第三話 支出の元を叩け
仕事帰り、ワタルはミエコの車で自宅に送られていた。ミエコは彼のマネージャーであって、それ以上でもそれ以下の関係でもない。事件でも起これば、黒髪ロングの知的美人マネージャーなんて書かれそうな独身女性だが、ワタルにとっては恋愛の対象外だった。ミエコに女性としての魅力を感じないからではない。仕事上で付き合いのある女性を、異性として見るのは、ワタルの性分として合わないからだ。
「久しぶりですね、こうして送られるの」
「そうね、ワタル君はいつも自分で運転するものね。ところで、首のところに青あざ、ついてない?」
「あっ、これですか……」
ワタルの首元には小さな青あざがついていた。そこをさすりながら思わず苦笑する。
「なぁ~に? 彼女とケンカでもしたの?」
「いえ、彼女じゃないんですけど……」
「じゃ、彼女でもない女性と?」
意地悪な言い方にワタルは困った顔をする。
「わかった! 預かったウサギちゃんに、やられたのね?」
「そんなところです」
ミエコの冗談に乗る形でワタルは誤魔化した。この青あざはロボ子が来た日、彼女が言うところの“初夜”についたものだ。無理やり同じベッドで寝ようとした彼女によってつけられた、というか鉄の塊である彼女と寝ようとすれば、四角い頭の角が当たって青あざのひとつもできるというもの。
そのとき以来、ロボ子は一緒に寝ることすら叶わないボディを嘆きながら、別室で座ったままスリープモードに切り替え、朝になったら通常モードに戻っていた。
「ワタル君。ライブも近いんだし、ケガには気を付けてね」
「はい」
「それと、ライブグッズの目玉がないって話、覚えてる?」
「はい……」
ワタルは声優活動をメインとしながらも、アーティストとしても何枚かCDを出していた。凄く売れているわけではないが、まったく売れていないわけでもない。いつも、“次も出してもいいかもね”くらいのセールスは記録している。個人開催のライブの経験はないが、音楽レーベル単位のライブには何度か出ている。それが来月も予定されていた。
「ほかのアーティストさん達みたいに、ライブの時のお約束とか、独特の設定や世界観があった方が、こういうとき助かるのよね」
「すみません……」
「一緒に考えていきましょう。ライブを盛り上げる為に、ね?」
「はい」
かといって、ワザとらしい決め言葉やパフォーマンスに対して、どこか引いているところがあるワタルだった。そういうのがある人を非難する気はないが、自分には向いていないと思っていた。ただ、自分の個性のようなものを、もっと前に出していかなくてはいけないという焦りはあった。
そうこうしているうちに、ワタルのマンションに着く。
「はい、着いたわよ」
「ありがとうございました」
「それじゃ、明日は朝10だから早めに寝るのよ。私、現場には行けないから」
「了解です。それじゃ、おやすみなさい」
軽く会釈してワタルはマンションに入る。前はミエコに送ってもらった場合、彼女の車が見えなくなるまで頭を下げて見送っていたが、それを“重い”と言われてからは今のような別れ方になっている。ちなみに、朝10は午前10時スタートの仕事で、遅い時間から始まる仕事が多いこの業界では、朝が早い部類に入っていた。
ワタルは郵便受けに入っている郵便物を取り、オートロックの暗証番号を押して中へと入った。自室に向かって歩きながら、郵便物に軽く目を通していく。
「ビデオレンタル店の更新のお知らせ、クリーニング店の割引ハガキ、電気ご使用量のお知らせ、か…………ンッ!?」
何となく読み上げていたところ、驚きの数字が目に入った。電気ご使用量のお知らせの請求予定金額が先月の十倍以上になっていたのだ。
「な、何? この額? 値上げでもしたのかなぁ……」
