麗男は友達を作ったりなんてしないっ!
俺達美人部の面々は、久光の持ってきた友達作りシュミレーションゲームである『友人の作り方!』をプレイ中だ。
ソファには麗が真ん中に座り、麗の隣にはそれぞれ俺と優香が座っている。男五人はソファの後で立って見ている。
麗は物語を進めて行き、やがて次の場面に入る。
『(ここが一年A組か~。可愛い女子もいるし、男子達も……うん。仲良く出来そうだ!)』
「ふん。麗男は女子が好きなのか、男子が好きなのかハッキリしてほしいな」
「多分、前者よね……」
麗の呟きに優香が反応する。
確かにどっちつかずで、結局はこれハーレムエンドもあるんじゃないか?
ディスプレイには教室の画面が映っている。そこで、拓夫似のイケメンが現れた。
『やぁ、はじめまして。これから一年間、仲良くしよう!』
『(うわ~カッコいいな~。よしっ! ここは俺も気合を入れて挨拶!)』
ここで選択肢が現れる。
①は、はじめまして! 君カッコいいね!
②おぅ、あんちゃん勝手に話しかけんなよ
③死ね。イケメン
「これって最初の選択肢で性格決まるのか?」
「そうだね。俺も何回かプレイしてみたけど、最初の選択肢は結構重要だったりするんだよ」
後で拓夫と久光が話してる。
どうやら最初に出現する選択肢によって、これから出てくる選択肢も決まるわけだ。少し面白そうだな。
俺と優香が見守る中、麗は迷わずに③を押した。
『あ……うん、ごめんね……』
『(ああいう奴マジで死んでほしいんだけど)』
拓夫似のイケメンは姿を消した。
麗は若干嬉しそうだ。何で友達作るゲームなのに、現れる男という男を弾いて行くのか分からない。
「麗? 何で③にしたんですか? このゲームの趣旨分かってますよね?」
「うむ。麗男はこの友情学校の頂点に君臨させ、向こうから友達になってくれと言わせるのだ!」
「……それってバッドエンドじゃない?」
「黙れ牛女。私の自由だ。麗男の人生は私が決める」
優香は麗に罵られ、若干唇を尖らせたが、俺が微笑むと通常の表情に戻った。
頂点ってまさか不良系のか? 麗ってそういうのに憧れてるんだな。
次の場面では、クラスで一番人気のある女子生徒が映し出された。
黒髪で長く、おしとやかな雰囲気を持ち、巨乳である。というか、俺に似ている。
「これを谷中さんに見せたかったんだー!」
「それで久光は、俺に来いって言ってたのか……」
久光が嬉しそうに画面に人差し指を向ける。拓夫は溜息を吐いていた。
これを見せる為だけに本当は持ってきたのだな。
意味が分からない男だ。
「確かに似てるね! 美樹ちゃんのが数倍可愛いけど!」
「ありがとうございます。優香」
優香も驚いている。それほどまでに似てるのか。
というか、麗は一言もしゃべらずに画面を凝視している。顎に手を当てて難しい表情だ。
そして、ボタンを押して次へと進んだ。
『麗男君、おはようございます。高校でも同じクラスですね。何かあったら言ってください』
『(わぁ~良かった美樹子さんと一緒のクラスかぁ……これならまだ友達作れそうだぞ!)』
美樹子を背景に新たに選択肢が現れた。
①押忍!
②近寄るな雌豚。
③俺の許嫁にしてやるっ
麗の指の動きはスムーズで③を即効押した。
何やってるの!? これって友人作るゲームでしょ?
