あたしが親友を作ったりなんてしないっ! にっ
美樹に夏祭りに行かないかとメールを打つ。いつもなら返信は凄まじく速いのだけど、何故か今日は遅い。そういえば、ここ最近美樹の様子がずっと変だった。岸本 雅史と図書館で二人で勉強するなど、奇怪な行動が目立った。彼女を問いただそうとしても、結局は答えは貰えず、そのまま夏休みに入ってしまったのだ。その件も含めて、彼女とは一度話合わなければならなそうだ。
彼女からのメールが中々来ないので、あたしは他の連中にメールをする事にした。その相手は美人部の男達。あたしは何かと悩みがあったときは、彼らに相談するようにしていた。
『今日時間空いてる? 空いてたら、駅前のファーストフード店に来て欲しいんだけど』
一斉送信して、あたしは駅前のファーストフード店を目指した。
以前、あたしが美樹達に助けてもらった駅にて皆を待つ。メールを一斉送信した結果、彼らからすぐに返信が来た。
すぐに駅前へと向かうと、平日なのに人が多くいた。この駅は、あたしたちのような若者が多く、しかも今日は夏休みである。制服を着用している学生はいないものの、皆高校生くらいの年齢の者達ばかりだ。サラリーマンの人達は腕時計で時間を確認しながら、どこかへと急ぎ足だ。
そんな中、あたしがファーストフード店に入ると、既に男達は店にて席を取っていた。
「どうも、優香さん」
「おはよ、優香様」
「おっはー優香ちゃん」
「おはよう優香殿」
「ユッカーおはよう!」
全員、昼過ぎなのに「おはよう」と返事してくるあたり、皆メールが来るまで寝ていたに違いない。まったくあたしはいつも早起きして麗のご飯を作っているのに、どういう神経をしてるのだろうか。
ドリンクだけを注文して、あたしは男達のテーブルに座る。皆違うタイプのイケメンだからか、店のお客は寄ってたかってこちらのテーブルを指差している。きっとあたしたちがどういう関係なのか知りたいのだろう。
正男がコーヒーを啜りながら、あたしの事を見つめる。
「で、優香さんは何で俺達を呼んだの?」
「えっとね、最近美樹ちゃんが最近可笑しいから、何か知ってるかなと思って」
「それで、俺達が何か知らないかって事ですか」
「うん、ちょっと皆から見て美樹ちゃんはどうなのかなって」
あたしと正男の会話を聞いて、皆が黙りこみながら考えごとをする。夏休み前の美樹は明らかに様子がおかしかった。夏祭りに行くにしろ、先にその事について議論したいところなのだ。まぁ、議論といっても彼らから見た意見を聞くだけだ。
それにしても、周りの女性の「第二の女出現!?」とか言って騒いでる。うるさい。
久光が、ノートパソコンを開いて電源を入れた。それを見て鷹詩はタブレットパソコンを鞄から持ち出す。
「うーん、ユッカーがそういうのなら少し頑張ってみるか鷹詩」
「だけど、この前もプロテクトかかってたよね?」
「まぁ俺も外せる自信がないけど……でも、ユッカーが言ってるからなぁ……」
「わかった。じゃあ俺は優香様に踏んでもらえるのなら頑張る」
「どうでもいいから、あんたち早くしなさいよっ!」
それから二人で難しい事を会話しながら、二人とも端末を操作し出す。何で美樹の事を聞いてるのに、端末を弄りだすのか、あたしには分からなかった。
それから、直弘は難しい顔をして唸っていた。
「どうしたのよ」
「いや……美樹さんって確か、彼氏がいたよね?」
「……あれって本当だったの?」
「僕も信じられないけど、部長達が言ってた事は本当なのかもしれない」
「…………」
直弘の言葉にあたしが黙ると、皆も次第に重い空気になっていく。でも、未だに信じられなかった。動物園の出来事も、結局は麗の悪ふざけとしか皆思っていなかった。だとすると、ここ最近の美樹の変化は全部彼氏にあるわけだ。
