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拓夫と先生が女子更衣室で×××なんてしないっ!

 放課後。今日も梅雨続きで空は暗い。

 さて、本日の部活は皆さん怯えてます。麗は肩を震わせながら、俺の話にしっかりと耳を傾けている。震え過ぎて、携帯電話みたいだ。

 優香も、授業ではないのに、ノートを取り出してしっかりと俺の言葉、語一語を丁寧に書いていく。俺が怖いのか、ペンを走らせる速度が異常過ぎる。

 正男も必死に理解しようと、背筋を伸ばして真面目に聞いていた。

 鷹詩は俺に背負い投げされて、意識を失っている。

 直弘も拓夫も久光も、震えながら話を聞いている。

 

 「さて、では正男さんの意見を聞かせてもらってもいいでしょうか」

 「は、はいっ!」


 直立姿勢で席を立つ正男。俺は隊長かっての。

 もはや、軍人の鏡と言っても過言ではない程、綺麗な敬礼だった。それは俺の背負い投げが効果を上げてるのかもしれない。

 

 「我々は、性別が男でありますから、よく気持ちは分かりませんが、自分がお見合いをするのなら、完璧な所作を踏まえた女性が一番良いと思われます!」

 「そうですか。普通の回答ですね」

 「すいませんでしたっ!」


 頭を綺麗に角度九十度下げる正男。軍人口調なのが気になったが、今はツッコンではダメなのだろう。ちなみに、正男は震えてはいなかった。罰は受けるつもりなのだろう。

 

 「ではお仕置きですね」

 「はいっ!」


 決して喜んでるわけではない。だが、正男はじっと構えてる。こういう所が男らしくてカッコいいなと思ってしまう。

 ……ったくこれがモテ男の理論って奴なのだろうか。

 俺は正男の目の前まで近づく。


 「じゃあ、しますよ?」


 俺は上目づかいで正男を見つめる。俺が正男にとってはどんな表情をしてるのかは、分からない。だが、正男が生唾を飲み込む音が聞こえる。

 やはり怖い物は怖いのか。

 

 「では、皆さんは目をつぶる事を強要します」

 「はい」

 

 目を閉じる正男。他の人達も目をつぶる。余程俺が怖いか。

 静かになる部室に、瞼を上げてるのは俺だけだ。

 俺は正男の頬に顔を近づける。唇を尖らせて目を閉じ、優しく近づける。正男の息使いが聞こえ、俺も心臓の鼓動が高鳴る。

 俺の唇が正男の頬に触れそうになる。


 「……」

 「……」


 正男が目を開ける。

 小声で俺に告げる。


 「……美樹さん。俺は一人だけ抜け駆けする事は親友達には申し訳なくて、出来ないです……」

 「ふふ。分かってますよ。お仕置き(●●●●)ですから」

 「え?」

 

 その瞬間、麗の疾風の如き拳が正男の頬に走る。

 正男の頬を麗の拳が減り込む。渾身の力を込めた麗のパンチは、正男の身体を軽々と吹き飛ばした。正男は床に頭を打って意識を失ったようだ。

 拳を放った麗は、俺にキリッと視線を移す。


 「大丈夫か! 美樹!!」

 

 血相を変えて、麗が俺の両肩を掴んでくる。心配してくれてるのだろう。普通心配するのは逆だろう。

 まぁ、俺も正男には罰で、唇を頬に近づけるだけという悶絶プレイをしたまでだが。結果、正男に諭されてしまった。正男がまさか俺のほっぺにちゅーを拒むとは予想外であった。

 

 「それでは麗もお仕置きですね」

 「……はい?」

 

 麗は首を傾げていた。

 俺はにこやかに笑って、麗を見つめた。




 ◇




 「これで私の収穫はお終いです」

 

 俺は女将さんから聞いた話を余すところなく話した。結果、皆が疲れ果てた。鷹詩は終始寝ていた。寝ていると気付いたのは、途中寝息が聞こえたからだ。まったくどうしようもない。