後の方で男達が、首を縦に振って納得している。麗の左隣の優香ですら頷いてる。俺だけが理解できてない状態なのは明白だ。
このゲームのジャンル分かってるのかな。
「これはいい選択です部長!」
「美樹子さんに踏んでもらいたいですよね!」
「僕も③を押してくれると信じていました!」
「悪くない選択だ」
「まぁ確定的ですよね!」
「ふん、あんたにしちゃあ上出来じゃない!」
「だろう? 私達にとっては当たり前の選択肢だな!」
「……皆さん、興奮してるところ悪いんですが、ついて行けません……」
正男、鷹詩、直弘、拓夫、久光、優香は大興奮状態。麗も分かってるなコイツらって顔をしてる。俺だけなんか置いてかれた気分だ。
皆がどこか遠くへ行ってしまったような気がした。
そして、画面は切り変わる。
美樹子は画面越しの俺らを睨んで、人差し指を立てていた。
『何言ってるんですか? 私には立派な婚約者がいるって中学の時言ってましたよね?』
『あ、あははは……冗談だよ冗談(誰だよ! 今すぐ殺してやる!)』
それから美樹子の姿は消える。
その瞬間、部員全員の口から魂が抜けて行った。俺以外の全員がもう死んでるようだ。
仕方がないので、俺は携帯を開いて攻略サイトを開く。
攻略キャラに美樹子が書いてあった。
「……どうやら、並みの攻略では美樹子は落ちないみたいですね」
「……さすがは美樹子。やはり侮れないな!」
麗は起き上がり、再びプロステぽ~たぶるを手にした。
そして、ソファから立ち上がり、麗は高らかに叫んだ。
「私は美樹子を攻略してみせるっ!!」
「さすが部長っす!」
「麗様さすがです!」
「美樹子は僕の嫁!」
「応援してるぞ!」
「頑張ってね!」
「あたしも応援するわ!」
全員から惜しみない拍手が麗に贈られた。
そして、ついていけなくなった俺はそのまま、待機することにした。
物語は進んで、内面パラメータ表が現れた。
項目は五つあって、勉強、運動、トーク、外見、性格の柔らかさなどが出てきた。この項目は友人を作る上で必要不可欠であり、高校三年間を通して上げて行く。
「さて……では、まず美樹子と付き合うには、どれが必要だと思う」
「俺は断然外見だと思います」
「ふむ、ゴリ男にしてはマシな意見だ」
「あざっす!」
麗は外見を選択した。
これにより、一週間で外見を磨く為の作業を麗男はするそうだ。
そして、またイベントは発生する。
自己紹介だ。
『(クラスの奴らは、ほとんど打ち解けられたみたいだな)』
『さ、自己紹介を始めるぞ! ではまず黒樹君から』
選択肢が急に現れた。
①俺に名前を聞く前に、自分から名のりな!
②ここのテッペンをシメる黒樹だ! 夜露死苦~!
③今から皆さんで殺し合いをしてもらいます。
麗はニヤけ、②を選択する。
また舐められたらお終いとか考えてるんだろうか
『ここのテッペンをシメる黒樹だ! 夜露死苦~!』
『……』
『(後日、俺の自己紹介を笑った奴らを病院送りにしてやった)』
「麗? 麗男君友達出来なさそうですけど」
「そうか? 私のシナリオだと完璧だ」
「それのどこが完璧なんですか!? 病院送りって異常ですよ?」
「このクラスで誰が一番強いのかを明確にしなければならない。それはこの世の鉄則だ」
「いりませんよね!」
麗は次々と選択肢を不良系に進める。
外見パラメーターは最大値にまで上がった。外見で美樹子を釣るつもりなのだろうか。俺はそんなんじゃ落ちないぜ?
結局ストーリーは文化祭まで進んだのだが、麗男には友達がいなかった。そして、ついに不良という不良を全て倒した。
麗は嬉しそうに文化祭に臨んだのだが、結局友達もいない麗男は喧嘩に明け暮れ終わった。
そこまでしたところで、教室に生活指導の先生が入ってきた。
「お前ら! 今何時だと思ってるんだ!!」
俺らは長らく麗のゲームを見ていたせいか、時間を忘れていた。
完全下校時刻は六時半。現在時刻七時半。これはやってしまった。
麗は生活指導の男に軽く舌打ちをした。その目つきを見た生活指導の男は怯む。
麗男を育ててるうちに、麗も反面教師で不良になったのだろうか。
俺は溜息を吐いて、先生の前にまで来た。
生活指導の先生はテンプレの通り、髭を生やして角刈りのジャージ姿の厳ついオッサン。
こういう男は一緒モテ期が来ないんだろうなと俺はふと思った。ならば夢を見させてやろうではないか。
「すいません。この時間まで部室にいれば先生に会えると思ってたんです……」
