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あたしが親友を作ったりなんてしないっ! よんっ

 神社には今も人だかりができている。そんな中、あたしはナンパ防止の為にお面をかぶっている。近くにある売店で買ってきたのだ。それを被って回りを見てみると、皆が楽しんでいるのが分かる。子供からお年寄りまで楽しむのが夏祭り。それを眺めているだけで、心が満たされていくのを感じる。

 あたしは下駄が壊れたので、一緒にいた正男たちが新しい下駄を買いに行ってくれている。そこらへんは感謝するけれど、もう少しあたしへの配慮があってもいいと思う。

 これだから男は嫌なんだ。そう思っていると、辺りにいるカップルや友人たちで楽しむグループを見つける。皆、あれやこれと楽しそうである。あたしも数ヶ月前に、ちゃんとあの子達と向き合ってたら、今頃同じように普通に楽しんでいたのかもしれない。

 今が楽しくないわけじゃない。けれど、美樹に彼氏がいるという噂が生まれてからは、美人部全体の仲が悪くなったみたいで、すごく嫌だったのだ。それを改善できるのは美樹しかいなく、あたしでは役不足なのだ。正直な話、美樹が羨ましいのだ。あの子はどんなに空気が悪くても、一瞬で皆を笑顔にする天才的な能力を持っている。あたしだって、明るいと言われた事は何度もある。けれど、彼女は次元が違う。いるだけで、皆を幸せにする――――まるで花のような人なのだ。

 そう考えていると、美樹に会いたくなってきた。薄々――――いや、もう昔っから気づいてるけど、あたしも美樹の事を大好きな一人なのだ。もちろん、恋愛対象として。それは恥ずかしい事だって分かってる。分かってるけど、麻薬のように彼女と一緒にいたいと願う事はやめられないのだ。魔性の女と言えば聞こえが悪いけれど、それだけ美しいのが事実だ。

 

 ――――さーて、皆遅いし、どうしよっかな……。

 

 周囲を見てみると、またまた長蛇の列ができていた。もちろん、あたしや男達の公開告白会ではない。正男達は今頃街を駆け巡っているはずなのだ。

 じゃあ誰が? って事になる。それに気になったあたしは腰を浮かして、そちらへと見やる。男ばかりという事は、可愛い女の子がいたことにいなる。あたしよりも多い男の数って事は、完全に美樹への公開告白会が催されてると予測するのが常だろう。

 

「む? 何の集まりだ?」

「麗ちゃん! あそこに人が集まってるよ! あたし達も拝見に行こうじゃないか!」

「そうですね。気になりますからね」


 今の声は美人部部長の黒樹 麗の声と聞いた事のある美人さんの声だ。こんなところで遭遇すれば、奴はあたしを罵ってくるだろう。せっかくのお祭りなのに、麗に会ってしまっては全部が台無しである。まったく歯がゆい思いをさせる。

 麗がいるせいで、あたしは人だかりに入る事ができずに、正男達を待った。しかし、携帯には一向にメールが来なかった。という事はバックレてしまったのだろうか。いい覚悟をお持ちのようだ。

 あたしは辺りに視線を動かすと、ナンパされている正男達を発見した。


「ねぇねぇ、何かスポーツやってるの?」

「今は何もやってないです。ですが、基本なんでもできますよ」

「メガネ君は頭良さそう! 将来何になりたいの?」

「俺は医者になろうと思ってます」

「あのー……私を踏んでくれませんか?」

「逆に俺を踏んでもらいたい」

「お姉さんと一緒に屋台行かない?」

「いえ、僕は結構です」

「何のゲームしてるのぉ?」

「あ、今は怪物狩人4っていうやつです」


 またナンパされていた。どうりでメールに返信がないわけだし、気付きもしないわけだ。この人達は本当にモテるんだなと再認識をさせられる。あたしとの距離がそこまであるわけでもないのだから、さっさと気付いてほしいんだけど。

