親友たちが集まったりなんてしないっ!
俺達美人部の連中と+αで池袋での洋服店を回っていく。
先ほどの暴動もあって、俺は帽子をかぶって行動をしている。暴動で、一躍俺は有名人。その為、優香の帽子を借りているのだ。
色々と買い物が進む中、麗は大量の商品を買う。値段だけ見てもそうとう可笑しい。コイツの金銭感覚がおかし過ぎる。
そして、その大量な荷物を持つのは男達なわけだが。
「そういえば、色々とあって忘れていたのだが、何で貴様らがいるのだ」
麗は顎に手を当て、考え事をしていた。
優香が問題を起こしたせいで、鵜呑みにされていた問題を麗は掘り上げた。三人とも背筋を張り、強張らせている。
優香は首を傾げて、三人の様子を伺っている。
「そ、それは、今日丁度通りがかったもので……」
「れ、麗様が誰かと喧嘩しているのを目にしましたもので……」
「ぼ、僕もそんな感じで……」
皆苦笑い。それを見つめる麗は、三人の心を覗くように睨む。
三人は声にならない短い叫びを上げ、後退りそうになっている。よく見れば、正男と直弘の二人は額に冷や汗を浮かばせている。鷹詩は涎を垂らしている。もう、ペットに天職したらどうだ?
「まぁいい。荷物持ちをしてくれてるのなら言う事もないしな」
三人はホッと胸をなでおろしていた。
優香は何が何だか分かっていないご様子である。
「それより、あたしお腹空いたわ。昼食にしないかしら?」
「何故貴様の要望に答えなきゃならんのだ」
「まぁまぁ、麗もお腹空いてませんか? 私は空きましたよ?」
「む……美樹が言うのなら……」
そんな感じで俺らは近くのファーストフード店に入った。時間的に混んでいたので、空いてる席をとりあえず探す。
注文の為に並ぶのは麗と男三人組みだ。
場所取りは俺と優香で行う事になった。
二人席などはあるのだが、五人席となると中々見つからない。
辺りを詮索してもないようなら、最悪公園でってことになるだろう。
「あ、ここ座れそうよ!」
優香がどうやら五人席を見つけたようだ。
少々狭いが、まぁ詰めれば問題はなさそうだ。
そこに俺と優香は腰かけ、麗達が来るのを待つ事にした。
「いやー席が見つかってよかった!」
「そうですね。坂本さんが良い所を見つけてくれて良かったです」
とりあえず、俺らは一息吐いて、辺りを見回す。
注文の行列も凄まじく並んでいた所から察するに、麗達が来るのは遅そうだ。
その間に聞きたい事も聞けるな。
「あの、坂本さんは何をしていたのですか?」
「何って人を待ってたんだけど」
「誰かと遊ぶ約束をしてたんじゃないんですか? もし、そうなら――」
「違うわよ。別に平気よ! それに何もなかったし……」
影のある表情を見せる優香。
一体何があったのだろうか。
そういえば、俺が間違えて話しかけてしまったときに、別の男達がいたな。あれは知り合いだったのだろうか。それともただのナンパ?
