経験として収めてほしいですね」

 彼には勿体無いお言葉。

 先生は多少なり彼が若干お気に入りのご様子なので、どうせならもっと言ってあげた方がよろしいのでは?

「咬ませ犬役を遺憾なく発揮してくれたまえ」

「なんだとっ?!」

 続きまして、エントリーナンバー3っ!

 二ノ舞 千晴っ!

 彼女は先生の本命だそうで。

 なんと樋影学園一年生のトップの成績を誇る、大変な頭脳の持ち主です。

 人は彼女を、『癒し系と思ったら天才かいっ!少女、ちはるんっ!』と呼びます。

「おい、誰だキャッチコピーが魔法少女みたいなセンスなしの名前考えたのは?端沿か?」

 まさしくです、先生。

 その人は今ずっとちはるんさんに気合を注入しています。

 肩にタオルまでかけて、同じ応援者の黒崎さんと共に他の追随を許さない熱血感です。

「あいつらだけ趣旨違ってない?ねぇ、なんでグローブまで用意してんの?」

 七草くんの指摘はごもっともですがこれは戦いなのです。

 あれがもしアピールだとすれば先生いかがでしょう?

「斬新ですね。つまりあれ、『いつでも貴様らを叩き潰すことができるぞ』の表れなのでしょう」

「おっかねぇなっ!なんかボディブローの練習までし始めてんだけどっ?!」

 千晴さん、もっと脇をしめるべきですね。どれ、俺が行って教えてきましょうか。

「ふふふ。危なくなったら血を見るのも辞さないか。ありだな」

「いやないよっ!?」

 おお…………クワセ先生の微笑…………これはグッときます。もう少し側にいるとしましょう。

 さぁ最後の立候補者です。

 エントリーナンバー4っ!

 渡辺 ククルっ!

 先生、一つだけお訊きしたいのですが、刃物はありでしたか?

「ふむ。確かに殴り合いは生き残る可能性しかないが、刃物はともすれば一発であの世行きも免れん。これは議論の余地があるな」

「鉛筆削ってるだけだしっ!?ていうかもしあれでヤル気なら議論の余地なく失格だよっ!?」


 これで全ての立候補者がそろいました。

 力が試される時です。

 勝負の程はどのように決着がつけられるのでしょうか?

「己が全力を挙げ、多くの生徒の心を掴んだ者が委員長の座を勝ち取る。至極単純明解だ」

 なるほど、そのためにはどのような手段を用いてでも勝利せよと。なんでもありということですか?

「ありだな」

「いい加減にしろよお前ら…………っ!」


 司会進行は粒焼さんにお願いいたします。


「はい。では第何回1年6B組委員長総選挙を開始いたします。立候補者の方々は前までお越しください」


 始まりました。

 一同が教卓の脇へ集います。


「礼っ!」

「「よろしくお願いしまーす」」


 まずは挨拶からですか先生。

「大事ですね」

 大事です。

 そして一通りの説明がなされした。

 次に最初のお題目。


「ではまず立候補者様方のご紹介に参ります」


 こちらもさっき我々がしたのでカットしましょう。

「カットだな。うん」

「お前らに一体どんな権限があるっていうんだっ?」


「続きまして、木村さんの演説です」

「よろしくお願いしまーす」


 木村さんが前に出ると、彼女の応援者の方々が一斉に沸き始めました。

 とても人気があるようですね。

 木村さんの応援者は彼女のイメージに合わせたスポーツが得意そうな面々揃いです。

 こうして見ると、一番大きいのはやはり木村さんということですか。

 人望の高さが窺えます。

「確かに、そこが人によっては畏怖の対象へと向かうのでしょうから、もしかしたら木村さんの覚悟は彼女の人柄としてはぴったりなのかもしれません」

「何の話をしてるんだ?」

「身長」

 おっぱい。


「僕がこの選挙に立候補する動機は、一度こういう経験をしてみたいなぁと前から思っていたからです。

 何だかこう、前に立つ人がカッコよくて、昔から憧れてたんですよねぇ。キビキビとしていて、無駄な動きがなくって、凄くその…………えっと、楽しそうで。

 でも中々こういうことに入れなかったんです。

 部活とか、結構忙しかったりするんですよ。

 ただ、一度でもいいからやってみたいと思ってーーーー」



 あ、先生、今日は雲ひとつない快晴ですね。

「そうようだ。まさか話を逸らしてこの技から逃れようという気はあるまい?」

 滅相もございません。密着率といい最近の腰の調子からといい、俺にとってはご褒美です。

「此の期に及んでセクハラか…………」


「なので、是非、清き一票を」


 初々しさのあるいいスピーチでした。

 木村さんが濃厚な性格をしているのがプラスだったようですが、その言質が取れたのでしょう。

 何人かの面子が頷きながら拍手を送ります。

「なぁ並木くん」

 なんでしょうか、先生?

「異世界に連れてこられたって言われた割にはみんな仲良くないか?」

 はて、それ程まだ打ち解けている描写はありませんが?

「なんか割り切るのが早すぎな気がするんだよな…………」

 この一週間でみんな葛藤を乗り越えましたからね。

 手に手を取り合って、友達になって心を支え合ったのですよ。

「そうなのか?」

 みんなの強さの賜物なのでしょう。ゲホッ!

「私の時は学級崩壊が起こるくらいに荒れてたけどな。確かに強いよ」

 学級崩壊。

 まさか窓も割ったりしたのでしょうか。

「ああ。あの時は私が24枚で新記録だったんだ」

 先生の壮絶な過去が聞けたところで、お次は七草くんですね。

「え、もういいの?」

 七草くんは以前からこの学園に所属する古株という、彼も彼でどのような過去を送ったのかが気になります。ガクッ…………。

「そんな大したもんじゃないさ。僕としては君の方が、どんな過去を送ってきたのか気になるところだけど」


「七草さんは前へお願いします」


「わかりました。それより先生、そいつもうすぐです死にますよ…………?」

「おっとっと」

 はっ?!

 それでは七草くんのスピーチです。

つづくっ!

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