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白海が退学になったりなんてしないっ! にっ

「だから、美樹はついてこなくていいと言っているだろう!」

「そうよ! 美樹ちゃん、あたし達に任せておいて!」


 翌日、晴天の中、麗と優香が登校する途中、私を見て二人は学校に来なくても良いと言って進む道を遮る。しかし、私は松丘総合高等学校の生徒なので登校しないわけにはいかない。本来ならば。


「謹慎中なのは知っています。ですが、二人に任せると……」


 先日、白海にハメラれて謹慎に陥った私は本来ならば登校禁止だ。だけど、超がつくほど毒舌な麗と、校長の娘でありボコボコにすると公言している優香をそのまま登校させれば大惨事になるのは目に見えている。

 さすがに、優香の父とはいえ、恨んだけれど、優香にボロ雑巾になるまで校長がボコボコにされれば同情してしまうだろう。それに、あり得ない話ではあるけど二人がもし退学にでもなったら、私としては辛いというか居心地が悪いというか……である。


「任せると何かあるというのか? 美樹、これでも私は口の喧嘩は負け知らずだ」

「知ってます。だから行かせたくないんですけど」

「美樹ちゃん、あたしのパパだから余裕よ! この隙に一緒にこの貧乳も退学にするから安心して!」


 私を安心させる為に麗と優香は、必ず勝つと顔で物語っていた。しかし、選んだ言葉が悪かったのか、二人は早くも喧嘩を開始する。


「聞捨てならんな。牛女。貴様は今、私の沸点に触れたのだぞ。少しお灸をすえてやろう」

「何言ってんのよ。アンタバカ? あたしは事実を言ったまでよ。もちろん根拠もあるわ」

「おい、どこを見て言ってる。ちゃんと人の目を見て話せと言われなかったのか」

「あ、ごめんなさい! あまりにも胸がペッたんこだから視線が平原にいっちゃったわ!」

「死ね」

「あんたこそ死になさい! 絶対退学にしてやるんだから!」


 ……と、まぁこんな感じで喧嘩を始めるんだけど、私としては早く学校に行った方がいいんじゃないかと思う。




 ◇




 校門に到着すると、生徒指導の体育教師が生徒相手に「おはよう」と律儀に挨拶をする。その挨拶に返す者もいれば、返さない生徒も存在した。

 そんな中、先に麗と優香が校門を潜る。すると、体育教師は麗と優香に視線を移し、口を開いた。

 ちなみに、私は麗と優香の後を歩いている。


「おい、谷中は謹慎中だ」

「黙れ、ゴリ男」

「黙りなさい、胸毛魔人」


 麗と優香が体育教師を睨みつけると、その迫力に呑まれて硬直する。だが、すぐに顔を横にフルフルと振って威厳を保つ為に、キリット顔を変えた。


「教師に対して、そのセリフはどうなんだ。黒樹」

「黙れと言っているのが聞こえないのか。ゴリラのくせに我々と同じ日本語を話すな。気色悪い」

「く、黒樹ちょっとお前――――」


 毒舌の猛攻撃を浴びせる麗。その攻撃は久々に見た気がする。そりゃ先生も一応人間なので、人外扱いされれば怒るのは当然だろう。

 怒った体育教師は麗を生徒指導に連れていくつもりなのか。生徒指導室に来いと言おうとする。

 だが、その合間を見て優香が口を挟む。


「何か言いたい事でもあるの~? 胸毛ボウボウ生やしてフラれたくせに」

「ぐっ! 坂本!? お、俺はフラれて何か……」

「そうか、フラれてないのか。彼氏がいる保健室教諭に今時古いラブレターに、詩を書いたり、今の彼氏と別れて俺と幸せになろうとか書いたり、果ては俺が一生遊ばせてやるとか――――」

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ! そ、それをどこで――――――」


 いつも喧嘩してばかりの麗と優香の、合体毒舌攻撃。二人は体育教師が保健教諭を口説いた事に関してをネタにして攻撃しているのだが、どうやら体育教師のヒットポイントは限りなくゼロに近くなってきたようだ。

