桜の下で
高校時代、折れかかった気持ちを繋いでくれた彼。
あれから5年が過ぎ、少し大人になった二人の関係・・・・
私は、インターハイを目指して嶋野高校の陸上部に推薦入学をした。
入学してすぐにリレーメンバーに選ばれて、先輩からいじめに逢った。
折れそうになった気持ちを、清水くんに助けてもらった。
あれから早いものでもう5年・・・・・・・・・
1年の時は県大会の次のブロック大会まで進んだ。嶋野高校始まって以来の快挙だった。
2年の時は見事、インターハイに出場。でも、初めての出場とあって緊張しまくり。
いつもの走りが出来なくって、予選落ち。その悔しさを胸に、更に猛特訓の日々。
3年では、とうとう400mリレーで優勝、更に個人種目でも優勝できた。
優勝した事で、世間が注目をしてくれて、生活環境が少しずつ変化してきた。
周りには、実業団や各有力大学からスカウトがたくさん来ていた。
最終的に決めたのは、大学に進学する事にした。
選手生命を考えて、陸上以外の事を身につける事も選択肢の一つと思ったからだ。
清水くんも、自分の目標に向かって理工学部に進んだ。
話を聞いても、難しくってよく私には理解できない。
いつの頃からか、清水くんとの連絡も携帯のメールでやり取りをするようになった。
メリットは、相手の忙しさを気にせず送れること。
デメリットは、やっぱり気持ちが少し伝わらない事。
携帯だから、電話をすれば直接彼に繋がる。
そんな安心感があった。
そして、いつの頃からか"たっくんへ"という出だしでメールを送るようになった。
彼からも"ゆみへ"という出だしでメールが来るようになった。
メールでは、いろんな事を伝えられた。
高校の頃は、陸上の試合の事が多かった。
結果は必ず報告して、遠征先の景色や、季節感を感じた事とかを送った。
もちろん、気に入った景色は画像も送った。
たっくんからは、体調を気遣ってくれたり、今の勉強の事
寮から見える季節の移ろいとかを教えてくれた。
大学に進んでからは、お互い少し時間に余裕が出て逢える時間も出来た。
逢えば、お茶を飲んだり、ご飯を食べたりと普通のカップルみたいに過ごした。
頻繁にメールをしたり電話したり・・・・・
だから離れていても、いつも近くにいてる感じがした。
そういえば、つい最近一人暮らしを始めたってメールがきてた。
私なんて、遠征にはなれたけど、一人で生活なんて絶対無理だった。
末っ子の甘えたな性格は、今でも変わらない。
お兄ちゃんが結婚して、家を出てからは完全に一人っ子状態だった。
そんな事を考えてるとメールが届いた。
「ゆみへ
風邪でダウン・・・・・・
明日は、ちょっと無理かも・・・・・・・
せっかくのオフなのに、ごめん・・・・・」
せっかく久しぶりに逢う約束をしてたのに・・・・・
でも、一人で家でダウンしてるのって不安じゃないのかな?
ちゃんとご飯、食べてるのかな?
お医者さんには行けてるのかな?
メールを見てすごく心配になった。
「たっくんへ
大丈夫?
ご飯とか食べた? お医者さんに行った?
熱とかあるの???」
「ゆみへ
熱があって、食べてない・・・・・・・」
返信をする代わりに、私は家を飛び出していた。
電車を乗り継いで、彼の元へ・・・・・・・
途中、コンビニで色々買った。
初めて、彼の家に行く。
前に目印を聞いてた事と、1度車で前を通っただけ。
自分の記憶力に頼るしかない。
何とか、それらしき部屋に着き、チャイムを何度か鳴らす。
暫くの沈黙の後、ドアの奥から元気のない声が聞こえた。
「は〜いっ、誰?」
「訪問看護の者ですが・・・・・」
「はっ?誰?」
明らかに、疑ってる。
それでも、ガチャガチャと鍵を開けてドアを少し開けた。
「こんばんわ・・・・・・」
「ゆみ・・・・・・・・」
「びっくりした?メール見たら心配になって・・・・・・・・
今日、たまたま早く家に帰ってたから・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・びっくりした?」
「えっ・・・・・・・う、うん・・・・・・・・・・・
あっ、汚いけどあがって・・・・・・・・・・」
玄関から廊下がある。ちょうど廊下にキッチン、反対側にユニットバス、奥に部屋があった。
「以外に広いね・・・・・・・・」
部屋の中には、今まで彼が寝てたベッドとテーブル、パソコンデスクにテレビとかがあった。
「本当かよ?なんか、狭いでしょ?物がたくさんあるから・・・・・・」
そういいながら、テーブルの上の書類や本を片付けていた。
「いいよ、寝てて・・・・・適当に座ってるから・・・・・・・・」
「ごめんね・・・・・・・・・
でも、びっくりしたよ。突然来るから・・・・・・・
高校のときもあったね・・・・・・・あの時は泣いちゃって、更に驚いたけど・・・・・」
「そうだねぇ〜〜〜っ、あの時はいっぱい、いっぱいだったんだよ!