それから、鷹詩と久光が盛大に溜息を吐く。
「……ダメだ、やっぱり無理だよ」
「だから言ったじゃん。俺らには到底無理だって」
二人は端末を閉じて鞄の中にしまいながら、机に突っ伏した。
その様子を見て、あたし以外の男三人が「やはりか……」と言いながら額に手を当てながら、溜息を小さく吐いた。一体この二人は何をしようとしてるのだろうか。まったく分からない。
「何しようとしてたのよ」
「いや、実は美樹様の携帯電話を解析しようとしたんだけど、何者かのプロテクトがかかって解除が不可能なんだ」
「携帯電話の解析って、あんた達何しようとしてるのよ……」
「ユッカーだって、ミッキーが何をメールしてるのか知りたいでしょ?」
「ま、まぁ……そうだけど……」
確かに彼氏がいるのだとしたら、どんなメールをしてるのかも知りたいし、少しでも変わってしまった原因を調べたい。だけど、鷹詩と久光がやろうとしてるのは完全に犯罪スレスレ――――いやアウトかもしれない。早くお巡りさんに連れていった方が良さそうだ。
それから二人は解析するのを諦めて、ストローでジュースを飲んだ。
「ま、お前ら二人には期待してないけどな」
「なんだと拓夫!」
「何もしてないくせに偉そうな事言うなよ!」
久光と鷹詩の二人が猛反発する。怒るのも分かるけど、そろそろ周りの目が痛い。さっさとあたしの用件を言ったほうがいいだろう。
あたしは額に手を当てながら、溜息を吐いて皆を見つめた。
「それでさ、今度夏祭りあるじゃない? ちょっと変わっちゃった美樹ちゃんを皆で元気にしようかなって思ったんだけど、どう?」
「美樹さんと夏祭り……」
「美樹殿と夏祭り……」
正男と拓夫の二人が食いついた。二人は視線を合わせて、お互いに何か妄想を始めたようだ。久光と鷹詩はプロテクトを外せない事に残念な溜息を吐いて、天井を見ていた。この二人は使い物にならなそうだ。
直弘はずっと美樹の事を考えているのだろうか、ずっと顎に手を置いて考えている。
皆、それなりに美樹の事を気にかけているのかもしれない。それはそれで、あたしのライバルが増えるけれど、喜ばしい事でもある。
だが、あたしは知っている。この男達の様子もどこか変であると。彼らは美樹に噂がたってから、どこか元気がない。あたしにしても、美樹に男がいるという不確定要素が強いからか、なんとなく元気が出ない気持ちも分かる。
だからこそ、あたしは思ったのだ。
まず、美樹を元気にさせるよりも、この人達を元気にさせた方が良いのだと。
あたしは優しく微笑みながら、皆を見つめた。
「ま、あんた達も大変そうだからね。も、もし良かったら、あたし達だけで行く?」
「優香さんと? あー、そうだね。それもいいかもね」
「たまには美樹殿も麗殿もいない部活もいいかもしれないな」
「うん、僕もそれで良いよ」
「優香様に踏んでもらえるのなら、問題ないよ!」
「ユッカーと俺達か……楽しそうだね」
皆が賛同してくれたので、当日の夏祭りはあたし達、部長と副部長を欠いたメンツでの夏祭りとなった。たまには、二人がいなくても面白いかもしれない。それでは、用事も決まった事だし、そろそろ解散――――。
「ねぇ? そいつらとじゃなくて、俺らと遊ばない?」
「何でも奢ってあげるからさ!」
「今から海にでも行かない? 車もあるからさ!」
えーっと、何でか知らないけど、男がナンパしてきた。全員服装がバラバラ。だけど、どいつもこいつも最近流行りのM字バンクがある。もしかしたらホスト気取りのチャラ男かもしれない。
ナンパしてきた男達を睨みつけながら、後から正男が立ち上がった。
「ごめんな。この人は俺達の大切な友人なんだよ。俺らの会話の邪魔しないでくれないかな?」
