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先生が回想したりなんてしないっ!

今回は、杉本 綾子目線で書いております。

美樹が好きな方、ごめんなさい。

 とある平日の放課後、

 いつも通り、業務をこなしていた。担当科目の出席名簿を見ている。ここのところ自分のクラスに在籍する谷中 美樹というリア充見たさで、授業を遅刻・欠席する輩が増えている。それが杉本 綾子の悩みだ。

 実際に彼女は綺麗と可愛いを兼ね備えた最強の美少女であるとともに、言葉使い、センス、気品、頭の良さなどは高校生とは思えない程だ。


 ――まったく、過去の教え子である美鈴を見ているようだ。そういえば、奴に脅されて、彼女の入学試験など色々パスしたんだったな。補欠の人達には申し訳ないが、美鈴は怒らせると怖いから、仕方ないよな……。


 モンブランのボールペンを、書類に走らせながら綾子は考えていた。あまりにも、出席状況が芳しくない生徒が多い。これは、綾子の授業に限った事ではない。他の先生からも、苦情ではないが、それに近いものの相談は来ている。

 

 ――どうすれば、他の連中は目を覚ますのだ。あれは、ただのビッチ臭しかしなぞ? 私のほうが何億倍も可愛いのに何故気付かない……。

 

 そんな頃、イケメンの男性教諭から話しかけられた。

 

 「杉本先生」

 「は、はひぃいいい! 何か!? 今日の夜なら空いてますよ!」


 彼は青島(あおしま) 悠太(ゆうた)先生。三学年の数学を教えている若手敏腕教師。残念ながら、以前アプローチをかけたところ、彼女がいるらしく、もうすぐ入籍を考えてるとの事だった。それでも、綾子に話しかけたのは好意があるからなのだろうと期待してしまった。

 いきなりイケメンに声をかけられれば、誰だって驚くだろう。その証に声が裏返ってしまった。焦ってまた好意を寄せてしまった。だが、そんな事を流してくれる彼もまた素敵なのだ。


 「今日は、彼女の家族と食事があるので、すいません。っと、先生に用事があるようですよ」

 「はぁ……」


 さりげなく悠太は断ってきた。まぁ仕方がない。だって彼女の家族のほうがそりゃあ大事だろう。綾子自身、彼氏がいれば、全てを彼氏優先にするだろう。

 綾子は廊下の方に視線を向ける。そこにいたのは、確か一年A組の井草 拓夫という生徒だった気がする。彼は見た目が良く、成績も良い、学生の鏡のような存在だ。トレードマークである銀縁の眼鏡は、彼の真面目さが伺える。何よりも紳士的な彼は、入学当初から人気上昇中である。さらに言えば、彼の実家は大金持ちなのだ。綾子の手帳には、将来有望とメモしておいてある。

 綾子は、拓夫の元へと歩む。


 「いきなりで、すいません」

 「いいや、こちらこそ待たせてすまない。どうした井草」

 

 拓夫の綺麗なお辞儀を見て、綾子は良い玉になりそうだなと思った。


 「……ここだと少し話しづらいので、二人きりになれる場所とかってありませんか?」

 「ふ、二人っきり……」

 

 綾子は拓夫の言葉にさまざまな妄想をした。教師と生徒の禁断の愛。そして、拓夫は私を守るために最終的に退学……。だいぶ省いた物語だったが、詳細に記しては、きっと一年かかるだろうから、自粛した。

 自分の顔が緩んでいるのが分かった綾子は、一度咳こむ。

 

 「分かった。では、個別カウンセラー室に行こうではないか」

 「はい」


 それから、綾子は自分の仕事を後回しにして、拓夫の話とやらを聞くことにした。

 

 個別スクールカウンセラー室なる教室は一階にあるのだが、職員室が中央なのに対して、その教室は一番西にあるのだ。普段は使わないので別にいいが、もっと近くに設置したほうが利用者がいたのではないだろうかと思う。

 個別スクールカウンセラーの教室は、防音壁であるのだが、透明な分厚いガラスで、誰が相談してるのかを後からなら見る事ができる。

 個室が六つある中で、既に一つは使われている。

 

