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樋影プロト  作者: ハルキ
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第六幕(第五幕裏)

 おい藁ツインテール。

 さっきはよくも、なんてまぁ落ち着きなさい。

 そう。

 私は理性を持って超越できる女。

 感情的になってはダメ。

 ここは、徐々に罪を追及して最後にトドメを刺すのが一番の効率だと思うの。

 彼女にできるだけダメージを与えて、かつ修復不可能に私に畏怖を抱かせる。

 これで彼女はもう私にちょっかいをかけることはないだろう。

 ええ、できる。

 簡単だわ。

 私は有言実行できる女。そんじょそこらの検事では、私に遠く及ぶべくもない。

「うん、同級生だよね?トイレ、この先の渡り廊下にあるんだけどいっしょに行く?」

 おや。

 さっきから割と当たりのいい態度をするじゃない。

 でも違うのよね。

「トイレ?何を勘違いしているのかしら?」

 詫びを入れろ。

 許しを請い願え。

 我ながら投げナイフのような心情が物騒だ。

「もしよかったらいっしょに行かない?」

 ちっ、外したか。

 真っ先にケリがつけば苦労がないのに。

「トイレに用はないわ。下品な誘いしないでくれる?」

 全くデリカシーに欠ける女。

 いえ待って…………。

 ふふふ、危ない危ない。

 もしここで冷静じゃなかったら、恐らく懐柔されていただろう。

 なるほど、まぁ悪い手ではなかったわね、でも。

 その手には乗らない。

 友好的に手を差し伸べ、さっきのことをなかったことにしようとでもいうのとか、よくある手口で見切れてるわ。

 甘い甘い。

 甘すぎる。

 全てを清算するというのなら、相応の対価を支払ってもらうまでよ。

 私が受けた屈辱はこんなものじゃない。

 そうよ。

 ジワジワと罪に苛まれていくのよ。

 後悔する?

 するでしょう?

 もっと苦しむがいいわ。

 その様をどんどん私に見せて頂戴。

 私の断りは彼女に少しばかりダメージが入ったらしく、何やら思案する素振りをすると、次の文言が浮かんだらしい直後に姿勢を正してこう言った。

「ご一緒にお花お摘みに参りませんこと?」

 いきなりなんだっ?

 なぜお嬢様然として言い直したっ?

 ていうかダメージ入ってない…………?

 どういうこと…………私の追及が足りない?

 それはあるわね。

 どんなものに対しても、最初から全力を尽くすだなんておこがましい。

 ライオンでも、最初は獲物の様子を見て戦略を組むだろうことは当たり前だ。

 どの辺りまで近づき、そして飛びかかるのか、それを見極めなくては。

 本気じゃなかったのよ。これからじっくり力加減を調整していくつもりだっただけだから。

 あと、多分ヘンテコな性格らしいこの子、絶対友達いないな。後ろの子はさておき。

「なんなのよ、いきなり改まって」

「そっかー…………じゃあどんな言い方が良かったかな?」

「言い方の問題だったかしら?」

 どうしても私とお手洗いに行きたいらしい。

 自らの罪を弁えていないその言動、更に強い追及が必要かもしれない。

 貶められた私にはそれを咎める義務がある。

 これはあなたのためを思って為すことよ、ツインテール。

 また同じ過ちを繰り返さないためにも、全てを自覚なさい。

 すると不意に、ツインテールの言葉へ相槌や、私の拒絶に勝手に傷ついたり、今なぜか一緒になって悩んでいるお連れのおさげの子が何かいい言葉を閃いたらしく、スタスタとツインテールの前に出張り、数回深呼吸して準備をし始めた。

 ふむ、真打ち登場というわけかしら?

