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俺が美人部連中に泣かせられたりなんてしないっ!

 今日も雨な本日放課後。

 まだ早い時間に、拓夫を欠いた全員が集まる。

 運が良い事に、拓夫は先生からの呼び出しなどが重なって遅れるみたいだ。同じA組の直弘から、話を聞いた。

 そこに現れる綾子。


 「失礼するぞ」


 部屋に入ってきた綾子を睨む、麗達。

 まだ、廃部の危機を俺らにつきつけた本当の犯人が拓夫だということを、メンバーには言っていない。彼らには綾子が直接話た方がいいだろうと思っている。

 

 「なんだ貴様。廃部にするとか言っておいて、よくもまぁ、ぬけぬけと来れるな」

 「その事に関して、謝りたいんだ」

 「へぇ。心境の変化でもあったのかしら。だから、こんなに雨が降ってるんじゃないの?」

 「優香さんそれは梅雨だからですよ」

 「どうでもいいけど、俺はアンタに踏まれたくないからな」

 「その前に僕たちの邪魔をするために来たなら許さないよ?」

 「まぁ、いい。早くここに来た理由を聞きたい」

  

 皆が睨む。しかし、綾子は何も言わずに、まず頭を下げた。それを見た美人部メンバーは何も言わずに、見続けた。

 そして、頭を下げたまま、綾子は口を動かす。


 「すまない。全ては私が招いてしまった事なんだ。私は井草に唆されて、ここを廃部にしようとしたんだ。本当に申し訳ない」

 

 瞬間、静寂。

 美人部部室には、雨が降り注がれる音が響く。

 そして、皆の表情が緩み出し、麗達は口を開く。 

 

 「まぁ、そんな事など気付いていたがな。結局は腹黒眼鏡の仕業だろうってな」

 「先生は今頃気づいたの? 遅いわね」

 「部長さん達も気づいていましたか」

 「謝っても、俺は踏まれないぞ? 俺は美人部女子専用サンドバックだからね」

 「僕も拓夫が真犯人だと気付いてましたよ」

 「拓夫の奴妙に怪しいと思っていたが、真犯人だとはな」 

 

 それを聞いて、綾子は頬を緩ませて、また涙目になっていた。それを見た美人部メンバーはオロオロし始めた。まさか、麗達も女の涙に弱いとは……。これは以後、叱る必要があるな。

 

 「皆……」

 「で、どうするんだ? 貴様はやられたら、やられっぱなしは嫌な人間だろう?」

 「良く分かってるな黒樹」

 「ふん。私を誰だと思ってるんだ」

 「普通の女子高生」

 「回答に困るな……」

 

 麗と綾子が微笑みながら会話をする。

 とりあえずは、美人部と綾子との関係は白紙に戻ったようだ。

 むしろ、今顧問になってもいいんじゃね? その方が楽だし。でも拓夫に一泡吹かせてやりたいのも事実だ。

 

 「では谷中。昨日言ってたプランを皆に聞かせてくれ」

 「分かりました」


 俺は綾子に言われ、昨日、姉と考えた事について、満遍なく話す。皆はすぐに理解し、それぞれ考える。

 綾子も時折「なるほど」と小さく呟いていた。

 

 「とりあえず、配役を考えましょう」

 

 俺が声をかけると、皆頷く。

 今回の配役としてあげられるのは、まず監視カメラを見る人物。それについてのダメな点や良い点をメモする人物。そこに二人。

 そして、電話役が二~四人必要だ。これにはわけがあって、不謹慎ではあるが、着信音を人によって固定させておけば、いちいち違う相手だと分かる。そして、その四人には、監視カメラの部屋で待機してもらい、監視カメラ担当の人物のダメだしと、各々思った事を言う形式だ。

 そして、最後に必要なのが、拓夫の監視。これには二人必要だ。誰か一人が見失っても、もう一人いれば確実だ。

 こうして連携を取れば、お見合いはスムーズに進む。

 

