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私と彼氏がイチャついたりなんてしないっ!

「「すいませんでした!」」


 今、私の前では姉と麗が土下座をしている。そして、その後のナンパしてきた男達も頭を下げた。このプールで、計七人が謝っている姿を見て、遊びに来た人達の驚いた視線を集める。

 例外はなく、いつものような視線を私も集めるが、今は姉達のほうが注目の的だ。


「もう、その辺にしてあげようよ美樹さん」

「いえ、ここで許しては、またしそうですので、一度しっかりと怒ったほうがいいと思いまして」

「ははは……」


 噴水のように沸き上がる怒りに包まれた俺に、苦笑いをする雅史。私が怒っている原因は、数分前に戻る。




 ◇




 私をナンパしに来た男達が、雅史に絡み始める。それは、私が雅史と付き合った際に、必ず起こり得るシチュエーションだったので、驚きなどの感覚はまるでなかった。しかし、彼らのナンパは、毎回受けるものとは違っていた。

 何と言えばいいのだろうか、私に惚れてはいるんだけど、誰かに指示されているような、そんな感じがした。

 そんな私の考えを知らずに雅史は、ナンパしに来た人達と、モメテいるようだった。


「僕が他の女の子に酷い事……?」

「そうだよッ! 知ってんだぞ! お前がした事は全部俺らが見てたんだよ!」


 言いがかりのように罵倒を始める男。大してカッコよくもないくせにまぁ吠えるなと私は思った。

 だが、その言われた雅史は浮かない顔をしていた。それこそ、心辺りがあるかのような。しかし、私から見れば、雅史が女性に酷い事をするなんて想像ができなかった。それなのに、雅史本人がそんな顔をしてしまえば、私が確信している雅史への信頼が下がってしまうではないか。しっかりしてよっ!

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、雅史は顔を上げて、男達を見つめる。


「……確かに僕は酷い事をしたかもしれない。だけど、それが何で、あなた達に関係があるんですか?」

「あるだろうが! 俺らの女神を傷つけたんだろ? ふざけやがって!」


 今にも殴り合いの喧嘩になりそうなムード。雅史はその男達にビビっているわけではないのだが、なんだか申し訳なさそうな顔をしていた。そんな顔をされると私の胸が痛む。

 

「……確かに、あなた達にとってはそうだったのかもしれないね。それは謝る」

「くっ! 何でそんなに余裕なんだよ!」

「僕はもう決めたんだ。美樹さんを最後の彼女にするって!」

「…………」


 こちらを見て優しく微笑む雅史。何かを決意した顔だった。私は不意に向けられた笑顔に心が驚き、頬の温度が上昇する。


「だから、あなた達の女神――――いや、瑠花には申し訳ない事をしたと思ってるよ」

「…………はっ?」


 雅史の言葉に詰まる男達。頭にはクエスチョンマークが沢山現れてそうだ。男達の反応を見て、雅史も首を傾げた。というか、今私といるのに幼馴染の名前出して、いいの? 嫉妬しちゃうよ私。


「え、えーっと、あなた達の女神って、瑠花の事じゃないの?」

「え、き、君が傷つけた女の子って、美鈴さんじゃないの?」

 

 雅史とナンパ男達の会話はまったく噛み合わず、皆わけが分からなくなってしまった状態だ。しかし、私はこのナンパしてきた男達に感じた違和感も、何故噛み合わないのかも全て理解した。

 辺りを見回し、肩にギリギリ届かないくらいの旧式スクール水着を着た女の子と、私と同じように完璧美少女を見つける。そして、そっちに向かって私は笑顔で手を振る。


「……そういう事だったんですね」


 私は呟き、彼女達の元へと詰め寄る。男達と雅史はただ無言で、私が行く先へと視線を泳がす。

 そして、私は二人に向かって笑顔を向ける。


「奇遇ですね! お姉さん。麗」


 私の声に反応し、肩を強張らせる麗に、携帯のように震えながら怯える姉。そのどちらにも私は声をかけたのだ。

 

「み、美樹……ち、違うのだ! わ、私達は、そ、その……監――――じゃなくて、た、ただ単に遊びにきただけだぞ!」


 普段クールで言葉を噛んだり裏返ったりしない麗。だけど、今はめちゃくちゃ変だ。そして、そんな事が嘘だなんて当然私には分かり切っている事だ。

 

「そ、そうだよぉ! み、美樹たんはあ、あたし達が見張っていたとでも思ってるの? ――――――あっ」

「私が拾いますね」

 