 だが、女たちのナンパはエスカレートするばかりで、正男達はどうやって断ればいいか考えているのか、顔に苦痛の笑みが浮かんでいた。

 あんなナンパだったら、あたしは心をへし折ってやるわ。

 いつまで経っても気付きもしないだろうから、あたしは正男達に声をかけた。


「何やってんのよアンタ達!」

「あ、優香さん」

「すいません、今行きます優香殿!」

「あ、俺優香さんに踏んでもらいに来ました!」

「ごめん、僕らの方が遅くて……」

「ユッカー浴衣なんだよね~。いつもと違うの忘れてた」


 まったく何をやっていたのだろうか。あたしは今日はちゃんと化粧もして、いつもと違った感じで来たのに、それが原因で気づかれないとはショックが大き過ぎる。

 あたしは、久光からゲームを取り上げる。


「あ!? ユッカーそれはキツイよ!」

「知らないわ。こんなところでゲームなんてしないっ! で、下駄は買ってきてくれた?」

「あるよね、鷹詩」

「はい! 優香様! これを履いて是非俺の頭を――――ってッ耳引っ張られるのもキモチイイイイイイイイイイイイイイイッ!」

「……あんたってホント残念系よね」

 

 下駄を買ってきた代わりに、耳を引っ張ってあげると久光は、マッサージでもしてもらってるかのように顔が綻んでいた。無駄にイケメンとは彼の事を指しているのかもしれない。

 そんな中、今まで正男達をナンパしていた女たちは、あたしを見て舌打ちをしていた。聞こえる限りだと「死ねリア充が!」と吐いていた。そんなの麗から常日頃毒舌を受け続けているあたしにとっては、小鳥の(さえずり)り程度にしか聞こえない。

 しかし、正男達はそう女達を睨み返した。


「俺たちの優香さんに、酷い事を言うなよ」

「全く、優香殿を敵に回すとは俺らも入るのだぞ?」

「というか、優香様と同じようにふんでくれるわけでもないのに、寄ってこないでもらいたい」

「僕たちは優香ちゃんのしもべだからね。君たちとは敵になるって事だね」

「そういう事。ユッカーの敵は俺らの敵だ。非リア充」


 全員があたしを守るようにして、さっきまでナンパしていた女たちを睨んだ。その瞬間、周りの人達もなんだなんだと視線をあたし達に集めてくる。もちろん、あたしに暴言を吐いた女たちは、気まずそうに神社を去るだけだった。あたし的には別にそこまでしなくてもいいんじゃないかなって思ってたけど、正男達の気持ちが嬉しかった。

 やっぱり、バラバラになんてなってなかったのだ。皆、あたしを守ってくれる美人部の男性部員なのだ。例え、暴言を吐かれている相手が美樹だったにしろ、麗にしろ、同じように怒るだろう。

 あたしは全員の腕をまとめて組んだ。そうすると、皆が突然のあたしの行動に疑問を感じて、首を傾げていた。

 嬉しさが心から顔を出して、皆にとびっきりの笑顔であたしは口端を吊り上げた。


「皆、ありがとっ」


 そういうと、皆照れ隠しに後ろ髪を弄っていた。


 それから、またも有名になってしまった正男達への公開告白会が開かれそうになり、神社を出てきたのである。もちろん、あたしへの告白も始まろうとしていた。夏祭りは告白やナンパをする為にあるんじゃないと教えてあげたいものだ。

 先ほど、下駄を買いに行ったついでに、皆は花火セットを買ってきてくれたようだ。そこらへんにあったバケツに水を汲んで、チャッカマンで花火に火を着けていく。


「いやぁー……なんだかんだで、ユッカーといると楽しいね」

「そう? あたしは全然そんなことないわよ」

「そういいながら笑顔になってる優香殿でした」

「ちょっと拓夫君!? そういうのは言わなくていいのよっ」

「照れてる優香さんも面白いな」

「ちょ、からかわないでよっ!」

「顔赤いよ優香様。俺が冷やしてあげようか?」

「結構よ!」


 皆で花火をする中、あたしを囲むようにして楽しむ皆。でも、今日は本当に楽しかった。いつもは麗や美樹がいるのだけど、違った感じがまた新鮮で、気を遣わなくて、楽なのだ。