十倍以上になっていたらニュースで大々的に取り上げるはずだが、そういう発想に至らないのが彼である。この額は値上げではなく、使用量の増大が原因だと、使われたkWhの数値を見てワタルは理解した。
「こんなに使ってるの? 今月は新しい家電とか、買ってないと思うんだけど」
そんなことを一人で言いながら、とっくに目の前まで来ていた自室に入ることにした。中にはロボ子がいるので、鍵はかけていない。ドアノブを回すだけで入れた。
「お帰りなさい、あ・な・た」
ロボ子が出迎える。ここのところ、毎日見ている光景だ。
「うん、ただいま」
いつものセリフで返す。“あなた”と呼ばれても、最初の頃のように動揺しなくなったし、夫婦じゃないからという否定もしなくなっていた。別に受け入れたわけではないとワタルは思っている。
「このあとは、お風呂にします? ご飯にします? それとも、わ・た・し?」
「ご飯にするよ」
いつものごとく即答する。
「は~い」
ロボ子はそそくさと夕食のセッティングに取り掛かった。料理は既に作ってあるので、あとは温めて並べるだけとなっている。よくもまぁ、あの万力アームで料理が作れるものだとワタルは感心していたが、それも数日経てば驚きの無い日常に変わっていた。
ワタルは荷物をおろし、洗面所で手を洗い、入念にうがいする。のどのケアと風邪をひかないことには、人一倍気をつかっている。仕事に差し障りがあるからだ。
「ワタルさ~ん、ご飯の準備ができました~」
「今、行く」
タオルで手を拭き、ロボ子が待つリビングへ向かう。広く感じていた2LDKも、ロボ子が来てからは手狭になった。
「うまそうだなぁ」
テーブルには肉じゃが、コールスロー、ご飯、みそ汁が並べられていた。無論、ワタルの分だけである。
「味見できないから美味しいかわからないけど、たくさん食べて下さいね」
ロボットだけに、いくら上手に作ろうとも食べることは叶わない。そういう機能でも付ければ別だろうが。
「いただきます」
軽く手を合わせたあと、ワタルは肉じゃがのじゃがいもから口に運ぶ。その後にコールスロー、ご飯ときて、みそ汁を飲み、ようやく肉を野菜と一緒に食べる。先輩の声優から先に野菜を食べた方が太らないと聞いて以来、ずっとそうしている。
「今日もうまいね」
「えへっ」
味に関してだけは毎日関心しているワタルだった。彼女の味付けはノブによるもので、料理のレパートリーも彼女が出来たら作ってほしいメニューばかり登録されている。ある意味、ロボ子は対ノブ用の究極人型籠絡マシーンなのかもしれない。
「あっ、そうだ。電気代がね、高くなっていたんだ」
電気ご使用量のお知らせをテーブルの上に置く。
「あらま」
「何か思い当たる節とか……ないよね?」
「ありますよ」
「そうだよねぇ……えっ、あるの?」
「はい。よく考えてみてください、ワタルさん。ワタルさんは何の為に、ご飯を食べていますか?」
「ご飯? それはまぁ、食べないと死んじゃうし……」
「そうですよね。人は皆、活動するためのエネルギーが必要なんです」
中には食べる為に生きている人もいるんだけど、とワタルは食い過ぎの先輩声優の顔を思い浮かべたが、話がそれるのでやめておいた。
「ご飯と電気代に何の関係が…………あっ!」
先月と今月の違い、食事と電気代、そこまで関連付けられて、ワタルは一つの結論に達した。
「電気代を上げた……その犯人は、この中にいる!」
思わず立ち上がってポーズを決める。
「……何もドヤ顔で言わなくても」
「いやぁ~……。今日さ、推理物のアニメに出たんだけど、こういうセリフを言ってみたくなって……。つい」
「行く先々で殺人が起こる“死神探偵”に出られるんですね」
「うん、殺される方の役でね。で、電気代の話だけど、ロボ子が動くのに電気が必要なんだね?」
「はい、毎日の充電が必要です。お金のかかる嫁で申し訳ございません」
「生きるために必要なら仕方ないよ、うん」