 臨むところよ。

 それで私を納得させられるというのなら、どのような弁論も真正面から受けてみせる。

 さぁ、来なさい。

「シャルウィ?」

「馬鹿にしてるの?」

「あぅっ…………」

 深呼吸までしてそれか…………。

 ちょっと期待した私が馬鹿だった。

 しょげかえって元の位置に戻る様を見るに、さっきのはもう思いに悩んで出た渾身の答えだったのだろう。

 あれでか…………。

 もっと捻って。もう少しだったと思うわよ。

 足りないのではなく、空気を読め。

 大人しそうなフリをして意外とチャレンジ精神溢れる子なんだ…………。

「ナイスファイト、千晴さんっ!」

「ぐっ!」

 仲良いいな。

「ふふふ、次はあたしのターンだ。千晴さんの仇、取らせてもらう」

「え?まだやるの?…………い、いいわ。臨むところ」

 早くもこの茶番について行けない。

 さっさと幕を引くためにも、ここで遠慮して場をあとにすればよかったと悔やんだ。

 だって、何か得体の知れないものを感じさせる雰囲気のツインテールと対峙している気分が、何故か悪くない。

 少しくらい付き合ってやってもいい、そんな感覚にさせてくれる。

 当初の予定はもうおじゃんにされ、有耶無耶にされてるような…………気のせいか?

 まぁ体良く知り合いになったとして、この女のノリを三年間も捌けというのなら逃げた方がマシだろう。

 私は本当は攻めが得意なのだ。

 ていうか、いつの間に私が受け側に?

「その余裕がいつまで続くかなぁ…………ここでタジタジさせてやる」

「やれるものならやってみなさい」

「ああ、覚悟はいいな?」

「こっちのセリフよ。一体どんな狂言が飛び出るか、まぁでも、あなたごときの語彙力では高が知れてるだろうけれど、ね?」

 ここで大きな挑発をした私が口元をニヤリと上げてやると、ツインテールはクッ、と喉を鳴らし、しかし敢えて笑みを浮かべるという気高さを見せると、手札を開く姿勢を正した。

 ここで、空気に呑まれんと身構えた私は結局してしまった行動が信じられない。

 もう助けてください…………。


「これがあたしの、本気だぁぁぁぁっ!」


 ツインテールは雄叫びを上げ、って、それから何かセリフを言うのか?

 私は、この私の前に現れた彼女らに相応の報いと鉄槌を与え、その身をもって後悔させてあげよう。

 いいや、私が彼女らの前に現れてしまったことが運の尽きだと思って後悔するがいい。


 そんな文言がシナプスに刻まれたようだけど無視しよう。


「なぁ。別に仲良く遊ぶのはなんでも構わないんだが、みんなの通り道を妨げるのはやめてもらっていいかな?僕もトイレに行きたいんだ」

 そんな興醒めな一言で我に返って。

「…………誰?」

 唐突に現れた気味の悪いメガネに手厳しい視線を返して、私はやっと救われたと感じた。

「いや本当に誰だ?なんであたしの必殺技の邪魔をする?」

「散々な言い分だな。迷惑なんだよ。退いてくれ」

 ホッとしたけれど、更にムッとする言動。

 おこがましい。

 せっかく私も楽しくなってきたというところで、無粋なメガネにバケツの水をひっくり返される気分にされることすらガッカリしているなんて、我ながら悪ノリが過ぎてしまったと思っていながらなんだかなぁという気分だ。

 どうせならもっと気が利く言葉はなかったのか?

 一先ず一時休戦ね。

 この妙なメガネが私たちの邪魔をしようだなんて。

 これは糾弾の余地があるわね。

 私とは同じ考えらしいツインテールは、共同戦線を張ってくれるらしく私にアイコンタクトを送ってきた。

 そうこなくては。

 どんな人間にも出し抜かれるのは我慢ならないけど、平等でありさえすればよろしかろう。

 何より男に偉そうにされるのは腹が立つ。

 悪いとは思わず、遠慮なくボコボコにしてあげるわ。

「いやね、あたしらも早く行きたいんだけどこの子が通してくれなくてさぁ、ね、ちーちゃん?」

「ちーちゃんっ?!ちーちゃん…………私、千晴です…………」

「あんたからもなんか言ってやってくんないかな、メガネくん。ちょっと口悪そうだけど」

「そうか…………まぁ別に追及はしないけど」


 あれ?

続くっ!

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