 「ではまず監視カメラを決めたいと思います」

 「僕は、もうこれは完全に決まってると思うけどな」

 「そうだな。確かにこれは美樹様と優香様以外あり得ない」

 「え、あたしでいいの?」

 「それでいいと思いますよ。美樹様は言わなくても分かると思いますが、他に適任者がいるとしたら優香さん以外いないですからね」

 「分かったわ。じゃあ美樹ちゃんと一緒にやるわ」

 「では決まりですね」


 とりあえず、監視カメラ役を俺と優香で実行することにした。

 残りは電話役と拓夫監視役だ。

 

 「では拓夫の監視は俺がやったほうがいいだろう」

 「そうだね。俺もそう思うよ」

 

 ここで声を上げたのは、鷹詩と久光だ。二人とも拓夫とのコミュニケーション率が高い連中なので、文句はない。

 二人を監視役にしておけば、拓夫も話に夢中になるかもしれない。以外とアイツは正男や鷹詩と話すと喧嘩になりそうだし、直弘と話すと堅物な拓夫は、頭痛がすると言って逃げることもある。

 

 「じゃあ最後に電話役は麗と正男さんと直弘さんで文句はありませんね」

 「ああ」

 「はい」

 「分かった!」


 こうして配役は決まった。

 ならば、次は当日の流れである。昨日、姉に料亭の地図をプリントアウトしてもらったのだ。そこに借りられる部屋などが記されてある。

 監視カメラ役の部屋は二階。拓夫が待機する部屋は一階北西。そして、実際にお見合いをするのは中央の池が見える部屋。

 そして、地図を見た綾子が怪訝な表情をして見つめる。


 「この料亭……」

 「以前、姉に連れて行ってもらった場所です」

 「そうか……いや、気にしないでくれ」

 「分かりました」


 場所の確認をしてもらう。

 綾子は当日は流れに沿った動きをしなければいけない。庭などを歩く事になったら、俺らが二階から双眼鏡で見ればいい。電話役の人達も二階に待機してもらう。そこから見て、随時ダメだしをする予定だ。

 問題はそのときの拓夫だ。彼がどのような行動に移るかだ。彼は綾子の相手側につくのか、それとも綾子側につくのか。後者ならば、拓夫は隔離しなければいけない。変な邪魔をされては、こちらが困る。

 それについては鷹詩と久光がしてくれれば問題はない。だが、万が一の可能性も考えた方が良い。

 

 「一応、インカム持っていきますか?」

 「そうだな。私達も指示が欲しい場合があるかもしれない。その為に必要だ」

 「分かりました。じゃあ麗達用に持っていきますね」

 「わ、私には?」

 「先生には必要ありません。よく漫画などではしてるのを見かけますが、あれは完全にバレますのでアウトです」

 「そうか……」


 残念そうに俯く綾子。

 これで当日の動きは決定した。各自の集合場所は料亭近くになった。

 全てを終えてから、部室の扉が開く。

  

 「あれ、先生どうしたんですか?」


 入ってきたのは拓夫だ。

 できるだけ、皆拓夫に対して自然な態度ではあるが、どこかぎこちない。動きが読まれてしまっては、今までの計画が全て水泡に帰すって事分かってるのか? 麗だけは堂々としてるな。腕組をして瞳を閉じている。

 

 「今日は遅かったな」

 「まぁ色々ありまして」

 「そうか。では私は失礼する」


 そう言って、綾子は部室を出た。

 拓夫は自分の荷物を机の隣に置いて、文庫本を取り出して読み始めた。どこか少し嬉しそうな表情をしている。何かあったのだろうか。

 そんな中、麗は立ちあがり、黒板に向かった。チョークを握り、いつものように何かを書いていく。


 「何かするんですか?」

 「ああ」

 「それよりも、お見合いの件について話はどうするんだ?」

 「もう決まったから問題ない。当日、お前に用はない」

 「……」


 麗と拓夫の間がまたも不穏な空気が漂う。しかし、いつものように長くは続かず、麗は再び黒板に視線を戻し、文字を書いていく。

 書かれたのは、『真のリア充なる人物が持っている物とは』だ。

 麗はチョークの白い粉を落とし、手を叩く。


 「はい注目」


 麗がそう言うと、皆が麗に視線を集める。

 両腰に手を当てて、麗は偉そうにしている。


 「さて、では全員揃ったし、今日の部活を開始するぞ!」

 

