虐めする人を許したりなんてしないっ!
優香の顔色は分からない。
けれど、身体の震え、俯き具合で何を物語っているのか用意に分かる。優香はビッチ共に虐められている。そして、何も言い返せない辺り、その推測は恐らく確信に近いものだろう。
俺は優香の前に出て、ビッチ共を睨んだ。
「あなた達。そうやって人をバカにするのはどうかと思いますが」
「ハァ? ってもしかして、谷中 美樹さん!?」
ビッチCが驚いて俺を見つめる。他のビッチ共も同じ反応。感激の声を洩らしている所悪いが、今の俺は怒っているのだぞ? 空気ぐらい読めよ。
空気を察した拓夫と久光はビッチ共の騒ぎを控えさせようと、再びオロオロし始めた。無理もない。この二人は典型的な仲裁には向いてないタイプだ。
喧嘩も知らない程仲の良かった俺達五人で一、二位を争う程の優男――それが井草 拓夫と近藤 久光。だから、今は俺の知る二人のままで居てくれていい。
「はじめまして。そうです。私が谷中 美樹です」
「え~本物だ! 凄い美人だ!!」
「友達になりた~い」
ビッチ共が俺を前にキャーキャー騒いでる。俺は有名人か。いや、有名人か。
それはともかく、俺は虐めをするような低俗な人間は嫌いなんだ。お前らと友達なんて願い下げだ。
「あの……LINEしませんか?」
「嘘! あたしも!!」
「いい加減になさいっ!」
俺に詰め寄るビッチに声を上げる。
周りのお客さんも店員さんも俺の方へ視線を集める。
それほどまでに声は通ったし、大きかったと思う。
だが、周りを気にしていてはコイツらに虐めをすることの哀れさを伝えられない。
俺は溜息を小さく吐いてから、ビッチEに近づいた。
「あなた、坂本さんの事、牛女って言いましたよね?」
「は、はい……」
ビッチEは涙目だ。他のビッチ共も口を開けポカーンとしている。
二人のイケメンも同じく呆然としている。
「あなたには、坂本さんが雌の牛に見えるんですか!?」
「え……、その……だって……胸が――」
「そうやって、人に優劣をつけるのですか? あなたよりも身体的に優れている彼女を傷つけて楽しいのですか? それとも、自分よりも優れてるからという妬みですか? どちらにしろ愚かな考えですね。惨め過ぎます。あなたの人間性が底辺だと、すぐに分かりましたよ」
ビッチEは歯を食いしばりながら、瞳を伏せた。
そして、残りのビッチ共四人を俺は睨む。
「あなた達は集団で個々を虐める最低な人間です。見たところ、全員身体的なスペックは坂本さんより遥かに劣っていますね。妬みですか? それとも自分が普通で彼女が異常だと自分の心に言い聞かせる為の保険ですか? 両者ともくだらない考えですね。あなた達は見た目以上に心が腐ってますね。ここで選択肢をあげましょう。今すぐ、ここで土下座して坂本さんに謝るか、二度と坂本さんと関わらないかのどちらか。さぁ選んでください」
俺の発言は長々と続いた。
ビッチ共は全員で固まり、俺を敵視する。
だが、この空間にビッチ共の味方はゼロ。今や、逆ナンした拓夫と久光も、いつの間にか俺と優香の方へと寄ってきている。
『……』
「答えないのなら仕方ありませんね。無理矢理土下座させてあげましょうか?」
俺は出来る限りで一番の脅し笑顔を作った。
それを見たビッチ共は涙目になって、後退り始める。
「み、皆行こう……」
「う、うん……」
途轍もなく気マズそうに五人のビッチはファーストフード店から退店した。
それから五秒間くらい間をおいてから、拍手の嵐が巻き起こった。
店員さんもお客さんも俺に向け拍手を送る。
俺、店側に迷惑かけたと思うんだけど……。
「凄いです! 美しい上にハッキリと物申せるとは!」
「感動しました!」
「君達の友情に昼間から感動させられたよ!」
お客さん達は男女問わず、笑顔で俺に拍手を送ってくれた。
