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俺が好きな人の為に弁当を作ったりなんてしないっ!

 昼休み。今日も今日で、俺は雅史に弁当を作っていた。だが、昼休みを俺と共に過ごさないと、暴走する麗がいるので、ついでに麗の分の弁当も作ってきた。

 今日は鶏肉の煮物と、卵焼きにタコさんウィンナーである。もちろん、いつもよりも一時間早く起きて作った。べ、別に雅史の為じゃないんだからねっ!

 この季節。屋上は暑く、蝉の鳴き声が鬱陶しいので、今日は俺と雅史の溜まり場である図書室で食べる事にした。ここは昼休み時は昼食場として提供しているので、自由に使っても平気なのだ。


「はい。これ麗の分です」

「おおっ! 遂に私の為に美樹が弁当を……ッ! 早速開けてもいいか!?」

「ええ、どうぞ」


 犬のように喜ぶ麗。弁当を包んでいた包装を解いて、これでもかという程急いで弁当を確認している。そして、麗は蓋を開けて犬のように喜ぶ。

 尻尾があったら、絶対にフリフリしていただろう。

 俺に向かって瞳を輝かせながら、顔で「これ全部食べていいのか!?」と聞いてくる。そんな麗に俺は苦笑い気味で、首を縦に振った。


「いただきますッ!」


 両手を合わせて、号令する麗。そのまま牛丼でも食べるかの如く、女子にしては大きく口を広げてご飯を水のように流し込む。

 だが、勢いよく口に放り込んだため、早速お約束的展開の登場で、喉を詰まらせていた。そんな麗に俺は自分用に買っておいたお茶を麗に渡す。


「……そんなに急いで食べなくても、私の作った弁当は逃げたりしませんよ?」


 麗は俺の渡したお茶を半分程飲み干して、キリッとした真顔で俺を見つめ返した。


「いや。もしかしたら、誰かに取られる可能性もあるため、私は急いで食べる」

「そんな事ないと思いますけど」

「美樹は分かっていないな。美樹の弁当を欲しがる奴なんて、この学校――いや、この世界――いや、この世に何兆人いると思ってるんだ!」

「話が飛躍し過ぎですね」

「それほど、美樹の弁当は魅力的なのだ」

「ありがとうございます」

「もういっそのこと店を開いたらどうだ? ……あ! それだと私が食べられなくなる可能性が大きいな……なら、どうするか……うーん」


 麗は俺の弁当食べながら、唸りつつ考え込んでいた。俺の手作り弁当を欲しがる奴が何兆人いるわけがない。……と思う。

 自分の世界に入り込み、俺が店を開いても自分がどうすれば毎日手作り弁当が食べられるのかを考えている麗。その隙に、俺は隣にいる雅史にも、弁当を渡す。


「あの……もし良かったら……」

 

 恥ずかしかった。麗に弁当を渡すときは別に緊張したりしなかったけど、本命の相手に渡すとなると、心臓が喉から飛び出そうになる。顔の温度も急上昇してるし、何より口に合わなかったら、どうしようとかネガティブな事が脳裏に過る。

 雅史は目を見開いて、自分に人差し指を向けてる。


「ぼ、僕に? でも、谷中さんの分が……」

「わ、私のはちゃんとありますからっ! ま、雅史さんも是非食べてみてくださいっ!」

「あ、ありがとうッ! 嬉しいよ!」


 笑顔で俺の弁当を受け取り、麗にも負けない勢いで包みを広げる雅史。そのまま弁当箱を開く。


「……谷中さん」

「はい……」


 俺は何かしてしまったかな? とか、もしかしたら嫌いな物とかあったのかな? と考えてしまう。しかし、雅史は笑顔を我慢してるような顔で、俺に視線を移した。

 

「もしかして、僕の好物誰かから聞いたの?」

「え、いや、そういうわけじゃ……」

「僕さ、煮た鶏肉好きなんだよね!」

「へ? そうなんですか?」

「うん! 大好物! ありがとう!」

「え、あ、いや……ど、どういたしまして……」


 心の中で安堵する。雅史が嫌いな物が入ってたら、どうしようと思っていた。でも、今の笑顔もまた俺の鼓動を速くさせるのには充分過ぎる。今顔が真っ赤だったりしたら恥ずかしいな……。


「うん! 味付けも完璧だよ! 谷中さんはいつお嫁さんになっても可笑しくないね!」

「え!? ええええええええええええ!? そ、それはまだちょっと早過ぎるんじゃないかと……」

「ん? あ、えーっと、ごめん!」

「あ、謝らないでください! そ、その褒め言葉として貰っておきますから」

「う、うん!」


 雅史も若干頬を赤くさせながら頷いた。

 まったく無意識に、そんな事言われても困るだけだ。雅史のお嫁さんだなんて……嬉しくなんてないんだからねっ! だが、俺は妄想してしまった。このまま雅史と付き合って結婚……。幸せそうだろうな。俺が子供を二人産んで、男の子と女の子で、家には中型犬がいて……俺、美樹になれて幸せだわ。

 

