あたしが親友を作ったりなんてしないっ! さんっ
結局、公開告白はあたしにまで伝染してきて、この店の男数人まで告白してきた。それを夕方で打ち切って、あたし達は各々帰宅した。家までくるストーカー的な存在は全て、正男が処理してくれたから良しとした。多くの女性陣がひしめく中、彼らはその全ての告白を断って見せた。完全に女の子からはアーティスト的な視線を受けていたと思う。彼らは顔はカッコいいと思うし、当然っちゃあ当然である。
帰宅してからは、全員に送ってくれた事による感謝のメールを送った。その返信はやはり早く、あたしの携帯電話が鳴り止む事はなかった。といっても、美樹の携帯のほうが鳴り方が異常だけど。
あれから、正男達は公園にて美樹に対する接し方の作戦会議的な物を開いていたらしい。その内容は、どうやったら自分たちが彼女を元気づけられるか。または、彼氏の手から離れさせる事ができるか。だそうだ。直弘が丁寧に状況報告をしてくれるおかげで、段取りなどが分かり易かった。しかし、あたしは思うのだ。どんなに美人だろうが、初恋は失敗するものだ。なので、彼女のしたいようにさせたらいいのだ。そうすれば、おのずと彼女なりの答えが出るのだ。そして、それはあたしや彼らに対して良い答えだと感じている。
家に帰宅したあたしはソファに体を投げ預ける。日頃の疲れや、今日の慣れないイベント(?)で、精神的な疲れを感じているのだ。それゆえに、今日は晩御飯の支度も進まない。どうしようかと悩んでいると、テーブルに置いた携帯電話が鳴り響いた。
着信は愛しの美樹からだった。音で分かるシステムを採用している為、あたしはその音を耳に聞き入れると、すぐにソファから立ち上がって、机にある携帯電話を確認する。
『お誘い、ありがとうございます。私は当日予定がありますので、ご一緒する事はできません。折角のお誘いを断ってしまい、申し訳ありません』
相変わらずの固いメール。しかし、いつもの美樹に戻っている証拠でもあった。それを拝見して、あたしは瞬間ホットしたのだ。谷中 美樹はいつも通りの美少女に戻ったのだと。
そのあとは、美人部の男子メンバーにメールをするも素っ気なく、またやる気が微塵も感じられないメールだった。どうやら、彼らも美樹に夏祭りの誘いメールを送ったのか、彼女からの玉砕メールを見て各々ショックを受けているに違いない。もちろん、あたしだって美樹と一緒に夏祭りを周りたいという願望はあったのだ。しかし、美樹も美樹の用事があるのだ。例え、それが美樹のデートだとしても、一回邪魔してしまったのだから、彼女には思う存分楽しんでもらいたいのだ。それを遠くから――――いや、見守れなくても、あたし達の役目なのだろう。
皆に一斉メールを送信する。
『じゃあ、あんた達も男同士じゃ寂しいだろうから、あたしが付き合ってあげてもいいんだからねっ!』
うん。完璧だ。皆には、ちゃんと意味が伝わったはずである。
しかし、なぜか皆からのメールには『さすが、優香はツンデレだよね』と返ってきた。ツンデレって一体何なのか今でもサッパリ分からないあたしにとっては、意味不明の言語以外の何物でもなかった。
◇
夏祭り本番。
