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綾子がディスられたりなんてしないっ!

 さて、問題があります。

 私は女で一人部屋の筈なんですが、今日は隣に誰かがいます。その誰かとは誰の事でしょうか。

 正解は。


「ぅにゅう~……美樹にゃん……」

「むにゅ……美樹のおっぱい柔らか~い……」


 麗と姉の二人でした。

 この二人が何故、私のベットにいるのか。

 私は額に人差し指をグリグリと押しつけて考えてみる。だが、何分考えても、思い出せない。とりあえず、この状況を打破しなければいけない。

 

「二人とも、起きてください」

 

 麗と姉の肩を揺さぶる。しかし、両者とも起きる気配はない。のだが。


「美樹にゃんの御布団良い匂~い」

「この布団もパジャマも持って帰りた~い」

 

 二人とも寝てるわけではなく、私個人が放つ匂いに翻弄されているようだ。以前、麗が私の匂いを嗅いで離れなくなった事があった。今回はまだ、私に抱きついてないからまだ良い方か。ってん?

 麗は目を光らせながら、私の胸を揉む。


「ひゃっ! ちょ、ちょっと麗! な、な何やってるんですか!」

「むひひひっ! 美樹の朝揉みは最高だな! 寝起きはこれに尽きる!」

「朝シャンみたいに言わないでくださいっって、あっ!?」

「ひょほほほほっ! 麗ちゃんの意見には激しく同意するよ! あたしもこの発想はなかったよ! 美樹にゃんの朝揉み最高だね!」

「お姉さんまで!?」

 

 二人はまったくの遠慮なしに、私の身体の至る部分を触れたり揉んだりと、とても少年誌には載せられそうもない事をしている。

 私の身体は敏感だからか、反応したくないのに、四肢がピクピクと動く。


「ここか!? ここがいいのか美樹!」

「いや、ここだよね! 美樹にゃんはここが弱いんだよねっ!」

「そ、そんな事! ないですっ! いやぁん!」

「「身体は正直だぞ!」」


 操り人形のように触られる私。一体朝から、どれだけ卑猥な声を出させれば気が済むのだろうか。


「へぇ。身体は正直ねぇ」

「お父さんは美鈴をそんな風に育てた覚えはないぞ」

「姉貴とそこの貧乳。俺の妹にそれ以上触れるな。怪我するぞ」


 麗と姉の手は止まり、部屋の入り口に仁王立ちしているスリートップの母、父、兄が格闘技のチャンピオンのように立っている。ライオンのような迫力で、麗と姉を睨む。

 ライオン三匹に睨まれた麗と姉は、すーっと立ち上がり、三人の横を通り抜ける。


「さて、麗ちゃん。昨日のテレビ面白かったね~」

「はい。御姉様のオススメは最高でした」


 何事もなかったかのように二人は談話しながら、リビングへと足を進める。

 スルーされた三人から、導線が切れたような音がする。


「ちょっと待てやああああああああああああああ! 美鈴っ!」

「お父さんを頼むから無視しないでえええええええええええ!」

「姉貴と貧乳待てやコラああああああああああああああああ!」


 我が中谷家は、黒樹 麗という痛い友人を三日泊めても安泰だった。




 ◇




「まったく、美樹の兄はなんでああなのだ」

「私が知りたいですけど、麗も大して変わらないですよ」

「む。それは聞き捨てならないな。私はあそこまで行き過ぎてはいない」

「いいえ、結構行き過ぎてますよ」

「例えば?」

「今とかです」

 

 休日開けの平日。学校は夏休みではあるが、今日は麗が美人部の連中に話があるそうなので、活動日なのだ。

 そして、麗は私の家から一緒に来ている。それに関しては問題ではない。

 麗は私の腕を大切なぬいぐるみのように抱えている。結構歩きづらい。


「……おかしな事などないぞ?」

「じゃあ私の腕を掴んでるのは、何でですか?」

「それは美樹とくっつきたいし、匂いももっと嗅ぎたい」

「本音は?」

「美樹とくっついてるとカップルに見えるのではないだろうか。ムフフ」


 滅多に緩む事のない麗の顔が、だらしなくなる。

 私は麗の腕を振りほどく。


「って、美樹っ! 勝手に離すな!」

「嫌です」

「じゃあ美樹の身体をくれ」

「無理です」

「じゃあ妥協して、腕を一本くれ」

「嫌ですし、無理です」

 

