女の子同士でイチャイチャなんてしないっ!
これって犯罪にならないかな?
目の前には裸の美人さんがいるんだけど。
「美樹? 湯船に浸からないのか?」
「二人だとキツくありませんか?」
「いや、大丈夫だ。それよりも――」
麗の瞳が赤く輝く。それはもう狼みたいだ。
両手をクネクネと動かして、まるで獲物を待ってるときの肉食動物だ。
「そのおっぱいを揉ませてくれー!!」
「ちょ、黒樹さん!?」
数分前。
超絶美人な俺には、お泊り許可が下りた。
姉が車で寮の下に来て、代えの下着などを持ってきてくれた。
「これで全部だよ、美樹たん」
「ありがとうございます姉さん」
「ふむ。外では美樹たんを貫くんだね! 私は嬉しい限りだよ!」
「そうですか。では、帰りは気をつけてくださいね?」
「美樹たん愛してるよ!」
「姉さんはもう……」
相変わらず疲れる。
麗はエントランスで待ってくれていた。
麗が近くにいなければ幹モードだったに決まっているだろうが。
そんな訳で、泊る準備は万端になった。
「じゃあ、ご飯の前にお風呂に入ろうか」
「……別々じゃダメですか?」
「何を言っているのだ。 と、友達ならば一緒に入るのではないのか?」
それを言われてしまえば、俺は拒否できないだろうが……。
こうして、俺と麗は共に風呂に入る事になった。
風呂は一般的な広さよりも二倍近く大きい。
一応タオルをしてるから大丈夫といえば大丈夫なのだが、色々と可笑しくないか?
俺は中身男なんだけど。
俺が幹だとバレれば、麗には殺されるな。
「ねぇ美樹って何でこんなに良い身体してるんだ?」
「えーっと、それはどうなんでしょうね?」
「美樹の身体見てると、涎が止まらない」
「脱水症状になりますよ!?」
麗は俺の身体をエロい目つきで見てる。
案の定、本当に涎を垂らしている。口元が某RPGゲームのモンスター、スライムにそっくりだ。
「で、美樹は好きな人とかいるのか?」
「好きな人……ですか」
正直いない。
これは中学時代でもそうだった。
誰かを好きになるという事が一切合切なかった。
かつて、正男にも「お前は本当にそういうのに、興味ないよな」などと言われてしまった。
少しだけ興味はあるのだが、どうしてもそれだけの為に、女子に積極的な正男の心境は理解できなかった。
今だってそうなのかもしれない。麗は俺を除けばクラスで一番の美貌を誇って、リア充になっていたかもしれない。
そんな麗の裸を見ても、俺は何も感じない。
というか、単に胸がないからかもだけど。
「私はいませんよ。楽しい事は他に沢山ありますから」
「そ、そうか」
小さく呟いた麗は、片手をギュっと握り拳を作っていた。
顔が若干赤いのは、のぼせる寸前だろうか。
「そういう黒樹さんは、どうなんですか?」
「わ、私か!? わ、私は……その……」
麗は俺をちらちら見ながら、身体をクネクネさせている。
これは照れてるのか?
好きな人がいるんだろうか。
「私は言いましたよ? 黒樹さんだけ言わないのは卑怯です」
「み、美樹が言っていないからノーカウントだ!」
「本当にいないんですから、しょうがないじゃないですか」
「美樹はせこいな……」
麗は口先を尖らせて、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
まったく、俺はちゃんと言ったのにな。乙女心は難しいな。
それからほどなくして、俺と麗は風呂から上がる。
麗の日課を俺まで強いられた。
まぁ日課と言っても、牛乳まるまる一本を、腰に手を当てて一気に飲み干すだけなのだが。
麗は、サラリーマンのビールの如く、牛乳を飲み干す。
その後、キッチンで何かし始める。
俺も麗に「ごちそうさまです」とだけ伝え、牛乳パックをシンクで軽く洗った。
「何か食べたい物はあるか?」
「いいえ、特にありませんよ?」
と伝えると、麗は冷凍食品を取り出した。
ちょっと待て。冷凍食品は基本的にお弁当用だぞ!?
俺は麗の手を掴む。
「ちょっと待ってください。黒樹さん毎晩そんなものを食べてるんですか?」
「うむ? そうだが? 何か問題でも――」
「オオアリです! 問題だらけですよ!」
俺は麗に冷凍食品の良くない所を全て上げた。
その中に美を破壊する物もあると語る。
全ては姉の受け売りだが、麗には三十分程熱弁した。
「み、美樹……分かったから……お腹空いた……」
「もぅ……しょうがないですね」
俺は溜息を吐いて、冷蔵庫を開けた。
冷凍食品に頼るわりには、いろんなものが詰め込まれている。
これなら……カルボナーラが作れそうだ。
「では、キッチンを借りますよ黒樹さん」
「え、冷凍食品で――」
「ダメです!」
「はい……」
麗はそのままソファで転がり、俺の調理姿を眺めていた。
それから、料理はすぐに出来上がり、麗と一緒に食卓を囲む。
「こ、こんな物が私の家で出来るのか!?」
「そうですよ。よろしければレシピを教えますよ」
俺の料理スキルが、こんなところで役に立つとは思わなかった。
できたカルボナーラを租借する麗は子供みたいだった。
食事をし終えてから、麗に今日作った料理のレシピを紙に書き渡す。
そして、麗が食器の片付けをしてる最中に言ったのだ。
「そうだ! 美樹。良い提案があるのだ!」
「何ですか?」
俺は姉が持ってきてくれていた洋服雑誌から、顔を上げた。
麗の顔は喜んでるときの犬みたいだ。むしろ、尻尾がないのが不思議なくらいだ。
「美樹の女子力に私は惚れた!」
「は、はぁ……」
「だから、その女子力を活かさないか!」
「そんな……私にそんな力はありませんよ」
そうだ。全て姉の力だ。
というか、女子力を活かすって何? 男振り撒くるの?
