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クラスメイトにおっぱいを触らせたりなんてしないっ!

 優香の言葉に、俺の体温は急速に熱を失っていく。そして、そのまま倒れる。

 突然の物音に驚く美人部メンバー。皆が俺の元へと駆けつける。おちゃらけたムードだったのに、現在物凄く緊迫した空気に早変わりだ。


「美樹ッ! どうしたのだッ!」


 一番早く駆けつけた麗が、俺の身体を支える。かなり心配してるのがわかる。そんな顔をされると俺が死ぬみたいじゃないか。

 麗の支えを借りて、なんとか立ち上がろうとする。だが、足がガタガタと震えて立てそうになかった。

 そんな中、空気を読まずに優香が口を開いた。


「……もしかして、美樹ちゃんってテスト嫌いなの?」


 優香の言葉に、俺はロボットのように首を動かし、優香を視界に入れる。


「…………そうなんです」


 都内で噂の美人と言われて、浮かれていた事を恥ずかしく思い、手が震える。まさか、勉強が死ぬほど苦手なんです。とは言えない。そして、ゆっくりと立ち上がり、優香の目の前にまで歩く。皆が心配する中、俺は思いっきり頭を下げる。


「私にっ勉強を教えて下さいッ!!」


 谷中美樹というキャラ崩壊の瞬間だった。皆が口を開けて、ポカーンとしている。そりゃあそうだ。今まで女子力値が最強とまで言われていた谷中美樹は、勉強が苦手なんだ。

 実際、普通の問題ならば、心配はいらない。ノートは真面目に取っている。だが、テストとなると……である。

 幸い、うちの高校は二期制であるから、テストは一年通して四回しかない。だが、その分範囲が北海道くらい広い。

 何分間頭を下げただろうか。すると、いきなり麗に抱きつかれた。


「可愛いなッ! もう結婚してくれッ! そしたら、美樹は勉強なんてしなくてもいいんだぞッ!」


 事態を把握できてない麗が、またも変な事を言っている。


「美樹さんが勉強苦手って、面白いジョークですね」


 正男も俺の事を分かってない。他の男子もそんな感じだ。どうやら、俺の事を分かってくれてるのは、優香だけのようだ。

 優香の方へと視線を送ると、首を傾げた。


「冗談かー。美樹ちゃんが勉強苦手なわけないもんねッ!」

「…………」


 もう終わりだ。

 基本的に学習能力が高い元親友達は置いておいて、基本スペックが高そうな麗と優香にまで、冗談で流されたのは結構ショックだった。

 俺は溜息を吐いて、自分の鞄を鷹詩から貰う。


「私はテスト勉強しますので、帰ります」


 それだけ残して、部室を出た。







 とりあえず、家に帰っても勉強出来ないだろうなと思った俺は、学校中で一番集中できるであろう場所に辿り着いた。

 本棚で出来た壁の迷路。その本棚は全て分厚い紙達で埋まっている。静かな室内。冷房完備。僅かに差し込む光。

 そう、ここは図書室だ。もうすぐテストだからか、勉強している生徒の姿もちらほらと確認できる。

 俺は適当な席に着いて、数学の教科書と日頃書き込んでいるノートを広げる。四月からの書き続けている為、もうすぐノートが終わりそうである。幹の頃は教科書など、ただのパラパラ漫画を作るためのものとしか思ってなかった。ノートも同じで、ただ落書きする為の物としか認知していなかった。

 四月からちゃんと書き綴っているノートを見て、一人で俺は感動してしまった。一瞬、ここに何しに来たか忘れてしまいそうだった。気を取り直して、俺は公式をノートに再び書いて、暗記する。







「谷中さん? 谷中さーん!」


 男性の呼び声がした。いい感じで集中していた俺は、声のする方へと顔を向けた。すると、そこには我が一年B組のクラスメイトである岸本だ。帰りのHRで俺に告白しようとした岸本と同一人物だ。

 俺はそんな岸本に、笑顔を向ける。


「はい。何か御用ですか?」


 すると、岸本は気難しそうな顔をした。当然の反応だと思う。彼はHRという時間を使ってまで、俺に告白しようとしたのだ。そんな相手に今更話しかけられるか、どうかと言われてしまえば、俺は絶対に無理と答えるだろう。


「あ、あのー……」


まさか、また同じ事をしようというのか? ここは図書室で、他のクラスの耳にも届くのだぞ? 岸本はバカにされたいのだろうか。鷹詩もビックリなドMだな。

 すると、ようやく岸本が硬く閉ざしていた口を開いた。


「……完全下校時刻過ぎてますけど……」


 ……マジか!?

 散々告白を断るシュミレーションをしてたのに、なんなの? もういっその事、また告白しろよ。

 自分の笑顔が引き攣るのを感じる。


「あ、そ、その……すいません」

「岸本さんが謝る必要は、ありませんよ。完全に私の不注意ですから」


 席から立ち上がる。確かに完全下校時刻なのは本当のようだな。長く座っていたことで、膝を動かすのが若干辛い。その痛みで、本日二度目の立ちくらみが発生した。

 俺は慌てて、机に手を添えようとするが、バランスを崩している為、上手く机に捕まることが出来なかった。

 しかし、俺は転ばなかった。


「だ、大丈夫……ですか?」

「は、は……い。ですが、触ってるところをどこだか分かってます?」


 岸本に支えられたおかげで、倒れる事はなかった。だが、その代償に俺のGカップの胸を、触らせてしまった。このラッキースケベめ……殺してやる。

 顔を郵便ポストのように真っ赤にさせた岸本は、俺の胸から手を退けた。俺は自分の胸を両手で隠し、膨れっ面を作る。


「……触りましたね?」

「ご、ごごごごごめんッ! わ、わざとじゃないんだ!」


 焦って土下座をする岸本。即座にそれを実行できる岸本は、ある意味サラリーマンが天職なのかもしれない。

 俺は溜息を吐いて、両手を腰に当てる。土下座までされては、怒れないから仕方ないか。素直に、謝った岸本を俺は許すことにした。


「今回だけですよ? 不注意だった私にも原因があるので言いにくいですけど」

「や、谷中さ……ん……」


 まるで叱られていた犬のように、俺を見つめる岸本。俺はお前を虐めてないんだけどな。

 