 ちなみに、一番疲れているのはきっと麗だと思う。

 現在の麗は机に突っ伏して、溜息を吐いてる。


 「はぁぁああああああああああ! 美樹! 何で私に罰を与えたのだ!!」

 「だって、途中で目を開けたじゃないですか」

 「そ、それでも、この仕打ちは酷いぞ!!」


 麗が必死に抗議してくる。

 麗に与えた罰は、座る位置を変えただけだ。麗がお仕置きを食らったのは、正男のお仕置き中に目を開けてしまったからだ。そして、その刑は周りを男の席で固めるという、男嫌い(断定はまだできない)である筈の麗には一番効くと思ったからだ。

 途中で意識を戻し、頬に赤い跡を付けた正男と、直弘、鷹詩、拓夫に囲まれて、俺の話に参加してもらった。

 現在の麗の頬は疲れ切って、痩せこけているようにも見える。


 「まぁまぁ。さすがに酷すぎたかもしれませんね」

 「美樹に謝罪を要求するッ!」

 「すいません。今度は鷹詩さんも起こして五人に囲ませますね」

 「な、何で増えるんだ!」

 「それでは、クラスメイトでも呼びましょうか?」

 「最近の美樹は意地悪だなぁ……」

 

 麗が唇を尖らせて、拗ねた。俺も伊達眼鏡と指棒を鞄にしまい、いつものテンションに戻る。(のち)に俺が伊達眼鏡を付けるときは、美人スパルタモードと呼ばれるようになるのは別の話。

 各自、帰りの支度をする美人部メンバー。

 とりあえず、綾子には女性らしい所作を覚えてもらう事が初めになったな。帰りに職員室にでも寄って行くか。

 俺は鞄を持って、一人で部室を出る。


 「それでは皆さん。また明日」

 「ま、待って美樹!」

 「あ、あたしも!」


 麗と優香が急いで、帰りの支度を済ませて俺についてきた。二人はそのまま後方を歩き、俺に問いかけてくる。

 

 「美樹。どこに向かうのだ」

 「あたしも知りたい!」

 「これから、ちょっと先生に会いに行くだけですよ」

 

 俺がそう言うと、二人は渋い顔をした。

 廊下を歩くと、先を歩く拓夫の姿が見えた。拓夫は何やら急いでどこかへ向かっている様子だ。方向的に、恐らく俺らと同じ場所だろう。

 麗と優香は顔を合わせて、首を傾げていた。

 

 「……ちょっと後を追ってみますか?」

 「そうだな」

 「そうしましょ」

 

 二人と意見が合致し、俺らはなるべく忍び足で拓夫の後を走る。

 辿り着いたのは一階。つまり、職員室のある階。そこで証明が点灯している教室へと足を運ぶ。

 だが、予想とは反して、拓夫が入ったのはとある教室だった。


 「……ここって」

 「……」


 麗が声をもらす。優香は黙って教室のネームプレートを確認する。

 天井付近についてある白い板の教室ネームは『女性教員更衣室』。ここに拓夫は何の迷いもなく入って行った。

 俺は生唾を飲み込み、まさか、拓夫がこの教室で何かやらかしてはいないか心配する。いや、でも拓夫はむっつりスケベだからな……。

 

 『ここが好きなんじゃないですか?』

 『ああっ! そこいいっ!』

 

 更衣室から聞こえてくるのは若い男女の声。間違いなく、拓夫と綾子の物だ。これって、俺らは教師と生徒の禁断の愛を目撃したってことになるのか!?

