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白海が退学になったりなんてしないっ! いちっ


 門限を大きく上回って帰宅した私。

 だが、怒られる事はない。その理由というのも、姉が助け舟を出してくれたからだ。その助け舟とは、まぁ意図して出したわけじゃないんだろうけど、結果的にそうなった。

 神社にて神の最期を見送ると、一本の電話が入った。


『もしもーし、美樹たん? 早く帰ってきな!』

「は、はぁ……」

『良いお知らせがあるからさ! なんなら迎えに行くよ! そうすれば、きっとお母さん達も門限破った事に関しては、アタシと遊んでたとか勘違いすると思うしね!』

「そ、そうさせてもらいます……」


 気落ちしている私にかかってきた姉からの電話。常時ハイテンションは相変わらずで、私の気分など知らずに電話を寄越したのだ。

 それを隣で眺めていた幹も「今日は早く帰っておけ」と笑って言った。

 そんな感じで姉が私を迎えに来たのだが、ドッキリでも用意してるのだろうか。そのドッキリを言いたくて仕方がない姉は口をガムテープで封印して車を運転する。

 外から見たら完全に不審者だし、姉の美貌が台無しだ。だけど、そこまでして私を驚かせたいのだろう。そこは素直に何も聞かないでおいた。

 

 正直、予想はできるけど。


 家に到着すると、父と母は相変わらずといった様子で、門限を破った事に関して何も言わなかった。それどころか、勝手に勘違いして「美鈴とどこに行ってきたの?」なんて聞いてきたのだ。

 返答に困った私だったが、姉がまたも助け舟を出して「神社でちょっとお参りだよ!」と何の躊躇いもなく自然に言ったものだから真に受けてくれた。

 さすが姉。もう何も勝てる気がしない。

 

 とりあえず、部屋に入ってごらんと言われた私は、自室に入る。

 電気は当然消されていたので、ボタンを押す。


「おかえり! 美樹!」

「美樹ちゃん久しぶりのあたしよ~!」

「お姉ちゃん、ただいま」


 そこには子供姿だった筈の麗、優香、美羽がいた。

 当然、私の顔は感極まって――――。


「って、美樹たん何でそんなに残念そうな顔をしてるの!?」

「……う、嬉しいに決まってるじゃないですか」

「み、美樹? その顔は何なんだ!? 私が元に戻って嬉しくないのか!?」

「ははは……嬉しいですよ、麗」

「あたしだよ? 分かる? 美樹ちゃんの彼女候補ナンバー1の優香だよ!」

「優香? あれ……優香ってもっと小さかった気がするんですけど……」

「お、お姉ちゃんが壊れてる!?」

「美羽!? 少しだけ身長伸びましたか!?」

「も、元に戻っただけだよ!?」


 嬉しくない。

 いや、正直な話。白海と大喧嘩していなければ、ずっと麗達は小さいままで良かった。なのに、元に戻ってしまったのだ。嬉しい筈がない。私のオアシスはどうやら遠ざかってしまって、二度と触れる事のできない場所に姿を消してしまったようだ。

 さらば! 私の天国! こんにちわ! 私の日常……。

 溜息が途切れないよ。


「まぁまぁ、美樹たん元気出しなよ! これで皆元に戻ったんだからさ!」

「そ、それはそうですけど……」


 姉が背中をさすりながら励ましてくれる。けど、やっぱり残念なものは残念だなぁ……。

 そう思っていると、一階にいる母からお呼び出しを喰らった。


「美樹、ちょっとお話があるんですけど」

「う……」


 まさか、門限破っていたのがバレタのかな、と思った。




 ◇




「学校を謹慎になるってどういう事!?」


 母に招集され、姉や麗などを含めたメンバー全員がリビングに集まる中、私は母と一対一の家庭教師のような距離で怒られていた。

 先ほど、学校から電話があったようで、私が謹慎になった事が伝わったようだ。その内容が詳しくは話されていなかっただけ、まだ救いようがあるが、こればっかりは仕方ないというか、私は悪くないというか。である。

 しかし、母は仕方がないと思っていないらしく、不良娘の私を叱り続けた。


「お母さん、それくらいにしなよ。美樹たんは悪くないんだしさ」

「そうはいってもねぇ、さすがにこればっかりは見過ごせないわ」

「でもさ、それなりの理由が美樹たんにはあったかもしれないよ? だってこんな美少女を休学にするだなんて、正気の沙汰じゃないでしょ」

「た、確かにそうねぇ……」


 顎に手を当てながら考える母。姉の母を丸めこむスキルはさすがとしか言いようがない。唯一私に関して喧嘩したらヒートアップして丸めこむどころではなくなるのが傷だが、尊敬ものだ。