もはや、“嫁”という単語をスルーすることにも、ワタルは慣れていた。そこをつついて抗える精神力がないこともあって。
「お金の方、平気です?」
「ちょっと厳しいかな」
「アニメの仕事って、儲からないんですか?」
「アニメはね、そんなには入らないよ」
「じゃあ、アニメ以外で儲かるお仕事があるんですね」
「まぁ、そうなるかな。例えば、ナレー……」
と言いかけたところで、ロボ子が言葉をかぶせてきた。
「BLですか?」
ワタルは飲みかけのみそ汁を吹き出しそうになった。
「な、な、な、なんで、BLに出てるの知ってるの? というか、どんなものかわかってる?」
「何でって言われても……。ワタルさんの名前でネット検索したら、BL絡みのものばかりヒットするんですけど」
「うっ……」
「気になってBLも調べましたよ。ワタルさん、男性の方がお好みなのかと、少し心配しました。でも役に関するインタビューで“役は役、自分は自分。好みは別”とあったのでホッとしました」
「そ、そっかぁ……」
ネットって怖いなと思いながら、あのインタビューを受けてよかったと心底思った。
「それで、電気代のことですけど、なんとか省エネしてみますね」
「省エネモードがあるの?」
「まだないですけど、無駄な動きを控えれば電力消費は抑えられるはずです。なので、明日には無駄な動きをしない、省エネモードを計算で割り出します」
「無駄な動きをしないって、武術の達人みたいだね。お願いするよ」
「はい! 期待していてください」
そんな感じで、この日の夕食の時間は過ぎていった。
翌日の仕事は午前中のアニメ収録から始まり、夕方からラジオ収録が二本あった。二本目の収録終わりに、一緒に番組をやっているタクマに飲みに誘われ、軽く一杯だけひっかけることになった。手近で済ませようと、店はラジオ局の裏にある居酒屋になった。
タクマは数年前に共演したときからの付き合いで、今では親友と呼べる間柄になっている。大きなメガネをした風貌と、ギャルゲーマニアという点で親近感が湧くのか、同性のファンからヲタ仲間扱いされている。
その彼と居酒屋のカウンターに並んで座り、取り敢えずのビールを飲みながら、お通しをつついていた。
「結婚、するんだってさ……」
タクマは深いため息をついた。結婚するのは、タクマが昔付き合っていた女性で、今も仕事上で付き合いがある人になる。その愚痴に似た心情を、今日はずっと聴かされている。
「……」
さっきも聞いたよ……とは言えずに、ワタルはお通しに入っているキクラゲを寄せていた。別に食べられないわけではないが、他の食材と一緒に食べた時の食感が嫌なのだ。
「もう関係ないってわかってんだけどさぁ……。なんか、やりきれないんだよね」
「うん……」
相槌を打つだけのワタルだった。
「ワタル君はさ、今は彼女いないよね?」
「えっ? あっ、うん……。いないよ」
「できたら教えてよ。俺、親友のつもりだから。今度、ワタル君が彼女のことで悩んだら、絶対相談に乗るよ」
「ありがとう」
ふと、“彼女”という単語でロボ子のことが脳裏をよぎったが、断じて違うと心で念じてイメージを消すワタルだった。
突然、タクマのズボンのポケットの中で、ブーッと何かが振動する音がした。
「あっ、ヤベ……」
タクマがポケットから取り出したのは携帯ゲーム機だった。
「今日、ミポリンとデートする予定だったんだ。いっけね、すっかり忘れてた」
ミポリンとはゲームに登場する女の子の愛称である。リアルタイムに進行する恋愛シミュレーションゲームで、予定の時刻にプレイしていないと今のようなことになる。
「タクマの場合は、二次元の彼女も大事にしないと」
「そうだった。ミポリン、すっかりプンプンだよ」
「そっか、プンプンか……」
またしてもロボ子のことが脳裏をよぎる。旦那の帰りが遅くて怒る新妻のイメージで。そのイメージを打ち消すために、残っていたビールを一気に飲み干す。
