俺が革命を起こしたりなんてしないっ! いちっ
中谷 満。21歳。職業、大学生兼とあるサークル長だ。顔が良くイケメンだと言われ続けて21年。未だに彼女はいない。というのも、別に欲しいわけではない。俺は単なる妹フェチなだけなのだ。
数ヶ月前。普通の弟としか思っていなかった、幹が美樹となった。それから、俺の人生は大きく変わった。恋をすると世界が変わると誰かが言ったものだけど、あれは本当なのだなと思った。
今まで二次元ゲームを開発するなどして、幅広い活躍を見せた姉に続き、俺もオタク界ではそこそこ名を知らしめていた。巷じゃあ、伝説の中谷なんて言われたりもした。
俺が高校生のときに発足さえたサークル、血会は今や定員五百名と大規模サークルにまで成長した。入会条件はただ一つ。それは血縁関係にある異性の兄妹がいる事だ。これを設定したのは、今はまだ新しい。
ちなみに俺は将来システムエンジニアになる予定である。今年の就活はさっさと決めて、サークルの跡継ぎを決めねばならない。
俺の生活は学校の授業を受け、サークルでの活動をし、自宅に帰って美樹と戯れる事だ。最近じゃ、妹の美樹はさらに可愛くなってきている。学校にいるときも、サークルが使用しているビルにいるときも、美樹の使用済みパンツの匂いを嗅がなければ、正常を保っている事ができない。
……今度、新しいパンツを物色せねばな。
そんな事を考えていると、また俺の美樹への性欲がスカイツリーを超え始める。そろそろ、我慢の限界の為。何か手を打たねばならない。
このサークルの主な活動内容は、ゲーム・漫画・ライトノベルといったエンターテイメントの娯楽作成・販売である。あとはサークルの所属費である。こうした運営により、俺のサークルは大繁盛だ。今じゃ、活動しない幽霊部員などはいないし、皆サークル活動にハマっている。それに鉄道オタクやミリタリーオタクなどといった幅広いジャンルのオタクも、兄妹がいるだけで受け入れている為か、かなり精度の高い物を作り上げる事ができるのだ。今年の夏コミでも、俺らのサークルである血会は期待されている。
そんな俺らが今年出すものは、既に春に決まっている。サークル会議にて大多数の案が出された中、俺の純愛×妹テーマでの恋愛ゲームを出すことにしたのだ。美樹をモデルにした挿絵を提示したところ、サークル内の幹部たちは鼻血と股間が決壊したのはまた別の話だ。
そんな感じで今日も最終調整に俺は追われている。
『お兄ちゃん、私のパンツがなんでここにあるんですか?』
「グヒヒヒっ! それは俺の性欲を抑える為だよん!」
『も、もう……でも、そんなお兄ちゃんが大好きッ!』
「俺もだよぉ……美樹子ちゃん……はぁはぁ」
最近、俺の評判が落ちたり上がったりなのは気にしない事だ。
最終調整が終わり、会議にてこれで行くと宣言すると、幹部たちも自分達が完成させた作品だからか、安堵の溜息を吐いていた。俺は例年、コミケに提出する作品の最終調整と判断を任されている。もちろん、プログラミングなどといった事も協力する。だが、俺が求めているのはチームワークとサークル会員一人一人の意気込みである。そうする事によって連帯感と責任感が生まれ、皆闘志を燃やしながら作るのだ。俺もその一人である。
しかし、今回の作品――――『実妹の飼育係』はなかなかの傑作である。テストプレイでも、厳しい評議会で満点の三ツ星をもらった。今年のコミケは燃える。これを主軸にしてメディアミックスを展開させようと考えていた。
漫画担当とラノベ担当に連絡し、あと数日しかないことを申し訳なく思いながらも、お願いした。
自宅に帰るのは、この時期大体夜十一時を回っている。
「ただいま」
「あ、おかえり満。今日もサークル?」
「まぁそうだね。そろそろ夏コミも近いしね」
「あーコミケね。あんたも引っ込みがつかなくなってから大変だね」
「あんたもってことは、姉貴もか?」
姉貴――――美鈴も毎回作品を出展している人間だ。現在大学四年にして、未だ就職活動をしていないにも関わらず、スカウトされ続けている人材である。美鈴の生み出すBL作品もとい、GL系のものは売れ行きが好調であり、なおかつ俺らのサークルのライバルでもある。一応美鈴には毎回作品のチェックをしてもらっているのだが、美鈴に勝つのが俺たちサークルの最終的な目標だ。
