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第11話 義妹の友人に告白された件

この話からR15表現が少し増えていくので、無理な方はブラウザバックしてください。

「痛い・・・」


 昨日殴られた傷がまだ痛む。久人は体を少し押さえながら電車から降りる。いつも一緒に家を出る凜は、久人に今日はなぜか先に行ってほしいと言ってきたので、青年は久しぶりの6時半登校をしていた。

 早朝特有のすがすがしさを堪能しながら、高校に到着する。


「なんだ、これ?」


 下駄箱で靴を履き替えようとすると、一枚の紙がひらりと落ちる。

 久人はそれを拾い、表と裏を確認する。手紙のようだった。

 表にはなにも書いてなかったが、裏には”安藤くんへ”とだけ書いてあった。


「・・・」


 久人はその手紙を開ける。

 そこには一言、”放課後屋上で待っています”とだけ書かれていた。

 差出人の名前も書いていない。


(どうしよう・・・)


 とりあえず久人はその手紙を鞄にしまい、教室に向かった。

 それからあっという間に時が過ぎ、昼休みになる。

 久人はいつも通り、屋上で昼食を取っていた。

 頭の中では放課後に起こるであろうイベントのことでいっぱいだった。


「はぁー・・・」


 無意識にため息が漏れる。

 こんなことは久人にとって初めてではなかったが、毎回どうすればいいか悩む。

 久人がずっと頭を悩ませているとき、教室では凜たちのグループではある会議が行われていた。


「ねぇ、本当に告るの?」


「うん、わたし、昨日ではっきりした。 わたし・・・安藤くんのことが好き」


「・・・」


 そんなガールズトークに凜は複雑な心境で聞いていた。


「告白するのって、今日の放課後なんだよね?」


「うん、もう呼んでもあるんだ」


「ホントに!?」


「うん」


「頑張ってね!」


 さらに展開する話も凜の耳には全く入ってこない。


(なんだろう、この気持ち・・・昨日から、あたしなんか変)


 心の奥に苦い何かが広がっていくのが分かる。それがなんなのかはわからない。


「凜!!」


 そんなことを考えていると、不意に自分の名前を呼ばれる。


「な、なに?」


「なにって、今の話ちゃんと聞いてた?」


 三人から心配顔で見つめられる。


「あ、久人くんに告白するんだよね、頑張って」


 凜がそう言うと、三人が驚いて互いに目配せをする。その後、一人がため息をつく。


「そうだけど、その告白をみんなで見守ろうかって言ってんの」


「え!?」


 いつの間にか告白をみんなで見守ってほしいと頼まれていたようだ。


「あ、うん、見守ってほしいって言うなら、いいけど・・・」


「ほんと! よかった、みんなが居てくれた方が頑張れる気がするんだ!」


 笑顔を向けてくる友人に凜も笑顔で返した。少し引きつった笑顔で。

 --そんなことがあった昼休みも終わり、時は放課後になる。

 久人は、悩んだ。授業に集中できないくらい悩んだ。

 その結果を証明するために、青年は屋上へのドアに手を掛けた。

 そして、その手に力を込める。

 見慣れた広い風景に一人の女子が佇んでいた。

 久人はその人物に近づく。


「来てくれたんだ」


 女子はこちらに振り向きながら言う。


(この人は・・・)


 その女子は、林間学校の時に久人に肝試しを執拗に誘ってきた女子だった。


「・・・なにか用?」


「うん、安藤くん・・・わたしね・・・」


 その女子は息を吸い込む、そして、


「あなたのことが好き。 だから、付き合ってください!」


 顔を紅潮させて、久人の目をしっかりと見て言う。

 その告白が真剣であることは久人にも分かった。

 自分のことを好いてくれるのは悪い気はしない、でも。


(俺はこの人の・・・)


 どこかで告白ではないことを少し望んでいた。しかしそんなことはなく、久人は考え出した結果を言うことにする。


「ごめん・・・」


 久人ははっきりとそう告げる。


「俺は・・・そういうのは--」


「他に好きな人でもいるの!?」


 女子は信じられないという風に声を大きくして、聞いてくる。


「いや、いないけど・・・」


「だったらなんで・・・?」


「そういうのに、興味ないから・・・」


 少しの静寂の後、下を向きながら久人はさらに言う。


「ごめん・・・」


「ううっ・・・」


 女子が久人の横を走っていく。顔は見てないが、泣いていることは久人にも分かった。


「はぁ・・・」


 今日何度目かのため息をつく。それから、久人はこの場に長居はしたくないと思い、学校を出て帰宅を始めた。


 ※


 凜は帰宅しながら、今日の出来事を思い出していた。

 自分の友人が自分の義兄に告白をして、失敗した。それをみんなでみ届けた後、教室でその友人をみんなで慰めた。


「安藤くんサイテーだよ」


「振られてよかったって思いなよ」


 など、友人を気遣う中、凜はどこか安心していた。

 なぜかは、わからない。

 いや、わからないふりをしているだけ。

 自分でも分かってる。

 分かっていた。

 分かっていたけど、誤魔化してた。

 でも、もう嘘はつかない。

 自分は義兄、安藤久人のことが・・・。

 --久人は夕飯を作って、義妹の帰りを待っていた。


(なんか最近、疲れることばかりだなー・・)


 そんなことを考えているとドアが開く音が聞こえてきた。

 すると、キッチンに凜が入ってくる。


「お帰り、凜」


 久人はテーブルに料理を並べながら言う。


「もう出来てるから、一緒に食べようか」


「う、うん」


 久人の誘いに凜はぎこちなく答える。

 そして二人は、テーブルに着き、食事を開始する。


「ねぇ、お兄ちゃん」


 夕食を食べ始めてすぐに、凜は久人の名を呼んだ。


「なに?」


「なんで、告白断ったの?」


「え!?」


 久人は驚きを隠せなかった。


「ねぇ、どうして?」


 しかし、なおも凜は聞いてくる。


(そうか、あの人は凜の友達だから、知ってても不思議じゃないか)


