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悩める少女は変態と語る

作者: 和銅修一

 舘禾(たちのぎ)学園

 この学校の七不思議の一つにこんな噂がある。

 今は使われていない旧校舎の三階の奥の開かずの教室。悩みがある時、ここに来て戸を三度叩くとどんな悩みも解決してしまう。だが実際にそれを確かめてみたという女子生徒に話を聞いても「二度とあそこへは行きたくない」とだけ言い、頑なにその時の話をしてはくれない。故にその開かずの教室に入った者は呪われていると言われる。

 その開かずの教室の前で立ち尽くす少女はふと友達から聞かされた話を思い出して身震いした。というのも彼女も悩みがあり、何を試しても上手くいかないのでこの七不思議の一つに頼る他ないからでそういったオカルト系は好きでない。むしろ嫌いで今からでもこの場を立ち去りたいほど怖がっている。

 だけど少女はここまで来て逃げるわけにはいかない、それじゃあ何も変わらないと自分に言い聞かせ、拳を握り締めゆっくりと息を吸い込んだ後三度戸を叩いた。

 旧校舎だけあって細い彼女が叩いただけで軋む音がした。そしてそれに応えるようにすりガラスの向こうから黒い影がこちらに近づいて戸を勢いよく開け放ちこう言うのだ。

「相談部へようこそ」


○○


 開かずの教室の中は意外と整理されていて下手をすると普通の教室よりも片付いている。椅子は何故かパイプ椅子だったけどそれも埃はなく綺麗そのものだった。少女は勧められるがままその椅子に座り、ここの主であろう男子生徒と向き合う。

「どうも、相談部部長二年四組

能田 誠一です。貴方も悩みがあってここに?」

 黒縁眼鏡をかけた如何にも怪しい雰囲気の男子生徒だけどまさか同級生、しかも隣のクラスだったなんて思いがけなかったけど背に腹は変えられない。

「貴方もってここに来たのは私だけじゃないの?」

「まあ、学校の七不思議にされて変な風に言われてるけど別にここはそういうところじゃないから。むしろ生徒を救う場所だし」

「救う? あんたに私の悩みが解決できるとは思えないんだけど」

「そう言うな貧乳でお悩みの二年三組 平坂 実さん」

「なんであんたそれ知ってんのよ! しかも名前まで……」

 少し、いや、かなり引いた。今まで色んな男子を見てきたけどこいつほど危険だと思った奴はいない。私の中のアラームが逃げろと連呼している。だけど私は私の為にこれを無視して話を聞く。

「この部活は理事長がつくったものだからな。名前くらい造作もない。貧乳の件は個人的な趣味の延長に基づいて予想でしたが正解だったか」

 理事長? 個人的な趣味? やっぱりこの男怪しすぎる。でも私はそれを承知でここに来たんだし、こいつの言うことにいちいち反応してたらキリがなさそう。

「なんか色々気になる発言はあったけど聞かなかったことにしてあげるわ。それであんたは私の悩みをどう解決してくれるのかしら?」

「どうと言われても君のおっぱいはもう大きくならないだろ」

「何それ嫌味? それとも相談部とか言いながら本当は何もできないのを私のせいにしようとしてるの」

 というか本当にそんは部活があるのか不安になってきた。

「いや、そうじゃない。君はここに来る前にそのおっぱいをどうにかしようと策を尽くしたはずだ。だがそれでもおっぱいは大きくならなかった。だから最後の手段としてここに来た。違うか?」

「そ、そうだけどそれが何よ」

 マッサージをしてみたり、雑誌やネットに載っていた方法を全部試しても成果は全くと言っていいほどなかった。

「ならばそれは君のおっぱいはどんな方法でも大きくならないと自分で証明しているということだ。そして残念ながらこの部はおっぱいを大きくする方法など知らない」

 途中からおっぱいを言いたいだけに聞こえたのは私だけ? いや、それはどうでもいい。

「ならどうすればいいのよ⁉︎」

 私は変わりたくてここに来た。別に好きな人ができたとかそういうのじゃないけど諦めるのは自分に負けた感じで嫌だった。なのにここまで来たのに……。

 大きくならないと言われ落胆し、旧校舎内に響き渡るほど叫ぶと悩みのなさそうな自称相談部部長は笑みを浮かべながら答える。

「簡単なことだ。俺が貧乳の良さを教えてやる」


○○


「は?」

 一瞬思考が停止してようやく彼女が出せたのはその一文字だった。

「お前は貧乳を悪いと思っているようだがそれは違う。おっぱいは大きければいいというものではない」

「それはあんたの考えでしょう。私はこんな胸嫌なのよ!」

 それは動いやすいし、肩がこるなんてことないけど。

「俺はいいと思うがな。お前に丁度いい」

「何それ、私を馬鹿にしてんの?」

 丁度いいって胸にそんなのある?

