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お見合いが良い感じで終了したりなんてしないっ!

 俺達はモニターに映っていた筈の人物二人を見て、硬直した。まさか、ここに拓路の父と母が現れるなどとは微塵も思っていなかったのだ。彼らは難しい表情をして、俺達を見つめる。


「ほぅ。これは拓夫の友人達までいるとは。皆して何をしていたのかな? 聞けば君たちは杉本先生と同じ学校らしいじゃないか。とても偶然とは思えない」

「お父さんの言うとおりですね。単刀直入に聞きましょう。あなたたちは人のお見合いを覗いて何をしていたんですか?」


 二人の機嫌は最高潮に悪い。だが、普通に考えれば至極当たり前の事なのだ。自分の息子のお見合いをしている姿を見られれば、親としては気分が良くない。それは当たり前だ。最後に何をしくじったのか、俺は考え込む。だが、思い当たる節はない。彼らの方こそ、勝手に料亭内を散策する趣味でもあるのだろうか。

 俺が立とうとした所に、誰かの右腕が俺を静止させた。それは麗だった。麗は拓路の両親を見つめながら、立ち上がった。


「これは、私達美人部に依頼された仕事だ。貴様ら第三者に首を突っ込む余地などない。即刻退散してくれないか」

「何を言っているのだね。それこそ、部活の一貫であったとしても、高校生がこんな所にいていい筈がない。君たちの方こそ出て行くべきだ。だが、その前にそのノートパソコンを拝借させてもらわなければならないけどね」


 拓郎は机の上にある、閉じられたノートパソコンに目を凝らしている。きっとデータが保存されているのだと思っているのだろうか。そして、希衣子が目を見開いて、正男達を睨む。


「あなた達は、たかが部活動の一貫だと言って、友人の従兄の事情に口を挟むのですか? 田村君」

「……」

「拓夫がこれを知ったらショックでしょうね」


 正男達はただ黙っているだけだった。俺はこの人物達を知らないので、何とも言えないのだが、正男達は面識があるようだ。もっとも、この両親二人とは関わりたくもないが。

 俺は立ち上がり、麗の隣に立つ。


「誠に申し訳ございません。私達はただの社会科活動の一環として部活の人間達で訪れていただけなのです。そして、偶然が重なって、たまたま被ってしまっただけなのです。こちら側の不手際ですので申し訳ございません」


 俺は綺麗に九十度のお辞儀を放った。それを見た美人部メンバーは黙り込んでいる。麗も、俺と同じく頭を下げた。

 静寂する部屋。俺という美少女が出てきた事により、拓郎夫妻は戸惑っているようだ。さすがに拓郎は口を閉じた。しかし、一人だけ苛立ちを抑えきれなかった人物がいた。


「そんな嘘通じると思っているのかしら? あなたのような人間に頭を下げられたからって納得する人間ばかりじゃないのよ!?」

「それはどういうことでしょか」

「私はあなたみたいな、見た目が良い事を分かって武器にする女が一番嫌いなのよ!」

「……」


 正直図星だ。まさか、こんなクソババアに言われるとは思わなかった。

 皆が俺を心配そうに見つめているのが分かった。麗は目の色を変えて、希衣子を睨んでいる。そして、彼女の自己抑制は止まらず、希衣子の胸倉を掴んでいた。


「貴様ッ! 言わせておけば、私達の美樹を傷つけたなッ!」

「な、何よこの娘! いきなり胸倉を掴むって常識がないのかしら!!」


 そして、今度は優香も希衣子の胸倉を掴む。麗と優香が鬼のような形相で、希衣子を上へと持ちあげている。


「もう一回言ってみなさいッ! あんた達が何をしようが勝手だけど、これ以上美樹ちゃんを傷つけるようなら、あんた達の一家全体を社会的にドブにぶち込んでやってもいいのよッ!」