「確かに、あんなまっすぐに告白されたのは初めてだったし、嬉しくないといえば嘘になる」


 久人は本音を義妹に話す。


「じゃあ、なんで?」


 凜は納得できるわけもなく、さらに聞いてくる。


「俺さ・・・あの人の名前、知らないんだ・・・」


「え・・・」


 そう、久人は林間学校であった時から、あの人に名乗られていない。それどころか、告白された時でさえ、名乗られなかった。


「あの人は、俺の何も知らない・・・それに、俺もあの人のことは知らない・・・だから、断ることは決めてたんだ」


 名前も知らない人とは付き合えない。あの女子も結局は、久人の表面しか知らない。

 久人が悩んでいたのは、どう傷つけずに断るかだった。ただ、それは失敗したようだったが。


「お兄ちゃん・・・」


「ま、そういうこと」


 久人は食事を再開する。


「そっか、ふふ・・・」


「?」


 少女も微笑み、食事を再開する。久人はその微笑みの真意はわからなかったが、とくに本人に確認もしなかった。


 ※


 その日を境に、凜の態度に変化が起こった。

 終業式の前夜、久人はリビングのソファーで読書をしていると、


「お兄ちゃん! なに読んでるの?」


 凜が勢いよく久人の隣にピッタリとくっついてくる。


「!?」


 右腕に感じる柔らかさに久人は動揺する。


「おい、凜、もう一つのソファーが空いてるんだが・・・」


 なるべく冷静を保ちながら、久人は指摘する。


「ええー、だって、ここがいいんだもん」


 凜はさらに久人の腕に自分の腕を絡みつかせてくる。


「!!」


 久人はすぐさま立ち上がり、もう一つのソファーに移動する。


「あ・・」


 凜が名残惜しそうに見てくるが、久人は無視してもう一つのソファーに座り読書を再開する。


(なんなんだ、凜のやつ・・・からかってんのか?)


 そんな凜の行為はその後も続いた。

 夜中久人が眠っているときに、寝返りを打つと、なにかに手がぶつかる。


(なんだ・・・これ・・?)


 ぼやけている視界が少しずつ戻ってくる。


「な!?」


 久人はその物体を認識すると、一気に眠気が飛ぶ。


「り、凜!?」


 義妹がなぜか自分のベッドで寝ている。久人はベッドから体を起こす。


「んん・・どうしたの・・お兄ちゃん・・・?」


 その拍子に凜が起きる。


「どうしたのじゃない!!」


 久人は珍しく感情を露わにして言う。


「なんで凜がここにいるんだ!?」


「んんー、だってなんか今日、夏にしては寒かったじゃない、だからお兄ちゃんと一緒に寝ようと思って」


 凜は目を擦りながら久人の質問に答える。


「なんでそういう結論に行きつくんだよ!」


「いいじゃない、あたしたち兄妹なんだから」


(兄妹って言っても、血も繋がってないし、一か月くらい前はただの同級生だったじゃないか!)


「ほら、お兄ちゃん・・・寝よ?」


「!!」


 久人があれこれ頭で考えていると、凜がベッドの空いているスペースをポンポンと叩きながら言ってくる。

 それは男心をグッと掴む仕草だった。もちろん久人も例外ではない。


「あ・・・ああ・・」


 青年は吸い込まれるようにベッドに戻っていった。

 すると凜は久人の胸に体をくっつけてきた。


「ちょ!?」


 久人はつき放そうと手を構えたが、


「あったかい・・・」


 幸せそうな義妹の顔を見ると、自然とその手は凜の背中にまわった。

 つまり、久人が凜を抱きしめている状態で寝ている。夏なので、少し暑い。

 目の前には凜の顔がある。柔らかそうな唇。少し顔を延ばせばキスできるくらいの距離。

 久人は凜の顔を自分の胸に引き寄せて、見ないようにした。


「お兄ちゃん・・・」


「いいから・・寝ろ」


 久人はいつも通りの冷静な声でそう言うが、内心はまだ緊張していた。心臓の音が凜に聞こえているんじゃないかというくらい振動していた。


「うん・・・」


 そう言うと、凜はすぐに眠った。


(俺は眠れないけどな・・)


 久人は同じ年の女の子に触れたことなんてほとんどない。

 そんな青年が今女の子と抱き合っている。しかもとびきり可愛い女の子と。

 そんな状態で寝れるわけがなかった。


(てか、なんか凜の態度が大胆になった気がするんだけど)


 なにか考えてないと凜の感触に意識が集中してしまいそうになるため、今日の義妹の態度について考えることにした。


(いや、違うよな、単純に俺が読んでいた本が気になったのと、夜が寒いから俺の部屋に来ただけだよな・・・)


 そう無理やり決めつけ、凜の様子を見る。


「すー・・・すー・・・」


 規則正しい寝息をしながらぐっすり眠っている。

 その様子を見て、久人はゆっくりと凜の体から腕を解いていく。

 全ての腕を解き終わると、久人は音をたてないように自分の部屋を出る。


(お休み、凜)


 心の中でそう凜に告げてドアを閉める。


「だああぁぁぁぁーーー・・・・」


 リビングに戻ると久人は、今まで溜まっていた緊張をため息に変えて一気に吐き出す。

 緊張から解放されると久人は眠気に襲われる。

 ソファーに横になって、青年はゆっくりと夢の世界に入っていった。

 明日には凜も落ち着いて、元の義妹に戻ると心の中で信じながら...

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