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家族が美樹を叱ったりなんてしないっ!

 結局、岸本は隣で勉強を始め、再び最終下校時刻となって別れた。

 それから、俺は家へと帰宅する。昨日が遅かったので、今日はまだ早いほうだ。ちなみに時刻は十九時半。門限も破っていないので、安心――――。


「ただいま」


 俺が家へ帰ってきたという報告を家に伝えると、まるで猪の突進かのような足音が響き渡る。一体何事かと思う。

 リビングの部屋が開けられ、飛び込んできたのは姉――――ではなく満だった。


「お帰り美樹た~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んッ!」


 俺に抱きつこうとする兄貴。邪険な顔を作り早速、顔に横蹴りをクリティカルヒットさせる。すると、兄は飛び込んできた勢いもあってか、俺の蹴りを見事に顔に減り込ませていた。そして、そのまま床へと落ちる。

 そのまま兄貴を踏んでリビングへと向かう。


「ふゲッ!」

「いきなり何なんだよ兄貴」

「……妹に踏まれるのって最高ッ!」


 動けない兄貴は放っておいて、リビングへと足を進めると、そこには重い空気の食卓の場があった。母も父も姉も腕組をして、難しい表情をしていた。ちなみに食事は用意されている。なんだなんだと俺は当然思う。


「何かあったのか?」

「……美樹帰って来たのね。ちょっと席に座ってくれるかしら」


 母が残念そうに俺を席へと手招きする。生唾を飲み込んで、自分の席へと俺は座った。目の前には姉が座っている。その姉の表情が暗い。俺が帰って来たんだから、いつもみたいに喜べよ。

 そして、父さんまでもが目をつぶっている。もう、怖い。


「美樹。何か言う事はないの?」

「え、俺が言う事? そんなのないに決まって――――」

「幹には聞いてないの! 美樹に聞いてるのよッ!」

「あ……はい」

 

 黙り込む俺。これは何か重要な話なのだろうか。そして、この雰囲気。俺は何かやってしまったのか? もはや葬式みたいな感じなんだけど。

 すぐに美樹モードへと移行し、俺は背筋を伸ばす。


「単刀直入に聞くわ。美樹。あなた、処女を卒業したの?」

「…………………………っは?」

「……セックスしたのかって聞いてるのよぉおおおおおおおおおお!」

「してないです。私を尻軽女と勘違いしないでください」


 俺はチラっと姉を見る。すると姉も形相を変える。


「私だって処女よぉおおおおおおおおおおおおおおお!」

「あっそ」

「幹に戻るんじゃない!」

「はい、すいません」


 親父に怒られたのなんていつぶりだろうか。いつもフルぼっこな親父が今日ばかりは怖かった。しかし、それ以上に怖いのは、やはり姉と母だ。二人はもはやゲームでいうところのラスボスを倒したあとの隠しステージのボスだ。鬼怖い。