拓夫と久光の二人も、俺に笑顔で拍手を送る。
優香は俺の肩で、泣いていた。
「ありがとう……ございます……!」
「いいえ。良いんですよ。後で事情は聞きますから」
俺は優香の頭を撫でて囁いた。
遅れながら、麗、正男、鷹詩、直弘が何事かと駆け付ける。
麗達は俺が優香を撫でているのを見て、何故か悔しそうだった。
それから数分後。
現在七人で昼食を摂っている。何故か合流した拓夫と久光も一緒だ。
優香は、ようやく落ち着いてきた。
麗は果てしなく機嫌が悪い。腕を組んで瞳を閉じているのだが、額に青筋が浮かんでるのは見なくても分かる。
男達は俺をずっと見ている。
「さて、では食事も終わった事ですし。坂本さん。あの人達と何があったか説明してもらってもいいですか?」
「ちょっと待て美樹!」
机を麗が叩いて席を立つ。
見た感じ我慢の限界を超えたのだろうか。
全員の視線を麗が集める。
「何で、当初私と美樹のデートだった筈の所に、いつの間にかこんなに男がいるんだ!」
「えーっと。これは挨拶をしそびれちゃったね。俺は井草 拓夫。正男や鷹詩、直弘の友人――いや親友だよ」
笑顔で麗に向け自己紹介をする拓夫。
ああ、眩しい。拓夫は万能イケメンだからな。基本的に太陽みたいな男だ。ちなみに、直弘は夏の太陽って感じだ。明る過ぎてウザい的な?
麗は、その暖かい笑顔すらも邪険に見つめる。
「どうでもいい。百歩譲って部活の三人は認める。でも、何故お前らまで同席している?」
「それは、谷中さんに俺らも惚れたから!」
「黙れオタク」
「……」
久光が麗にピシャッと言いくるめられる。久光の顔はしょぼんとしたが、精神的ダメージはデカくなさそうだ。
「ふふふ。この場で告白とは大胆ですね? そういうの嫌いじゃないですよ?」
「「「なら、今から俺(僕)も告白します!」」」
美人部の三人が声をハモらせる。
おおっと、ちょっと黙ってくれないか?
麗の発言も、今ばかりは親友たちの発言もご遠慮願いたい。
俺は麗の方へ視線を向け、笑顔を作った。
「麗。今日は本当にごめんなさい。後日、麗の好きな事なんでもしてあげますので、許してください」
「な、何でも!? ……あんな事やこんな事も……ニヒヒヒ……」
俺の言葉を聞いた麗は、口が閉まらなくなり涎が垂れる。
もうちょっと女の子らしく生きようぜ?
「さて、では坂本さん。話をお願いします」
「あ、ありがとう。あの子たちは――」
それから優香の話に入った。
優香は高校入学の際に上京をしてきたらしい。
何でも実家は遠くて、とても通える距離ではないそうだ。
そのせいで、友達が誰一人いない状態で高校生活はスタートした。
当初は友達作りに励む事はなかったものの、優香の周りには次第に友人と呼べる人達が増えていった。
女子高なので、男子がいない為に気を使わなかった優香が、心を開くのには時間がかからなかったという。
それから少しした頃。友人たち以降ビッチ共とカラオケに行った。その場にはビッチ共がガチで狙っている男子が混じっていた。だが、不運にもビッチ共の狙った男子は全員優香に惚れてしまい、ビッチ共はショックを覚える。
後日、優香は全員に告白されたが全部断った。
全ては友達に恨まれない為だそうだ。
カラオケに来た男を全員振った数日後。
優香は教室に忘れ物をしたらしく、放課後取りに行った。
そのときに偶然にも聞いてしまったのだ。
「あの女、マヂウザクネ? あたしらに気ぃ使って全員振ったんだってよ!」
「ウケンネー。っていうか、そういう態度ムカつくんだよね。『あたしは友達の為にアンタとは付き合えない!』みたいな? サッブ!」
「でさー。アイツ前から思ってたけど乳でかすぎじゃね?」
「どうせヤリまくってんでしょ? まぁあんだけデカイってことは、そうとう遊んでんだよ!」
