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私が恋したりなんてしないっ!

 校門前に立ちはだかる超イケメン。

 麗と優香はそのイケメンを見据えて、立ち止まる。


「貴様ッ! 一体何のつもりだ!」

「俺か? 俺は別に人助けをしたつもりだけど。だって、綺麗な女の子一人に群がる数じゃないしね」

「そう? あたしたちは別にあんたに用事はないからさっさと消え去って欲しいんだけど」


 邪険に睨む二人。その二人の皺が寄っている。俺も何故この人物が助けてくれたのか分からなかった。だが、この人物には俺を助けた決意が見受けられる。それは単純に以前俺に話しかけてきたときのような好意ではない。

 麗と優香に近づく超イケメン。彼は表情と纏う雰囲気を変え、恐ろしいくらい鋭く二人を睨んだ。


「消え去る? ふざけるな。俺は人助けをしたと言っているんだ。早くその子を解放しろ」

「な……」

「くっ……」


 二人とも凄んで睨むイケメンに絶句する。そして、下唇をかみしめる。俺でも一瞬ビビってしまった。彼の睨みは恐ろしいくらい怖かった。

 だけど、今すぐにでも逃げたい俺は、彼に甘える事にした。


「すいません。麗。優香。今日は帰らせてください」

「……」

「……」


 二人は黙り込んで、校舎へと向かって行く。そのまま二人の姿は消えた。って待て。正男達は放置かよ!!

 二人が消えた後、イケメンが俺に近づく。先ほどのような凄みは既に消えている。


「迷惑……だったかな?」

「いえ。助かりました。ありがとうございます」

「それなら良かった」


 ニッコリと微笑む彼は、やはり超イケメンだった。だが、不思議と岸本と一緒にいるときほど、ときめきはなかった。やはり、俺の心臓はどうかしているのだろうか。

 すると、超イケメンは微笑みながら、口を開いた。


「じゃあ、帰るんでしょ? さっさと帰った方がいいよ」

「はい、ありがとうございます!」


 俺はそれだけ告げて、足早に高校を後にした。




 ◆



 

 俺は何がしたいのかさっぱり分からなかった。これは裏切りになるのだろうか。それとも、善意になるのだろうか。どちらにしても、あの人には怒られそうだ。

 後で、事実を告げたら怒られそうだ。

 校門から立ち去る彼女を見送って、俺はある人物へと電話をかけた。


「もしもし。雅史か?」

『……なんだよ』


 彼は俺の弟である雅史だ。いつごろかは知らないけど、雅史は俺の事を物凄く嫌っている。理由はなんとなくわかっている。雅史が気になった女の子は皆俺の所に来るからだ。それが俺を嫌いになる理由なのだろう。しかし、俺は雅史の事を弟として好きだ。何でも卒なくこなし、思いやりのある自慢の弟だ。だが、俺は彼とは必要以上に仲良くできない理由があった。それがなんとも歯痒いものなのだ。

 雅史は機嫌の悪そうな声で、俺に返してきた。


『用事がないなら、電話かけてくるなよ』

「いや、ちとな。お前とこの前食事しに来てた子が校門を出たんでな。それで教えてやっただけだ」

『本当か!? 今どこに!』

「だから校門を出たんだって。早くしないと見失うぞ」

『ああ、わかった。ありがとな』

「構わないさ」


 雅史はそれだけ言って電話を切った。俺も携帯電話を閉じた。報告はしないほうがいいか、どうかだけ今も悩んでいた。すると、突然電話がかかってきた。


「はい。雅紀です」

『今、校舎内から見てたけど、余計な事はしてないよね?』

「うー……ん。ごめん。余計な事したかもしれない」

『……やめてよね。雅紀はあたしの言うとおりにしてればいいの!』

「ごめん……」

『分かったら、これ以上余計な事はしないでよね』

「はい」


 それで電話は切れた。俺は何も言えなかった。

 彼女からの指令で、俺はこの高校に編入してきた。最初は嬉しかった。俺にようやく気が向いたのかと思えて。だが、何の事はなかった。結局、俺は駒として、この学校に編入させられたのだ。

 雅史を羨ましくも妬ましくも思う反面。これ以上弟の邪魔をできるのかどうか、分からなかった。




 ◆




 近くの公園まで走って、俺はベンチに座った。これ以上走ったら化粧が崩れそうで心配だ。まぁ、元が良いから、大丈夫だったりするんだけど。

 それから、携帯にメールの着信が入る。そこには『岸本』の名前。嬉しさが胸に込み上げてくる。それが顔にも出たのか、人にチラ見された。恥ずかしかった。慌てて、顔のニヤけを戻し、俺は丁寧にメールを返した。

 すると、それからすぐに近くの公園へとやってきた。汗だくなのを見て、俺は嬉しかった。彼が俺の為に走ってきてくれたのだ。若干の興奮を覚えながらも、近くに寄ってきた岸本に、体育のときに使用していたタオルを、鞄から取り出して渡す。


「ごめんね。谷中さん……」

「大丈夫です。それよりも、私の為に走ってきてくれたんですよね?」

「え、あ、うん……ごめんね汗まみれで」

「あ、いえ、その……嬉しくて……」

「え? そ、そうなんだ……」


 お互いに俺と岸本は照れる。なんだか、このやりとりが安心できる。俺からのタオルを受け取った岸本は汗を拭いていた。タオルで汗を拭きとり、岸本はそのままそのタオルを鞄にしまおうとした。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「へ?」

「そ、それは私の体育での汗もついてるんですよ?」

「で、でも僕の汗も拭いちゃったし……僕が洗濯するよ!」

「だ、ダメですッ!」

 

 俺は半ば無理矢理、岸本からタオルを奪い取った。そのまま、タオルを自分の鼻に押し付ける。ああ。良い匂いだ。これだけで、数週間は生きていけ――――って何やってんだ俺!!

