表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/142

女の子同士でイチャイチャなんてしないっ!

 これって犯罪にならないかな?

 目の前には裸の美人さんがいるんだけど。

 

 「美樹? 湯船に浸からないのか?」

 「二人だとキツくありませんか?」

 「いや、大丈夫だ。それよりも――」


 麗の瞳が赤く輝く。それはもう狼みたいだ。

 両手をクネクネと動かして、まるで獲物を待ってるときの肉食動物だ。

 

 「そのおっぱいを揉ませてくれー!!」

 「ちょ、黒樹さん!?」


 数分前。

 超絶美人な俺には、お泊り許可が下りた。

 姉が車で寮の下に来て、代えの下着などを持ってきてくれた。

 

 「これで全部だよ、美樹たん」

 「ありがとうございます姉さん」

 「ふむ。外では美樹たんを貫くんだね! 私は嬉しい限りだよ!」

 「そうですか。では、帰りは気をつけてくださいね?」

 「美樹たん愛してるよ!」

 「姉さんはもう……」


 相変わらず疲れる。

 麗はエントランスで待ってくれていた。

 麗が近くにいなければ幹モードだったに決まっているだろうが。

 

 そんな訳で、泊る準備は万端になった。

 

 「じゃあ、ご飯の前にお風呂に入ろうか」

 「……別々じゃダメですか?」

 「何を言っているのだ。 と、友達ならば一緒に入るのではないのか?」

 

 それを言われてしまえば、俺は拒否できないだろうが……。

 こうして、俺と麗は共に風呂に入る事になった。

 風呂は一般的な広さよりも二倍近く大きい。

 一応タオルをしてるから大丈夫といえば大丈夫なのだが、色々と可笑しくないか?

 俺は中身男なんだけど。

 俺が幹だとバレれば、麗には殺されるな。


 「ねぇ美樹って何でこんなに良い身体してるんだ?」

 「えーっと、それはどうなんでしょうね?」

 「美樹の身体見てると、涎が止まらない」

 「脱水症状になりますよ!?」

 

 麗は俺の身体をエロい目つきで見てる。

 案の定、本当に涎を垂らしている。口元が某RPGゲームのモンスター、スライムにそっくりだ。

 

 「で、美樹は好きな人とかいるのか?」

 「好きな人……ですか」

 

 正直いない。

 これは中学時代でもそうだった。

 誰かを好きになるという事が一切合切なかった。

 かつて、正男にも「お前は本当にそういうのに、興味ないよな」などと言われてしまった。

 少しだけ興味はあるのだが、どうしてもそれだけの為に、女子に積極的な正男の心境は理解できなかった。

 今だってそうなのかもしれない。麗は俺を除けばクラスで一番の美貌を誇って、リア充になっていたかもしれない。

 そんな麗の裸を見ても、俺は何も感じない。

 というか、単に胸がないからかもだけど。

 

 「私はいませんよ。楽しい事は他に沢山ありますから」

 「そ、そうか」

 

 小さく呟いた麗は、片手をギュっと握り拳を作っていた。

 顔が若干赤いのは、のぼせる寸前だろうか。


 「そういう黒樹さんは、どうなんですか?」

 「わ、私か!? わ、私は……その……」

 

 麗は俺をちらちら見ながら、身体をクネクネさせている。

 これは照れてるのか?

 好きな人がいるんだろうか。

 

 「私は言いましたよ? 黒樹さんだけ言わないのは卑怯です」

 「み、美樹が言っていないからノーカウントだ!」

 「本当にいないんですから、しょうがないじゃないですか」

 「美樹はせこいな……」


 麗は口先を尖らせて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。

 まったく、俺はちゃんと言ったのにな。乙女心は難しいな。


 それからほどなくして、俺と麗は風呂から上がる。

 麗の日課を俺まで強いられた。

 まぁ日課と言っても、牛乳まるまる一本を、腰に手を当てて一気に飲み干すだけなのだが。

 麗は、サラリーマンのビールの如く、牛乳を飲み干す。

 その後、キッチンで何かし始める。

 俺も麗に「ごちそうさまです」とだけ伝え、牛乳パックをシンクで軽く洗った。


 「何か食べたい物はあるか?」

 「いいえ、特にありませんよ?」

 

 と伝えると、麗は冷凍食品を取り出した。

 ちょっと待て。冷凍食品は基本的にお弁当用だぞ!?

