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襲いかかる美人部連中から逃げたりなんてしないっ!

 翌日。

 さすがに二日連続で美人部を欠席するのはマズイかなぁと思い、図書室ではなく美人部へと足を運ばせた。先に麗は部室に向かったようなので、俺は一人でやってきた。というのも、俺は図書室に寄って少し岸本と談笑を重ねていたからだ。

 俺の中で彼と話すのは一日の楽しみになってきているのであった。

 やがて、扉を開くと、そこにはもう全員が揃ってなにやらノートにシャーペンを走らせていた。


「こんにちわ」

「あ、美樹か。二日ぶりの部室はどうだ?」

「そう言われても特に何も……」


 そう答えながら部室に入ると、男性陣が瞳を潤わせていた。そして、何よりも先に拓夫が近づいてきた。彼は眼鏡をクイッと上げると、若干の沈黙を施してから、口を開いた。


「……もしかして、美樹殿は俺らが嫌いになったのか?」

「それはないですよ」

「本当か? じゃあなぜここに二日も来なかったのだ! それに今日も遅かったし……」

「それは少し勉強したかったからです」


 正直言ってめんどくさかった。何で拓夫がここまで必要に迫ってくるのか分からなかった。それに他のメンバーも俺を怪しく見ている。唯一普通なのは、いつも会っている麗だけだ。


「何で美樹ちゃん来なかったのよ! おかげであたし、死にそうだったわ!」

「ごめんなさいね。でも、私だって勉強したいんですよ?」

「だから、今こうしていれば美樹ちゃんが戻ってくるんじゃないかって事で勉強してるのよ!」

「そ、それは本当に申し訳ないです」


 優香の机にもノートが広げられている。何気に優香も俺の事を心配してくれていたのだな。事の発端は優香だけどな。

 立っていても仕方がないので、俺は所定の席である麗の隣に座った。


「で、二日間も何してたの?」


 今度は直弘が笑顔で問いかける。その笑顔は珍しく目が笑っていなかった。直弘ってもしかしたら束縛するタイプなのかもしれないな。

 俺は微笑気味で、直弘に返す。


「図書室で勉強してたんですよ?」

「ふーん。じゃあさ。僕の教室で噂になってたのはなんだろうね?」


 直弘の笑顔が段々怖くなってきた。背筋が凍りながらも、俺に思い当たる節はない。俺を脅すとはいい度胸をしてるじゃないか。

 すると、席に座った拓夫が直弘に向かって話しかけた。


「噂? 何かあったか?」

「まぁ拓夫は、そういうのには疎いからね~。僕は聞いたよ。『谷中 美樹さんは、図書室で仲良く男の子と勉強してる』っていう噂をね!」

「……まぁ確かにクラスメイトはいましたけど……」


 別にそれが広まっても気にする事ではない。それに俺が誰と勉強をしていようと、勝手だろうが。まったく、そんな所にまで首を突っ込むとはうざいな。絶対に岸本ならそんな事は言わない。

 俺は溜息を吐いた。


「直弘さんは、私が誰かと勉強をしてる事に文句があるんですか? 別に誰と勉強をしようが私の勝手だと思うんですけど」

「あれ……い、いや違うよ! ただ、僕たちを除け者にして、そんなに楽しい勉強だったのかなぁって……」

「普通に勉強していただけです」

『…………』


 皆が黙ってしまった。この方がいい。俺は勉強をする為にノートを取り出して、ひたすら勉強をしていく。だが、いつまで経っても、他のシャーペンを走らせる音が聞こえない。

 怪訝に思いながらも、俺は勉強を進めた。すると、突然正男の口から言葉が出た。


「美樹さんちょっと変じゃないですか?」

「……と、いいますと?」


 俺はノートから顔を上げて、正男を見る。すると、他の人達も俺に視線を集めていた。なんだか、嫌な雰囲気である。まるで俺が何かを疑われてるような感じだ。

 シャーペンを置いて、正男を見つめる。


「ちょっと変わったというか、俺らに冷たくなったというか……」

「そうですか? 以前と変わりませんよ?」

「……部長さんはどう思いますか?」


 正男は麗に質問をバトンタッチした。その麗は腕組をして、ないやら考え込んでいる。そして、何かが閃いたようだった。

 彼女は人差し指を立てて、口を開いた。


「何故か知らないが、最近の美樹の弁当は豪華になったな! 味付けも前よりもパワーアップしている!」

「それは、まぁ意識してますからね」

「うむ。もしかして、わ、私の為か!?」

「それもあります」

「じゃあ、岸本の為でもあるのか。なるほど。美樹の配慮には天晴れだな!」


 うんうんと縦に頷く麗。

 今の会話を聞いてた他の連中の空気がガラリと変わる。それはもう作戦会議するかのようだった。案の定、他の六人は皆で集まってなにやらコショコショ話を開始した。

 俺と麗は首を傾げながら、そんな六人を見守った。それから程なくして、作戦会議は終了したようで、全員が俺に向き直る。


『美樹さん、その岸本って人の事好きなんでしょ!!』


 六人の顔が怖い。隣にいる麗は石像にでもなったかのように固まった。突然そんな事を言われて、俺の顔は温度を上昇させる。あれ、可笑しいな……。何でこんなに顔が熱いのだろうか。

 俺は慌てて席を立ち、窓際に移る。


「きょ、今日は暑いですからね~窓をあけましょうか!」

「……美樹様。この部室はクーラーがついています」

「……」

 

