活動開始なんてしないっ!
麗が屋上で部活を設立するなんて言ったときは驚いた。
まさか、単純な理由で部活を作るとは思ってもいなかったし。そもそも、麗は美人だ。
それなのに更に美しさに磨きをかけるとか言うから……。
「美樹さん、こっちのほうがいいですか?」
「それだと、前が見えなくないですか?」
「美樹さんは見えてるんで大丈夫です!」
部室という名の多目的室には、現在俺と麗の他に三人の男子がいる。
その男子は……。
「いい加減にしなよ正男。美樹さん困ってるじゃないか!」
「あ、すいません、自分出しゃばって……というより、何で直弘が入ってくるんだ! お前、俺らのキューピットになるとか言ってたじゃねーか!」
「それはそれ。これはこれ。僕は将来的に美樹さんの彼氏――いや旦那になる予定なんだもん!」
「そ、それは本当なんですか!? 美樹さん!!」
「あくまで私は荒田君には、理想のタイプを言っただけなんですけど……」
部室では正男と直弘が、言い争っている。
というのも、現在の議題は髪型。で話を進めている。
――数分前。
「では、美樹。私と二人で美を追求していこうじゃないか!」
「麗さんはそのままでも、充分可愛いんですが……」
麗と俺は放課後に、部室にと貰った多目的室に二人でいる。
この多目的室は、新たにできるであろう部活の為に用意された教室と言っても過言ではない。そもそも、本当に部室で使おうとしたのだろうか。
この多目的室……四階にあるんだけど。
運動部を作って欲しいんじゃなくて、文化系の部活を作ってもらいたかったんだな。ここの校長は運動が嫌いと見える。
そんな事はさておき、教室にあるものと変わらない机と椅子を二セット置いて、俺と麗は向きあってる状態だ。
正直、教室と雰囲気がまったく変わらない。違うのは沢山の机と椅子がないだけだ。
でも、麗は満足しているみたいだ。
「美樹の目は節穴だな! 私が可愛く映ってるのなら眼科に行った方が良い」
「そ、そこまで言われると自分の感性に自信が無くなるんですが」
麗は俺の抗議を余所に、黒板に白いチョークで何やら書き始めた。麗は背が小さいので、黒板の上の方に届いていない。その為、自分の椅子を黒板近くに運んで、乗ったり降りたりしながら文字を書いている。それがまた可愛いんだが、そこに気付かない麗もまた麗らしい。
黒板には不器用な字で『美人の髪型からは気合を感じる!!』と大きく書かれている。
俺は半目で麗を見る。
「あの……麗? 髪型から気合を感じるって……」
「うむ。まんまだ」
どういう事? それって街ゆく美人達の髪型から覇気が出てるってことになるんだが。そもそも、俺髪に気合吹きこんでないんだけど。じゃあパーマとかは何。あれは波動的な何かを感じるの?
「私の髪型からも気合を感じるんですか?」
現在の俺の髪型はストーレートからの先っぽだけ縦巻きしている。結構簡単で、時間がなくてもできる。それこそ、髪が長過ぎる麗にはできないのが残念だ。
麗は俺の質問に首を縦に頷いた。
「髪型こそが美人への初歩的な物だと思うのだ」
「……そうかもしれないですね」
やっぱり、髪型だけで人の印象はだいぶ違うしな。
そもそも、女子でスキンヘッドとか引くし。いくら内面的に美しかろうと、女子力は微塵も感じられないだろう。
そうキーポイントとなるのは女子力は見せるものではなく、感じさせるものなのだ。髪型は雰囲気を作りやすい。麗も要な所から入る辺りは女子だな。恋でもしてるのかって聞きたくなってくる。
「でだ。美樹はパターンを変えない。それは何故だ?」
髪型を変えない事を言っているのか。それはお互い様だろうが。麗だって変えてないだろうが。いや、変えられないのか。
まぁ、確かにいくつかレパートリー……いや、よく考えれば雑誌に載ってるようなのは全部できるな。そう考えると、試そうとしない辺り、俺はまだまだだな。
変えないのは、まぁめんどくさいからだ。
「そうですね……この方が落ち着くんですよね」
「そうなのか!? 変えないのは何かあるからだと思ってたぞ!」
麗は興奮気味に俺の髪を触る。
そりゃあ、たまには違うのもいいかなって思うんだけど、ついついメンドクサクなっちゃって。それに髪型をいじろうとすると、姉と兄の両方が朝から興奮してウザい。
これならば、ササット終わる。
幹の頃なら、寝癖直してお終いだったんだけどな……。男は楽って女子はよく言うけど、実感させられたわ。
「特にありませんよ。ありのままの自分を見てもらったほうが良くないですか?」
「そ、それは美樹だから言える事なんだ!!」
麗は拗ねて自分の席へと戻った。椅子に座ると鞄から雑誌を取りだした。
雑誌の名前は『女ギャル』。今期のファッション誌売上首位の物だ。家に帰れば山のようにある。ちなみにギャル向けだから、見るだけだ。実践するのが来ない日を祈るばかりだ。
しばらく無言で読み漁る麗だったが、面白そうな記事を見つけて俺を手招きする。
何の記事だろうと思って、俺は席を立って麗に歩み寄る。
「美樹、これ……」
麗が指差していたのは、へそ出しの超ミニスカート。ハイヒールの金髪ガングロ姉さんがモデルで映っていた。
正直反吐が出そうなほど、汚い。こんなのを見る為に買う奴らはバカだな。俺達は違うぜ? 女子力の為だけに一応買ってるだけだ。話題的な?