 「一番奥にしようか」

 「はい」


 拓夫にそう言って、先に道を譲る。

 綾子は先客が誰なのかを見てみた。

 生徒の方は、自分のクラスに在籍する黒樹 麗だった。谷中 美樹の一番仲が良い友人として、昨今では有名な人物である。相手側の教師は保健室の教諭水上(みなかみ) 美奈子(みなこ)だった。第三者から見れば、相談してるのは美奈子に見えた。まぁ今はどうでもいいかと思った綾子は、拓夫の後を追った。

 

 中に入ると、以外にも個室は広く、ちょっとした食事ならできそうでもある。

 拓夫は既に座って待っていた。

 

 「で、私を呼び出して相談とはなんだ? A組の担任の先生にこういうのは相談するべきなのではないか?」

 「はい。おっしゃる通りなのですが、彼は男性教諭ですので」

 「ふぅむ」


 男性教諭だと問題でもあるのだろうかと一瞬綾子は考えた。恋の悩みだろうか。それならば、確かに男性教諭にはしたくないな。いや、待てよ。もしかしたら、私が好きだから相談? そうなのか? まさかの禁断の愛!?

 と、妄想を再び展開させる綾子。

 

 「先生?」

 「はっ! じゅるり……すまない。で、何故男性ではダメなのだ」

 「それは、男性教諭も、問題の一つだからです」

 

 拓夫は凄く嫌そうな顔で答えた。その表情が自分に向けられたものではないので、ホット胸を撫で降ろす綾子だった。

 

 「その問題とは?」

 「谷中 美樹です」

 

 綾子はこのとき、少なからずイラッとした。毎回こういう手の相談はクラスで受けるのだ。よく帰りのHRなどで、男子生徒から「美樹さんを落とすのには、どうすればいいですか!」とか「先生なら、どうしますか!」などと聞かれるのだ。そんなの知るかっと毎回思う。なんせ私は谷中 美樹ではないのだからな。

 表情に出ないように、綾子は注意して言った。


 「うちのクラスで……いや、今や学校一の有名人か。噂ではリア嬢王とまで呼ばれているらしいな。……リア充死ね」

 「何か言いましたか?」

 「いいや、何でもない。続けてくれ」

 「あ、はい。それで、俺は思うんです。彼女の美貌のせいで学校全体が緩んでいると。このままだと来年の学校全体の偏差値が下がってしまうという問題がでかねません!」

 

 それはないだろうと内心で思っていた綾子だった。だが、拓夫はもしかしたら、さっきやっていた仕事に関する事を言っているでのはないか。そう考えると、内容次第では協力したくなってきた。

 

 「それはどうだか知らんが、谷中のせいで、成績が落ちている者は確かに存在する。それで、谷中をどうしたいんだ?」

 「どうしたいも、ありません。彼女は美人部という部活まで立ちあげて、更に美を追求するつもりなんです。彼女がこれ以上磨きをかけたら……授業崩壊も間逃れませんよ」

 「……」


 なるほど。と綾子は頷いた。確かに、このままでは遅刻・欠席までして一年C組の教室を一日中眺める輩が増殖しそうで困るな。

 ここは拓夫のような真面目な生徒の為、教員達の為に一肌脱ごうではないかと思った。


 「それで、具体的にはどうするんだ?」

 「はい。俺は美人部を廃部にしたいと思っているんです」

 「ほぅ。中々大胆だな。でプランは?」

 「既に用意してあります」

 

 広げられたルーズリーフのノートを綾子は見る。

 内容は、まず、美人部には顧問がいない事を指摘して、廃部にまで追いやろうとする。だが、相手には超強力なガードマンがいるらしく、上の上を行く人物らしい。それを上手く言いくるめる為に、勝負をしかける。それは綾子自身が本物のお見合いをして、美人部として、上手くサポートできるかどうか。成功しなければ、顧問がいない事と、上手く部活が機能してない事を理由に廃部させる。成功すれば、綾子が顧問になる。