 可哀相な事に、黒歴史を暴かれた並みに悶える体育教師。麗と優香はまるでゴミを見るかのような視線を浴びせる。


「ストーカー行為をやめてくれ、そう私は依頼されただけだ。もちろん、これはほんの一例に過ぎない。まだ言ってやろうか? 己が学を教える生徒の前で」

「それとも警察に行きたいのかしら? 下着泥棒、監視、ストーカーなどなど。今、美樹ちゃんを見逃せば、豚箱にぶち込まれなくて済むわよ?」

「うぉぉぉぉぉ!」


 体育教師がしゃがみこみ、己が犯した過ちを悔いてるようだ。

 なんというか、悲惨。なんだか可哀相になってきた。

 もちろん、登校時間なので生徒の視線は一直線に浴び、立ち止まる生徒が徐々にこそこそと噂を始めている。


「気持ち悪いよね……」

「うん、っていうか、体育の時の視線ってやっぱアレなんだ……」

「マジ終わってるよな」

「もう体育欠席しようかな」


 などなど、生徒の声は次第に大きくなっていく。

 悶え終えたのか、体育教師はスクッと立ち上がり、麗と優香を上司を見るかのように崇め、口を開いた。


「俺は何も見ていません」

「良かろう、貴様も願うのなら、私の忠実なしもべにしてやるぞ。変態陰湿ストーカーゴリラ」

「やめときなさい、あたしならアンタを正しく使ってあげるわ。もちろん、タダじゃないわよ。餌も与えるし、なんなら牢屋という名の住みかも与えるわ」

「お、俺は……豚箱の方がお似合いだと思います」

「そうか、今後人生を真っ当すれば、ゴリラから戻れるかもしれんな」

「安心しなさい、働き口が欲しければ私のとこに来なさい。動物園ならいくらでも紹介するわよ」

「あざっす!」


 そういう感じで、麗と優香は校門を通過する。もちろん、私もだ。

 体育教師が最早ただの銅像と言わんばかりに直立姿勢を保ち、口も開かなかった。これは、相当なダメージを受けたのか、それとも麗に言われて人語を喋らないように頑張っているのか分からないが、悲惨なものである。


「あ、あの、少しやり過ぎのような気が……」

「美樹、時にはやらねばならん事もあるのだ。例え自分の心が痛もうとな」

「そうよ、人とは壁を乗り越えないといけない事も、過去を振り返る事も必要なのよ。それを与える側はもちろん苦しいですけど、それが私や美樹ちゃんのような人間なのよ」

「そう言ってる二人の顔は、とてもスッキリしていますね」


 憂さ晴らし、とまでは言わないが、二人の顔はとてもスッキリしていて、子供から元に戻ったんだな、と実感した。

 しかし、体育教師はこれからちゃんと日本語を喋るのか疑問である。

 ちなみに、この日。体育教師はずっと「ウホッ!」と言っていたので授業にならなかったらしい。


 私達は登校し、真っ直ぐに教室には向かわずに校長室に足を進めた。

 そして、校長室に辿り着き、優香が思いっきり扉を押しあける。


「パパはいる?」

「おう! 優香、どうした。パパに会いたくなったのか?」

「いいえ」

「そんな事言わないで、素直になっておくれ」

「じゃあ素直に言います。死ね」

「――――なっ!?」


 父、校長は優香の一言を突きつけられ、まるで金魚のように目を開く。その姿全体は巨大な槍に貫かれたみたいだ。

 一瞬硬直して、こちらに視線を送る校長。その眼差しは親の仇を見るかのようだった。


「ま、まさか、君達が!」

「何を言っている、私が牛女の家庭に口を出すわけないだろう」

「じゃ、じゃあ……」


 謹慎中の私を見つめ、校長は拳をぐっと握り締める。


「君が優香を誑かしたん――――――!」


 瞬間、パンっと頬を叩いた音が響いた。


「ゆ、ゆう……か……?」


 校長は優香に強烈なビンタをされていた。それもかなり良い音が校長室に響いたので、私と麗は思わず無言になる。

 優香はビンタをしたまま、視線を俯かせ、ギロリと父親である校長を睨みつけた。


「……あたしの好きな(・・・)人を侮辱するのなら――――」


 顔を上げ、優香を親を虫でも見るかのように見下す。


「親でも殺すわよ」


 瞬間静寂が続く。

 そして、校長が呟いた。


「……優香が生まれた時、とても可愛い子が誕生したと思った」

「………………」


 いきなりわけのわからない事を話し始める。


「その時、思ったんだ。こんな可愛い子が私の娘なのか、一生守ってやるぞって。だけど違ったんだ。七歳まであんなに私のお嫁さんになると言っていた優香が、親父にも殴られた事がない私を叩き、殺すと言った。あんなに良い子だった優香が。――――君達の目的はなんだ」