「言わせておけば、穴の青いガキ達がああああああああああ!」


 希衣子も様子を変え、赤鬼のように真っ赤になり、煙が今にでも噴き上がりそうだった。しかし、そんな状態の奥さんを見ても、拓郎は何も言わずに優香を見つめていた。

 そして、新たなる人物が現れた。


「もう止めた方が良いですよ。拓郎伯父さん。希衣子伯母さん。俺達の家庭財閥程度じゃあ二人のうち、一人にも勝てないですよ」


 拓夫が拓郎と希衣子の背後に現れていた。両者は驚愕の表情で拓夫を見つめる。そして、二人の間を裂き、拓夫は俺の前にまでやってくる。そして、片膝を着き、優秀な騎士のような格好をとる。

 その体勢で、顔だけ上げられたらパンツが見られてしまいそうで困る。だが拓夫の顔は俯かれたままだった。


「伯父と叔母が失礼しました。美樹さん。どうかご無礼をお許しください」

「私は平気です。ですが……」


 俺は麗と優香に視線を向けた。二人は既に希衣子の胸倉を離し、今は最高潮に機嫌が悪いようで、黒い雰囲気を外に放っている。両者とも腕組をして邪険な表情を作っていた。

 二人を視界に入れた拓夫は少なからず、メンドクサイと思った筈だ。それでも、逃げもせずに拓夫は、二人にも頭を下げた。


「……失礼しました。黒樹家御令嬢様、坂本家御令嬢様」

「貴様の身内が酷い失態だな。しかし、久々にその名前で呼ばれたよ。まさか貴様が私を知っているとはな」

「ホント。あたしも久しぶりだわ。もっとも隠していたからしょうがないけどね。あんたはよく調べた方だと思うわ。そこだけは素直に賞賛に値するわ。ストーカー君」


 俺は麗と優香が何を言っているのか、まったく分からなかった。もちろん拓夫も。もしかして、麗と優香って御嬢様だったわけ? ……確かにそう言われてみれば、麗の生活は一人暮らしにしては豪華過ぎるし、優香は結構なブランド物を持っていた。それを自慢したりはしなかったけど。

 よくよく考えてみれば当たり前の事だった。


「と、言うわけです。伯父さん伯母さん。これ以上首を突っ込まないほうが、拓路君の人生の為ですよ」

 

 拓夫がニヤついて、二人を脅す。両者ともに、冷や汗を垂らしながら、後退く。


「は、ははは……し、失礼しました……」

「……私も失礼するわ」


 二人は大人しく退散したようだ。

 それから、俺は全身の力が抜け、へたり込んでしまった。一発触発は避けられないと踏んでいたから、この場で丸く収められたのは何よりも良かった。あれだけ、拓夫が拓郎達を脅してくれたのだから、拓路達に何かをすることなど、ないだろう。

 俺は拓夫を見上げた。


「拓夫さん。ありがとうございます」

「ふ、ふん。お、俺はべ、別に伯父さん達があんまり好きじゃないだけだ」

「そうですか。それで、どうでした?」

「……何がだ」

「私のパンツ見ましたよね?」

「……」


 拓夫は顔を急に真っ赤にさせ、眼鏡をかけなおす仕草で誤魔化している。それを聞いた麗と優香の耳がピクっと一回動いて、炎のように雰囲気を燃やしながら、二人はゆっくりと拓夫に近づく。