「じゃあ何で、ブラジャーの形が少し変わってるのよ!!」

「ブラジャー……」


 少し考えてみると、岸本に揉まれてしまった事を思い出す。俺の一瞬の隙を見抜いた姉は目を見開く。やばい。これはしくじった。

 姉は席を立ち、俺の胸倉を掴んで、胸を揉みまくる。


「ちょ、な、何してるんですか……わ、やんっ!」

「他の男に触らせたんじゃないでしょうね! 柔らかっ! 脱がしてもいい?」

「ら、らめえええええええええ!」

「美鈴止めなさいっ!」

「……っは! 理性が飛んでたわ!」

「美鈴座りなさい」


 おっぱいを揉みまくりにされた俺はへたへたと座り込む。もう嫌。この家族。普通家族の前で胸揉まないだろ。

 姉は座り込み、父と母は一度姉を制止してから沈黙を貫いていた。


「では、本当に処女だというのだな?」

「もちろんです」

「まぁ、今の反応は完璧そうだよね」

「む……」


 父が黙り込んだ。しかし、俺の胸を揉んだ姉は、上機嫌に戻っている。一体何の話だったのか忘れそうである。

 まだ残っている最大の刺客がいる。それは母だ。


「美樹。あなたハンカチはどうしたの?」

「それは昨日怪我をした人に使って、あげました」

「…………いつかプレミアがつくかもしれないハンカチを簡単にあげるなぁああ!」

「絶対にそれはないと思います」


 何故たかだか、俺のハンカチにプレミアがつくのだ。可笑し過ぎだろう。母は一旦深呼吸をしていた。


「で、何で若干ブラジャーが変形してたの?」

「そ、それは……」


 今ここで、男子生徒の岸本雅史君に揉まれちゃいました! テヘッ! なんて言ったら、きっと彼に明日は来ないだろう。永遠に今日という日を彷徨うことになる。それはマズイ。さすがにうちの高校で死亡者を出してはならない。

 俺は言い訳を電子速度並みに考える。

 そして、ぱっと答えが出た。


「親友の麗に揉まれました」


 母の額に青筋が浮かんだ。それはNGなわけ!? 女同士、今のはありだったじゃん! って、そういえば、母は姉が以前俺と結婚するとか言ってたときに、怒っていた。女性同士という倫理の欠片もない行為は嫌いなのか! だけど、今時の女子って揉み合いっことか普通にするんじゃないの!?

 俺は再び言い訳を探す。

 その瞬間にベストアンサーが舞い降りる。


「体育でずれちゃっただけです!」

「体育で!? 何したのよ!」

「主にバレーボールです」

「……」

 

 母は考えている。丁度今日の六時間目も体育でバレーボールだったのだ。母は元バレーボール選手である。その為、そこら辺の理解は速いだろう。

 縦に何度か頷き、そして、笑顔に戻った。


「うん。それならあり得るわね! これからも、処女でいなさいね!」

「……それは――」

「いなさいね!」

「……はい」


 完全に目が笑っていなかった。そこで、ようやく食事が開始された。長い間、沈黙だったのか、料理が完全に冷めていた。

 そして、夜ご飯を食べる頃には倒した兄貴も席に着いて、皆で食事していた。

 

 いつもの家庭での食事が終わり、俺は一人で風呂に入る。

 湯気が立つ風呂。最近、食べる事が多かったので、汗をかかねばならない。俺はゆっくりと湯船に浸かり、自分の女体化した身体を眺める。ここ最近の努力のおかげか、肉体は更にみずみずしさを増し、もちもち具合と張りが半端ない。これでは美人と言われてもしょうがない。もうすぐ夏の季節である。海などに行ったらヤバそうだな。胸も最近また大きくなりかけてるし……もうGカップ越えちゃいそうだよ。

 そんな中、頭に突然岸本の姿が舞いこんできた。

 彼は最初、俺の見た目から寄ってきたものの、今では普通に接してくれている。やはり奴は優しいのだな。俺の料理も気に入ってくれてるし、最初は草食系でなよなよしてて、もやしっぽくて嫌いだったけど、今は左程気にならない。

 彼も案外良い男なのかもしれない。

 そんな中、突然誰かが服を、脱衣所で脱いでる姿が目に入る。


「ね、姉さん!?」

「ん? 美樹たん入ってたの? ならチャンスだね!」

「な、何がですか!? まだ入っちゃだめです! 私が今出ま――――」

「美樹たんと一緒にお風呂だああああああああ!」


 すっぽんぽんの姉が飛び込んできた。しかも、浴槽に。水は溢れるし、いい加減にしてほしい。すると、四つの胸の膨らみが浮かび上がる。おっきいクラゲが浮いてるみたい。もちろん、俺と姉のおっぱいなわけだが。

 やはり、姉のは大きいな。そう思っていると姉は首を傾げながら、微笑んだ。


「触ってみる?」

「え、い、いいや……はい」

「よろしい!」


 俺はゆっくりと姉の胸に手を近づけ、触れる。すると、俺のとはまた違った弾力があった。そして、柔らかい。他人と自分のを揉むのとは全然違う。断然他人のを揉んでいたほうが良い。そして、突起物に触れる。


「ひゃッ! ちょ、美樹たぁああん!」

「あ、ごめんなさい!」


 思わず謝ってしまった。だが、凄いなおっぱいって……。

 俺が関心していると姉の口端がつり上がり、瞳が黄色く光っていた。そして、両手をクネクネと動かしている。これは完全にやってしまったパターンだ!