 俺は麗の手を掴む。


 「ちょっと待ってください。黒樹さん毎晩そんなものを食べてるんですか?」

 「うむ? そうだが? 何か問題でも――」

 「オオアリです! 問題だらけですよ!」

 

 俺は麗に冷凍食品の良くない所を全て上げた。

 その中に美を破壊する物もあると語る。

 全ては姉の受け売りだが、麗には三十分程熱弁した。

 

 「み、美樹……分かったから……お腹空いた……」

 「もぅ……しょうがないですね」


 俺は溜息を吐いて、冷蔵庫を開けた。

 冷凍食品に頼るわりには、いろんなものが詰め込まれている。

 これなら……カルボナーラが作れそうだ。 

 

 「では、キッチンを借りますよ黒樹さん」

 「え、冷凍食品で――」

 「ダメです!」

 「はい……」


 麗はそのままソファで転がり、俺の調理姿を眺めていた。

 それから、料理はすぐに出来上がり、麗と一緒に食卓を囲む。

 

 「こ、こんな物が私の家で出来るのか!?」

 「そうですよ。よろしければレシピを教えますよ」


 俺の料理スキルが、こんなところで役に立つとは思わなかった。

 できたカルボナーラを租借する麗は子供みたいだった。

 食事をし終えてから、麗に今日作った料理のレシピを紙に書き渡す。

 そして、麗が食器の片付けをしてる最中に言ったのだ。


 「そうだ! 美樹。良い提案があるのだ!」

 「何ですか?」


 俺は姉が持ってきてくれていた洋服雑誌から、顔を上げた。

 麗の顔は喜んでるときの犬みたいだ。むしろ、尻尾がないのが不思議なくらいだ。


 「美樹の女子力に私は惚れた!」

 「は、はぁ……」

 「だから、その女子力を活かさないか!」

 「そんな……私にそんな力はありませんよ」

 

 そうだ。全て姉の力だ。

 というか、女子力を活かすって何? 男振り撒くるの?

 それは嫌だな。最近では学校一のイケメンが告ってもダメだった、理想がお高い美樹様と噂されてるのでな。

 

 「わ、私もリア充したいのだ……で、良ければ美樹には、私のコーチになってもらいたいのだ」

 「……厳しいですよ?」

 「やる。私は自分で言うのもなんだが、やると決めた事は最後まで貫く人間だ!」

 「それならいいですよ。まぁ具体的な事は明日教えますから」

 「頼む!」


 麗はニコっと笑って、再び皿洗いに入った。

 

 食器洗いも終わり、麗はソファで俺の隣で一緒にテレビを見ていた。

 内容は、ジャニーズのバラエティ。

 麗は最初、興味深く見ていたのだが、次第に眠くなったのか。今は顔を俺の肩に置いて、寝息を立てている。

 まぁ時間的にも、夜遅いから仕方ない。無論俺は夜行性だ。

 姉と兄に比べれば全然だが……というか二人とは体力の総量が違い過ぎる。

 

 麗の肩を軽く叩いて起こす。

 麗は両目を擦りながら、トロンとさせた瞳で俺を凝視する。


 「美樹?」

 「はい。寝るときはちゃんと布団で寝ましょう?」

 「そ、そうだな……美樹と一緒に寝る」

 「……そうですね」


 もうなんとなく分かっていた事だし、気にしない。

 部屋の電気を消し、俺と麗は寝室に入る。

 麗は一人暮らしだからか、友達が俺しかいないからなのかは知らないけど、シングルベットが一つだけしか置いてなかった。

 さすがに二人は……。

 