「男の人には触られたのは初めてだったんですよ? 責任をとれとまでは言いませんが、ちょっとくらい何かあってもいいんじゃないでしょうか?」


 俺は頬を風船のように膨らませて、岸本を上目づかいで見つめる。すると、案外俺の反応に驚いたようで、口を開けてポカーンとしている。そんなに驚く事なのだろうか。

 岸本は数秒茫然として、すぐに意識を取り戻した。そして、俺の手を両手でがっしりと掴み、嬉しそうに微笑む。


「僕が初めてなんだね! なら、僕は谷中さんの初めてって事で、付き合ってくれるのかな!」

「それはありません」


 岸本の妄言をピシャっと斬る俺。誰が、いつ、どこで、付き合うと言ったのか教えてほしい。

 すると、俺の手を離して、ガックリと肩を落とす岸本。感情の浮き沈みが激しいタイプなのだろうか。こういうタイプって一度調子に乗り出すとめんどくさいんだよね。

 

「岸本さんと付き合う事はないですが、でも、何か御馳走してもらってもいいんじゃないですか?」

「谷中さんに御馳走……? もしかして、これから食事?」

「はい。岸本さんがよろしければですが」


 俺は岸本に食事の奢りを頼んでいるのだ。彼は、確かクラスでも結構頭が良い方の部類で、何かと教えるのが上手な人間とみた。ならば、俺の胸を触った代償として、ご飯を奢る事くらい容易いものではないだろうか。

 岸本は頬を赤く染め、後髪を弄っている。


「ぼ、僕なんかとで良ければ……」

「はい。では、今から行きましょう」


 すると、岸本は褒められた犬のように「うんッ!」と言って首を縦に頷かせた。本当に飼い犬なんじゃないかと思えてきた。幻想ではあるが、尻尾が見え始めてくるレベル。骨とかあげたら喜ぶかな。

 岸本は良い返事をすると、自分の荷物を片付け始めた。それに習い、俺も急いで自分の勉強道具を片付けた。


「あの、ちょっといいですか?」

「どうぞ?」

「ちょっと電話してきます」


 先に荷物が片付いてしまったので、俺は家の連中に晩御飯はいらないと連絡する事にした。携帯の画面を見て、現在時刻の遅さにビックリする。まさか十八時四十五分だったとは……。勉強してると時間を忘れるというのは、こういう事なのかもしれない。俺は初めて勉強の恐ろしさを知った。

 家に電話をかける。すると、ツーコールくらいで、姉が出た。


「あ、もしもし。美樹です。今日は晩御飯はいりませんので、そのお電話です」

『み、美樹たん晩御飯いらないの!? じゃ、じゃあ今日は美樹たんを欠いた家族で食事!? ……帰ってきてよ~』

「今、食事しに行くって言ったばかりなんですが……」


 相変わらずの俺の溺愛っぷりが半端ない。これが家族全員共通してるのでビックリする。それはそうと、俺が食卓にいないだけで、問題でも発生するのだろうか? 今のところ家庭でそういう問題はなさそうなんだけど。

 姉が溜息を吐いた。


『……本当にさ、美樹たんがいないと夕飯の空気が悪いんだよ?』

「そう……なんですか? それはそれで申し訳ありません」

『だからさー……美樹たんいた方がいいんだよねー……』


 姉の声が次第に強まり、どこぞのアルバイトの店長みたいになってきている。俺に夕飯を強要するあたり、何か俺が悪い事をしてるみたいだ。

 だが、空気が悪いというのも放ってはおけない。


「で、私がいないと誰の空気が悪くなるんですか?」

『ん? あたし』

「…………」

『だってー美樹たんいないとご飯美味しくないじゃん? それこそ、美樹たん見てるだけでご飯三十杯は軽く食べられるからさー。だからさ、帰ってき――』


 そこで俺は電話を切った。

 家族の不仲説浮上は、単なる姉による俺への帰ってきての懇願だった。俺は図書室に戻り、岸本の姿を確認する。

 すると、準備が終わっていたようで、岸本はニッコリと微笑みを俺に向けてきた。


「岸本さん大丈夫ですか?」

「ん、ああ。僕はいつでも大丈夫だよ!」

「わかりました。では、行きましょうか。岸本さんのおススメで」

「……ファミレスでもいいですかね?」


 申し訳なさそうに謝る岸本に俺は微笑む。


「私はファミレスも好きですよ? 私だって普通にファミレスくらい行きますよ」


 それを不思議に思ったのか、彼は首を傾げて目を見開いた。


「そ、それは意外です……」


 何が意外なのだろうか。俺だってファミレスは行くっての……。

 とりあえず、胸をラッキースケベで触ってしまった岸本には、勉強を教えてもらい、尚且つ飯をかなり奢ってもらう事にした。

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