第四幕
困った。
『これにて、第206回入学式を、閉会いたします』
困った。
私はどこ?
もう訳がわからない。
樋影学園の校舎は6棟から成っていると聞いた。
そのどの棟も6階建て。
ちなみに私がいるのは何棟目の2階だ。
ここからはやっと見つけた体育館と思しき建物からさっきの音声が聞こえ、高校生最初の登校を思わぬ形でボイコットすることになるとは。
どうしてこうなった。
思い起こすと、ここの敷地や地図をまったく把握していなかった私は、とある二人組の女子がウロウロしているのを発見し、その後ろをついて行くことにしたのが全ての元凶のはずだ。
藁束みたいなツインテール女子が頼りなさそうなおさげの友達より先行して行く姿が頼もしく見えてしまったらしい。
これは安心、私はもう大丈夫。
すっかり腑抜けてしまったのよ、その雰囲気に流されて。
その後。
どうやら同じくらい道に迷い始めた彼女らと共感し、ドジだなぁ、でもこれはまぁもしかしたら仲良くなれそう、と思った自分があったのは認めざるを得ないけど認めたくない。
よくもまぁあんなことをしてしまったものだ。
なんと彼女らは、散々校舎にまで土足で踏み入れ、スタスタと気の向くままに行進するだけならず、実はしょうもない方向音痴なのだと事実が明らかになり、とても幻滅を施される事態に陥っていったのだ
いやいや、上履きは?
これからお世話になる校舎をなんだと思ってるのかしら?
まったくもう。
さすがに私は靴を脱いで廊下を歩いたけれど、なんて非常識なのかしらあの二人?
そして私がドン引きして彼女らとおさらばし、正しい道を行こうと思えば、この有様だった。
嘘でしょう…………。
ここでまさかあの二人、確信犯だったのではという可能性が出てくる。
だって静かについて行ったとはいえ、尾行していたわけではないのだから私の存在に気づかないはずがなく、つまり目障りだった私を陥れるために意地悪でアンポンタンな道を進んでいたに違いない。
合点がいった。
これは罠だったのだ。
こんなことになるのならしっかり地図を持って来ればよかった…………。
今となっては後の祭りも甚だしい。
遂には同じ様子の廊下と渡り廊下をグルグル回り、実は体育館に繋がる橋があるのでは?と2階に上がって目当ての体育館らしき屋根を見つけるもあと一歩というところで手遅れとなったのが運の尽きだ。
さらに悪いことに、体育館から一番近い窓辺に差し掛かっても橋らしきものは見つからないという的外れ。
結局閉会の挨拶が耳に入って今に至る。
冗談じゃない。
私は努めて真面目な女子高生に繰り上がるところだったのに。
先生には正直に話した方がいい。
そう、私は何も悪くないのだから。邪悪な二人の悪魔にそそのかされ出口のない迷路に閉じ込められてしまったのだから。
うん、絶対にわかってくれる。
でないと報われないじゃない。
そうと決まれば職員室だ。
担任が未だ誰かわからないけど、教師とは生徒の味方である。
どの先生でも私を庇ってくれる。
見てなさいあの二人。
さぁ、職員室はどの棟にあるだろう?
案外今いる建物にあるかも。
降りるか?昇るか?
まずは。
「どっちかな?」
この先の渡り廊下にも職員室の気配を感じる。
隣に階段。
この選択を制することによって私は戦線布告となす。
いや、すでにこちらがなされてと言っても過言ではない。
よって、受けて立ちましょう。
これを外すともう後がないの。
心していくのよ、黒崎 愛花。
だんだん入学式を後にした同級生らしき騒めきが聴こえてくるけど、もう惑わされないわ。
私はもう、自分しか信じない。
いいえ、私自身を信じるのよ。
こっちか。
「ねー君。トイレ行くなら一緒に行こうよ」
ネタが…………