 俺はロボットのように後に振りかえると、すぐそこには麗を欠いた全員の顔があった。皆それぞれ威圧を放ち、俺に真相を答えろと要求しているようだった。ゆっくりと後退していくと、壁に腰をつけてしまう。これ以上後退することはできない。

 まるでゾンビのように押しかけてくる美人部軍勢に、俺は冷や汗を垂らした。


「そ、そんな、私が恋なんて……」

「でも、美樹ちゃんさ、岸本って名前出したら顔真っ赤になったよ?」


 優香が怪しく微笑む。それはもう単純に誰かを狩る目つき。


「美樹さん。あんまり部員同士で隠し事って良くないと思いますよ?」

「ま、正男さん顔が怖いですよ?」

「美樹様はその岸本とか何とかいう奴を踏んだんですか?」

「そ、そんな事はしてませんッ!」

「僕と結婚するのに、ソイツに浮気するつもりなの?」

「ち、違います! そもそも直弘さんと婚約した覚えはありませんッ!」

「美樹殿……随分綺麗になられましたね……これって恋する乙女効果ですかね?」

「ちょ、触らないでください拓夫さん!」

「ミッキーは永遠に俺の伴侶じゃなかったの?」

「久光さんともそんな約束した覚えはありません!」


 激しく言い寄ってくる美人部。

 そして、最後に麗が俺に抱きつきながら、凄く怖い笑みで見つめる。


「美樹は永遠に私の恋人だよな?」

「私と麗は女同士ですっ!」


 まるでゾンビのような連中を全て、振りほどき、俺は自分の鞄を持って、扉の前に逃げる。この鬱陶しい奴らに俺は大声で言い放つ。


「私は美人部の人達に恋なんてしませんっ!」


 それだけ言い残して、部室から逃げた。

 


 ◇




 部室を出た後、奴らが俺を追ってくる気配がしたので、俺は図書室に行くのもやめた。だが、このまま一人で帰ってもしょうがないので、俺は携帯で岸本に連絡した。すると、案外早く電話に出てくれた。以前連絡先は交換済みである。

 

「もしもし、岸本さんですか?」

「うん。そうだけど、どうかしたの?」

「さっき部室に勉強しに行ったんですけど、それどころじゃなくなっちゃって……」

「あ、そうなんだ。うー……ん。分かったじゃあ、どこか勉強できる場所を探せばいいんだよね?」

「はい。頼んでもいいでしょうか?」


 やはり、岸本は頼りになるなと俺は心のどこかで思っていた。そんなとき、皆に指摘された事を思いだし、俺は顔をフルフルと横に振った。だが、胸の鼓動は早くなっていた。


(こ、これは、走ってきたからなんだからねッ!)

 

 誰に向けるわけでもないツンデレ的発言を心の中でしていた。

 現在いるのは、二階の職員室前。そこまで岸本が来るであろう。丁度階段の曲がり角をこちらに向いてきた男性がいた。もしかしたら、それが岸本かもしれない。

 だが、彼は俺を見つけると、兵隊の如く素早く走ってきた。

 もしかして……。

 よーっく目を凝らすと、走ってこちらに向かってくるのは、正男だった。しかも運動神経が抜群の彼は走るのが鬼速い。完全に俺を捕まえに来ていた。

 逆方向に俺は走り出す。すると中央階段あたりのところで、今度は鷹詩に出会った。


「美樹様! 逃げないで!! 大人しく捕まってください!」

「い、嫌です!」

 

 再び別方向に俺は走り出す。すると、今度は優香が前に立ちはだかる。


「美樹ちゃん! お願いだから、そこを止まって!!」

「な、何で優香まで!」


 まるでサッカーのゴールキーパーのように構える優香。後からは鷹詩と正男。完全に詰んだ。これは美人部に強制連行されるパターンだった。

 俺は諦めて、立ち止まった。

 

「……分かりました。大人しくしましょう……」


 俺が降参を告げると、緊迫していた空気を三人は解いた。

 そして、三人が近づくのを隙に、俺は再び走り出す。


「あ、美樹ちゃんッ!」

「美樹さん往生際が悪いぞ!」

「美樹様逃げないで!」


 三人を残し、俺は昇降口まで突っ走る。途中階段とかヤバかった。

 そして、俺は昇降口で靴を履き替え、校舎外に逃げる事に成功した。明日どうするかは、明日考えればいい。

 しかし、最後の関門は正門にいた。

 それは、やはりというべきか。今や一番の親友にして、一番俺の事を好きかもしれない人物――――黒樹 麗だった。

 俺は麗の前に立ちはだかる。


「麗。私は帰ります」

「何を言っているのだ。事情を聞くまで帰すわけにはいかない」

「私は家で勉強をするだけです」

「なら、部室でやっていくといい。私達も静かにする事を約束しようじゃないか」

「それができないから図書室に行ったんですけど」


 麗と俺は睨みあう。

 そして、麗が段々と近づいてくる。俺は後に逃げようとしたが、そこにも既に美人部全員が集結していた。もうダメだ。

 俺は完全に逃げる気を失ったその瞬間。

 正男達男が次々と倒れる。

 

「ぐはっ!?」

「男だとっ!?」

「ぐっ……」

「そんなッ」

「ここでかよ……」

 

 男五人は全員倒れる。

 そして、優香と麗は男達を倒したであろう人物を目にする。


「やぁ谷中さん。また会えたね」


 そこにはモデル顔の超イケメンが立っていた。

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