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吸血鬼と弓兵の出会い

 薄光の月の下、崩れた瓦礫の周りに立つ魔王と勇者。そして、その様子を後ろから見守る3人の弓兵、戦士、魔法使い。

 額からは血を流し、腕は曲がり、呼吸もままならない3人の致命傷一歩手前の怪我に対し、魔王と勇者の2人は外傷に目立った傷は無く、互いの武器を相手に向けたまま佇む。

 一時が何十時間にも感じるこの張りつめた空気を打破するため、2人の一番前に立つ弓兵は、折れた利き腕とは反対側の腕で、青い矢を生成すると、多量の出血によりおぼつかない足取りを険しい表情になりながら気合で立ち上がると、全力で踏み込む。

 気持ちだけで投げたその矢は誰にも当たらず2人の間に滑るように到達し、それを見届けた弓兵は力なくそのまま倒れる。

 その様子を見ていた魔王は、半分割れた漆黒の仮面から覗かせる美しい顔の口角を上げる。


「さて、お仲間3人は既に動けないみたいだけど、貴方1人でどうするつもりかしら?」


 その言葉に、鼻で笑って見せた勇者は、勇者の聖剣を鞘に納めると、魔王に背を向けて仲間の元に向かう。

 何故か魔王も展開していた術式や構えていた杖を解きその様子を先ほどとは打って変わった穏やかな目で見守っている。

 仰向けに倒れて意識もあるか分からない弓兵の前まで行くと、片膝を付き、懐から1人1つずつ持っていた、どんな傷も一瞬で治る特製の秘薬を目の前に置く。


「……ごめんな。必ず戻るからこれを使って先に帰っててくれ……じゃあな」


 静かに穏やかな喋りをすると、僅かな意識のある弓兵が声にならない声を後にしながら魔王の元に戻っていく。


「魔王、結婚しよう」


 歩きながら何気なく言ったその言葉に、倒れた3人の体が僅かに反応する。


「良いでしょう……では行きましょうかユウ」

「あぁ……行くぞマオ」


 まるで元来の旧友の様に慣れた様子の会話を聞いたのを最後に光に包まれた魔王と勇者は3人の前から姿を消してしまった。


 ……残された3人の心中は強く握りしめられた手が物語っていた。


――――――

――――

――



 雲ひとつ無い真っ青な空に、水平線まで見渡せる広くて、蒼い草原。

 その草原をまるで割るようにひたすら、続く一本道を歩くのは、短めの髪をオールバックにして、整えているにもかかわらず、頭を掻き毟り、乱れさせてしまっている男性だった。

 大きなあくびをしながら歩き、生まれつきの細い目を擦る姿は、とても眠そうで覇気が無い。

 そんな彼の目線は飛んでいる小鳥に注目しており、それと同時にお腹の音が鳴り響く。

 彼が小鳥を目で追って行くと、1つだけどう見ても不規則な飛び方をする変な鳥? を発見する。

 その鳥は大きな羽と赤い髪、そして黒いゴスロリ風の服を着ていた。

 彼は途中でそのことに気づいたのか、足を止めてその鳥ではない何者かに意識を向けると、両目が見開かれて赤と青に左右の瞳の色が変わる。

 その瞬間に何者かは気づいたらしく、その場で静止すると、こちらに向かい、まるで枯葉のように落ちてくる。

 近づくほどに、その姿がはっきりしていき、男性はその何者かを見据えながら走り、枯葉を掴むように慎重に両手を前に出すと、その華奢な体格をしっかりと抱え込む。

 息が荒く、多量の汗を流している小さい幼女は、彼の腕の中ですべてを任せると、閉じた状態の目で何かを探すように、


「血・・・・・・良い血の・・・・・・匂い」


 消えそうな声で呟く彼女に、彼は表情こそ能面で冷静に保っているが、目線が安定しておらず、足も震えている事から、意外と相手を心配しているのかもしれない。

 だからこそ、彼女の言葉を聞こうとして、頭を彼女の目の前に出しただろう。

 その小さくも整った鼻が僅かに動いたその瞬間である。


「君は実に馬鹿だな」


 彼の首は、鋭い牙で噛み付かれ、血の雫が彼女の黒い服に垂れる。

 彼女は血が喉を通るのと同時に、不気味に輝くその赤い目は一層深まっていく。

 そんな彼もそれに合わせ、身体を震わせながら硬直し、表情も目を見開いたまま微動だにしない。

 その僅かな間で訪れた彼の死の瞬間に、立ち会わせた緑髪のツインテールの女性は地面を強く蹴ると背中に装備していた棍棒を彼女に向かい、突き出す。

 風を切るような音を出した彼女の攻撃は、そのまま、倒れこみそうになった彼を抱え込むと、


「てんてん! 大丈夫!?」


 その涙目で大きな声に、彼は首を縦に振る。


「ふん、せっかくのボクの獲物をまさかこんな小娘に邪魔されるとは」


 中性的な声のした先に居たのは、身体の等身が上がっていて雰囲気こそ似ているが、年の頃は助けに入った彼女と、血を吸っていた彼とそう変わらないようになっていた女性だった。

