第19話 義妹とサイアクなクリスマスの件
更新がすごく遅くなってしまって本当に申し訳ございません!
これからは少し更新ペースを速くしていきたいと思います。
これからも応援お願いします。
「フフフフフフフフフフフっご機嫌うるわしゅう、おふたりさん」
「っ!!」
前方に立っている佐藤さつきは異様なオーラを纏っていた。
隣にいる凜が急に震えだす。
久人は、そんな凜を庇うように前に出る。
明らかに、佐藤さつきの様子はおかしかった。
「なにか用かな、佐藤さん?」
久人はとりあえずの様子見で佐藤さつきに声を掛ける。
「用? フフフ、もちろん、用事があるヨ・・・」
佐藤さつきは笑顔のまま答える。
その笑顔はとても冷たく、黒いものだった。
「さっきは、間一髪だったね、フフ・・・」
「さっき?」
久人は先程あった事柄を思い出す。
もしあのとき、少しでも自分の体が動くのが遅かったらと思うと、ゾッとする。
「まさか、お前がやったのか!?」
「フフ、どうかなー?」
その返事はもはや、肯定に等しい返事だった。
「ああ・・・・!!」
「凜!?」
後ろにいた凜が急に取り乱し始める。
先程自分の命を陥れようとした犯人がいきなり目の前に現れたのだから、無理もない。
久人はすぐに凜に近寄り、体を支えてあげた。
「凜、大丈夫?」
「う、う、うん・・・」
久人は凜の背中を撫でながら、自分の体に引き寄せる。
自分の体温で少しでも、凜が落ち着いてくれると良かった。
だが、凜の様子がさらに悪化し始めたのだ。
「凜!? しっかりして!!」
すると、後ろに悪寒を感じて、久人は振り向いた。すると、先程までは10メートルほどの距離にいたはずの佐藤さつきが、すぐ近くまで迫っていた。
久人はすぐに、凜を背中に庇い佐藤さつきの前に立ちふさがる。
「お、お兄ちゃん・・・」
少し冷静を取り戻した凜が、か細い声で声を掛けてくる。
「凜、俺から少し離れて、警察に連絡してほしいんだ・・・」
「え?」
「たのむ」
「でも、それじゃ、お兄ちゃんが・・・!」
「おれなら、大丈夫。 それと、通報が終わったら、俺たちには近づかないようにするんだ」
そう言うと凜は久人から離れて、さらに後退していく。
そして、久人と佐藤さつき2人から15メートルほど離れると、スマートフォンを取り出し警察へと通報を始める。
その通報を久人は背後に聞こえて、目の前の佐藤さつきに全神経を集中させた。
警察へ通報している凜に気付いたら、この女はなりふり構わず襲ってきそうだからだ。
だが、意外にも、佐藤さつきは黒い笑顔を浮かべたまま、襲ってくる様子は微塵も感じられなかった。
「フフ、久人クン、わざわざ二人きりにしてくれるなんて、うれしいナー!」
「はは、まぁ、あんたとは話したいことがあるからね」
凜が離れていったことを、佐藤さつきは変に誤解をし出したが、久人は警察に通報したことがバレないように、話を相手に合わせる。
それとも、もしくは、もう警察に通報していることに気付いているのかもしれない。
なんにしても、今の佐藤さつきの考えていることなど一般の人には理解しがたいことだった。
(それに、凜を巻き込むわけにはいかないしな)
「ねぇ、久人クン・・・」
「なに?」
久人は佐藤さつきの問いかけに警戒を解かずに反応する。
「ワタシ、ずっと、あなたを見てたんだよ・・・」
「・・・」
「それなのに、あんなどこぞの馬の骨ともワカラナイような人と付き合うなんテ・・・」
「ドウシテ!!!」
「っ!」
急に佐藤さつきの雰囲気が変わり、さすがに久人も怯む。
だが、あくまで冷静に、あることを問い返す。
「でも、あんた、前におめでとうって・・・」
「ソウダヨ・・・」
