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中谷家で作戦会議なんてしないっ!

 「とまぁ、そんな感じだ」


 綾子による今回の騒動の真相を美樹と姉は知った。

 つまり、美人部本体を本当に潰そうとしていたのは拓夫である。という事だ。随分と性格悪い事するな。そもそも、救いだすとか俺にも言ってたけど、何なのだろうか。今の仲間たちがいるだけで、俺は充分楽しい。

 というか、授業中に妙に視線を感じると思ってたら、先輩とかも見に来てたのね。この学校って、いろんな意味でゆるゆるだな。

 

 「ま、先生も大変だね。幹の友人に虐められるなんてさ」


 姉が軽く息を吐いてから、どうでもよさそうにしていた。俺が関わってこなければ、どうでもいいのだろう。俺は、どうしても拓夫の意図が気になる。何故、こんなややこしい事になったのだろうか。

 そこまでして、俺を彼女にしたいのか? ……ごめんだ。

 

 「幹って言うのは、誰だ?」

 

 首を傾げながら、綾子は姉に問う。知らなくて当然である。彼女は谷中 美樹は知っているのだが、中谷 幹はまったく知らないのだ。

 だが、あえて今姉は、幹の名前を出した気がする。

 

 「うちんちの弟」

 「ああ。アメリカに行ったと言っていたな。元気なのか?」

 「そりゃあね。向こうで今頃四苦八苦してるんじゃない?」

 

 適当に話を流す姉。本当に幹の事なんてどうでもいんだね。僕泣きそう。もう分かり切ってる事だからいいけどさ。

 

 「では、二人にお願いしたい。私をリア充に――」

 「嫌だ」

 「嫌です」


 お願いする綾子に、俺と姉は即答する。当たり前じゃないか。誰が、こんな惨めな奴をリア充にしたがる?

 結局は拓夫に、弱い所を突かれて餌をぶら下げられて、走り回ったにすぎない負け犬中の負け犬だ。いや、犬のほうが賢いかもしれん。それに、今からリア充にするとか無理ゲーだ。F○Ⅸのスタ●ナーの最強武器エクスカリ◇ーⅡを入手する並みに不可能。あれって、ゲーム開始から12時間以内で最終面まで行かないとゲットできないのよね。

 閑話休題。


 顔を上げた綾子は涙目だった。だが、俺らには効果はないに等しい。いや、逆に高女子力を保持する俺と姉にとってはただ、ウザいだけだ。

 姉は綾子の涙目を見て、軽く舌打ちをして最上級に機嫌が悪そうな顔をした。そして、綾子を思いっきり睨む。

 俺も、綾子に見えないように、手の骨を鳴らす。

 雰囲気から察したのか、綾子は即座に涙を拭いた。どうやら素で泣きそうだったらしい。俺らには関係ないけど。

 

 「……先生には言ってあるよね? あたしが何より嫌いなのは女の涙だって」

 「お姉さん。同感です。それだけで、済ませられるほど、世界は甘くありませんよね」


 俺と姉が凄んで睨むと、綾子の顔色が青白くなっていく。初めから涙なんて見せるんじゃない。殺害衝動が駆り立てられるだろうが。

 とりあえず、一度気分を落ち着け、何とか機嫌をデフォルトに戻した。

 

 「……すまない。でも、リア充になってどうしても井草を見返したいんだ!」

 「勝手にしてください」

 

 俺が冷たく言い放つ。それでも、まだ懲りてないようで涙目になる。姉がイラつき始めましたよ! 逃げて!