 気の許せる友人というのは、きっと彼らの事を言うのかもしれない。

 しかし、直弘がなんだか、少しだけ影を含んだ表情で花火を、まるで映画のラストシーンを見てるかのように眺めていた。そんな直弘が気になって、あたしは直弘の隣にしゃがみこんで、花火を一緒にしてみた。


「どうしたの?」

「あ、優香ちゃんか……。なんだか、今日みたいに遊んでるとさ、前にも言ったかもしれないけど、ここにいる筈の一人はいないんだなって思って寂しく感じるんだよね……」

「いる筈のもう一人……?」


 それを聞いた正男達もブラックのコーヒーを飲んだ子供のように苦い顔をして、あたしから視線を逸らした。直弘もただ、花火の火を見続けていた。

 あたしは気付いた。いつも、美樹や麗がいるときは本気で笑っているけれど、あたしがいるときは本当の意味では笑っていなかった。いや、もしかしたらずっと本気で笑っていないのかもしれない。

 あたしはそっと直弘の手を握った。


「え? 優香ちゃん?」

「その人の事で……皆、辛いの?」


 しばらく続く沈黙。風で木花が揺れる音が耳に響く。夏の涼しい風があたし達の空間へと混ざりこんでくる。花火は光を消して、皆は何を考えているのか、綺麗な星空を眺めた。

 そして、誰かが口を開いた。


「そ……だね」

「うん……」


 正男と久光。


「かもしれないな……」

「……だよな」


 拓夫と鷹詩。

 

 それから直弘は、あたしの手をギュッと握り返してきた。


「……やっぱり、皆そう思ってたんだね。幹がいなくなってから、どこか皆も消えて行ってしまうと思って、多分……誰も本気で笑えなくなってたんだね。……優香ちゃんに気を遣わせて、僕らは……最低だね」


 皆が黙って首を縦に振った。

 あたしは知らない人の事だ。だけど、皆にとってはそれほど大切な人なのかもしれない。だけど、あたしは皆みたいにそこまで仲が良い友達というのがいた記憶がないのだ。だからだから……。


「あたしには、アンタ達の気持ちは分からない。だって、親友なんていたことなんてないから。それに、友達っていうのは絶対裏切る存在だと思ってたから」

「……」

「だけどね、あたしは分かったんだよ。本当の意味での友達って、どこにいても信じられる人の事でしょ? 一人は皆の為に、皆は一人の為に。だから、皆もその人が裏切ったなんて思っちゃだめだよ! 今のあたしが皆の立場ならそうする。いずれ帰ってくる人の為に! ……それが、美人部に入った、あたしが学んだ事だから……」


 あたしの声を聞いて、皆は鼻で笑った。

 腰を浮かして、皆があたし取り囲んだ。


「え?」

「ありがと、優香さん。確かに、待つのも大切だよね?」

「フン、優香殿は最初は友達付き合いが苦手だったのに、まさか俺らが怒られるようになるとはな」

「そうだね。優香様には、まいったよ」

「僕達も優香ちゃんには頭が上がらないね」

「ユッカー心配かけてゴメンね」

 

 あたしは皆がちゃんとした笑顔になってくれて嬉しかった。ただ、気を使ってくれただけなのかもしれない。けれど、あたしは何故か正男や拓夫達の笑顔が本当に心の奥底からのものだと分かっていたのだ。

 そんな男達を、あたしは上目使いで見る。ずっと言いたかった事があるのだ。


「あの……じゃあさ、あたしがその幹って人の枠に臨時で入ってもいい?」


 恐る恐る聞いた言葉。だけど、皆は笑顔を崩さずに言った。


「「「「「もちろん、歓迎するよ」」」」」

「あ、ありがと」


 あたしは晴れて、皆の親友になった。これからは、あたしは皆の為に。皆はあたしの為に動くのだ。臨時でって言ったのは、いつか帰ってくるはずの幹って人の為だ。けれど、皆は臨時じゃなくていいと言っていた。


 高校一年生。女子寮にて暮らす坂本 優香。この年にして、初めて心の許せる親友ができました。


 それをメールで父と母に伝えた。

 あたしは一人じゃなくなったのだ。

 これいて優香のもう一つの夏祭りは終了です。

 次回からは、中谷 満の妹への愛を語るを投稿します。

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