どうせ、このモデルなんて『男ギャル』とかのモデルにメロメロなんだろ。ビッチは死ねばいいのに。
「わ、私はこういうの似合うかな?」
「そ、そういうのは麗には似合わない気がしますよ?」
恐ろしい事を言うもんだ。麗はビッチが嫌いな筈なのに、自らビッチになるつもりか!? やめろ、麗は今のまま純粋に行き貫いて欲しい。
そんな感じで、美人部の第一回『美人の髪型からは気合を感じる!!』は間違った方向へと進んでいく。
そんなとき、扉が開いた。
「ん?」
麗が怪訝な表情をして扉を見つめる。
その先にいたのは、美樹の知り合いではなく、幹の友人、田村 正男だった。
一体何しに来たのだろうか。一応入学式の日にメールは返したのだから、ストーカーにならないでほしいな。
「はじめまして。あんたが部長の黒樹さん?」
正男は肉食イケメンらしく、親指を立てて笑顔を見せる。その白い歯が眩しいな。一体何しに来たんだか。
ちなみに、正男は俺にも笑顔を送ってきた。メンドクサイ。
「ああ。私が部長だ。文句あるのかチャラ男」
麗は腕組をしながら、正男の正面に立った。
その目つきは鋭く、街でたまに見かけるチンピラよりも厳つい。もう不良とかに職業変更しちゃえよ。皆金置いて逃げるぞ。
正男は後髪をいじりながら、苦笑いしている。
「チャラ男って……。まぁ、間違いでは――」
「なら帰れクズ!」
そのまま麗は、思いっきり教室の扉をスライドさせ閉めた。
麗は溜息を吐いて、俺の方へと視線を移す。そして笑顔を見せた。
「今の男の髪型って、チャラい感じしなかったか?」
「そ、そうでしたか……?」
「美樹の目に毒だから、私が追い出しといたから安心なさい」
「は、はぁ……」
麗の優しさが堪らなく怖い。
つか、さっきから教室の扉を叩いてる音がしてうるさい。
麗も最初は我慢じていたが、徐々にイライラしてきたのか、もう一度扉を開けた。
「うるさいぞ! このドブ虫!!」
「ちょっと待ってくれよ部長さん! 俺は何も――」
「お前の顔、鏡で見て来たほうがいい! 私がお前の顔なら、外はおろか、この世界に生まれるのすら恥ずかしい!」
「それは存在自体拒否ですか!?」
「そうだな。この世界には美樹という神がいる。その神様にお前のような汚い存在を見せては毒だ。きっと美樹の事だから、お前みたいな奴でも救うだろうが、断固としてこの部長である私が許さ――」
「おじゃましまーす」
麗が長話をしている間に、正男は部室に入ってきた。
正男は部室に入ってきて、麗が座っていた席に腰かけた。
「っておい! 私の話を……って私の席に座るな! ゴミクズ!!」
「いいじゃないか部長さん。俺だって美樹さんと喋りたい!」
「黙れ。この世から消すぞ。肉片は残らないと思え」
麗が凄くドスの効いた低い声で、正男に宣戦布告。
正男の顔色はどんどん青白くなり、やがて席を退いた。そして、麗が自分の席に座り、正男は床に正座した。
麗は腕を組み、物凄く不機嫌な表情で正男を見下ろす。
俺はスカートの中にある、パンツというロマンスを正男に見せない為に、スカートを手で閉じて、自分の椅子に座りなおした。
「で、何の用で来たんだ? お前は」
「お、俺はただ美人部が申請されたって掲示板を見て、どんな部活かなって見に来ただけなんだけど……」
「嘘を吐くな! お前は美樹目的で来ただけだろ!」
「ち、違います!」
この感じ、完璧に正男が容疑者で、事情聴取を受けているみたいだ。
しかし、麗の正男に対する扱いのレベルが低過ぎて不憫過ぎる。これはこれで、面白いからいいけど。
「まぁまぁ。麗も少し落ち着いたらどうですか?」
「む……美樹が言うならば……」
「美樹さん……」
正男は俺の事を崇めている。俺って男子の間で神になったって噂本当だったの? この高校宗教でも始めちゃったの?
「で、本当は何しに来たんですか?」
「じ、実は先日好きな人が出来て……どうすればと、考えたところ、美人部の活動は人間の内面から外見までを磨き上げるという活動をしてるみたいなので、相談しに来た!」
「ため口聞くな。クズ」
「ぶ、部長……!」
「麗さん!」
「ふんっ! お前に命があるのは美樹のおかげなんだからな。感謝しろ!」
「美樹さーん!」
そう言って正男は俺に抱きつこうとした。
俺と正男の間に麗は割って入り、ピコピコハンマーを取り出す。
麗は野球でフルスイングするかの如く、ピコピコハンマーを思いっきり正男の顔面にヒットさせる。
これは痛いだろうな……。ピコピコハンマーの筈なのに、ピコっていう可愛い音じゃなくて、風船が割れるような音がしたもんな。これじゃバシンバシンハンマーだ。
「い、痛い!?」
「バカか。私の美樹にそれ以上近づいて見せろ。包丁でもナイフでもサバイバルナイフでも好きな物でお前の目ん玉を穿りだしてやる」
「ひぃいい!!?」
正男は引き下がった。
ここまでビビる正男も、中々見れないな。レアだ。俺が超絶美少女じゃなければ写真を撮っていたところだ。
すると、新たに部室の出入り口に男が立っていた。
「なんだ正男がいたのか」
「正男顔真っ赤だよ?」
入口にいたのは、鷹詩と直弘の二人だった。