でも、たっくんに逢って、私の快進撃が始まったんだよっ!」
「知ってるよ!じゃぁ、僕にすごく感謝してもらわないとねっ。」
「だから、こうして看病に駆けつけたんだよっ!」
「えっ、本当???」
「うん!だって、どうせ逢うなら、少しでも早くって思ってね・・・・・・」
そう言って、コンビにで仕入れてきた食材を見せた。
「今、何か作るよ。一応、風邪薬も買ってきたよ。」
「ありがと、ゆみ・・・・・・・・・」
「そう、ここで恩返しして、私も女の子ってとこ、アピールしとかないとねっ。」
言い終わるが早いか、二人で大笑いした。
雑炊をつくって一緒に食べて、定番のリンゴをデザートに出した。
「私、かたずけちゃうから、寝てていいよ。
あっ、その前に、お薬飲まないとっ!!」
「ありがとう、でも・・・・・・・・・・」
「大丈夫!レポートまとめなきゃいけないし・・・・・・
安心して寝てていいよ!」
そう言ってたっくんにお水を渡す。
薬を飲んで、またベッドにもぐり込んだ。
私は食器を洗って、テーブルの上を片付けレポートに取り掛かった。
どれくらい時間が経ったんだろう?
気がつくと、たっくんが起きてこっちを見つめていた。
「ごめん・・・・・・・起こしちゃった?」
「いや、大丈夫。
いつもは一人でレポートまとめたり、資料作ったりしててさ・・・・・・・
つい、そのまま寝入っちゃうんだよ。ふと目が覚めても誰もいないんだ・・・・・・・
まっ、一人暮らしだから、当たり前なんだけど・・・・・・・・・・
でも、今日は目が覚めたら、ゆみがいて・・・・・・・・
なんか、ちょっと幸せ・・・・・」
「たっくん・・・・・・・・・・・」
「なんか、薬が効いたみたい。熱、下がった感じだよ!」
そう言うと、体温計で熱を計る。
「ほら、もう大丈夫!汗も一杯かいたし・・・・・・
ご心配をお掛けしました・・・・・」
「本当なの?熱、下がったの?」
「うん、訪問看護が効いたよっ!
汗だくだから、ちょっと着替えるね!」
「そうだっ!ついでだから、シーツも換えちゃえば?
私、交換しておくけど?」
「おっ、それは助かります・・・・・・」
たっくんは、ベッドの下からシーツと着替えを取り出した。
私にシーツを渡して、ユニットバスの方に消えていった。
シーツを交換して、レポートに取り掛かった。
暫くすると、明らかにシャワーを浴びてすっきりしている彼が
コーヒーを片手に戻ってきた。
「まさか、シャワー浴びたの?」
「だって、ここ数日お風呂入ってなかったし・・・・・・
熱も下がったから、大丈夫。さっぱりしたよ。
はい、どうぞ・・・・・」
「でも・・・・
また、熱が出たらどうするの?」
「大丈夫!すぐに寝ちゃえば問題ないよっ!
でも、ゆみはどうする?その格好じゃ寝れないね。
そうだ、僕の着て寝る?」
また、ベッドの下からTシャツとハーフパンツを出してくれた。
「ついでに、シャワーも使っていいよ。
着替えはあちらでどうぞ・・・・・」
たっくんはユニットバスを指差した。
そういえば、私も身体がべたつく・・・・・
遠慮なく、シャワーを浴びる事にした。
シャワーを浴びて出てくると、彼の匂いに包まれた服を着て少し幸せな気分だった。
部屋に戻ると、たっくんはベッドに座って私のレポートを見ていた。
「あっ、ちょっと、恥ずかしいから見ないでっ!」
慌てて隠そうとすると、手をつかまれ、そのまま彼の腕の中に納まっていた。
「勝手に見てごめん・・・・・・・・・今日はありがと。
すごい、嬉しかった・・・・・・・・・・・」
突然の出来事に驚いた。
彼は、優しく私を抱きしめた。
何度もあったはずなのに、今日はすごくこの場所が落ち着く・・・・・・・・・・
何度もしたはずなのに、今日のキスはいつもと違った。
彼の手が、優しく私をなでる。
あまりにも心地よくって、時が経つのを忘れそう・・・・・・
彼の手が、私を大事に扱ってくれた・・・・・・・・
私も愛しくって、彼に触れた。
このまま・・・・・・・・
ずっと、このままいたい・・・・・・・・・・
お互いを求め合った・・・・・・・・・
目が醒めると、シングルのベッドで私達は抱き合っていた・・・・・・・・・・
「おはよう・・・・・・・・」
「おはよう・・・・・・身体、大丈夫?」
「うん・・・・・・・・・・
ゆみ・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・はい。」
「これで、僕たち、心も身体も1つになったね・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・うん。」
「ゆみ・・・・・・・・・・・
大好きだよ・・・・・・・・・・・」
「私も・・・・・・・・・
たっくんが大好き・・・・・・・・・・・・・」
また、私達は確認しあうかのようにキスをした。
何度も、何度も、キスをした・・・・・・・・・・・・・
窓からは朝陽が差し込んでいる。
窓の外には、桜の花が舞い散っていた・・・・・・・・・・・
拙い文章ですが、読んでいただきありがとうございました。
今後の参考にしたいと思います。
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