 

 「美樹えも~ん! なんとかしてくれよ~」

 「の○太かッ!」


 姉は我慢の限界だったのだろうか。綾子を椅子ごと蹴り飛ばした。そのまま綾子は床に倒れて、立ちあがろうとする。姉が再び綾子に近寄り、彼女を見下す。

 そして、今度は綾子自身を踏み始めた。


 「ちょ、な、なにするんだ!」

 「こういうのが好きなんだろう!? ええ? 綾子ぉおおおおおおお!」

 「へ? まさか声優Y君……? まさか私はY君に踏まれてるのぉおおおおおお!?」

 「そうだよ! 俺は声優Yだ! だからもっと俺が踏みやすい体勢になれ、この雌豚!」

 「はひぃいいいいいいいいいいい!」

 

 姉が声帯模写で、なんかのアニメの声になる。その声を聞いて綾子は物凄い勢いで踏まれている。ぶっちゃけ一般人の俺から見たら、ドン引きである。むしろ、鷹詩と綾子なら仲良くなれそうな気がするんだけど。

 ゲシゲシと踏まれ続ける綾子は、いつの間にか涎を垂らしながら昇天したようで、今は気持ち良さそうに眠ってる。綾子を踏む姉の姿に、女子力なんてなかったな。何故、皆は口を揃えて彼女を女子力の塊などと言ったのだろうか。

 人を踏むのを楽しんだ姉は、再び俺の隣に腰をかけた。


 「美樹たん、疲れた」

 「本当に疲れてるようですね」

 「うん。で、どうする? 一応元担任の先生だから助けてはあげたいんだけどさ……。リア充ってなると少し違う気がするんだよね。かといって彼氏を作るのも違うわけだし。ただ単に女子力を上げればいいってわけじゃないからね」

  

 姉は疲れて、いい加減なようで全然真面目だった。姉もやはり綾子に対して、色々と思う所があるのだろう。俺はてっきり本気で虐めてるだけかと思った。

 面倒見が良い姉は、きっと将来良いお母さんになりそうだ。


 「ふふ。お姉さんって本当に面倒見がいいですよね。良いお母さんになりそうですね」

 「み、美樹たん……それはプロポーズ?」

 「お姉さんのそういう残念な思考回路はどうかと思いますが」

 「美樹たん釣れないね~」

 「そりゃあ、相手がお姉さんだからです。もっとちゃんとしたお姉さんだったら違ったかもしれませんね。もっとも、お姉さんは早く良い男の人探して結婚して、家から出てっても充分いいのでは?」

 「美樹たん怖い怖い! あたしはM気質じゃないよ!」

 

 ま、今日も姉はいつも通りのようだ。

 

 「で、先生はどうしますか」

 「うーんとね。お見合いで、相手に自慢できる事を考えるって方向でいいんじゃないかな?」

 「自慢できること……ですか」

 「まぁ、基本的に『私忙しい女なんですよ』アピールをすればいいと思うんだよね! だから、お誘いには簡単に乗らないとか」

 「でも、それだと後日談の話ですよ?」

 「そうだね。でも、忙しい女アピールは間違ってないと思うよ。相手も相手で、一応プロポーションは良い先生だから興味は引かれると思うの。だから、後足りないのは、どうやって本当に予定が詰まってる感を出すかという所にあると思うよ!」

 「予定が詰まってる感……」


 俺は考えてみた。予定が詰まってるというのは仕事か? でも、仕事ばかりの女だと将来性や家庭的な所をアピールできないというマイナスになる可能性すらある。ならば、あとは勉強か? でもそれだと、相手が俺には興味がないと悟られてしまう可能性がある。ならば友達と遊ぶ? それだと、先生はただのビッチとして見られてしまいそうだな。

 うん。分からない。


 「分かりませんね」

 「今、美樹たんは、きっと仕事・勉強・遊びと、色々と考えたよね」

 「はい。でも、全てどうなのかと思いましたけど」

 「なら、全ての約束を入れてしまえばいいの! お見合い中に、皆が先生の携帯に電話をちょくちょくしてたら、忙しい女をアピールできるでしょ? もちろん、普通なら無視するなり、電源切るなりすると思うけど、今のお見合いはそこまで堅苦しくないしね。第一、拓夫の知り合いでしょ? なら気軽にいけるでしょ」