 震えながら誤解を解こうとする姉が何かを落とした。それは黒の四角い形をした物だった。側面にはレンズがついている。


「双眼鏡ですか。お姉さんは誰か好きな人がこの中にいるんですか?」


 私は笑顔で演技ナンパしてきた男達に掌を向けた。すると、嬉しそうに歓喜する男達。しかし、姉は目の色を変えて、首を横に振った。


「私は美樹たん以外は興味ありませんわ」

「そうですか。では、これで私を監視していたわけですね? お姉さんに麗」

「…………」

「…………」


 それを耳に入れた男達は、ささっと麗達の後に走り、冒頭に戻る。




 ◇




「もういいんじゃない美樹さん。きっと黒樹さん達も反省してると思うしさ」

「……まぁそうですね。これ以上怒っても仕方がありませんからね」


 私の怒りも収まった事だし、そろそろ叱るのをやめた。すると、麗と姉は起き上がり、雅史を睨んでいた。なんとなく、二人がここにいるのは、雅史が原因だとなんとなく分かった。


「ふん、良い気になるなよ岸本。私は貴様を許さないからな!」

「あたしも、君の事を許す気はないよ。死にたくなければ気をつけることだね」

「二人ともそんな事を言うんだったら、もう口を聞きませんよ?」


 私は口だけで微笑むと、麗と姉は瞬時に表情を苦笑いに変えた。

 それから、ここで姉と麗を帰らせるのも可愛そうだと思い、雅史の了解を得て四人で引き続き遊ぶ事にした。ナンパ男達はいつの間にか消えていた。きっと、姉が帰らせたのだろう。でなければ、素を出せなくなるだろうからな。

 ちなみに邪魔された昼食だが、あの後しっかりと雅史と二人っきりで召し上がりました!


「じゃあ次は波に揺れようではないか! 美樹!」

「奥の方まで行って波に打たれるぞーっ! 美樹たん見ててね!」


 現在は波のプールで遊び中の麗と姉。私と雅史は浅瀬のほうで腰に水を浴びるのを感じながら、座って楽しそうに遊ぶ二人を眺めている。一体、麗と姉はいつの間に仲良くなったのだろうか。

 そんな中、雅史が視線を二人に向けたまま口を開いた。


「こういうのも悪くないね」

「……そう言ってもらえると嬉しいです」

「本当に思ってるんだよ? だって、美樹さんのお姉さんにも会えたし、黒樹さんがあんなに嬉しそうにハシャいです姿なんて、きっとこの先見れそうにないからね」

「ふふ。確かに麗は普段クールですからね」

「水着がちょっとマニアックだけどね……」


 雅史の言うとおり、麗の旧式スクール水着はだいぶマニアックだ。もしかしたら、中学時代に着用していたものではないのかと思えるほど、サイズは小さい。というか、何で漢字ではなく平仮名なのかも気になる。

 姉の方は本当に女神みたいな格好をして、麗と水かけ遊びをしてるな。なんだか、あれだけ本当に楽しそうにしている姉を見たのは久々かもしれない。もちろん、私以外の人と遊んでいるとき限定で。

 

「ちょっと奥まで行こうか」

「はい」


 雅史は起き上がり、腰まであるくらいの深さの場所へと進む。そして、振り返り、掌を差し出してきた。これはきっと、握ってくれという合図なのだろう。

 私も立ち上がって、雅史の所まで行く。その掌を掴むと、意外と大きい彼の手に驚かされる。結構骨が硬くてしっかりしている。やはり、いくらモヤシっぽいと言っても男なのだなと感じた。

 私の掌を握った雅史は、身体から力を抜き、水面に浮く。


「……こういう時間ってさ、永遠に続けばいいなって思うよね」

「はい。でも、これからは私と二人きりの時間も、欲しいです」

「ははは。美樹さんは正直者だね」


 雅史は普通に笑いながら、私を見つめる。

 私は頬を膨らませて、雅史を少しだけ睨む。


「雅史さんは私と二人きりは嫌なんですか?」

「そ、そんな事ないよ! 僕は今が楽しければ、それでいいんだ」

「今だけ……ですか?」

「うん」

「そうですか、なるほど。私は今だけ一緒にいられればいい彼女なわけですね。雅史さんのチャラ男っぷりにはびっくりです」

 

 腕を組み、頬を膨らませる私に、雅史はあたふたしながら、水面から起き上がった。そして、言い訳をするかのように苦笑いをしながら、首を左右に振った。


「違うよ。美樹さん。君は僕の最後の彼女だ。それは、きっと、これからも、この先も変わらないよ」

「え……?」


 真剣な瞳を魅せる雅史。その眼光に照らされた私は動けなくなる。どこまでもまっすぐな雅史を視界から外せなかった。そして、雅史は私の両肩を優しく掴み、私の唇と雅史の唇を重ねた。