空は暗闇に包まれているのだが、夏で日が落ちるのが遅い為か、今は時刻が十九時である。そんな時間にあたしは、学校の近所である神社にて人を待っていた。それも浴衣姿で。なんでも、私服で行こうとしたところ、親や友人に激しく止められて、あたしが浴衣で参戦したほうが良いと突っ込まれたのだ。大して、あの連中は目の色を変えるわけでもないのに、浴衣を着る意味が分からなかった。
デザインは、白ベールに空のような水色の帯に、可愛くモチーフされた金魚が泳いでるという設定の浴衣である。値段は、ここらでは高いデパートのショップで買った為か、そこそこ学生にはきつかったけど、お母さんの臨時仕送りによって、なんとか浴衣を購入できたのだ。そこらへんには感謝すべきか。
神社の内部には、大勢の人々が集まっている。これは完全にお参りの類だろうと早速観察していた。男達が来るのは大体十九時半だし、並んでもいいかなーと思っていると、後ろから肩を掴まれた。
「お待たせ! 優香さん!」
「あ、べ、別に待ってなんかいないわよ」
一番最初に現れたのは、正男だった。彼はTシャツにジーンズと、明らかにこの神社での外部活動に興味を示していなかった。それに対して頭に一瞬来たものの、後に現れる人物たちに冷やされた。
それは直弘だったのだが、あたしを見るなりニコニコと太陽のような笑顔を放ったのだ。
「僕、優香さんも美人だと思うよ」
「そ、そんな事ないわよッ!」
つい、褒められて反発してしまうのは、きっと彼らがイケメンだからなのだろうか。あたしは別にそんなに男に興味はないつもりなんだけど。
しかし、こうも浴衣の事を言ってもらえないと、さすがのあたしもショックである。と、いうよりか美樹以外にも少しでも興味を持ってほしいものである。そりゃ、あたしだって一応乙女だし。
待ち合わせ場所にて、次々と男性陣が集まっていく。次に来たのは拓夫。その次が鷹詩に最後が久光である。全員私服なんだけど、ファッションセンスが異常数値を叩き出している。完全にモデルレベルである。案外ファッションに疎そうな鷹詩ですら、イケメンなのだ。あたしはそんなに興味ないけれど、普通からしたら、この人達はそうとう良い男なのだろう。
全員があたしの浴衣を眺めて『うーん』と唸る。恐らく、あたしの格好が珍しいのだろう。いつもはツインテールの髪も、今日だけは一束にして、左肩にかけているのだ。あたしだってやればできるのだ。……多分。
すると、頬を紅潮させた拓夫が眼鏡を掛けなおしながら、あたしから視線を逸らした。
「ふ、ふん。今日はそこそこ可愛いみたいだな」
「そう言ってもらえると嬉しいわ。で、惚れた?」
「いや、それはない」
「そこは嘘でも惚れたって言っときなさいよッ! だから、美樹ちゃんの気も引けないんでしょ!?」
「んぐっ……」
押し黙る拓夫。怒った、というよりかはツッコミに近い感じだったと思う。けれど、皆には効果が絶大であり、他の四人も喉を詰まらせて何も言えなくなっていた。皆、それなりに――――いや、かなり美樹の事を考えているんだろうけれど、恋人とかになるには至っていない。とどのつまり、この人達はどこかで諦めてしまっているのだ。美樹を落とす事は不可能だと。
そんな事はない。彼女も人間であって一人の乙女なのだ。当然あたしも同じだ。恋をしたりも当然するのだ。え? 今はあたしの好きな人について聞いても仕方ないでしょ!