その言葉を聞いた全員が、驚愕する。
まぁ待て落ち着け。俺は何もオッサンとキスとかするつもりはないから。
生活指導の男は照れ隠しに揉みあげを、ポリポリと掻いていた。
「お、俺に……? で、でもダメだ! 俺は教師でお前は……」
「ふふふ。先生って意外とハンサムですよね。この前、麗が言ってましたよ?」
生活指導の男は麗に視線を向ける。
その麗は邪険な表情をとり、生活指導の男は再び俺の顔を見つめる。
「ほ、本当なのか?」
「それは、どうでしょうか? 私だって人間です。嘘くらいつきますよ?」
俺は生活指導の男に、上目づかいでウィンクし、口元に人差し指を当てた。
姉直伝・年上に対しての対処だ。
一瞬で年上のジジイを撒ける。
効果は抜群で、生活指導の男は顔をひいた。そして、その顔色は郵便ポストのように真っ赤だ。
「ふ、ふふ……谷中は面白いな……」
「先生顔が赤いですよ?」
「き、気にするなぁああああああああ! お、お前ら早く帰るんだぞ!!」
そう言って生活指導の男は消えた。
部室を出て走ったのだが、どこに向かったのだろうか。
「さて、帰るとするか」
『は~い』
麗の言葉に皆が返事をした。
そこで本日の部活は終了した。
家に帰ると、既に晩御飯が用意されていた。
今日は母がいなく、姉が料理したという。
でてきたのは、肉じゃが。この料理は人により特徴が出てくるので難しい。俺も母の味に近づけたいとは思っているのだが、中々難しいのだ。
食卓には既に冷酒を飲んでいる父と、ラノベを読んでいる兄と、食事を用意してくれた姉が座っている。
「ささっ、冷めないうちに食べちゃいましょう!」
「そうだな」
姉の号令に合わせ、いただきますを復唱する。
そして、俺はふと気になった事を姉に聞きたくなった。
「なぁ、姉ちゃん」
「何」
俺が幹モードだと明らかさまに機嫌が悪くなる我が家の姉。
その瞳は、何で幹なんだよと言っている。
このままだと質問にも答えてくれそうにないので、美樹モードに変更した。
「あの、私ってどうして高校入れたんですか?」
俺の質問を受けると、姉は食事の手を止めて箸を置いた。
それは兄も父も一緒だった。
そして、三人は机の上に両拳を震わせていた。
『美樹たんキタ――――――――――!!』
三人は席を立ちあがり、お祭り騒ぎ。
何なのコレ。俺が素だとイケないの!?
「さぁ、俺をおにいたんと呼んでくれ!!」
「お、俺の事も、と、父様ってよんでほちぃな」
「お帰り美樹たんっ! いっぱい作ってあるから沢山食べてね!」
「……」
態度が百八十度違い過ぎる。
さっきまでは殺伐とした空気だったのに、何で今はこんなどんちゃん騒ぎなわけ? 普段だったら、素でも何も言わないのに。
「母さんがいるときは、『幹は家でしか、男でいられないから、素にさせてあげて』って言われていたが、やっぱり美樹のほうがいい!!」
「美樹たん、今日一緒におにいたんとお風呂に入ろう?」
「何言ってんの満! 美樹たんとお風呂に入るのはあたしじゃボケー!!」
こ、これでは収拾がつかない。
俺はついつい素に戻って声を上げてしまった。
「いい加減にしろ!」
すると、三人のテンションが異常に低くなり、ご飯を作業の如く口に運びだした。
もう、これ俺に失礼過ぎない? っていうか、母さんは何気に俺の事尊重してくれてたんだ。これは嬉しい。涙が出てしまいそう。
これでは姉に聞きたい事も聞けないので、俺は姉が部屋に戻るまで待った。
結局食卓は、もはや葬儀のようだった。空気が重いし暗い。
俺が男なだけで溜息吐かれるってどういう事?
姉は食器を洗い終えた後、自室に向かった。
俺はそれを追って、姉が部屋に入る前に声をかけた。
「待ってください、お姉さん」
姉の顔が、輝きだす。
そして、目にも止まらぬ早さで抱きついてきた。
「美樹たん! 何何? 何かあるのー!? 何でも聞いてよ! お姉ちゃんのスリーサイズ? 計りっこしようか!」
「お姉さん落ち着いてください! あの、何で私は高校に入学できたのですか?」
俺の質問を聞いた姉は、俺から一度離れた。
そして、姉は部屋に一度入り、ある物を取ってきた。
「これ見れば分かると思うよ!」
「はぁ……ってこれって!」
姉に踏まれてる綾子の写真がアルバムにあった。
もしかして、綾子って姉の奴隷的ポジションだったのか?
となると、俺を入学させてくれたのは綾子のおかげなんだな。
俺の中で綾子の株が上がった。




