表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/142

麗男は友達を作ったりなんてしないっ!

 俺達美人部の面々は、久光の持ってきた友達作りシュミレーションゲームである『友人の作り方!』をプレイ中だ。

 ソファには麗が真ん中に座り、麗の隣にはそれぞれ俺と優香が座っている。男五人はソファの後で立って見ている。

 麗は物語を進めて行き、やがて次の場面に入る。

 

 『(ここが一年A組か~。可愛い女子もいるし、男子達も……うん。仲良く出来そうだ!)』

 「ふん。麗男は女子が好きなのか、男子が好きなのかハッキリしてほしいな」

 「多分、前者よね……」


 麗の呟きに優香が反応する。

 確かにどっちつかずで、結局はこれハーレムエンドもあるんじゃないか?

 ディスプレイには教室の画面が映っている。そこで、拓夫似のイケメンが現れた。


 『やぁ、はじめまして。これから一年間、仲良くしよう!』

 『(うわ~カッコいいな~。よしっ! ここは俺も気合を入れて挨拶!)』

 

 ここで選択肢が現れる。

 ①は、はじめまして! 君カッコいいね!

 ②おぅ、あんちゃん勝手に話しかけんなよ

 ③死ね。イケメン

 

 「これって最初の選択肢で性格決まるのか?」

 「そうだね。俺も何回かプレイしてみたけど、最初の選択肢は結構重要だったりするんだよ」

 

 後で拓夫と久光が話してる。

 どうやら最初に出現する選択肢によって、これから出てくる選択肢も決まるわけだ。少し面白そうだな。

 俺と優香が見守る中、麗は迷わずに③を押した。


 『あ……うん、ごめんね……』

 『(ああいう奴マジで死んでほしいんだけど)』

 

 拓夫似のイケメンは姿を消した。

 麗は若干嬉しそうだ。何で友達作るゲームなのに、現れる男という男を弾いて行くのか分からない。

 

 「麗? 何で③にしたんですか? このゲームの趣旨分かってますよね?」

 「うむ。麗男はこの友情学校の頂点に君臨させ、向こうから友達になってくれと言わせるのだ!」

 「……それってバッドエンドじゃない?」

 「黙れ牛女。私の自由だ。麗男の人生は私が決める」

 

 優香は麗に罵られ、若干唇を尖らせたが、俺が微笑むと通常の表情に戻った。

 頂点ってまさか不良系のか? 麗ってそういうのに憧れてるんだな。

 次の場面では、クラスで一番人気のある女子生徒が映し出された。

 黒髪で長く、おしとやかな雰囲気を持ち、巨乳である。というか、俺に似ている。

 

 「これを谷中さんに見せたかったんだー!」

 「それで久光は、俺に来いって言ってたのか……」


 久光が嬉しそうに画面に人差し指を向ける。拓夫は溜息を吐いていた。

 これを見せる為だけに本当は持ってきたのだな。

 意味が分からない男だ。


 「確かに似てるね! 美樹ちゃんのが数倍可愛いけど!」

 「ありがとうございます。優香」


 優香も驚いている。それほどまでに似てるのか。

 というか、麗は一言もしゃべらずに画面を凝視している。顎に手を当てて難しい表情だ。

 そして、ボタンを押して次へと進んだ。


 『麗男君、おはようございます。高校でも同じクラスですね。何かあったら言ってください』

 『(わぁ~良かった美樹子さんと一緒のクラスかぁ……これならまだ友達作れそうだぞ!)』

 

 美樹子を背景に新たに選択肢が現れた。

 ①押忍!

 ②近寄るな雌豚。

 ③俺の許嫁にしてやるっ

 麗の指の動きはスムーズで③を即効押した。

 何やってるの!? これって友人作るゲームでしょ?

 後の方で男達が、首を縦に振って納得している。麗の左隣の優香ですら頷いてる。俺だけが理解できてない状態なのは明白だ。

 このゲームのジャンル分かってるのかな。

 

 「これはいい選択です部長!」

 「美樹子さんに踏んでもらいたいですよね!」

 「僕も③を押してくれると信じていました!」

 「悪くない選択だ」

 「まぁ確定的ですよね!」

 「ふん、あんたにしちゃあ上出来じゃない!」

 「だろう? 私達にとっては当たり前の選択肢だな!」

 「……皆さん、興奮してるところ悪いんですが、ついて行けません……」


 正男、鷹詩、直弘、拓夫、久光、優香は大興奮状態。麗も分かってるなコイツらって顔をしてる。俺だけなんか置いてかれた気分だ。

 皆がどこか遠くへ行ってしまったような気がした。

 そして、画面は切り変わる。

 美樹子は画面越しの俺らを睨んで、人差し指を立てていた。

 