「あ? なんだこのゴリラ男は」
「ごり……お前、初対面の人に向かって動物で比喩するとは、礼儀をしらないようだな」
正男は拳の骨の音を鳴らし、首の骨も鳴らす。完全にスイッチが入ってしまったようだ。それを見てもナンパ男達は、ヘラヘラ笑っている。きっとゴリラ顔だけど、イケメンの正男に腹を立てているのだろう。
その背後にいる直弘が立ちあがって、正男の肩を掴んだ。今すぐ喧嘩を始めそうなムードを壊すのだろう。
「正男、僕も加勢するよ!」
「別に俺一人でも構わないんだけど」
「だって相手三人だよ? それに僕も久しぶりに喧嘩したいしさ!」
「なら、二人でやるかっ!」
それから店を出た直弘と正男。そして、あたしにナンパしてきた男三人。あたし達の席には現在久光と拓夫、鷹詩が溜息を吐いて座っていた。
拓夫は「美樹殿の為に喧嘩しないって言ってたんだけどな……」と呟きながら、拳を震わせていた。もしかしたら、拓夫も喧嘩したいのかもしれない。
久光と鷹詩は、ゲームをしながら「秘薬上げるから、トドメは俺に任せてくれ」と言いながら、カチカチとゲームを進めていた。
この人達にとって喧嘩は日常茶飯事だったのかもしれない。
五分経った今。
正男と直弘は傷一つ負う事なく帰ってきた。
「いやースッキリした!」
「久しぶりに喧嘩すると楽しいね!」
「あんた達って最低ね……」
あたしが蔑みの目を下しても、正男と直弘はヘラヘラ笑ってごまかしていた。そんな中、また新たなナンパの手があたしの肩にかかる。
「あのー」
「何よ? またナンパ?」
振りかえると、そこにはこの街ながらの服装の女子達。その後には長蛇の列ができている。一体何かあるのだろうか。あたしは首を傾げながら、女の子を睨む。
すると、あたしの後で男達が盛大に溜息を吐いていた。
「順番守らなきゃダメですよ?」
「はぁ!? 何の順番なのよ! ナンパするのに順番とか意味分からないし、そもそもあたしはナンパなんてしてないわよッ!」
「じゃあ、さっさと退いてくれます? 乳女」
「――――ッ! なんですって! このカス女!」
あたしは列の先端に並ぶ女の胸倉を掴んで、睨みつけると、あたしを「まぁまぁ」と抑える男達の声が聞こえてきた。それはもちろん、正男達の声で、なんだかこの異常事態に慣れているようだった。
溜息を吐いて、あたしは女の胸倉を離し、男達にどういう事か説明しろと視線で問いかける。
「ま、これは俺らのイベントというか、優香殿は少し黙って見ててください」
「はぁ!? だってこの女失礼で――――」
「好きなんですッ! 付き合ってください! その……拓夫さん!」
「はぁ!?」
背後で拓夫へと告白する、あたしをバカにした女。
しかし、拓夫はすぐに女をフッた。何これ、もしかして公開告白会なの!?
あたしはワケがわからなくなり、それぞれ男達を見つめると、長蛇の列を次々に崩していく。告白されては、フッての繰り返し。しかし、皆は笑顔を絶やす事なく、告白した女の子達を励ますように、見送る。完全に芸能人の握手会とかそんなレベルだ。外のお客さんも長蛇の列を見て、また人を集めていく。
混乱するあたしに、一瞬だけ手が開いた久光が教えてくれた。
「これは、俺達にナンパをする女の子達が作り出す、ナンパゾーンなんだ。毎回この駅に来ると、こうなっちゃうんだよね……」
久光が苦笑いしながら、あたしにナンパゾーンがなんたるかを説明した。つまるところ、ナンパをしようとした女子が集まってしまい、長蛇の列になる現象らしい。そこまでイケメンなのか疑問なあたしにとって、迷惑なイベントでしかなかった。
そして、この日の公開告白会が終わったのは夕方の五時だった。




