第21話 義妹と二度目の二人暮らしの件
「お帰りなさい・・・父さん、喜美子さん」
1月2日の昼過ぎ、久人は凜とともに、両親の帰りを歓迎していた。
こうして会うのは約半年ぶりである。
「おう、ただいま、久人、凜ちゃん!」
「ただいま、久人くん、凜」
「おかえり、ママ!!」
帰って来た瞬間に凜はそう言って、喜美子に抱き付く。
親と半年ぶりに再会したのだから、当たり前だ。
久人はそんな姿を見て、自分にも母がいたらということを考えていた。
「どうした久人、俺にも抱き付いてきて良いんだぞ?」
「地に埋まっていろ」
「ひどいな!」
久人の考えていることも知らずに、父、浩二がふざけてきた。それを久人は一蹴する。
「少しの間はこっちにいるんでしょ?」
「ああ、家族水入らずに正月を過ごそうではないか」
「そうね、わたし達はもう家族なんだから」
「・・・」
”家族”という言葉を聞くたびに久人は少しずつ顔を引きつっていく。
たしかに久人と凜が結婚すれば家族になる。
だが、今浩二たちが言っている家族という中では久人と凜は兄妹だ。
「ほら、お土産もあるし、みんなで食べましょう」
「うん!」
喜美子の掛け声に凜は答え、リビングに向かう。浩二もそれに付いていったが、久人だけはその場で少し考え込んでしまった。
(いつかは父さんと喜美子さんに言わないといけないんだ、でも・・・)
なんて言えばいいんだ?
凜と付き合うことになった事実を両親に打ち明ける一言が見つからない。
もしかしたらないのかも、そんなことを久人が一人で考えていると、凜が久人の手を取った。
「っ! 凛・・・」
「ほら、パパもママも待ってるよ、行こ」
「あ、ああ」
久人は凜に引っ張られるままリビングまで連れてかれた。
※
「久人~、きちんと凜ちゃんと仲良くしてたか~?」
帰ってきて早々酒を飲み、酔っぱらった浩二が久人に話を振る。
「まぁ、それなりには」
「もうお前たちは兄妹なんだからな~」
兄妹。両親から見たら、もちろんそう見えるだろう。
だが、本人たちからしたら違う。
恋人。
兄妹から恋人へと関係が変わったことを両親に打ち明けなければ。
さっきから久人はその話題の一言目を探しているが、どうしても思いつかない。
「久人くん、凜がなにか迷惑掛けなかった?」
すると、同じく酔っぱらった喜美子が久人に話しかけてきた。
「え? あ、いえ、なにも、むしろおれの方が凜に色々と迷惑を掛けちゃったぐらいで・・・」
「もう! ママ! 変なこと久人くんに聞かないでよ!」
「あらー、だって、自分の娘がなにか迷惑掛けてないか心配だったんだもの」
「凜にはよく家事とかも手伝ってもらって、本当に助かってます」
「お? なんだ久人、いつの間にか凜ちゃんのことを名前で呼び捨てにするくらい仲良くなったのか?」
「え!? うん、まぁ兄妹・・・だから・・・ね」
「うんうん、兄妹仲良くて何よりだ!」
久人はすんなり兄妹という言葉が口から出ない。
しかし、浩二や喜美子はそのことには気づくこともなく、今度は凜に質問攻めをしてからかい始めた。
久人はそんな光景を複雑な心境のまま、微笑みつつ眺めていた。
※
結局、久人は両親に本当のことを言えずに2日が過ぎた日の朝。
「父さん、喜美子さん」
リビングへの扉を開けながら、久人は両親の名を呼ぶ。
(今日こそ言わないと・・・)
そう思い、意気込んでリビングに入った久人だったが、そこには静寂な空間があるだけで両親の姿はなかった。
リビングを少し探してみると、テーブルの上に一枚の紙があることに久人は気が付いた。
それを手に取る。どうやら置手紙のようだった。
”すまん、久人に凛ちゃん。今日の朝急に仕事が入ってしまった。また少しの間、私と喜美子さんは家を留守にするが、まぁ君たち二人ならなにも問題はないだろう。卒業式には出るつもりなので、その日ぐらいには帰ってくる。では、行ってきます。”
「はぁ・・・」
久人はガッカリしたような、ホッとしたようなよくわからない心境だった。
とりあえず、凜の朝食を作ろうと、手紙を戻してキッチンに向かった。
それから少しして、リビングでくつろいでいる時に久人は凜にもそのことを報告する。
「ええ!? また仕事に行っちゃったの!?」
「そうみたい」
「ふーん・・・」
「・・・? なんか、あまり残念そうじゃないね」
「え?」
「だって凜、喜美子さんに久しぶりに会ったとき、あんなに喜んでたから、もっと残念がると思ってた」
「うーん・・・まぁ、残念ではあるけど・・・」
「あるけど?」
「でも、また久人くんと二人きりになれるからね」
「っ!!?」
予想外の返答に久人はパッと見でもわかるぐらい動揺する。
それを見た凜がさらに付け加える。
「本当のことを言うとね、パパとママが帰ってくるって言ったとき、少しだけ”嫌だな”って思ったの」
「・・・っ!!」
もはや久人はなにも言えなかった。
ここでなんで嫌なの?って聞くのは野暮ってものだ。
「ふふっ」
凜は嬉しそうに微笑みながら久人を見る。
「///」
その視線に久人はただ顔を背けて紅潮させることしか出来なかった。
(次に帰ってきた時・・・その時に必ず言おう・・・)
そんな中、久人は心の中でゆっくりとそんな決意を固めていた...