「では、あの男の人達は知り合いなんですか?」
「……あんな奴ら知らないわ。でも、谷中さんには関係ないから気にしないで! ごめんね、巻きこんじゃって!」
巻きこむ? 何か事情でもあったのだろうか。
俺が深く介入すべきではないのかもしれないけど、気になる。一応は優香も美少女なのだから。まぁ最初は俺と同等かとも思ったが、よく見れば違うようだ。
「そ、それより、アイツら遅いわね!」
「そうですね……。何をしているんでしょうか。ちょっと見てきますね」
会話に詰まった俺はそれだけを告げ、席を立った。
注文をするカウンターまで行くと、何やら揉めているようだった。
「美樹は絶対コレが好きだと言っているんだ!!」
「いえ部長! そこは譲れません! 美樹さんはコレを選ぶ筈です!」
「いやいや、正男。それはない! 美樹様は絶対こっちだ!」
「何言ってるの! 美樹さんが君たちが指している物を食べる筈が無い! 絶対にこっちだ!!」
カウンターの前で、俺が食べるのはどれかを争っている。
協調性の欠片もない。まったく、後の人達の迷惑だ。
本当にコイツらは顔だけはいいんだけど、中身がダメダメだ。
とりあえず、俺は恥ずかしかったが行列を裂いて、麗達の元へと向かう。
「何をしてるんですか?」
「あ、美樹! 私は美樹はコレのほうがいいだろうと言っているのに、コイツらが聞かなくて……」
「部長! それは絶対にないです! 美樹さんこっちですよね?」
「何を言ってるんだ! 美樹様はこれですよね?」
「はぁ~わかってないな。こっちだよね美樹さん?」
あーコイツらうるさ過ぎる。もう誰か黙らせてくれよ。
俺が何を食べるとか適当で良いだろうが。それはダメだとかこれは良いとか、基準が分からない。そもそも後の人達に気を使え。笑顔が売りの店員さんが顔を引き攣らせてるぞ?
「もう私は何でもいいですから、後の人達に迷惑をかけないでください」
「う……」
「すいません……」
「美樹様……踏んでください」
「ごめん」
全員俺に頭を下げる様子は異様だ。
さて、俺の注文は……。
「ったくここまで並ばせるのは誰かと思えば、お前たちだったのか」
俺が注文を完了させ、商品を待っている間に声をかけてきた。
正男、鷹詩、直弘の三人は一斉に声の発生源を見つめる。
こちらに向かって歩いてきたのは、またしてもイケメン。しかし、ただのイケメンではない。幹の知り合いだ。
「何でお前らがこんなところにいるんだよ」
「美樹様と麗様に踏まれに来たか!」
「僕らの邪魔はさせないぞ!」
発想が斜め上すぎる三人。
麗は腕を組んで溜息を吐いているご様子。
現れたのは、井草 拓夫と近藤 久光の二人。
両者とも眼鏡をかけている、いわゆる眼鏡イケメンだ。
まったく。今日は運が悪過ぎる。
「お前らの言動が理解できないぞ。俺と久光は二人で池袋に映画を見に来ていただけだ」
「男二人で映画とは寂しいな」
正男が辛口で拓夫を批判する。
鷹詩と直弘も笑っている。コイツらまだ仲が良い筈だよな?
背後にいた久光が口を開いた。
「最初は二人だけだったんだけどさ……なんか女子が集まってきちゃって」
久光が困ったように髪の毛を弄っている。
二人の背後からは、髪を染めたいかにもビッチな女子高生五人が群がっている。
二人は笑顔を引き攣らせて対応に追われている。
すると、一人の女子が口を開いた。
「あー! もしかして田村 正男君!?」
「ん? そうだけど、面識あったっけ?」
「ないよー。あたしたちの高校で超イケメンだって有名なんだよ」
「そうなんだー。失せろビッチ」
「へ!?」
ビッチAは表情を固まらせた。
俺も一瞬何を言ったのか分からなかったくらいだ。
まさか、あの女ったらしの正男が……ビッチだからという理由で拒んだ!? 何がコイツを変えたんだ!?
「あ、野村君だ! 野村君もこういう所くるんだ! なんかイメージと違うな~」
「邪魔だ。美樹様と麗様が見えなくなる」
ビッチB、状態異常:凍結。
鷹詩は女子と話すと、上がる筈なのに冷酷に返した。
何という事だ!?