 そして、まずは麗が拓夫の胸倉を掴む。


「貴様のその行為は万死に値するぞ? 私だってまだ片手の指で数えられるくらいしか見ていないのに、貴様が見ていいわけがないッ!」

「ひぃ!?」


 続いて優香も、拓夫の胸倉を掴む。


「あんた、あたしだってまだ一度しか見てないのよ? それなのにアンタが見ていいわけないじゃない。死にたいの? ギャルゲーみたいにアンタに選択肢を上げるわ」

『①死ぬ ②死ぬ ③死ぬのどれかを選べえええええええええええ!!』

「ひぇえええええええええええええええ!」


 普段は相性が悪い麗と優香は声を一寸の違いも出さずに叫んだ。

 選択肢が死ぬしかない拓夫は、悲鳴を上げた。

 その日料亭では、拓夫の声が響き、今日のお見合いは楽しそうだったと従業員達の印象に残ったという。




 ◇




 あくる日。

 美人部の部室では、麗の前に新たな書類が三枚並んでいた。それを眺め、麗は頬づえをつきながら、目の前に並ぶ三人をつまらなそうな顔で視線を動かした。


「で、答えはコレか」

「はい。俺達は美樹殿に惚れたので入部します」

「俺もミッキーに惚れたから! アイツラ三人には負けたくないしね!」


 拓夫と久光が俺を見ながら、麗に話している。長めの溜息を吐いた麗は、もう一人の人物を見つめる。


「で、貴様は何をしているのだ」

「はっ! 私は顧問になります!」

「頼んでないのだが」

「いいじゃないか麗ー」

「気安く名前を呼ぶな! 気持ち悪いぞ!」

「そんな事言わないでくださいよー」

「……それが美樹の真似ならば、即座に殺すぞ」


 そんな感じで綾子が顧問になるらしい。

 結局、昨日のお見合いは微妙な結果に終わったのだ。最終的に連絡先を交換し、二人で後日ゆっくり話すことになったそうだが、綾子的にはイマイチらしい。何でも、あの後二人で話たところ、拓路は仕事ばっかりの熱心な男らしい。だが、遊び好きの綾子からしてみれば、人生損をしているようにしか見えないようだ。

 まぁ、良い飲み友達ができたと思えばいいと綾子は軽かった。俺達の苦労は本当になんだったのだろうか。拓夫の廃部に追い込もうとした意図も、分からなかったし、しかも今は仲良く美人部で活動をしようとしている。何がしたかったんだか。

 

「拓夫。美樹さんはお前には渡さないからな」

「そうだ! 美樹様達は俺を踏んでくれる為にこの部にいるんだ!」

「僕のお嫁さんだからね!」

「いいや、私の美樹だ。貴様ら男に渡す事などしない」

「美樹ちゃんはあたしの彼女よ! あんたたちに渡すわけないじゃん!」

「お前ら二人は女性だろうが! いいや、俺にこそふさわしい。美樹殿も俺と一緒にいれれば経済的不安もなくなるし」

「何言ってんだよ拓夫。ミッキーは俺の彼女だっての。この二次元と三次元を超越した存在こそ、アルティメット・オブ・アキバな俺に相応しい! つまり、ミッキーは俺の彼女」

「何を言っているんだ。谷中は私の老後を看取ってくれる大事な人間だぞ? 結婚などさせるわけないだろうが。そもそも、私は谷中に男を寄せ付けるなと言われているのだ」

「……誰に言われてるんですか先生」

「美鈴だ」


 俺は即座に姉に電話して、メッセージを残しておいた。


「よしッ! では今日の部活を開始するぞ! 今日の議題は……」


 そう言いながら、美人部の部室である四階多目的室の黒板には名言っぽく女子力を上げる事について書かれた。


「さぁ、美樹! 今日も講師として頼むぞ!」

「抱きつかれると書けないんですが……」

「あたしもハグしたい!」

「抱きついてるじゃないですか」

「私もハグしたい!」

「先生も既にハグしてますよね?」

『お、俺らも……』

『男子禁制』

「ふふふ。また今度はお詫びに膝枕してあげましょうか?」

「美樹さん頼みます!」

「俺はハイヒールで踏まれるほうが好きです!」

「僕にしてくれるの!?」

「み、美樹殿の膝枕……じゅるりっ」

「ミッキーの膝枕だとっ!? 鼻血が出そうに……って出た!」


 今日も騒がしい美人部だった。

 俺は美人部に膝枕したりなんてしないっ!

 読破ありがとうございます。

 今回で、だい②わ。終了です。

 裏話は活動報告でさせていただきます。

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