 『何言ってるんですか? 私には立派な婚約者がいるって中学の時言ってましたよね?』

 『あ、あははは……冗談だよ冗談(誰だよ! 今すぐ殺してやる!)』

 

 それから美樹子の姿は消える。

 その瞬間、部員全員の口から魂が抜けて行った。俺以外の全員がもう死んでるようだ。

 仕方がないので、俺は携帯を開いて攻略サイトを開く。

 攻略キャラに美樹子が書いてあった。

 

 「……どうやら、並みの攻略では美樹子は落ちないみたいですね」

 「……さすがは美樹子。やはり侮れないな!」

 

 麗は起き上がり、再びプロステぽ~たぶるを手にした。

 そして、ソファから立ち上がり、麗は高らかに叫んだ。

 

 「私は美樹子を攻略してみせるっ!!」

 「さすが部長っす!」

 「麗様さすがです!」

 「美樹子は僕の嫁!」

 「応援してるぞ!」

 「頑張ってね!」

 「あたしも応援するわ!」


 全員から惜しみない拍手が麗に贈られた。

 そして、ついていけなくなった俺はそのまま、待機することにした。

 物語は進んで、内面パラメータ表が現れた。

 項目は五つあって、勉強、運動、トーク、外見、性格の柔らかさなどが出てきた。この項目は友人を作る上で必要不可欠であり、高校三年間を通して上げて行く。

 

 「さて……では、まず美樹子と付き合うには、どれが必要だと思う」

 「俺は断然外見だと思います」

 「ふむ、ゴリ男にしてはマシな意見だ」

 「あざっす!」


 麗は外見を選択した。

 これにより、一週間で外見を磨く為の作業を麗男はするそうだ。

 そして、またイベントは発生する。

 自己紹介だ。

 

 『(クラスの奴らは、ほとんど打ち解けられたみたいだな)』

 『さ、自己紹介を始めるぞ! ではまず黒樹君から』

 

 選択肢が急に現れた。

 ①俺に名前を聞く前に、自分から名のりな!

 ②ここのテッペンをシメる黒樹だ! 夜露死苦~!

 ③今から皆さんで殺し合いをしてもらいます。

 麗はニヤけ、②を選択する。

 また舐められたらお終いとか考えてるんだろうか


 『ここのテッペンをシメる黒樹だ! 夜露死苦~!』

 『……』

 『(後日、俺の自己紹介を笑った奴らを病院送りにしてやった)』

 

 「麗? 麗男君友達出来なさそうですけど」

 「そうか? 私のシナリオだと完璧だ」

 「それのどこが完璧なんですか!? 病院送りって異常ですよ?」

 「このクラスで誰が一番強いのかを明確にしなければならない。それはこの世の鉄則だ」

 「いりませんよね!」


 麗は次々と選択肢を不良系に進める。

 外見パラメーターは最大値にまで上がった。外見で美樹子を釣るつもりなのだろうか。俺はそんなんじゃ落ちないぜ?

 結局ストーリーは文化祭まで進んだのだが、麗男には友達がいなかった。そして、ついに不良という不良を全て倒した。

 麗は嬉しそうに文化祭に臨んだのだが、結局友達もいない麗男は喧嘩に明け暮れ終わった。

 そこまでしたところで、教室に生活指導の先生が入ってきた。

 

 「お前ら! 今何時だと思ってるんだ!!」

 

 俺らは長らく麗のゲームを見ていたせいか、時間を忘れていた。

 完全下校時刻は六時半。現在時刻七時半。これはやってしまった。

 麗は生活指導の男に軽く舌打ちをした。その目つきを見た生活指導の男は怯む。

 麗男を育ててるうちに、麗も反面教師で不良になったのだろうか。

 俺は溜息を吐いて、先生の前にまで来た。

 生活指導の先生はテンプレの通り、髭を生やして角刈りのジャージ姿の厳ついオッサン。

 こういう男は一緒モテ期が来ないんだろうなと俺はふと思った。ならば夢を見させてやろうではないか。

 

 「すいません。この時間まで部室にいれば先生に会えると思ってたんです……」

 

 その言葉を聞いた全員が、驚愕する。

 まぁ待て落ち着け。俺は何もオッサンとキスとかするつもりはないから。

 生活指導の男は照れ隠しに揉みあげを、ポリポリと掻いていた。

 

 「お、俺に……? で、でもダメだ! 俺は教師でお前は……」

 「ふふふ。先生って意外とハンサムですよね。この前、麗が言ってましたよ?」

 