 麗と優香は颯爽と扉に駆け付け、聞き耳を立てる。

 俺を手招きする二人。とりあえず、ここで突っ立っていても仕方がないので、俺も更衣室に近づき、聞き耳を同じように立てた。

 

 『先生って意外とありますね』

 『そうか? 別に普通だと思うぞ?』

 『でも、こことか……』

 『あっ! そこはダメ!』

 『ここなんかは……』

 『そこ良い!』

 

 怪しげなやり取りが繰り広げられる。

 麗と優香の両者は息が荒い。この二人って意外とエロいの好きなんだよな。でも、拓夫と違って隠したりしないのは、どうなのだろうか。一応、女の子なんだから隠せと言いたくなる。

 ……しかし、更衣室で拓夫は何をしてるんだ?


 『じゃあ次は先生からで』

 『んふっ! いいのかな?』

 『どうぞ。俺はいつでも』

 『じゃあ……ここは?』

 『ッ……いいですね……』

 『んー……中々良い感じね』

 『そんなことないですッ!』

 『じゃあ、ここ何で大きいのかな?』

 『何ででしょうね……』

 『ちょっとイってみたいわ』

 『でも、自分の方が早いですよ?』

 『そのときは、私の事もお願い!』

 『はぁ……わかりましたよ』

 『ん。頼むよ?』

 

 段々会話があっち方向にしか聞こえなくなった。これはまずくないか? そろそろ止めに入った方が……。

 俺はそこで、麗と優香の顔を見ると、二人ともだらしなく涎を垂らして、会話に華を咲かせている。といっても聞いてるだけだけど。脳内ピンク色過ぎるだろう。

 

 「お二人とも?」

 「ひゃあぁいいい」

 「にゃあにぃいい?」

 

 ダメだ。呂律が回ってない。これ以上聞き耳を立てるのはマズそうだな。

 俺は意を決して、扉を豪快に開けた。

 

 「お、谷中じゃないか」

 「谷中さんどうしたんですか?」

 

 裸ではなく、制服の拓夫と私服姿の綾子がそこにはいた。

 これは……どういうことだ? 二人は大人の階段を上っていたのではないのか!?

 俺が驚いた顔をしていたのだろう。それを察して、拓夫が説明してくれた。

 

 「ちょっと、お見合いをする料亭を選んでて。それで、あれこれ進めてみたんだ」

 「でも、井草の選ぶ所って妙にオジサン臭くてな。後の二人も含めて意見が欲しいな」

 

 綾子が口端を吊り上げながら、俺の後方にいる麗と優香を見つめた。二人は観念したようで、後からゆっくりと更衣室に入ってきた。 

 二人とも、残念なような良かったような、微妙な顔をしている。

 

 「お前らは何を盗み聞きしたかったんだ? ん?」

 「いえ……」

 「何でもないわ……」


 綾子は二人が何をしていたのか察したのだろう。さすがは一応教師である。ただ、そういう所が結婚から遠退いてる一つの理由である事が分からないかな~。

 綾子は鼻で軽く笑い、更衣室を出ようとした。

 そのとき、優香と麗に耳打ちをしていた。俺も近くにいたので聞き取れた。

 

 『お前ら、私と井草の会話でエロい事してると思ったんだろう? お盛んな時期だねぇ~』

 

 綾子が耳打ちをすると、麗と優香の顔が同時に郵便ポストのような赤色に染まる。今にも湯気が出そうだ。そして二人は図星であるために、何も言い返せなかった。

 綾子は「それじゃ」とだけ言い残し、帰って行った。

 麗と優香は、両拳を震わせている。拓夫は二人に興味がないようで、料亭の特集を読んでいる。


 「……あんの性悪女がぁあああ! 絶対にゆるさないっ!」

 「……何よっ! あんな奴に結婚相手なんて一生できるわけないじゃないっ!」


 二人ともご立腹のようで、怒りを露わにしていた。

 ついでに言えば、俺は綾子に今日決まった方針を伝えようと思ったのだが、帰ってしまったな。ま、担任だから、明日でもいいか。

  

 「二人とも、帰りますよ?」

 『絶対に許さないっ!』

 

 二人の怒声は夕暮れにハモったのだった。

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