 驚きながらも私は瞼を閉じた。なんだか、雅史の変則的な行動について行けないと思いながらも、突然されるキスは嬉しかった。

 お互いの唇が離れる。


「愛してるよ。美樹」

「うぅううううううううっ! ずるいですっ! こんな人がいる所でそんなセリフ……」


 私が顔を真っ赤にさせていると、雅史はニッコリと微笑んだ。

 しかし、それを見ていた麗と姉が激怒しながら、こちらへと走ってきた。よくも水の中なのに凄まじい速度で走ってこれるなと私は思った。




 ◇




 夕暮れに染まるプール。既に着替えを終えた私達は、バスのロータリーで帰ろうとする。姉と麗は車で来たようなので、そのまま高速道路で帰るらしいが、私と雅史を見送ってくれるらしい。

 麗は大きな欠伸を噛み殺しながら、眠たそうな目を擦る。


「麗ちゃん眠そうだね!」

「そ、それはもう……御姉様との約束が気になって眠れなかったものですから」

「麗とお姉さんの約束? 今日の事ですか」

「もうすぐバスが来るみたいだね」

 

 駅までのバスが、もうすぐ来る。そこで今日は麗とお別れだ。

 そんな中、誰かの携帯が鳴る。


「あ、ごめん」

「いいですよ。雅史さんですか?」

「うん。ちょっと失礼するね」


 そう言って雅史は電話に出た。すると、声音を変えて応答する。「そんなに心配されても、もう遅いからさ」とか「え? もう近くまで? わかったよ」などなどと返事をしていた。

 そして、電話を終了させ戻ってくる。


「今から、親父が迎えに来るから、もし良かったら美樹さん乗って行く?」

「え? でもお父様に迷惑が……」

「大丈夫。親父が一緒に送ってやるって言ってたからさ」


 どうやら電話は雅史の父からのようだった。要件は迎えに来たらしい。今時いない良いお父さんだと思った。ちなみに中谷家の御父さんである道夫は運転がヘタクソな為、基本運転は母か姉がします。


「じゃあ、美樹たんも車か~」

「はい。先に行って大丈夫ですよ?」

「ううん、別に急いでるわけじゃないから平気だよ」


 姉は隣で今にも寝そうな麗を叩き起こしていた。

 そんな中、バスのロータリーに白色のトヨタのアルファードが停まる。ナンバーは私達の地域の名前。いよいよ雅史の御父さんとご対面だ。

 車の窓が開くと、そこには初老に近い御爺ちゃんが運転していた。どうも年が結構いってるらしい。


「迎えに来てくれて、ありがとう」

「お待たせ雅史。えーっと、どちらが彼女かな?」


 雅史は私の手を繋ぎ、車まで一緒に歩く。それを見た麗は一気に目を覚まし、姉はなんだか難しい顔をしていた。


「僕の彼女の谷中 美樹さんです」

「初めまして。御付き合いさせていただいてる谷中 美樹です」

「…………ほぅ。中々の美人さんだな」


 雅史の父は私を見て、微妙な顔をした。単純に好意が受け取れないわけではなく、ただなんだか哀れに見られているようだった。

 

「自己紹介が遅れたね。私は雅史の父で、岸本 重蔵って言うんだ。よろしくね美樹ちゃん」

「はい、よろしくお願いします」


 私が頭を下げると、重蔵も頭を軽く下げた。

 それから、重蔵は視界に姉を入れる。


「も、もしかして、君は――――」

「お久しぶりです。中谷 美鈴です」

「覚えてるよ。道夫さんや未麗さんは御元気かな?」


 何故父と母の名前を重蔵が知っていて、姉をも知っているの私は気になり、姉に視線を送った。しかし、いつも私の視線に気づく姉が今は向けられても笑みの一つも溢さない。彼女は俯き、何かを恐れているような顔だった。


「……はい」

「そうか。それは良かった。君は一緒に乗って行かないのかい?」

「はい。私は美樹たんの友人を車で送りますので」


 そこで重蔵は一息吐き、言い難くそうにしていた事を吐いた。


「そうかそうか。じゃあここでお別れだね。それと…………幹によろしく言っておいてくれ」

「…………え?」


 それから、姉は何も言わずに一度お辞儀をして、麗の手を引きながら車の元へと向かった。私は何が何だかさっぱり分からず、雅史に肩を叩かれるまで呆然としていた。

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