 麗は頬を膨れさせ、私を半目で睨む。何とも可愛らしいチワワが威嚇してるようだ。

 私は相手にせずに、先に進む。


「がるるるるっ!」

「犬の真似ですか? 麗は上手ですね」

「えへへ! だろう? って違あああああああああうっ!」

「違うんですか? じゃあ猫ですか?」

「惜しいな。どっちかというとライオンをイメージしたんだが――――って違う! 美樹っ! 私は悲しいぞ!」

「はぁ……何が悲しいんですか」

「私の腕を振りほどくなんて……きっと彼氏に束縛でもされてるんだろ!」

「違いますけど」

「じゃあ、何で私の腕を解くのだ! 前の美樹ならば、自分から手を繋いできてくれたのに!」

「そんな事をした記憶はございません」

「ぐぬぬぬぬぬぬっ! 美樹は今日冷たいな!」

「当たり前です。何で私が朝からエロい事をする人に優しくしなきゃいけないんですか」


 当然でしょ。朝から胸を揉むような人になんで優しくせねばならないのか教えてほしい。

 麗は威嚇するのをやめて、少し考えると、すぐに納得した。


「私が美樹のおっぱいを揉んだから機嫌が悪いのか!」

「……そうです」

「いいではないか! 減るどころか、増えるものなんだから!」

「これ以上大きくなっても困るんですけど」

「む、一度は言ってみたいセリフだ……」


 麗は突然いつも通りに戻った。もしかしたら、色々と思う所があるのかもしれない。

 それから、すぐに学校に着く。

 二人で部室へと入ると、既に皆が揃っていた。


「おはよう美樹さん、部長さん」

「おはようございます。正男さん」

「む、おはよう」


 正男は机で、プロ野球の雑誌を眺めていた。昨日発売の物だから、登校時に勝ってきたのかもしれない。


「美樹様、麗様っ! 踏んでください!!」

「ご自分の身体は大切にしなくちゃダメですよ。鷹詩さん」

「今の私は貴様を踏む必要はない」


 じゃあいつも踏んでるのか、と私は思った。

 鷹詩は多種類の紐を机の上に出している。その中に何故か鞭まである。どこまでドM野郎なんだ。

 

「おはよう美樹さん。僕と会うの楽しみにしてくれてた?」

「いえ別に」

「貴様などに会うのを楽しみにしてる輩などいないと思うぞ」


 それでも猫系男子の笑顔は崩れない。麗の事など気にしてない様子だ。直弘はいろんな意味で心が広い。私には狭いけど。

 直弘は椅子に背もたれをかけながら、誰かとメールをしているようだった。


「ふん。部長が一番遅いのでは困るな」

「憎まれ口を叩くなクソ眼鏡」

「まぁまぁ」


 拓夫は眼鏡をくいっとかけなおしながら、麗と私を視界に入れた。彼は何もせずに私達の登校を待っていたようだ。

 

「麗ちんおはよう」

「おはようヒッサー」

「え!? どうしたんですか二人とも!?」

「いや、この男と私の趣味は中々合っていてな。ヒッサーだけは認めたのだ」

「認めたって……」

 

 久光と麗は仲良くなったようだ。麗が男と話してるのなんて、雅史以外に見た事がない。以前までは話すのすら嫌だと言っていたので、かなりの進歩であろう。

 最後にソファの近くに腰をかけた優香に頭を下げる。


「おはようございます優香」

「おはよう」

「ふん。貴様は朝が弱いという情報が入ってた筈だが、今日は強いのだな」

「当たり前よ。美樹ちゃんと朝から会えるって確証があるのに、誰が寝坊なんてするもんですか!」


 優香は鼻で、ふふんっと強気に唄ってみせた。しかし、今日の麗は一味違って、そんな優香の態度に反発しなかった。

 麗は両腰に手を当てて、胸を反らす。


「ふん、聞いて驚くなよ。私はな、三日間美樹の家に泊まったのだぞ!」

『…………』

 

 全員が口を紡いだ。そして、各々作業していた物をやめて、私の前にやってくる。


「じゃあ始めようか。美樹部長」

「美樹様。頼みます」

「僕からもお願いするよ」

「美樹殿の方が部長に相応しいしな」

「ミッキーお願い!」

「美樹ちゃん。今日のお題は?」

 

 麗は固まり、錆びたロボットのように首を動かし、全員を睨む。そして、ゆっくりと口が開く。もう完全にホラーだからやめてください。

 私は苦笑いで皆を抑える。全員が私に視線を集中させてるから気付いてないのだろうか。背後から、バシンバシンハンマーを構えた麗がユラリと迫っている。

 それからの麗は凄まじかった。


「死ねッ! 一刀流ッ! リア充狩りッ!」


 私以外の全員の頭部を叩き、美人部の活動は始まった。




 ◇




「部長。足が痛いです」

「うるさい。死ね。ゴリラ」

「あ、はい。ってゴリラ!?」

「ゴリラが日本語を喋るな」

 

 麗は正男を睨みつけている。

 現在、麗と私以外のメンバーは、床に正座をしている。皆が反省してるのか、それとも痛いからなのかは分からないが、顔を俯かせている。約一名だけ、快感を得ている人間がいるけど、まぁいい。