久人の問いに被せてくるようにして、佐藤さつきは返答してくる。
「イッタヨ・・・。ワタシのものになるカラ、おめでとうっテ!!!」
「ワタシは、中学2年のときカラあなたをミテキタ。 アナタに会いたくて、転校までしタ!!!」
「ナノニ・・・」
「アナタハワタシヲウラギッタ!!!!!!!!」
すると、佐藤さつきは先程までの顔とは思えないような目つきで、久人を睨んでくる。
もういつ襲い掛かってきてもおかしくはない。
背後を確認すると、もう凜は通報を終えているようだった。
(あとは時間さえ稼げれば良いんだけど・・・)
そんな希望は容易く打ち砕かれることになる。
「ワタシノモノニ、シテアゲル・・・」
佐藤さつきが鞄からナイフを取り出す。
そして、それを久人に刃を向けて両手で力いっぱい構えた。
「ソレガ、アナタニトッテモ、シアワセなコトダカラ!!!」
「いや、君には悪いけど、それはおれにとっては幸せなことじゃないよ・・・」
佐藤さつきの叫びのような訴えに久人は冷静に返す。その様子は凜と兄妹になった当初と同じ雰囲気だった。
「ナンデ・・・?」
「おれにも、なにが自分の幸せなのかは分からない」
久人はしっかりと佐藤さつきの目を見て語りだす。
「でも・・・、少なくとも、今凜と一緒にいるこの時間は、幸せに感じれるんだ」
「ダマレ・・・」
久人の言葉を聞いた佐藤さつきは静かに何かを呟き始める。
「ダマレ・・・ダマレ・・・」
「!」
「ダマレーーーーー!!!!!!」
憎悪の叫びがこだまする。
そして、久人に向かって走り出し、構えていたナイフを突き刺してくる。
「っ!!」
久人はとっさに、突進してきた佐藤さつきの両手を掴む。
なんとか、自分に刺さる前に佐藤さつきの体を止めれた。
しかし、なおも物凄い力で佐藤さつきがナイフを刺そうとする。
だが、あくまでも、佐藤さつきは女性だ。
男性である久人に抑えられない力ではない。
ナイフの押し合いで拮抗する。すると、すぐにその勝負の結果が付くことになる。
久人の背後から制服を身に纏った人たちが走ってくる。そして、5人がかりで佐藤さつきの体を押さえつけ、ナイフを取り上げた。
「大丈夫ですか!?」
その内の一人が久人に声を掛けてくる。警察の人だ。どうやら、間に合ったようだ。
「あ、はい・・・」
一瞬久人は何が起こったか分からなかったが、すぐに助かったのだと理解する。
「お兄ちゃん!」
凜が後ろから走ってきて、久人の腕にしがみ付いてくる。
久人は凜の姿を認識すると、安堵の息を漏らす。
すると久人は凜を腕から剥がし、警察に押さえつけられながらも何かを叫んでいる佐藤さつきに近づいていく。
「久人クン!!」
近づいてくる久人を見ると、佐藤さつきは久人の名前を叫びだした。
そんな佐藤さつきを久人はしっかりと見つめる。
「佐藤さん、君はおれをずっと見てきたと言っていたね・・・」
そして、久人は佐藤さつきに向かってまた語り掛ける。
「けど、それは本当のおれじゃない。 偽物のおれなんだ・・・」
「でも、凜は違う・・・」
「凜は、本当のおれを見てくれる。 本当のおれを好きになってくれたんだ・・・」
そう言うと、久人は佐藤さつきに背を向けて凜の元に帰る。後ろでは佐藤さつきがまた暴れ出したようだったが、警察の人たちがそれを押さえつけていた。
「帰ろう、凜・・・おれたちの家に」
「うん、お兄ちゃん・・・」
また凜は久人の腕にしがみ付き、久人もまた体を凜に近づける。
そして、そのまま自宅へと向かう。
会話はなかった。
ただその無言が、互いが負った心の傷を互いで舐め合い、癒し合っているようだった。
こうして、二人のサイアクなクリスマスは幕を閉じた...
 