「プハァーッ」
飲み終えた後にオッサンのような声が出てしまう。
「ワタル君、オヤジくさ……。ファンが見たら悲しむよ」
「僕だって、もう30過ぎてるからさ……。オヤジ臭いところがあっても、仕方ないと思うんだよね」
「まぁ~ねぇ」
「昔はビールだって、たいして美味しくなかったのに、気がつくと好きになっているわけで……。だから、もう一杯…………は、やめておきます」
注文しそうになったところでワタルは声を低くした。
「飲みたかったら飲みなよ、付き合うからさ」
「いや、いいよ。予定通り一杯だけにしておこう」
「じゃ、お勘定をお願いするよ?」
「うん」
「すいませーん!」
タクマの通る声が店内に響き渡った。どんなに遠くに店員がいても、一声で呼び止められるのは職業柄の特技と言えた。
今日の会計は誘った自分がと、タクマ持ちになった。彼が精算している間、ワタルの頭の中はロボ子のことでいっぱいだった。連絡もなしに遅くなったら、怒っているかもしれないと、気が気でなくなっていた。
ただ、連絡しようにも、ロボ子は携帯を持っていないし、家の電話は出られると困るから出ないように言ってあるので、この辺に関しては何とかしないといけないと思ってはいた。
「いっそ、彼女の脳内にメールでも送ろうかな」
ボソッと思いついたことを言ったワタルだった。
「脳内にメールを送るって? 何? その危険発想……」
「いや、ちょっとSF作品のことを思い出してさ」
「へぇ~、なんか面白うそうな作品だね。今度、教えてよ」
「う、うん……」
苦笑しながらワタルはタクマと店を出る。
「今日はご馳走様」
「いやいや、こちらこそ、愚痴を聞いてもらってありがとう」
「じゃ、僕はJRだから」
「またね、ワタル君」
ワタルは地上にある駅の方へ、タクマは地下鉄のホームへとそれぞれ向かった。歩きながらワタルは、車移動は歩かなくていいよなと改めて思った。今日の朝の現場は、駐車スペースがないスタジオだったので、車で行くのはやめて電車を利用していた。車移動でない日の方が、疲れるのが早い気がしたし、酔いが回るのも早いように思えた。
数十分後、ほろ酔い状態のまま、ワタルは自宅へとたどり着いた。ドアノブを回すと、昨日のようにロボ子が出迎えて……くれなかった。
「……あれ?」
家の中は灯りがついているものの、ロボ子の声は聞こえなかった。代わりにテレビから笑い声が聞こえてきた。
「ただいま」
そう言っても反応する者はいなかった。スリープモードにしているのかな、と思いながら家の中に入っていくと、横になってテレビを見ているロボ子の姿があった。
「……ただいま」
「あら、帰っていたんですか」
「うん」
会話はそれだけだった。ふと、テーブルの上を見ると、『夕食は冷蔵庫。レンジでチンして』というメモが置かれていた。
そのメモを手にし、冷蔵庫を開けてみると、目立つ位置におにぎりが二つ、ラップに包まれて置いてあった。その近くには、お湯で溶かすタイプの即席みそ汁がある。
「随分とまた質素な……」
ワタルは何も取らずに冷蔵庫を締め、いつも通り洗面所へと向かい、うがいと手洗いをする。ついでに顔も洗いながら、ロボ子の態度がおかしいことについて考えてみた。
帰りが遅くなったので怒っているとしても、料理はもっと早い段階で作るからアレはない。だとしたら、この変わり様には何か理由があるはず。もしかして、脳内ウェブ検索して、自分を嫌いになるような事実を目にしたのではないか、そんな不安に駆られた。
思い当たる節は多々ある。ラジオで話した過去の恋愛トークで引かれた、BL業界での二つ名に幻滅した、一部の後輩に“ワタ坊”呼ばわりなのを知られた。いろんな可能性が浮かび上がり、改めて自分の不甲斐なさが身に染みた。