「ねぇねぇ、直弘君だよね? アタシのお姉ちゃんとも遊んだんだからさ、アタシとも遊んでよ!」
「ゴメンネ。僕、今は将来を約束してるお嫁さんがいるから!」
ビッチC硬直。
というわけで残りのビッチDとビッチEは固まっている。
少なからずとも、俺のイメージでは三人とも多彩な女と遊んできた。鷹詩はそれでも上がり症は治らず、色々苦戦していたけど。その三人が仮にもビッチの誘いを一瞬で断るとは一体何事か。
麗は若干不機嫌になりながら、注文した物が出てくるのを待っている。
「ど、どうしたんだよ、お前たち! 何があった!? 病気にかかったんじゃないのか!?」
「そうだよ! 鷹詩はともかく、正男と直弘まで一体何があったんだよ!」
拓夫と久光の二人が三人を説得するように語りかける。
しかし、三人は軽く息を吹いて、妙に大人びた表情を醸し出した。
「ま、若かった頃は色々遊んだけどさ。見つけちまったのさ……真の愛って奴をな」
正男が自慢げに語っている。ただのゴリ男が何を言っている。しかも、若かった頃ってお前まだ高校生だろうが。
「俺はそこら辺の女には興味がない。俺は俺を踏んでくれる人を見つけたのだ! 嫌がりもせずに踏んでくれる……そんな女性たちをな!」
いやいや、カッコよく言ってるようだけど、鷹詩。物凄くダサい。しかもそんな女性たちって俺も入ってるの? 俺踏んだことないんだけど。
「言ったでしょ? 僕は嫁を見つけたんだって。だから、もう遊ぶ気はないし、その人だけを大切にしたいんだ。だから、女がいる所には遊び行かないから」
は? 嫁っていつできたの? 誰と婚約したんだよ直弘。相変わらずの天然思考には俺もついて行けないっての。
それから大きな溜息を、拓夫と久光の二人は吐いた。俺だって溜息吐きたい気分だよ。コイツら三人を変えたのは誰だよ。拓夫と久光が可哀相だろうが。元に戻してやれよ。
そんな中、麗が三人の男の穴をそれぞれ蹴飛ばした。
『痛て!?』
三人はハモって、振り返ると麗が自分の買った商品を持っていた。
その目つきは、早くしろと言っている。
「貴様らグズグズするな! 店員に迷惑をかけたら、どうするんだ!」
それ麗が言っちゃうの?
店員さん、今も苦笑いだよ?
俺も自分の分は自分で運ぼうとした。
その際に、拓夫と久光と目があってしまった。
「も、もしかして谷中 美樹さん!?」
「え、何でこんなところに……」
今まで二人からは見えない所で待機していたので、バレなかったが、さすがは美少女。簡単に見つかってしまったな。まぁ一般人とはオーラが違うと言われるし。
「はじめまして……ですよね?」
「あ、はい……自分は井草 拓夫って言います」
「お、俺は近藤 久光です」
二人とも頬を真っ赤にさせている。まぁ可愛いこと。
だが、後のビッチも凄い顔をしてるぞ。
そりゃあ、逆ナンした男が他の女に目を奪われたら面白くないだろう。もっと気を使え!
「おーい、谷中さーん!」
俺を誰かが呼んだ。
それは優香だった。麗達は一足先に席に向かったようだ。
「あ、すいません。友達を待たせてるので、失礼しますね」
「あ、ああ」
「いきなり、すいませんでした……」
拓夫と久光は頭を下げた。
二人とも、完全に落ちたな。毎回俺は落とす気はないのだけれど、勝手に落ちるんだよな。何でだろ?
そんなとき、優香は足を止め、信じられない物を見るような目つきで、ビッチ達に視線を奪われていた。
「な、何でアンタ達が……」
「あ、坂本ジャン。バカだね~結局来たんでしょ? 誰がアンタと遊ぶと思ってんのよ! この牛女!」
ビッチEが優香を罵る。
他のビッチ達は大いに笑っていた。
そんな優香は顔を俯かせ、両手で拳を作り震わせていた。
拓夫と久光はわけが分からず、オロオロしていた。
俺は優香を罵るビッチ共に殺意を覚えた。