 校長は凄く真面目な顔をして、麗と私に問う。

 麗はフンっと笑い、瞳を細くして睨む。


「金」

「…………そうか」


 校長は静かに机の棚を引き出そうとする。


「ちょっと待って!? アンタ何言ってんのよ! 金ってそんな事言いに来たわけじゃないでしょ!? パパもパパよ! 何で素直にお金を渡そうとしてるのよ! アンタ達バッカじゃないの!?」

「いや、この流れだと金って言わなきゃいけない気がして」

「なんだ、お金じゃないのかい?」

「本当にバッカじゃないの!?」


 ナイスツッコミ。優香の猛烈なツッコミで麗と校長は我に返った。

 本当に麗は何を言っているのだろうか。やはりどこか頭のねじがズレテいるとしか思えない。

 そんな中、優香が校長の机をダンッと叩く。


「あたし達が聞きたいのは、何で美樹ちゃんを停学にしたのか。それと美人部を廃部にしたのかよ! 全部取り消しよ!」

「そ、それか……」


 校長は引き出しをしまって、うーむ……っと言って悩む。その顔は難しい事を考えているようでもある。


「貴様ならばなんとかなるのではないか」

「う、いや、白海さんの事だろう? 実は、今朝の時点で君に連絡しようと思っていたんだ」

「私に、ですか?」

「ああ」


 校長は私に初めて視線を向けた。


「実は白海さんから全部頼まれてやった事なんだが、正直な話、君を停学にするのにも部活を廃部するのも難しいんだ。それに生徒会とも話した結果、彼らはそんな活動内容ではありませんと公言していたから、君の停学や廃部はなかった事になったんだ。だから、君が休んだ分はなしになる」

「でも、生徒指導の先生は……」

「それは今朝決まった事だったんだ。だから、まだ教師に行き届いていないんだ。それに――――」


 私の停学や部活の廃部は、どうやら生徒会によって助かっていたようだ。麗がクスクスと笑っているのが見える辺り、何か裏の力を使ったのに違いがなかった。

 校長は一息吐き、私達三人の顔を見て口を開く。


「彼女――――白海さんと連絡がつかないんだ」


 私達は目を見開いた。




 ◆




 学校近くの廃墟。そこはアタシ達がよく出入りする遊びの場で、集まる場所だ。皆気に入っているスポット。

 そこに、薄氷色の髪を持つ女の子を拘束している。


「う、うぐ――――」


 口にガムテープを張り付けて、彼女は身動きが取れなくなっていた。それもその筈で、これは誘拐だ。

 誘拐に至ったのは、昨日、アタシの為にある神社に神がいなかった。その時、一際カッコいい男が現れたが、奴は自らを神だと名乗り「奴は消した」と言ったのだ。

 アタシ専属の神は消滅し、その時は発狂までした。これまで黒樹 麗とその他を地獄の底に落とす計画が台無しになったかと思ったが、それは違う。

 そう、これは最後だ。

 廃部に追い込んだ美人部の一人を人質に、奴らを呼びだせば良い。天才的なアタシの考えで、登校途中一人だった中谷 美羽を攫ったのだ。

 計画の最期。それは奴らを殺す事で、その為には観客が必要。その為にアタシは、先ほど電話で牧先生を呼び寄せた。


「あはははは! 全員、死んでしまえばいいんだッ!」


 アタシはもうわけが分からなくなっていた。思い通りにいかないなら、殺せば良い。そうすればハッピーエンドだ。邪魔者さえいなければ、牧先生もアタシと付き合いたくなる筈。

 ナイフを美羽の首元に向ける。


「もうすぐ、終わるよ。アンタはその為の餌。ま、ちゃんと殺してあげるから安心してね。あははは!」


 ロープで拘束され、口元をガムテープで封じられている美羽は、何かを必死に訴えている。

 だが、これで何もかも終わる。



 全てが終わるんだ。



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