第24話 四度目の義妹の悲劇の件
夜、あの衝撃的な出来事を見てしまった久人は、そのことを凜に尋ねようとリビングに呼んだ。
「久人くん、なに話って?」
「いや、ちょっと気になることがあってね」
「気になること?」
「まさか、おれが気付いてないなんて思ってないよね?」
「っ!」
ズタズタにされた外靴。
あのとき下駄箱で見なくても、一緒に帰るときに凜はずっとその靴を履いていたのだ。
普通の人ならその靴の異変に気付く。しかも、同じ家に住んでいるのだ。今から家の玄関に行けば、その靴を見ることだって出来るのだから。
「凜、なにがあったのか話してくれるね」
「・・・」
久人は優しく諭すように言うが、凜は俯きなにも言葉を発さない。
「凜?」
「・・・ない」
「え?」
「関係ない」
一瞬何を言ったのか久人は分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
そのため、もう一度聞こうとする。
「それはどういう--」
刹那。
「関係ないって言ってるでしょ!!」
「!?」
凜の怒りの声が久人の耳を、頭を、身体を貫いた。
そのまま凜は久人の脇を通り抜けて部屋に戻って行ってしまった。
なにか凜は言いかけたようだったが、久人は凜からの一言に驚いていて、その様子に気付くことはできなかった。
※
「どう・・・して?」
あの後、久人は凜にもう一度話を聞く気にもなれず、そのままその日を終えてしまった。
それから数日後、久人と凜はほとんど会話もすることがなかった。
あの時の出来事が二人の間に壁を作ってしまったのだ。
放課後、久人は教室で一人頭を悩ませていた。
どうやって凛と仲直りしようか。
あれから何度も凜に声を掛けようと試みたが、その度にあの時の凜の顔が頭に浮かんでくる。
あの時の凜の悲しみに満ちた怒りの顔や声は、久人は初めて見聞きしたものだった。
仲が悪かった頃でさえ、あんな凜は見たことがない。
「どうしてこうなったんだ・・・」
悩んでいても仕方がない。
そう思い、家に帰ろうと立ちあがる。
すると、ちょうど3人の女子生徒が教室に入ってきた。
久人は特に気にすることもなく横を通り過ぎようとする。
しかし、女子生徒たちが久人に声を掛けてきたのだ。
「ねぇ、安藤くん」
「!」
あまり人から声を掛けられることがない久人は少し驚いた。だが、そんな素振りを見せずに女子生徒たちの方を振り向く。
「なにか用?」
「安藤くん、久しぶりだね!」
「君は・・・!」
女子生徒3人の内の一人。その女子は、あの日久人に告白をしてきた人だった。
ということは、残りの二人にも久人は見覚えがあった。凜の仲良しグループ。いや、前に凜の靴をズタズタにした張本人たちだ。
(でも、なんで・・・?)
今回の久人と凜の恋人騒動は、主に久人が嫌われたり、妬みの対象だったはず。それがなぜ急に凜が。そしてなにを理由に凜があのような仕打ちを受けなければならないのか。
久人は考えても答えが出なかった。
だが、目の前にいる張本人たちなら、もちろんその答えを知っている。
だが聞き出そうにも、直接聞くわけにもいかない。どうしようかと久人が思考を巡らせていると、女子たちが会話を続けてくる。
「安藤くん、どうして凜なんかと付き合ったの?」
”おれなんかは凜とは釣り合わない”。そんなことは久人は付き合う前から分かり切っている。
「安藤くんには凜なんか釣り合わないよ」
「?」
女子生徒の発言に久人は違和感を感じた。
(おれに凜が釣り合わない・・・? 凜におれがじゃなく?)
どういうことなのか久人には理解できなかった。
今まで、そんなことを言われたことなく、今急に言われたのだ。
「どういうこと?」
久人は聞かずにはいられなかった。
「そのままの意味だよ。 安藤くんには凜なんか似合わないよ」
「なんでそう思うの? 逆じゃなくて?」
その先も聞かずにはいられなかった。
「だからぁ! 安藤くんにあんな泥棒猫なんかじゃ釣り合わないって言ってんの!!」
久人に告白をしてきた女子がいきなり言葉を荒げて言う。
泥棒猫・・・?
久人の頭の中でその言葉がループする。
「あ、みんな、そろそろ帰ろうよ」
一人の女子生徒がそう言うと、それを合図に3人は教室から出ていった。
久人も帰宅しようと教室を出る。
先程の言葉はどういうことなのか。それを頭の中で思案しながらも校門をくぐる。
すると、
「久人」
聞き覚えのある声に久人は呼び止められた。
久人は声のする方を向く。
「優理と、南さん」
そこには、優理とクロエが立っていた。
「こんにちは、安藤くん」
「・・・」
だが、明らかに二人はいつもとは違う雰囲気だった。
「久人・・・今、時間あるかな」
「ああ・・・大丈夫だよ」
「なら、少し話がしたいの。 安藤くんと・・・水原さんのことについてね」
久人はこのときはまだこの二人から聞く内容によって、久人自身の運命が決まるとはまだ思いもしていなかった...