 「それもそうですね。では、私達がバックでサポートする感じですかね」

 「まぁ、それもいいんだけど、それだと知らない料亭だったりすると、色々とメンドクサイよ?」

 「じゃあどうすればいいですかね?」

 「この前の料亭なら、話を聞けば女将さんが別の部屋を貸してくれるとおもうよ! ついでに監視カメラも」

 「準備が良いですね……」

 「まぁね! 普通はダメだけど、今回は平気だと思うしね!」


 大体のお見合いでの俺達の仕事は決まった。

 俺達美人部は、綾子のお見合いをサポートすることになっている。あんまり乗り気じゃなくなった綾子には、お見合いを成功させるサポートよりも、逆に相手をこちら側に引きつけるサポートになりそうだ。新しい方が断然難しい筈だけど。

 それで、監視カメラで内部を確認して、相手の高感度を調べる。それによって、電話を鳴らし、先生は友人からだと言って少し退席する。その電話でちょくちょくダメだしとGOサインを出す。

 最後に終わってから、相手にまた会いましょうと言われれば成功だ。

 

 一通り計画を頭で組み立てた俺は、姉に頭を下げた。

 

 「ありがとうございます。お姉さん。おかげで、計画が綺麗に出来上がりました」

 「本当!? 良かった! じゃあご褒美のチューを!」

 「嫌です」

 「なら、ディープキスでもいいよ!」

 「レベル上がってますよ?」

 「じゃあベットIN!」

 「高跳びし過ぎです」

 「じゃあ、ハグで!」

 「それならいいでしょう」

 「え?」

 

 ハグぐらいならいいだろう。だが、それも断られると思っていたのか。姉は口を大きく開けてぽかんとしていた。別に抱きつくぐらいは構わない。兄にされるのは嫌だけど、姉は色々と普段から助けてもらってる分、これくらいはしてあげなければ可哀相かもしれない。

 俺はニッコリと笑って、腕を広げた。


 「どうぞ?」

 「いいの!?」

 「はい」

 「み、美樹たあああああああああああああああん!」

 

 姉は俺の身体に手を回すと、痛いぐらい抱きついてきた。俺の胸に顔を埋める姉。そして豊満な胸に顔をスリスリさせる。これだと、どっちが姉だか分からなくなってくるぞ?

 姉がずっと俺に抱きついて甘えた声を出してくる。


 「美樹たん……いい匂い……柔らかいし……エッチな事したい」

 「それはダメです」

 「いいじゃん!」

 「嫌いになりますよ?」

 「わーごめん!」

 

 それでも、姉はハグを解こうとしない。一体いつまでやらされるのだろうか。しばらくしばらくして、変な視線を感じるようになってきた。

 そちらを見ると、綾子がいつの間にか、起きていたようだった。


 「ふっふっふっふ! 美鈴! お前の弱点見つけたり!」

 「人が気持ち良いときに邪魔してんじゃないわよ」

 「先生、お姉さんはお見合いの作戦を考えてくれたんですよ?」

 「え……そうなのか? 私をリア充にするという計画は……」

 「それは必要ありませんよ。先生がリア充になれなくても、それらしく見えるようにする計画を練りましたので、楽しみにしていてください」

 「は、はぁ……」

 

 綾子は溜息を吐いていた。

 ちなみに、姉はずっと俺に抱きつきっぱなしだ。もはやコアラの子供レベル。

 

 「では明日、計画を伝えますので、できるだけ早く美人部部室に来てください」

 「分かった。で、この事は井草には……」

 「もちろん内緒です。井草さんが今回の先生の本当の敵ですので、気を付けてください」

 「分かった。心から感謝するよ。美樹さん――いや、ここでは幹さんと言った方が良いかな?」

 「――――――ッ!?」

 

 綾子はそれからすぐに、帰った。

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