 上手くできているなと思った。もし、綾子がお見合いを成功させたとしても、育児休業とか適当に理由をつければ、すぐに顧問はいなくなる。どっちにしても廃部にさせるつもりなのか。執念が感じられるな。

 綾子はルーズリーフをまとめた。


 「作戦が上手いな」

 「ありがとうございます」

 「で、私はどのタイミングで廃部にしてやると言えばいい?」

 「なるべく早い方がいいですね。それによって、俺が先生に上玉とのお見合いをセッティングするので」

 「良かろう。なら明日辺りにでも、宣告してやろう」

 

 こうして、拓夫との会話は終わった。

 作戦は名付けて『美人部が廃部なんてしないっ!』だ。我ながら、良いネーミングセンスだと思う。もはや、ライトノベル大賞に応募してやろうかと思うレベル。

 



 ◇




 時は過ぎ、今日の放課後。

 拓夫は綾子が着替えたのを知って、女性教員更衣室にやってきた。その時間は個別カウンセラー室は閉じられていたので、入室を特別に許可した。

 そこで、お見合いをする料亭を調べていた。どれもこれも良かったのだがオッサン臭かった。

 それから、谷中達が現れてきたので、計画がバレるのはマズイと思い、黒樹と坂本を少し弄って外に出た。

 それでもって校門を出たところで、忘れ物に気付き、職員室に戻ったのだ。無事、忘れ物を鞄に入れて、昇降口から出ようとすると、そこには、イケメン五人衆が集まっていた。彼らはここら辺では有名なイケメンだったのだ。元は六人衆だったらしい。

 だが、空気が明らかに悪かった。


 「拓夫。お前少し変じゃないか?」

 「別に普通だ」


 田村 正男と拓夫が言い合っている。


 「間違いなく変だ。前は俺の事殴らなかったのに」

 「それは鷹詩がM気質に目覚めたからだろ」

 

 今度は野村 鷹詩が顔を怒りで曲げている。


 「僕らの邪魔をしようとしてるの?」

 「……」


 可愛い系の荒田 直弘が首を傾げている。

 

 「隠し事は俺らの中では、しないんじゃなかったのか?」

 「……何言ってんだよ。幹が消えた時点で、そんな暗黙の了解など消えたに決まってるだろう」

 「拓夫ッ!」


 近藤 久光の問いかけに、拓夫が自嘲気味に笑う。それに腹を立てた正男が、拓夫の胸倉を掴む。だが、拓夫はそんな正男の顔を見ても、表情を変えなかった。そして、瞳で冷光を放ちながら言った。


 「お前らは、どういうつもりか知らないが、俺が谷中 美樹を手に入れる。そうすれば、美人部などなくても、皆仲良く過ごせるぞ?」

 「お前にだけは美樹さんは渡さない!」

 「俺が一生踏んでもらうんだ!」

 「僕の嫁だ!」

 「俺の二,三次元の彼女だ!」

 

 拓夫一人に対して、言い合う四人。仲が良いと聞いていたのに、今は完全に悪そうだ。

 拓夫は眼鏡をかけなおして、口を開いた。


 「お前らはバカだな。そういうとこも好きだよ。だけどな、好きな女を譲りはしないぞ。俺は利用(・・)できる人間・物は全て使わせてもらう。そして、後悔するんだな。もっと早く谷中さんを落としてれば良かったとな」

 『……』


 性格の悪い笑みをこぼした拓夫は、一人で帰って行った。

 他の四人達も、無言で帰りだしたのだ。

 

 綾子はショックだったのだ。心のどこかで期待していたのだ。今度こそ、本当にお見合いで上玉の彼氏ができるのだと。それをただの利用で終わらせるとは……。それなら当日リア充になって、拓夫を見返してやりたいと強く思った。

 そして、その為には時間がなかった。

 利用できるものはなんでも利用する。その心意気でこっちもやってやろうじゃないか! と燃えた。

 そして、谷中 美樹もとい、中谷 美鈴の元にやってきたのだった。

次からはまた美樹に戻ります。

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