 早速麗は、黒板に視線を預ける。まだ他の連中達は、拓夫の出現により、ぎこちない雰囲気だ。そういえば昨日軽い喧嘩したんだったな。当たり前か。

 机も心なしか、拓夫だけが離れてる気がするし。幹がいた頃は、こんなに喧嘩が長引くことなんてなかった。どんな喧嘩も一日で終わりに出来た筈だ。

 

 「そもそも、真なるリア充って誰だと思う?」

 「さぁ? 人それぞれの見解じゃないか? 俺は美樹様に踏まれれば本望だし」

 「僕もそう思うな。そりゃあ美樹さんと付き合えれば幸せだけどさ。今でも充分だよね」

 

 正男、鷹詩、直弘の三人がいつものように会話している。

 久光は珍しく考えている様子だった。顎に手を当てて、唸っている。


 「近藤さんは何かあるんですか?」

 「ああ、俺は友達だと思う」

 「……」

 

 優香が一瞬顔を引き攣らせた。まぁ池袋での一件もあったし無理はない。今考えれば、あれは最悪の中の最悪なケースだった。

 

 「友達は親より大事って言うじゃん? 俺は今もそう思っている」

 『久光……』

 

 男五人が感動したように呟く。それにはちゃんと拓夫も入っていた。久光は拓夫に視線を移して、ニッコリと笑っていた。それを見た拓夫も一瞬だけ笑ったが、後は照れ隠しに眼鏡をかけなおしていた。

 三人はお互いに視線を合わせて、恥ずかしそうに笑った。

 麗と優香は若干羨ましそうに、男達を見ていた。そんな彼女らには、俺が近づき二人の頭を撫でた。


 「大丈夫。麗と優香はちゃんと私の親友(・・)ですよ」

 「美樹……」

 「美樹ちゃん……」


 二人とも満面の笑顔で俺に抱きついてきた。この二人は本当は素直なのだから、そういうのをちゃんと人に見せた方が良いと思う。今よりも、もっと友達なんてできるだろうと思う。

 

 「やっぱり寂しいな……」

 

 ぼそっと正男が言った。

 俺達は全員正男に視線を集める。寂しいと言っても、今は全員が部室にいる。このほかにいない人物なんていないだろう。俺は不思議に思いながら首を傾げた。


 「寂しいって皆いますよ?」

 「違くてさ。もう一人いないんだよ。俺らの仲間で中心人物だった奴が」

 

 俺は正男の言葉を聞いて瞳を見開いた。俺が中心人物? 何かの間違いじゃないのか? だって俺はずっと、皆についていってた筈なのに?

 疑問は続き、頭の中が空っぽになる。


 「美樹さんと同じ呼び名で幹。美樹さんの従弟にあたる人」

 「幹にはゲームで世話になったよ。アイツ中々強くてな! 怪物狩人3んときは参ったよ!」

 「僕も、幹には助けられた事何回もあったよ。女子の先輩から逃げられなかったときなんかは、いつも決まって助けてくれたんだよ! 例えるならヒーロー?」

 「ふん。アイツは俺にも歯向かってくるからな。よく言われたもんだよ。久光の料理は凶器だって」

 「皆が喧嘩すると、決まって悪者になろうとする幹。いくら俺が大金を持つ家のご子息だからってお前はお前だから、俺は気にしないって言われた時は嬉しかったよ」


 皆がそれぞれ、俺の事を語る。

 俺は嬉し過ぎて、涙が出そうになった。本当は心のどこかで、実は皆俺の事なんて忘れてしまっていて、もうどうでもいいのかと思っていた。

 それが今はちゃんと覚えててくれていた。

 

 「美樹?」

 「すいません……。今日は予定がありますので……先に帰ります」


 俺は急いで帰宅の準備をし、部室を出た。

 それから、昇降口に着き、一人で泣いた。

 

 「ほら、そんなに泣くと雨がもっと振るぞ。せっかく綺麗な顔になったんだから、もうちょっと泣く場所を選べ」

 

 その声は綾子の物だった。


 「せ、先生!」

 「ほらこい。美樹いや幹」

 

 俺は綾子に抱きついて泣いた。

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