「谷中さん?」

「はっはい!」

「谷中さんは食べないの?」

「え、あ、はい。食べます!」


 俺は自分の分を広げた。もちろん、麗や雅史と同じ内容だ。まぁ雅史よりも量は完璧に少ないけど。

 両手を合わせて、俺も「いただきます」と唱え、食事に移る。しかし、その頃には考えながら食べていた麗の分が無くなっていた。


「……麗? 食べるの早過ぎじゃないですか?」

「む? 別にいつも通りだが」

「そうですか? よく噛んで食べないとダメですよ?」

「う……お母さんみたいだな……」


 麗は若干ぶすーっとした顔を作る。いつもいつもお母さんと呼んでるのは麗だろうが。そして、麗は考えていた内容を思いだしたのか、人差し指を立てながら、俺を見つめる。


「それでな、私は気付いたのだ!」

「何をですか?」

「美樹が店を開いても、私が毎日美樹の弁当を食べる方法だ!」

「……店は開きませんが、どういう方法なんですか?」

「私も一緒に手伝う」

「それだと自分で作った物を自分で食べる事になりますけど」

「いや、私が美樹の作った弁当を片っ端から食べて、私が作った弁当を売るのだ!」

「それだと店開く意味あるんですか?」

「あ、そうか……なら、私が美樹を嫁にもらうという事で!」

「結局そっちに話が進むんですか……」


 いつも通りの斜め前の考えであった。ある意味、これが黒樹 麗の健康的な姿なのかもしれない。朝、雅史に遭遇したときの態度はチンピラでしかなかったからな。

 そんな麗に、雅史は弁当を食べる手を止めて、視線を移した。


「黒樹さん。女の子同士は結婚できないんだよ?」

「黙れ! 私は同性で結婚できる国で、美樹と結婚するから問題ない。寧ろ、男の手に美樹が渡るとなったら、私は我慢できずに、殺してしまうかもしれない」

「えっ!?」

「だから、美樹には指一本触れるなよ? 美樹の胸や唇に触れてみろ。お前に明日は来ないぞ?」

「え、あ……う、うん……」


 雅史は気まずそうな顔をする。そんな顔で俺を見てくるけど、俺だって困る。

 既に雅史は俺に美しく大きいおっぱいに触れているし、キスは未遂だがしそうになった。これはこれで、麗に殺される条件としては揃っている。


「……」

「……」

「どうしたんだ二人共? 顔が真っ赤だぞ?」


 麗が怪訝な表情で、首を傾げながら俺と雅史を交互に見つめる。


「え、いや、な、なんでもないよ! ぼ、僕がや、谷中さんのむ、むむむむ胸なんか、恐れ多くて触れないよ!」

「そ、そそそそうですよ! わ、私だってむ、胸を簡単に触らせませんよ!」

「……別に胸限定じゃないんだがな」


 麗は俺と雅史を怪しむのを止めて、真顔に戻った。

 

「で、美樹。昨日は何で逃げたのだ」

「え!? い、今ですか?」

「そうだ。何故私達から逃げたのだ」

「そ、そのー……」


 俺はチラッと横目で雅史を見つめる。

 雅史は一度首を傾げ、昨日の事を思い出している。そうだ。昨日は雅史の兄である雅紀に助けてもらったのだ。

 きっと雅史は今、俺からの連絡について考えているのだろう。


「もしかして、何かあったの?」

「え、えーっとまぁ……」

「貴様の話を部室でしたら、美樹はいきなり逃走したのだ」

「え!? そ、そうなんだ……」

「貴様心辺りはないか?」

「あったらどうなるの?」

「殺す」

「な、ないかな~」

 

 麗は笑顔だったけど、目が笑っていなかった。そんな麗を目に入れたからか、雅史は視線を逸らしていた。


「まぁいい。で、美樹。何故逃げた」

「……純粋に勉強したかったからです」

「それなら私の家にでも来ればいいだろう」

「う……」

「そういえば、そこの男の話をしたら帰ると言ったよな?」

「そ、そうでしたっけ?」

 

 いくらとぼけても、麗は攻めてくる。完全に犯罪者と調査員だ。

 もちろん、犯罪者は俺の方で。

 麗の顔が徐々に俺に迫ってくる。それがまた何とも言えない怖さを秘めているし、素直に逃げた理由を言ってしまえば、雅史は本当に殺されそうで怖い。

 俺は溜息を吐いて、答えた。


「……分かりました。私は昨日、ただ単にみたい番組があっただけです」

「む? そうなのか?」

「ええ」

「見る事はできたのか?」

「いえ、録画してもらいました」

「じゃあ帰る必要なくないか?」

「まぁそうなんですけど、逃げたら、後戻りできなくて……」

「そうだったのか~。ならしょうがないな。で、録画してたのなら、何をしてたのだ?」


 麗の尋問がしつこい。もはや、束縛タイプの直弘のようだ。麗が恋人だったら、間違いなく麗を優先しなくてはならなそうだ。

 これは正直、将来の彼氏が大変だろうな。

 ここで嘘を吐いてしまえば、雅史との事を隠してるみたいになるのが嫌だった俺は、真実を告げる事にした。


「雅史さんの家で勉強してました」

「なっ!? き、貴様……ッ!」

「え!? だ、ダメなの!?」

「当たり前だろうが! 私の美樹をよくも……!!」

「な、何もしてないよ!?」

「勉強してただろうが!」

「それも入るの!?」


 案の定、雅史は麗にボロボロになったピコピコハンマー事バシンバシンハンマーで叩かれた。物凄い音を図書室に響かせたので、他の生徒たちが反応した。


「い、痛ッ!?」

「……まだこんなものでは終わらせんぞ! 喰らえ!!」


 麗が二撃目を雅史に喰らわそうと、バシンバシンハンマーを高々と振りかぶる。俺は、ただ見てる事しかできなかった。後で雅史を助けてやれなかった事を謝ろうと決意した。

 しかし、バシンバシンハンマーで雅史を叩く音は聞こえなかった。


「ちょっと。他人の幼馴染に何してんのよ」


 彼女はポニーテールを揺らしながら、麗の手を止めていた。

 麗は若干驚いた顔つきで、彼女を見つめる。

 雅史は顔に「なんでいるの」と書いてある。

 俺は言葉を発した女を睨む。


「雅史を傷つけたら、あたしが許さないわよ」


 瑠花は麗を睨みながら言った。だが、その言葉は麗ではなく、俺に向けられてる気がした。

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