今年は、美鈴も美樹の影響でか、GL物で勝負をしかけるとこの前言っていたのだ。そうなれば、俺の作品とは一騎打ち――――つまりは、ヒロインの構成力で勝負することになるであろう。
まさしく、どちらがより美樹を再現できるかで、この夏の勝負は決まるのだ。面白くて笑いが止まらない。
そんな中、美樹が珍しく食事をしているのを見つけた。
「ただいまっ! 美樹たん!」
「お兄さん……? 最近夜遅いようですけど、何してるんですか?」
「俺か? 俺はただ美樹たんへの愛を毎日連呼しているだけだよっ!」
美樹への愛情をたっぷり込めた挨拶をしていると、後ろから何かで叩かれる。
「痛ッ!?」
「貴様は、もっと美樹の兄だという自覚をした方がいいぞ」
「満? 美樹たんは皆の物だからね!」
どうやら、最近我が家に居候中の黒樹 麗とか言う毒舌まな板娘と、我が家の膨大な女子力保有者である美鈴が食卓にいたようだ。
連泊している黒樹 麗という少女は、見た目がそこそこなものの、胸が完全にA以下なのではないかという疑問を匂わせる事から、俺の相手ではないと判断している。ちなみに、美樹がGカップだというのは既に確認済み。風呂場での監視カメラも、美樹の部屋に備え付けしてあるカメラで確認している。そろそろブラがキツくなってきたと美樹が一人でに悩んでいるのも俺は知っている。ふふ、美鈴を出し抜いたという優越感と、美樹の秘密を知っているという高揚感は俺を幸せにしてくれる。
美鈴が腕を組みながら、俺に笑顔を向けてきた。そのまま近づいてきて、何かと思えば、耳打ちをしてきた。
(満、アンタもまだまだね。監視カメラは全て撤去しておいたし、なんなら使用済みのパンツとブラはあたしが回収しておいたわ。ついでに言うなら、美樹たんの悩みであるカップ数が若干上がっているという悩みは、あたしがすり替えたブラを使用することによって改善されてるのよ)
(な、なんだとっ!?)
(満。アンタが美樹たんを独りいじめできると思ったら大間違いよ)
(く、クッソッ!)
姉貴は凄まじく勝利の余韻に浸った顔をしている。というのも、俺と姉貴は、美樹になった時からどちらが美樹を恋人にできるかのライバルなのである。実際に血のつながりはないし、むしろ美樹の恋人には俺が最適だと思えるんだが。
しかし、姉貴を出し抜くのは不可能に近い。恐らく国一つ潰すことのほうが簡単であろう。
そんな中、先に食事を開始している可愛い妹の美樹と、まな板水平線の黒樹 麗が俺の事を怪訝な顔をして見つめていた。
「お兄さん?」
「貴様……失礼な事を考えてないか?」
「いやいや、俺と姉貴だけの会話だから気にしないで! ついでに言うなら、水平線さんにぺちゃぱいと言っても失礼じゃない気がするな! なんたって単なる事実を――――ぐへっ!」
「貴様はもう、美樹の血縁者をやめてしまえ。恥さらしが」
「うんうん、麗ちゃんの言う通りだよ? 満――――もとい下着マニアさん」
姉貴が俺に笑っている。目が笑っていないのは相変わらずだ。父はビールを飲んでいたからか、新聞に「ぶっ」と吹き出しているし、母にいたっては皿をシンクの中で落としたようだ。といっても割れた音はしていない。
麗はさきほど俺に向けて、スリッパを投げたせいか。片っぽのスリッパを目で探している。が、姉貴の言葉を聞いた途端に固まった。美樹は食事を進める手を止めていた。
「ち、違う違うんだ美樹! 俺はそんな変態じゃない!」
「では、どんな変態さんなんですか? お兄さん」
「そもそも俺は変態じゃないんだ! 俺はただ最近美しいだけじゃなくてエロくもなってきた美樹たんへの性欲を抑える為にパンツで我慢してるんだ! だから、今度――――ぬふぉ!?」
「貴様はもう帰れ。自宅にではなく土にな」
「満。そんなに死にたいのなら、あたしが殺してあげるよ?」
おかしいな。美樹が軽蔑の目を俺に向けている気がする。変態ではない。俺は美樹への愛を語ったつもりだったんだけど、それが間違いだったのだろうか。いや、この際どうでもいい。美樹にどんな目で見られても興奮してしまうのだから。
だからね? 姉貴と水平線さんは俺の事を睨まないでほしいな。
ついに水平線さんのスリッパは両方なくなった。といっても俺の後ろにあるけど。俺の頭部に命中させるあたり、結構なコントロールをお持ちのようです。