 

「まぁ良いさ、君のおかげで大分魔力が戻ったよ、お礼にこの力で2人とも殺してあげるからそれで許してよ」


 赤い魔力が彼女を包み、その魔力は渦を巻くように彼女の手の平で捻じ込まれていくと、1本の螺旋状の槍が完成する。


「『everlasting,circulate,be ready to die』!」


 そう唱えて、投げ出された彼女の槍は全ての物質を貫く様な高音を響かせながら2人に向かって迫って行く。

 しかし、彼女達の前に雷が落ちる、雷はその螺旋の槍と衝突すると、硬い物を擦り合わせるような、嫌な音を立てながらしばらく回転を続ける。

 音が収まり、現れたのは、その槍を止めるため、自らの腹に槍をぶつけさせ佇む耳の生えた金髪の青年。

 槍はそのまま消えていったが、彼の腹はその先が見えるくらい大きな穴が空き、その様子にまた幼い容姿に戻っていた槍を放った幼女は、血の付いた口元を上げる。


「きっもちっぃぃぃぃぃぃぃぃぃっぃぃぃぃぃ!!!」


 上げた口角が思わず開き、身を後ろに引いてしまうほど、あまりに急な金髪の彼の雄たけびは、広い草原に染みるように広がっていき、その腹から棍棒が発射される。


「え!? ちょっとなにそ――」


 鈍い音と一緒に倒れた幼女。

 緑髪の彼女が、再び脚に力を込めるのを静止する短髪の男性は瞳を青くしながら青い矢を生成すると、緑髪の女性と同じように身体を捻り、その矢を金髪の青年の腹から通す。

 その影響で金髪の青年の腹の出血を凍らせて止めながら、赤髪の幼女も凍らせる。

 そして、2度目の矢は黒い色で背負っていた筒から出した矢を再度ぶつけると、彼女は粉々ほどまでいかないが、四肢や頭がブロック状に分かれた。

 緑髪の女性は、それを確認したあと、すぐに短髪の男性の全身をくまなく確認する。

 偶然彼の目と合うと、男性は微笑むように笑って見せ、


「・・・・・・」


 その姿を彼女の顔は何処か安心したような素振りを見せ、彼の頭を触る。


「良かった、やっぱりてんてんは、てんてんだよね!」


 その言葉に、髪を触られながら変わらぬ笑顔で頷く彼。


「兄ちゃん! ミリアさん! 見てみて! 腹に穴開いた!」


 かなり変なことを、無邪気に話す金髪の青年は逆に、そのたくましい体形に似合わない子供らしい一面を見せる。

 その姿に、彼女は手を顔の前に出し、優しく笑顔を見せると、


「はいはい、テラは本当に楽しそうね、その傷もあとで一緒に治しに行きましょ」

「はい!」


 そのやり取りは、まるで子を諭す母親のように見えた。


「ところで、あの魔族はどうするんですか?」


 そう指差した、先にあるのは、何故か先ほどより数が減っている氷付けのまま驚いた表情が残ったままになっている赤髪の幼女。

 2人の男女はそれに対し、考えるような素振りを見せると、


「・・・・・・」


 短髪の男性は氷の塊に指を指し、両手を自分の前に出し、自分の方に動かす。

 その動きに、2人は一瞬の間が空くが、


「よし、じゃあ行くわよてんてん!」

「オレが持ちますよ!」


 そう言い、金髪の青年はその氷の塊を拾い集め、緑髪の女性は手を差し出し、短髪の男性を手伝う。

 拾い集めて戻ってきた金髪の少年は尻尾を振りながら戻ってくると、男性は幼女の頭だけを指し、先ほどと同じ行動をとる。


「分かったよ兄ちゃん!」


 快く、引き受けてくれた金髪の青年はそのまま、赤髪の幼女の頭の部分を差し出す。

 短髪の男性はそのまま、緑髪の女性に向かい、指を2本立て、一本道の先を指差す。

 変わらぬ笑顔の彼に、緑髪の彼女はツインテールを横に揺らしながら、


「駄目よ、私が手伝うから一緒に行きましょ? 私がてんてんをおぶって、テラが氷の塊を持てば行けない事は無いわ」


 スリットの入ったチャイナ服でありながら、彼と目線が会う位置まで屈み、心配そうに言ってくれる彼女に、彼の視線はその太ももに向かうことなく、しっかり彼女を見ながら変わらぬ笑顔のまま、親指を立てて、そのまま自分の胸に手をやり、その胸を張る彼に、彼女は少しやりきれないような表情をすると、