「ちょ、さっきお姉さんは私の触りましたよね!?」

「うへへへへへ! さっきと今では違うのだよ! そうブラジャーがあるかないかで、揉み心地が全然違うのだ!」

「そういう事を言ってるんじゃないんです! ……って、あっ!」


 揉みまくりする姉。これは、やばい理性が崩壊しそうになる。何より他人に揉まれているという気持ちよさ。これは単純に女同士だからというのもあるのだろうか。や、やばい!

 姉の揉みまくる手は次第に激しさを増す。そして、今度は俺の突起物を指でこすったり、掴んだりしている。

 

「ひゃあああああああああああ! おおねえひゃああああああん!?」

「ん? なんて言ってるか分からないよぉ? ちゃんと言ってごらあああん!?」

「や、ひゃん! お、おねえひゃあああああん!」


 俺の漏らす声を聞き、更に興奮する姉。

 もうダメだ。理性が――――。


「きひもほさ――――――んッ!」


 と不意に叫んでいた。

 そして、姉は遂に俺の胸を揉む手を止めた。その目は大きく見開かれている。


「な、なななななんて言ったの!?」

「え……何かいいました?」

「い、いや……美樹たんが気持ち良くなり過ぎて、何か言ってたよ?」

「そ、そうですか……ってもういい加減にしてくださいッ!」


 俺は姉の手から逃れ、風呂から出た。浴槽に浸かる前に身体は洗っておいたので、心配は御無用だ。

 さっさと着替える。身体が火照っているのが分かる。あの姉の野郎、後でぶっ飛ばしてやる!

 颯爽と部屋に戻り、この火照りを勉強に費やす事にした。


 いつしか、勉強をしていると、頭に岸本の顔が浮かんだ。

 俺は不思議に思った。彼は今何をしているのだろうか。ちゃんと勉強しているのだろうか。俺はいつの間にかノートにシャーペンを走らせるのを止めていた。

 そこにドアがノックされる。

 

「はい。どうぞ」


 すると、先ほど俺を弄くりまわした姉が入ってきた。

 何やらバツが悪そうである。


「あのね。美樹たんに話があるの」

「はい」

「もしかして、好きな人とかっているの?」

「…………いませんけど」

「で、でも、さっきさ、誰かの名前呼んでたよ?」


 俺は誰の名前を呼んだのだろうと思い返す。そこにいたのは岸本だったが、彼を呼ぶ筈なんてないだろうと、すぐに脳内から可能性として消した。

 

「誰の事を呼んだんですかね?」

「わ、分かんないならいいよ! あたしの聞き間違いだったかもしれないしね! じゃあ、お休み!」

「はぁ……おやすみなさい」


 そう言って姉は俺の部屋から出て行った。




 ◆




 美鈴は美樹の部屋の扉に寄りかかる。


(美樹に好きな人ができたらどうしよう……)

 

 と、そんな事を考えていた。彼女はずっと、弟である幹に恋をしていたし、美樹となった彼にも恋をしている。彼は知らないが、もう満と美鈴は知っているのだ。

 幹は最初から、美鈴と満の血の繋がった姉妹ではない事を。

 両親が再婚したのは、幹が三、四歳の頃だ。

 だから知る筈もなく、今まで通り過ごしていた。だけど、美鈴が高校生に上がる頃には、もう幹の事以外考えていなかった。

 思いを伝える事は出来ず、今までもずっと隠し続けていた美鈴。

 そして、美鈴は幹だろうが美樹だろうが、どっちも好きなのだ。それこそ、彼自身を深く愛している。

 なのに、聞いてしまったのだ。岸本君という言葉を。

 美鈴は扉に寄りかかりながら、決意を胸にする。


(美樹たんの恋人は、アタシだって決まってるんだから! その岸本とかいう奴をあたしは許さないッ!)

 

 それから美鈴は、自分の部屋に戻り、岸本という名前の奴を調べるのだった。

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