姉貴は俺の腹にボディブローをかましていた。この姉貴、頭だけじゃなく力も強いからか……かなり痛い。
「み、美樹たん……俺を……俺をそんな目で見ないでくれ……」
「そういわれても……」
「だって、だって興奮しちゃうじゃないか! そんな目で見られると――――今日のおかずは決定だ!」
「死ね。変態ドブ虫」
「もう黙ろうか満。おねんねの時間だよ。永遠にね」
「ま、待て早まるな! 水平線さんと化け物姉貴!!」
「「誰が水平線(化け物姉貴)だ! お前に言われたくないわああああああああああああああ!」」
こうして、俺はこの日睡眠したのだった。
◇
「うわっ……どうしたんですか。中谷さん」
「ちと、動物園のライオン二匹の檻に入れられてな。なーに、ちょっとかじられただけさ!」
「それ大問題ですよ!?」
そんなわけで翌日。俺は飯を食う暇もなく、そのまま強制的に睡眠させられてしまい、起きたら秋葉原にあるサークルが所持しているビルにて眠っていた。どうやら、俺は一晩姉貴や麗によって随分可愛がられたようだった。おかげで顔が変形してジャガイモみたいになっていた。
唇なんか腫れてしまって、某芸能人のダウンタウ○の浜○みたいになっていた。
どういうわけか、そのままサークルの一室で眠っていたわけだが。起きたら、今回コミケに出展する漫画担当をしてもらっている女の子――――藤本 南波がいた。
彼女は身長が百五十センチくらいの小柄の女の子だ。髪の毛を内巻きにして眼鏡をかけているのが特徴的である。
どうやら、原稿のネームを書き終えたのか。それを俺に提示する為に心許ない胸の前で大切なぬいぐるみを抱くように紙を持っていた。
「……大体要件は分かったよ。藤本さん」
「あ、はい!」
「とりあえず、ネームを見せてもらうよ」
昨日、俺らの主軸となるゲームの漫画もお願いした相手だ。彼女には一歳年下の弟がいるらしいのだが、そいつが好きな人だと思って書いてほしいと頼んだ。それがいい具合に出てて、俺的にはグッジョブな感じだった。
俺はネームを確認してから、南波に返した。
「これは主人公に題材を弟に選んだのか?」
「い、いえ……そ、その好きな人を……っと思って」
「ああ、それが良かったぞ。なんでか共感できる部分が多くて面白かった」
「あ、ありがとうございます!」
南波という少女は俺の一個下で大学二年生である。当時高校二年生であった南波が、このサークルに迷い込んできたのは、当時所属していた部活で豚オタク共が多く、本気で漫画が描けないと泣いていたのだ。それを知り、この環境では女も多く働き、豚オタ共も少ないので精いっぱい働くと良いと言って所属させたのだ。
入会から三年くらいか。彼女の能力は素晴らしいもので、我がサークルとしても重宝していた。
「そ、それで、な、中谷さんは、どういった人が……好みですか?」
いきなり好みの話を振られた。完全に作品の事だろう。俺は顎に手を置いて考える。南波が良い後輩なだけに、俺も全力でアイデアを考えてあげたい。
そこで、電球がピカッと光ったような感覚にさらされる。
「俺は、妹が好きだ」
「……はい?」
「もちろん、作中に出てくる妹な。だって年下の兄妹っていいじゃん? 一つ屋根の下で生活してるって事は、あんな事やこんな事もできるんだぜ? 最高じゃねーか!」
「…………」
「やっぱり妹は最ッ高だぜ!」
「中谷さんに聞いたのが間違いでした」
「あ、はい。そうですか。では続きをお願いします」
「はい、そうします」
かなり熱が冷めたような目で見られた。それこそ、昨日の美樹のような……っとイカンイカン。美樹と一般人を比べても絶対に勝てる筈がないじゃないか!
俺は慌てて頭を振った。
「……じゃあ、その……もし、私の漫画が成功したら、中谷さんの好きな人の事……飲み会で教えてもらえませんか?」
「ん? ああ、別にいいけど。なんなら、ここで余すことなく語りつくしてやってもいいんだけど」
「それは遠慮しておきます」
「そ、そうか……」
南波はそう言って、漫画課の部屋まで足早に行ってしまった。
今も昔も俺は南波の事をよく知らない。だが、有能だから頑張ってほしいという思いが強いだけだ。
影ながら、俺も応援し、自分の作業を進めてしまおうと決意するのだった。