「あの金髪とか高校デュー過ぎて笑えるよね!」
その会話に出てくるアイツとは、全てが自分に宛てられていると気付くのに時間はかからなかった。
我慢が出来なくなった優香は、教室に入って「やめて!」と叫んだそうだ。
その日を境に、ビッチ共は優香に対して態度を百八十度変え、教科書に落書きしたり、体操着を捨てられたり、机を退かされたりと虐めを受けたようだ。それに対して教師に相談したが、それも反応が無かったようだ。
最近になり、虐めも減ったみたいで、ビッチCに遊びに誘われたらしい。それが今日だったようだ。期待と不安両方を抱えながらも、来てしまったようだ。
結局それは罠で、待ち合わせ場所に来たのは、カラオケで振った男子達だったという。あの時、色々と侮辱的な言葉をかけられて、逃げるに逃げられなかったようだ。
「最低ですね」
俺は話を聞き終わり、溜息と共につい感想を述べてしまっていた。
そもそも、そんなので虐めを起こすとか幼稚すぎる。あれだけでは、お仕置きが足らなかったなと心の中で俺は反省した。
「酷い世界だな」
「うん、僕もそう思うよ」
正男と直弘が頷く。
二人とも親身になって話を聞いていた。こういう所は前と変わらなくて、俺の心を落ち着かせてくれる。
「俺なら喜んで踏まれるが」
「ちょっと黙って貰っていいですか?」
鷹詩は腕を組みながら真剣に悩んでいる。生粋のドMに用はないぞ。お前なら、喜んで虐めを受けそうで怖い。もはや、虐める側の女子達が引いちゃって虐めをしなくなるレベル。
「ま、俺なら先生に相談するかな」
最初のは冗談か。鷹詩がドMに目覚めてからの言葉が俺にはよくわからない。一体どっちが本心なのだろうか。少なくとも、ドMは冗談であってほしい……いや、それも鷹詩という一人の人間なのかもしれない。
「……すまないね。そうとは知らずに俺らはまんまと逆ナンされてて」
「そうだね。一歩間違えれば俺らは、あの人たちの餌食にされていたわけだしね」
拓夫と久光が顔を俯かせる。
常識人の二人は、罰が悪そうだ。二人には本来、何の罪もないが一緒になって謝る所はさすがとしか言いようが無い。やっぱり俺の親友たちは今でも最高だ。
ああ。美樹になってからこれほどまでに幹に戻りたいと思った事はない。
「まぁ、大人しく聞いてはみたが、貴様は哀れだな」
「何だって!」
麗は腕を組み、瞳をつぶって優香を挑発する。
というか、おちょくってるのか? 麗さん空気読んでください。
「愚かだと言ったんだ。私ならその状況に陥ったなら、一人一人ネットに顔を晒し、二度と社会に出てこられないように裏社会の力を行使し、学校を辞めさせる」
「麗。言葉を選んでください。坂本さんは麗とは違うんですよ?」
「むぅ……美樹は今日はソイツばっかりだな……」
麗はいじけてしまった。
まぁ何にせよ。このままでは具体的な解決方法は何も見つかっていない。
これでは俺のせいで、優香は学校に行けばまた虐められてしまうかもしれない。
ならば、そうしないように考えればいい。
俺は机を叩き、立ちあがる。
「それでは皆さん。今回は我が部活の課外活動という事で、緊急議題を出します!」
『へ?』
「これ以上、あの人たちの好きにさせない為にも手を取り合いましょう!」
「み、美樹……? 私が部長なのだが……」
俺は麗をキッと睨むと、麗は押し黙った。
「それでは今回の議題です! 名付けて『どうすれば美しくない者を美しくないと自覚させるか!』に決定いたしました! それでは、皆さん。携帯電話なりなんなりと情報を駆使して探してみてください!」
『はい! 美樹さん!!』
ノリノリで敬礼する、かつての親友五人。
オロオロする麗。
涙目の優香。
優香の逆襲撃を美人部がプロデュースしたりなんて……しないんだからっ!