とはいえ、一人で考えていても仕方がない。本人に聴いてみるのが一番だという結論に達する。
「あの、ロボ子……さん?」
ロボ子は黙ってこっちを見た。
「僕、何かしたかな?」
「はい?」
「だって、昨日までと全然態度が違うからさ……。お帰り、あ・な・た……もないし。この後は、ご飯にする? お風呂にする? もないし……」
ロボ子は視線をテレビに戻した。聞く気はない、そんな風にワタルには思えた。
「何か気に障るようなことを言ったのなら謝るから。だから、教えてよ」
「……別に怒ってなんか、いませんよ」
「だったら、なんで……」
「省エネモードです」
「……は?」
何を言っているんだろうと思ったが、昨日の夕食時に電気代の話をしたのを思い出した。
「こ、これが省エネモード?」
「無駄のない動きを分析していたら、ある女性の動画に行きついたんです。その人は日がな一日、テレビを見ながらお煎餅を食べているだけでした」
「誰が撮ったの? そんな動画……」
「その女性の旦那さんです。自分がいない間の奥さんの行動を、監視カメラで撮影したんだそうです。動画のタイトルは、我が家のダメ主婦」
「ダメ主婦……」
タイトルから旦那さんの想いが滲み出てくるようで、ワタルは声に詰まった。
「無駄のない動きは、動いている以上はあり得ない。動きとは無駄であり、無駄がないとは、動かないことだと悟りました。ワタルさん、これが私の省エネモードです!」
「……」
自信たっぷりに言われて、ワタルは何か言いたくて仕方なかったが、うまい具合に言葉が出てこなかった。それでも何か言おうともがいていたら、思いもよらぬ一言が出た。
「そこに、萌えはあるのかい!?」
「……えっ?」
「君は……君は、究極の“萌え”を目指して生み出されたのに、萌えよりも経済性を優先するのかい? 僕は悲しい。悲しいよ」
昨日と言っていることが違っているが、語り始めたら止まらなくなっていた。少し、お酒が入っているのも原因かもしれない。
「なんだかんだ言って、奥さんに“あなた”と呼ばれるのも、おかえりの後の究極の選択も、男のロマンなんだ! そのロマンを捨ててまで求める省エネモードを、僕は断じて認めない! 認めないぞぉ~!」
「ワタルさん……」
「電気代なんか気にしなくていい。一人の女性も養えずに何が男だ! ドンドン使ってくれて構わない。その代わりに、僕に夢を見させてくれ。男のロマンってヤツを!」
「じゃあ、あなたって呼ばれるのも、お帰りの後のお約束も好きだったんですか?」
「認めたくはない。認めたくはないけど、僕は一生、ああいうのは嫌いにはなれない。だから、もう君には極めてほしい。萌えの究極を、僕の妄想を!」
勢いがつきすぎて、ワタルは自分でも発言を止められなくなっていた。
「僕はずっと夢見ていたんだ。朝はおはようのチュウで目覚め、行ってきますのチュウで見送られ、ただいまのチュウで出迎えられる……そんな毎日を!」
「ワタルさん……」
「だから、だから、昨日までの君に戻ってよ……頼むから……お願いだよ」
やっと興奮が冷めて、ワタルは両膝を突いた。
「了解しました。省エネモードを永久凍結します」
ロボ子の顔面スクリーンから、気だるさのようなものが消える。いつもの彼女に切り替わった。
「ロボ子……」
「では、さっそく……お帰りのチュウから」
「あっ、でも……」
「お帰り、あ・な・た」
「ロボ……」
ガツンッ!
ロボ子の四角い頭が、ワタルの額にぶつかる音が響いた。
翌日、ワタルは朝の現場でミエコに会った。
「ちょっとワタル君、その額の傷はどうしたの?」
「男のロマンを追い求めた結果です」
「何おかしなこと言ってるの!? ライブが近いんだから、ケガには気を付けてって、言ったばかりじゃないの!」
「す、すみません……」
ワタルはロボ子の頭突きで出来たあざをさすりながら、ただひたすらに謝った。