 「美樹? 一緒に寝るんじゃないのか?」

 「狭くなりますけど、いいですか?」

 「それがいいんだ」

 「は、はぁ……」


 俺は断念して、麗のベットに入る。

 麗も布団にもぐると一瞬で寝落ちした。

 その寝顔は幸せそうだった。

 麗の可愛い寝顔を見ていたら、俺も眠くなってきた。

 瞼を閉じようとしたら、麗の寝言が聞こえた。

 

 「美樹……好きだよ……むにゃ」

 

 たとえ同性でも、言われれば嬉しい事も存在する。

 麗の寝言を聞いて、俺は微笑んだ。

 俺の身体に麗は抱きついてくる。

 麗の頭を撫でて、俺は呟いた。


 「私もですよ」


 こうして、俺と麗は夢の世界へと旅立った。




 何もない暗闇の中。俺にだけスポットライトが当てられている。

 今の俺は美樹だ。

 目の前には幹の俺がいた。

 

 「どうですか。女の人生は」

 

 その声は合格発表のときに聞いた女神の声だ。

 いや今は男神と言ったほうがいいのだろうか。


 「最悪だな。親友五人は俺だと気付かないし、唯一真相を話した家族には何故か受け入れられてしまったし」

 「それだけ聞くと、上手くいっているようにも思えますね」

 「だろうな。で、俺は男に戻れるのか?」


 俺は一番気になっていた事を聞いた。

 これまでも、気にはかけていたが姉と母の女子力アップ講座で、それどころではなかった。


 「戻れませんよ? だってあなたが願ったんじゃないですか」

 「は? 願った? バカな事言うなよ」

 「だってあなたは、この五人誰かとずっと一緒にいたいんじゃないの?」

 「それは高校までの話だ」

 「えー嘘。マジ?」

 「マジだっつの」

 「どうしましょうー大神様に頼んじゃいましたよ」

 「何をだ」

 「私と幹君の性別交換」


 大神様? コイツより上ってことか?

 それよりも、まぁ普通は性転換なんて一般的な神にはできないだろうな。

 

 「で、取り消しはできるのか?」

 「えーっとそれが……できるのはできるんですけど……大神様忙しくて、次に私の願いを聞いてくれるのは三百年後なんですよ……」

 「さ、三百!? 俺死んでるじゃねーか!」

 「うん、そうですね。もう幹さんには戻れませんので引き続き、美樹として歩んでください! ではでは~!」

 「ちょ、ちょっと待てよ!!」


 幹は姿を消した。

 俺は――本当に人生を女として生きていくしかないのか……。

 

 


 小鳥の囁きで、俺は目を覚ます。

 カーテンの隙間から差し込む光が暖かい。

 だが異常な事が起こっていた。


 「むー……」

 

 麗は俺の隣にはいない。

 俺の眼の前にいて、瞳を閉じ口を尖らせている。

 妙に色っぽいが、女同士はどうなのだろうか。


 「おはようございます。黒樹さん」

 

 俺の声を聞いて、麗は驚く。

 驚き過ぎて、ベットから落ちてしまった。


 「み、美樹起きていたのなら言ってくれてもいいじゃないか……」

 「黒樹さんは朝から、私に何をしようとしてたんですか?」

 「う……ちょっと口笛を吹きたくなって」

 「口笛吹くのに目を閉じる必要性はありませんよね?」

 「ぐ……そ、そんな事より、もう準備しなきゃー」

 「黒樹さん!?」

 

 こうして俺にキスしようとした麗は、寝室を出て行った。

 俺は自分の両手を見る。

 華奢な手。豊満な胸。長い髪。高い声。

 女だ。

 俺は女として生きていかなければならないのは、恐らく確定事項だ。

 もう、やる気が起きないな……。


 「美樹? 朝はトーストでいいか?」

 「はい。冷凍食品でないのなら」

 「気にし過ぎだ……」

 

 麗の声は苦笑い混じりだった。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