それは嫌だな。最近では学校一のイケメンが告ってもダメだった、理想がお高い美樹様と噂されてるのでな。
「わ、私もリア充したいのだ……で、良ければ美樹には、私のコーチになってもらいたいのだ」
「……厳しいですよ?」
「やる。私は自分で言うのもなんだが、やると決めた事は最後まで貫く人間だ!」
「それならいいですよ。まぁ具体的な事は明日教えますから」
「頼む!」
麗はニコっと笑って、再び皿洗いに入った。
食器洗いも終わり、麗はソファで俺の隣で一緒にテレビを見ていた。
内容は、ジャニーズのバラエティ。
麗は最初、興味深く見ていたのだが、次第に眠くなったのか。今は顔を俺の肩に置いて、寝息を立てている。
まぁ時間的にも、夜遅いから仕方ない。無論俺は夜行性だ。
姉と兄に比べれば全然だが……というか二人とは体力の総量が違い過ぎる。
麗の肩を軽く叩いて起こす。
麗は両目を擦りながら、トロンとさせた瞳で俺を凝視する。
「美樹?」
「はい。寝るときはちゃんと布団で寝ましょう?」
「そ、そうだな……美樹と一緒に寝る」
「……そうですね」
もうなんとなく分かっていた事だし、気にしない。
部屋の電気を消し、俺と麗は寝室に入る。
麗は一人暮らしだからか、友達が俺しかいないからなのかは知らないけど、シングルベットが一つだけしか置いてなかった。
さすがに二人は……。
「美樹? 一緒に寝るんじゃないのか?」
「狭くなりますけど、いいですか?」
「それがいいんだ」
「は、はぁ……」
俺は断念して、麗のベットに入る。
麗も布団にもぐると一瞬で寝落ちした。
その寝顔は幸せそうだった。
麗の可愛い寝顔を見ていたら、俺も眠くなってきた。
瞼を閉じようとしたら、麗の寝言が聞こえた。
「美樹……好きだよ……むにゃ」
たとえ同性でも、言われれば嬉しい事も存在する。
麗の寝言を聞いて、俺は微笑んだ。
俺の身体に麗は抱きついてくる。
麗の頭を撫でて、俺は呟いた。
「私もですよ」
こうして、俺と麗は夢の世界へと旅立った。
何もない暗闇の中。俺にだけスポットライトが当てられている。
今の俺は美樹だ。
目の前には幹の俺がいた。
「どうですか。女の人生は」
その声は合格発表のときに聞いた女神の声だ。
いや今は男神と言ったほうがいいのだろうか。
「最悪だな。親友五人は俺だと気付かないし、唯一真相を話した家族には何故か受け入れられてしまったし」
「それだけ聞くと、上手くいっているようにも思えますね」
「だろうな。で、俺は男に戻れるのか?」
俺は一番気になっていた事を聞いた。
これまでも、気にはかけていたが姉と母の女子力アップ講座で、それどころではなかった。
「戻れませんよ? だってあなたが願ったんじゃないですか」
「は? 願った? バカな事言うなよ」
「だってあなたは、この五人誰かとずっと一緒にいたいんじゃないの?」
「それは高校までの話だ」
「えー嘘。マジ?」
「マジだっつの」
「どうしましょうー大神様に頼んじゃいましたよ」
「何をだ」
「私と幹君の性別交換」
大神様? コイツより上ってことか?
それよりも、まぁ普通は性転換なんて一般的な神にはできないだろうな。
「で、取り消しはできるのか?」
「えーっとそれが……できるのはできるんですけど……大神様忙しくて、次に私の願いを聞いてくれるのは三百年後なんですよ……」
「さ、三百!? 俺死んでるじゃねーか!」
「うん、そうですね。もう幹さんには戻れませんので引き続き、美樹として歩んでください! ではでは~!」
「ちょ、ちょっと待てよ!!」
幹は姿を消した。
俺は――本当に人生を女として生きていくしかないのか……。
小鳥の囁きで、俺は目を覚ます。
カーテンの隙間から差し込む光が暖かい。
だが異常な事が起こっていた。
「むー……」
麗は俺の隣にはいない。
俺の眼の前にいて、瞳を閉じ口を尖らせている。
妙に色っぽいが、女同士はどうなのだろうか。
「おはようございます。黒樹さん」
俺の声を聞いて、麗は驚く。
驚き過ぎて、ベットから落ちてしまった。
「み、美樹起きていたのなら言ってくれてもいいじゃないか……」
「黒樹さんは朝から、私に何をしようとしてたんですか?」
「う……ちょっと口笛を吹きたくなって」
「口笛吹くのに目を閉じる必要性はありませんよね?」
「ぐ……そ、そんな事より、もう準備しなきゃー」
「黒樹さん!?」
こうして俺にキスしようとした麗は、寝室を出て行った。
俺は自分の両手を見る。
華奢な手。豊満な胸。長い髪。高い声。
女だ。
俺は女として生きていかなければならないのは、恐らく確定事項だ。
もう、やる気が起きないな……。
「美樹? 朝はトーストでいいか?」
「はい。冷凍食品でないのなら」
「気にし過ぎだ……」
麗の声は苦笑い混じりだった。