 黒板には、『美人部合宿について』と書かれている。


「まぁいい。今日集まってもらったのは他でもない。私達も部活をしてるのだから、きちんと合宿をして学ばなければいけないと思ったのだ」

「ふぅ~ん。あんたにしちゃあ気が効くじゃない」

「うるさい乳女。ヤリマンに用はない」

「ちょ! あたしは処女です! って、何聞いてんのよ!」

『…………』


 男達は照れながら優香をチラ見していた。そこら辺は全員ちゃんと男子なのだなと思った。


「ですが、費用はどうするんですか?」

「む。問題はない。杉本に一応連絡はしてある。部費がいくら降りるかは、今日来てここで発表してもらう事になっている」

「そうですか」


 その時。ちょうどよく部室の扉が開き、綾子が腐った死体のような動きで、部屋に入ってくる。身体から漂う負のオーラは一体何なのかしら。近づかないでもらいたい。

 綾子はゾンビのように教室に入ってくると、私をまず見て、舌うちする。


「けっ」

「遅いぞ。万年婚活組教師」

「なんだと!? 黒樹ぃ。お前また一段と生意気になったなぁああああああ!」

「そう感じるのか。それは自分の過去に聞いてくれ。美樹の御姉様から色々な写真を貰ったのでな。是非とも皆に見せてあげたいのだが……」

「や、ま、待て! そ、それはダメだ!! くそっ美鈴の野郎……一番メンドクサイ奴に情報を撒きやがって……」


 綾子のどんな情報を麗が握っているのかは知らない。けれど、麗はずっと姉の部屋で泊まっていたので、色々教えてもらったに違いない。正直な話、私も興味がある。


「まぁ、それは置いておいて。当然部費は降りただろうな?」

「…………」

「降りたのか?」

「そ、それが……部費。貰えなかったんです……」

 

 どんよりとした空気を放つ綾子。部費が降りないと発表した途端。メンバー全員の顔が引き攣る。完全に、これは失望した顔だった。

 麗が先ほど黒板に合宿についてと書いたとき、物凄くテンションが上がっていた男子達。きっと彼らは数分後、テンションが落ちてる事を想像していなかっただろう。

 

「わ、私だってな、海とか山に行って逆ナンしたりしたいんだ!!」

「貴様の意見は聞いてない」

「でも、しょうがないんだ……新設したばかりの部活には部費が降りないんだって言われて……私にはどうしようもなかったんだ……」


 全員が深い溜息を吐いた。完全に目がうつろだった。麗に至っては腕を組んで、ひたすら綾子を睨んでるだけだった。 


「まったく使えない教師だ」

「本当だよ。これなら俺が先生を踏んだ方がいんじゃないか?」

「僕、教師にがっかりしたのって、これが初めてかも」

「ふん。教師に期待などするからいけないのだ。どうせこうなると分かっていたさ」

「今度教師をひたすら殺すゲームでないかなぁ……」


 正男、鷹詩、直弘、拓夫、久光がそれぞれ綾子をディスる。それはもう、見てるこっちが辛くなるくらい、綾子は言葉の暴力を受けてる様子だ。正直可愛そう過ぎて、言葉が出ない。

 そして、麗と優香も口を開く。


「ホント。自分の事しか考えてない教師ってクズよねぇ。自分だけは海に行って男と楽しんでたくせにさ。まったく生徒の事を尊重しないで、自己中心に生きて仕事楽しいとか言ってモテるわけないっての。そんな女、あたしが男だったら願い下げよ。もう、死ねって感じ」

「まったくだ。人には部費は任せておけとか、教師面したかと思えば、おりませんでしたってバカなのか。よくそれで教師になれたなと思う。いや、逆に教員免許制度を改定したほうがいいのでは? これ以上バカが増えても、生徒達が困ってしまう。日本の景気を悪くしてるのはゴミ教師――――杉本 綾子のような人間のせいだな。日本の未来は暗いな」

「麗、優香。それは心の中にしまっておいてください」


 チラっと綾子を見ると、涙を垂れ流して、悔しそうだった。私はあなたに同情するよ。きっと今、辛い思いをしているのでしょう。

 だけど、空気的に助ける事ができない。後でいくらでも愚痴を聞いてあげるから、泣き止んで!

 メンバーの空気に耐えられなかったのか、綾子は涙を流しながら、部室を出た。

 綾子がいなくなった部室は一瞬静寂に包まれる。だが、すぐに麗が立ち上がり、黒板に書いた『合宿について』を消していく。


「では、これから、『教師、杉本 綾子の使えなさ過ぎる件』に関してのお題を始めまーす」

『はーい』


 メンバー全員の心がここにあらず。という状況だ。

 私は苦笑いしながら、麗達を見守った。


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