 もう、脳がピンク色に全開だった。それを見ても岸本は優しく微笑むだけだった。


「谷中さんの匂いもちゃんとついてるんだね」

「は、はい……」


 急に恥ずかしくなってそっぽを向く。ダメだ。岸本を直視できなかった。


「で、どうする? どこか喫茶店にでも行く?」

「え? あ、はい。そうですね……」


 突然の問いかけに俺は、首を傾げた。喫茶店か……とも正直思った。

 すると、突然顔を真っ赤に染めた岸本が恥ずかしそうに口を濁した。


「そ、それとも、僕の家に……来る?」


 俺はその言葉が途轍もなく嬉しかった。それこそ、高校の合格発表のとき以上に嬉しかったのだ。

 首を即効で縦に頷かせた。


「は、はいっ! お邪魔じゃなければ!」

「え、いいの!?」

「はいっ! 岸本さんのお家に行ってみたいです!」


 それはもう笑顔で俺は頷く。顔のニヤけを止める方法なんて知るすべもなく、ただただ、この言葉が嬉しかった。

 

 それから、俺と岸本は無言で彼の家へと歩く。

 どちらも顔が赤いのだ。さすがに家というのは緊張する。さっきからずっと鳴り止まない鼓動を聞いているのだ。

 そして、遂に辿り着いてしまったのだ。

 そこには、ベンツの車が置いてある一軒家。名前の所には岸本と書かれている。一軒家なのにオートロックシステムの門。もしかしたら、彼はお金持ちなのかもしれない。

 先に岸本が入って行くのを追って、俺も後から続く。


「どうぞ」

「……はい」


 玄関に入ると、綺麗なフローリングが続いていた。建てたのはわりと新しめだ。靴を脱いで、玄関口に揃える。すると、岸本は苦笑いしていた。


「お邪魔します」

「って言っても、今は誰もいないよ」


 微笑む岸本。だが、自分の発言に気付いたのか、慌ててまた顔を沸騰させている。そんな姿も愛おしかった。

 次に色々と部屋を案内され、最後に岸本の部屋へと辿り着いた。

 生唾を飲み込み、岸本の後を続く。すると、そこにはセミダブルのベット。黒のデスクトップ式のパソコンと他テレビとゲームという普通の男子高校生の部屋が広がっていた。

 自分もこうなっていたのかなぁ……と思うと若干ゾッとする。もう今は男に戻るのなんてゴメンだった。


「ごめんね散らかってて」

「いえ、そんな事はないです。寧ろ片付いてると思いますよ?」

「そう言ってくれると嬉しいな。で、お茶今持ってくるから待ってて!」

「は、はいっ!」


 それだけ残して岸本は部屋を出た。

 俺は物色を始める。下着から洋服まで隅々チェックをする。普段着を見た事がないので、どういうのを着てるのか興味があったのだ。そして、極め付けはベットの下だ。そこにはやはり、というべきか、男子高校生の夢が詰まっていた。これを見ても、俺は岸本の事を嫌いになれそうになかった。

 間もなく、岸本がお茶を持ってきてくれた。

 

「どうぞ。あんまり美味しくないかもだけど」

「いいえ。心遣いに感謝します」


 苦笑いしながら、岸本は床に座った。彼は近くにある座布団と、小さな机を取りだした。そこに、鞄からノートとシャープペンシルを取りだした。


「じゃあ、勉強しようか谷中さん」


 いつも通りの笑顔だった。だが、俺はある事に引っ掛かっていたのだ。

 俺は頬を膨らませて、岸本を見つめる。


「いつになったら、美樹って呼んでくれるんですか?」

「へ? え、でも、それだと失礼かなって……」

「そんな事ないです! 私はずっと待ってるのに……」

「で、でも、谷中さんだって僕の事名字で……」

「じゃあ一緒に直しましょ? それならいいんじゃないでしょうか?」


 俺は互いの事を名前で呼び合う仲になったと感じているのだ。だから、名前で呼び合うほうがいいと思う。

 岸本は顔を林檎のような色に染めながら口を開いた。


「じゃ、じゃあ……み、美樹」


 呼ばれると、俺は顔が沸騰した。

 これは予想以上に恥ずかしかった。普段から正男達に名前で呼ばれてるのに、こんなになるもんなのだろうか!


「は、はい……ま、雅史」


 もうダメだった羞恥プレイ過ぎる。

 俺は顔を真っ赤にさせて、雅史の隣に近づいた。そして、腕をからませた。


「み、美樹……!?」

「ま、雅史……さん」


 俺と雅史は見つめ合い。互いの距離が近くなっていく。普段はおとなしめな顔立ちなのに、目の前にある雅史の顔は男だった。瞳もぱっちりと開いているし、唇も良い形である。それに加えて、彼自身の体臭が俺の尾行をくすぐる。

 自分の胸がドキドキと鼓動を打つのが早くなっていく。

 そして、互いの唇は重なり――――――


「何やってんのよ雅史」

「……」


 俺と雅史はキスまであと一歩の所で、新たな侵入者に邪魔される。

 そこにいたのは、先輩で、雅史の憎らしい幼馴染で、私には到底及びそうもない、大船 瑠花が立っていた。

 そして、その後には、先ほど窮地を救ってくれた超イケメンもいた。


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