 生活指導の男は麗に視線を向ける。

 その麗は邪険な表情をとり、生活指導の男は再び俺の顔を見つめる。


 「ほ、本当なのか?」

 「それは、どうでしょうか? 私だって人間です。嘘くらいつきますよ?」

 

 俺は生活指導の男に、上目づかいでウィンクし、口元に人差し指を当てた。

 姉直伝・年上に対しての対処だ。

 一瞬で年上のジジイを撒ける。

 効果は抜群で、生活指導の男は顔をひいた。そして、その顔色は郵便ポストのように真っ赤だ。

 

 「ふ、ふふ……谷中は面白いな……」

 「先生顔が赤いですよ?」

 「き、気にするなぁああああああああ! お、お前ら早く帰るんだぞ!!」


 そう言って生活指導の男は消えた。

 部室を出て走ったのだが、どこに向かったのだろうか。

 

 「さて、帰るとするか」

 『は~い』

 

 麗の言葉に皆が返事をした。

 そこで本日の部活は終了した。

 

 


 家に帰ると、既に晩御飯が用意されていた。

 今日は母がいなく、姉が料理したという。

 でてきたのは、肉じゃが。この料理は人により特徴が出てくるので難しい。俺も母の味に近づけたいとは思っているのだが、中々難しいのだ。

 食卓には既に冷酒を飲んでいる父と、ラノベを読んでいる兄と、食事を用意してくれた姉が座っている。

 

 「ささっ、冷めないうちに食べちゃいましょう!」

 「そうだな」


 姉の号令に合わせ、いただきますを復唱する。

 そして、俺はふと気になった事を姉に聞きたくなった。

 

 「なぁ、姉ちゃん」

 「何」

 

 俺が幹モードだと明らかさまに機嫌が悪くなる我が家の姉。

 その瞳は、何で幹なんだよと言っている。

 このままだと質問にも答えてくれそうにないので、美樹モードに変更した。 


 「あの、私ってどうして高校入れたんですか?」

 

 俺の質問を受けると、姉は食事の手を止めて箸を置いた。

 それは兄も父も一緒だった。

 そして、三人は机の上に両拳を震わせていた。

 

 『美樹たんキタ――――――――――!!』


 三人は席を立ちあがり、お祭り騒ぎ。

 何なのコレ。俺が素だとイケないの!?

 

 「さぁ、俺をおにいたんと呼んでくれ!!」

 「お、俺の事も、と、父様ってよんでほちぃな」

 「お帰り美樹たんっ! いっぱい作ってあるから沢山食べてね!」

 「……」


 態度が百八十度違い過ぎる。

 さっきまでは殺伐とした空気だったのに、何で今はこんなどんちゃん騒ぎなわけ? 普段だったら、素でも何も言わないのに。

 

 「母さんがいるときは、『幹は家でしか、男でいられないから、素にさせてあげて』って言われていたが、やっぱり美樹のほうがいい!!」

 「美樹たん、今日一緒におにいたんとお風呂に入ろう?」

 「何言ってんの満! 美樹たんとお風呂に入るのはあたしじゃボケー!!」


 こ、これでは収拾がつかない。

 俺はついつい素に戻って声を上げてしまった。


 「いい加減にしろ!」

 

 すると、三人のテンションが異常に低くなり、ご飯を作業の如く口に運びだした。

 もう、これ俺に失礼過ぎない? っていうか、母さんは何気に俺の事尊重してくれてたんだ。これは嬉しい。涙が出てしまいそう。

 これでは姉に聞きたい事も聞けないので、俺は姉が部屋に戻るまで待った。


 結局食卓は、もはや葬儀のようだった。空気が重いし暗い。

 俺が男なだけで溜息吐かれるってどういう事?

 姉は食器を洗い終えた後、自室に向かった。

 俺はそれを追って、姉が部屋に入る前に声をかけた。


 「待ってください、お姉さん」

 

 姉の顔が、輝きだす。

 そして、目にも止まらぬ早さで抱きついてきた。


 「美樹たん! 何何? 何かあるのー!? 何でも聞いてよ! お姉ちゃんのスリーサイズ? 計りっこしようか!」

 「お姉さん落ち着いてください! あの、何で私は高校に入学できたのですか?」

 

 俺の質問を聞いた姉は、俺から一度離れた。

 そして、姉は部屋に一度入り、ある物を取ってきた。

 

 「これ見れば分かると思うよ!」

 「はぁ……ってこれって!」


 姉に踏まれてる綾子の写真がアルバムにあった。

 もしかして、綾子って姉の奴隷的ポジションだったのか?

 となると、俺を入学させてくれたのは綾子のおかげなんだな。 

 俺の中で綾子の株が上がった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