喉を詰まらせた皆を見て、あたしは溜息を吐いた。これから、夏祭りを楽しむのに、こんな様子では誰も楽しめないだろう。あたしは気分を取り直して、背伸びをしながら、背中越しに皆に声をかけた。
「うーん! なんだか、今日はたくさん食べたい気分だなぁー!」
「優香さん。あんまり食べると太りますよ? この前みたいに――――――」
「お、お黙り!」
「げふっ」
正男が余計な事を言いそうだったので、迷わず頬をビンタしてしまった。そうすることによって乾いた音が神社の敷地内に響くのだけど、他の四人は笑っていた。だが、周りにいた女性たちは全員があたしの事を白い眼で眺めていた。その眼はあたしが、かつての高校で孤立していたとき受けていたような眼光であった。
それを受け取ったあたしは身震いをしたのだが、皆があたしの気持ちを察したのか、手を差し伸べてくれて迷わずに握った。
神社に入って数分。
「あれ? 美樹さんの匂いしない?」
「そういわれてみれば……」
正男と久光が何かと美樹の匂いがするとか言って、さっきから視線を這わせている。ここまで来ると、若干ストーカーっぽい気もするけど、仕方がないとしか言いようがないのか。でも、美人部全員が美樹のストーカーに近いので何も言えないだろう。あたしだって、美樹の香りをさっきから感じ取っているし。
だが、美樹の捜索は叶わなそうである。なんて言ったって――――。
「……また公開告白会じゃない」
「そりゃあユッカーも告白されてるじゃん」
「もう公開告白じゃなくて、ナンパ会よね」
「それは僕らにも適用されてると思うんだけど……」
「まぁ、優香殿は慣れてないから、少しばかり
「疲れるんじゃないのか?」
「はぁ……」
神社に入ってからのナンパの数が激しい。いや、駅前の公開告白がさらに悪化して、神社参拝の列と、正男たちへの告白会の列で長蛇のように人が並んでいる。これは完全に通行人に迷惑以外の何物でもない。
そんな中、あたしに対する告白もヒートアップして、次々と告白を切り捨てるのが長く、めんどくさかった。
「あのー……君たち何してるの?」
「え? 新手のナンパ!? もうメンドクサイ……って、あんたって……」
「同じ高校の生徒だよね?」
目前にいるのは青年。それもあたし達と同じくらいだ。印象よりも身長が高く、それでいて頼りない感じの子。確か、美樹が図書館でよく勉強をしていた子である。
それを思い出すと、今まで告白を蹴散らすのに忙しかった正男たちが、あたしの近くに歩み寄ってきて、ボディーガードみたいになる。
「優香さんに触るなよ?」
「優香様は俺を踏む為だけに存在してるお方なんだぞ!」
「僕達の優香ちゃんにまで手を出さないでね?」
「優香殿にもちょっかいを出してみろ。殺すからな」
「ユッカーは俺らが守るんだよ!」
いきなり喧嘩モードの正男たち。完全に相手を敵だと考えてるのだろう。というか、あたしはこんなもやし興味ないし、むしろスポーツとかできて優しくて、カッコいい人が好みだ。あれ? それって正男じゃない?
まぁそれは置いておいて、あたしも目前の男にはそれなりに敵意を感じるわけだ。
「あんた達は黙ってなさい。で、何の用かしら」
「べ、別に用事があるってわけじゃないけどさ……。その、美樹さんの事。よろしく頼むって言いに来ただけだよ」
「「「「「「あんた(お前)に言われなくても分かってるよッ!」」」」」」」
失礼極まりない。今更変な事を言っていると思う。あたし達がこんな男にそんなことを言われる筋合いは全くない。コイツは妄想癖でもあるんじゃないだろうか。まったく嫌になる。
正男たちもそう思ったのか、かなり不機嫌な顔をしていた。
なよなよしたもやし男は、笑顔で「なら安心だ!」と言って、どこかへといった。果てしなく謎な男である。
「あれ? ユッカーのヒモ切れてない?」
「あ、本当だ」
気が付いたら、下駄のヒモが切れていた。というか、今切れていたのかもしれない。それを見た鷹詩がすばやく手を上げた。
「な、なに?」
「俺が優香様の新しい下駄を買ってきますッ!」
「そ、それはありがたいけど……」
「その代わり、それで俺を踏んでくださいッ!」
「はぁ!? なんであんたを踏まなきゃいけないのよ!?」
「それで、俺もエクスタシーを――――――もとい、快感が得られるからです!」
「もうどうでもいいから、早く買ってきてよ!」
「約束ですよ! 優香様!」
それから、鷹詩が全速力でどこかへと駆け抜けるのだが、鷹詩は迷子になり易く、それを思い出した男達はすぐに、鷹詩を全員で追いかけた為、あたしは神社にて一人。取り残された。