「そうじゃない。お前は運動が得意で体育の時はかなり活躍しているそうじゃないか」

「まあ、そうだけどそれが何よ」

 何処で仕入れた情報か知らないけどなんか気にしたら負けな気がしてきた。

「ふん、それは貧乳様のおかげだ。巨乳ではそうはいかん。走れば揺れ、サーブをしたら揺れ、シュートをしたら揺れる。もしそうだったらお前はいつものように動けるか?」

「う、それは……」

 邪魔になってできない。それは想像しただけでなんとなくわかる。

「さらに、だ! キャラの問題がある」

「キャ、キャラ?」

 動きやすさがどうこうはわかるけどキャラって何? いやキャラの意味はわかるけどこいつの意図がわからない。

「貧乳はツンデレ、巨乳は天然。太古からおっぱいとキャラ、分かり易く言うと性格は比例している。これは二次元だけではなく三次元もこのような傾向にあることから裏付けられる法則だ」

「知らないわよそんなの。それに私ツンデレじゃないし」

「ツンデレは皆そう言う。それにお前は貧乳が原因で何か困ったことはあるか?」

「いや、それは……」

 ない、一つも。貧乳が悩みとか言っておきながら貧乳で困ったことは一度もない。貧乳でいじめられたこともないし、貧乳でフられたこともない。

「だろうな。巨乳は肩がこると言うが貧乳はそういった話ないしな」

「つまりあんたは何が言いたいわけ?」

 さっきから貧乳を馬鹿にしているような物言いだけど。

「胸の大きさなど気にするな。そこで判断する奴と付き合っても所詮上手くいかないから貧乳な君も可愛いと言ってくれる相手を探すんだな」

「そんな人いないわよ。どうせ男子なんて胸しか見てないんだから。あんたもそうなんでしょ?」

 この素直になれず、すぐに嫌味ばかり言う性格のせいもあるかもしれないけど告白されたことがない。したことはあるけど断られた。結局、男なんてそういう生き物なんだ。

「いいや、俺はおっぱいとか関係なしにそんなことで悩んでるお前は可愛いと思うけど」

「な⁉︎ ば、馬鹿じゃないの」

「ああ、俺は馬鹿だ。お前がどうしてそんなことで悩んでるか理解できないし、同情もしない。そして馬鹿だからこそお前のその悩みは解決するのではなく向き合うべきだと思う」

「何それ意味わかんない」

 私は訳が分からなくなって荷物を持って逃げ出した。変態のいる開かずの教室から。


○○


 放課後、いつものように旧校舎のあの部屋に行き今にも壊れそうな戸を開くとそこには昨日文句ばかり言っていた貧乳少女の姿があった。

「お前どうしてここにいる?」

 鍵はどうせ誰もこないだろうと思い、いつも開けっ放しにしているから入るのは容易だっただろうが彼女がここに来る理由がわからない。

「いやね、あんたの言ってたこと家に帰ってよく考えてみたら確かにそうだなって思ったのよ。結局、この胸はこれ以上大きなる見込みはないからそれを受け入れなきゃなのに私はそれを見ない振りして学校の七不思議にまで頼ってここに来た。本当に馬鹿なのは私だったんだね」

 受け入れるのが嫌で何か方法があるんじゃないかって逃げ続けた私。そんなことしても何も変わらない、むしろ惨めになるだけと分かっていたのに……。

「なんだ今更気がついたのか貧乳。俺はこの前そう言っただろ」

「だから言い方があんたの分かりにくいの。てか貧乳つったでしょ」

「言ったけど褒め言葉としてだ。貧乳は奥ゆかしさがあって大和撫子だねって」

「貧乳にそんな深い意味あるわけないでしょ。あ、それと私ここに入部するから」

 と言うと彼女はカバンの中から入部届けを取り出し、机の上にそっと置いた。

「ここって相談部にか?」

「それ以外何があるのよ。どうせなんの部活にも入ってなかったし、私みたいに悩んでる人をパパッと解決したらかっこいいじゃない」

「ふーん、まあ部員が増えるのは部長として嬉しいし別にいいんだけどね」

「勘違いしないでよ。私はあんたが本当に胸以外もちゃんと見てるかの確認でもあるんだから」

「はいはい」

 しかし、やっぱり男は胸しか見ない。

 戸が三度叩いて現れた先輩。この学校では割と有名なお金持ちの先輩にこいつは顔でもお尻でもなく胸を見た。校内で一番大きいと言われるその巨乳をガン見した。

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