「・・・・・・頼ってもいいのよ? 幼馴染なんだから」

「・・・・・・」


 首を振る彼に彼女は少し納得いかないような感じでしたが、その変わらぬ表情と小刻みに親指を震わしてアピールする姿に押し負けたのか、しぶしぶ受け入れると、


「じゃあ先に行ってるわよ! 用が済んだらまた戻ってくるからね!」

「じゃあね~!兄ちゃん! 帰ったら旅の話し読ませてよ!」


 2人は氷の塊をそれぞれ持ち、そのまま走っていく。

 その姿が見えなくなるのを確認した彼は、その持っている赤髪の幼女の頭を見ながら、両手でしっかり持つと、瞳が赤くなり、氷の塊の彼女の顔が一瞬で火の玉になる。

 その火の玉から出てきたのは、焦げてしまうことなく、まるで人形のように整った顔に、透き通るような白い肌や、小ぶりの薄いピンクの唇、さらさらの短髪の赤髪、長いまつげ、それらが一切焦げないように配慮されて溶かされたようだった。

 何故か血が噴き出す事も無いその頭を彼は、少しの間、真顔で見続けると、一旦座り、自分のあぐらをかいている脚に乗っけ、今度は両手で鼻と唇をつまみ、少し待つ。

 30秒位たったときだろうか、彼女の頭がまるで目覚まし時計のように少しずつ激しく暴れるようになっていく。

 それに耐えながらさらに1分経過した時、その両手を離すと、目と口と鼻を全開まで開き、澄み渡る新鮮な空気を首の下に流していく。

 過呼吸になりそうな位、何度も息を大きく吸って吐いてを繰り返し、たまに唾を飲み込み、吐きそうな咳を織り交ぜ、涙ながら彼女は、


「はっ・・・・・・ぐそ・・・・・・き、きみは・・・・・・こういうのが趣味なのか・・・・・・?」

「・・・・・・」


 まだ安定していないらしく、鼻声になりながら、振り絞るように話す少女に、笑顔で返す彼。


「・・・・・・ふぅ・・・・・・なんか言ったらどうだ・・・・・・地味野郎」


 息を整えながら、鋭い目つきで話す彼女に何も答えない彼。


「おい! 聞いてるのか! まさかお前、このままボクが死ぬもんだと思っているだろ! 馬鹿にすんな! ボクは最強で無敵の吸血鬼! シャルテット・ブリリアントだぞ! あっという間に復活してお前達みんなこ――!」


 頭だけではなかったらすぐにでも噛み付いてきそうな彼女に、彼は左手で口を摘まみ強制的に黙らせると、右手で喉を指して頭を横に振る。

 その行動に怪訝な表情を浮かべたままのだった彼女だったが、3回程同じ動作を繰り返されたあとに唇から手を離すと、


「・・・・・・君は声が出せないのか?」

「・・・・・・」


 首を縦に振り、親指を立てる彼。

 そして、瞳を赤くし、指先に弱火の火を灯すと、下の芝になっている地面に何かを書き始め、それを彼女に見えるように置き直す。


「テンバ・・・・・・もしかして名前?」

「・・・・・・」


 再び頭を縦に振ると、そのまま彼は地面に「治す方法は?」と書く。


「・・・・・・? 血を飲めば治る。 まぁ、このままでもそのうち治るがな・・・・・・!?」


 話してる最中、彼は自らの首筋にその頭を持っていく。

 彼女は、その行動に目を丸くしている。


「おい、君はさっき自分の血を吸われて死に掛けたのを忘れたのか?」

「・・・・・・」


 その問いかけに、首を縦に振る彼。


「・・・・・・何が目的だ、ボクだって馬鹿じゃない。目の前にリスク無しのエサが落ちていて拾うのは、知能の無い弱者だけだが?」

「・・・・・・」


 疑り深い目で、語っていく彼女に、彼は再び頷く。


「逆も同じだ、君は自分を弱者と認めることになるぞ」

「・・・・・・・」


 変わらず、頷く彼。

 その空間は何故か穏やかなもので、殺意が少しづつ薄れていくことは彼女も感じていた。


「弱い奴は死ね」


 しかし、関係はない。

 魔族と人間の最も違う部分は、「価値観」だ、魔族はより強くいるだけが生きる意味であり、そこに情は存在しない。

 噛み付き、血が垂れ、その血が喉を通りながら、彼の背中の後ろに彼女が見た地面の文字に意味があったかは分からないが、ふいに力んだその動揺は恐らく、魔族の「もう1つの価値観」を刺激している。

 飲んだ血が喉から地面に垂れ、それが内臓を作り、骨を作り、胴や脚ができ、服が出来た頃には彼は干し肉のように原型は留めてはいなかった。


「さて・・・・・・人界は天国、魔界は地獄を現すらしい、最強を自負するボクは言うなれば閻魔だな」


 姿は、まさに理想の大人の女性と言っても過言ではない彼女は、干し肉を片手で掴むと、まるでオモチャを見つけた子供の笑顔で、


「君は実に・・・・・・馬鹿だなぁ」


 再び噛み付いた彼の肉は抉れた。

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