 しかし、母もどうなのだろうかと思う。私が美少女だからっていう理由で休学させる学校側に疑問を感じ始めている。恐ろしいのは姉の会話力ならぬコミュ力か、それとも私の容姿なのか。謎である。

 そんな母の私を叱ると決めた意志がブレブレの中、麗が母の肩に優しく手を乗せた。


「美樹は、休学になるような不良じゃありませんよ。お母様」

「麗ちゃんもそう思うの? 何でかしら」


 麗は自分の事のように自信満々になって言った。


「それは当然です! なんたって美樹ですよ? 子供状態の私といる時の笑顔を見ましたよね? それはそう――――まるで天国にいるかのような安らぎの表情。あんな顔を見たら悪い事をする筈がありません! むしろ悪い事をするのなら、私に既にしているというか、百合道をもうおり返せないくらい突き進んでいるというか。ですよ! そもそも美樹は私と――――」

「ストップストップです! 麗、それ以上言うと、どうなるか知りませんよ?」

「おっと、つい言い過ぎてしまった。私は美樹の事となると、そこら辺の学者より語りますからね。なんなら一ヶ月美樹の話しをしてもいいくら――――」

「麗ちゃん、少し落ち着こうか」

「御姉様? そんな怖い顔をしてどうされたんですか?」

「いいから落ち着こうか?」

「おねえ――――」

「いいから! 落ち着こうか?」

「…………はい」


 と、そんな感じで母は麗の私押しに負けて、結果。私を休学にした学校がおかしいと判断したのだ。私の母親チョロ過ぎる。

 だが、ただ一人考えこむようにしている人物がいた。


「優香? どうしたんですか?」

「いや、やっぱり、あたし的にはパパが美樹ちゃんを何で休学にしたのかが気になってね。ここはハッキリ言ってやろうかなって」

「な、何をハッキリ言うんですか?」

「え、当然パパなんて大っ嫌いって」

「……校長可哀相です」


 優香のお父さんくらいの年頃になると、もう楽しみは娘しかない筈なのに、大っ嫌いとか言われると相当凹むだろう。もう少し考えて上げてもいいような気もする。

 そんな中、麗が鼻で軽く笑いながら優香を見下す。


「なるほどな、道理で美樹が休学になるわけだ」

「何が言いたいのよ」

「何って、お前みたいな牛女の血族が校長だから、美樹が休学になるのだ。少しは使ってない脳を使え、このクソゴミ牛女呪われた一族!」

「な、なんですってぇぇぇ!?」

「そもそも、貴様の血族がもう少し利口だったらこんな事態にはならなかったのだ。もうあれだ、貴様の一族は総出でクソバカなのだな」

「黙って聞いていればァァァァ! あたしをあんなクソ親父と一緒にしないでくれる!?」

「うるさい、牛女」

「黙りなさい! 口はよく喋るくせに、胸は慎ましい黒樹さん!」


 瞬間、まるで停電したかのように険悪なムードが広がり、麗と優香の視線の火花が散る。


「お姉ちゃん、どうするつもり?」

「……とりあえず、私の停学が解けるまでは動かないつもりです」

「そっか。でも、今度は美羽達もいるから安心して」

「ええ、助かります」


 美羽は嬉しそうに微笑むと、麗と優香の喧嘩を仲裁するのを開始した。

 二人の喧嘩は凄まじく、子供バージョンの麗と優香もよく喧嘩はしていたが、大人に戻ってしまったが為に喧嘩のスケールが広がった気がする。

 これは、戻ってきたなと感じた。


「美樹たん、良かったね」

「そう……かもしれませんね」


 姉は嬉しそうに笑った。

 多分、私達が元に戻った事を一番に喜んでくれているのかもしれない。

 そんな姉と視線を合わせ、一度頷いてから私達も麗と優香の取っ組み合いの喧嘩を仲裁する作業に入った。


 しばらくして喧嘩が収まり、麗と優香はお互いに喧嘩したりないようで、まだ睨みあっている。

 リビングのソファに腰掛ける私に、何故か皆が床に座っている状態で、皆は私に言いたい事があるようなのだ。

 いざ、会話を始めようとすると、麗と優香はお互いを睨むのを中断させて私の事を見上げる。


「美樹、今まですまなかった。美樹だけに辛い思いをさせて悪かった。美人部の話しは綾子から直接聞いた」

「………………」


 その言葉に、私は美人部の備品が生徒会に押収される光景を思い出す。胸がズキリと痛み、麗達に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 麗は微笑みながら、私に頭を下げた。


「……しばらくの間、美樹は休んでいてくれ。明日、私達がケリを着けに行く。もちろん、美樹の謹慎も解いてもらう! だから、休んでてくれ」

「で、でも……」

「美樹ちゃん。これはあたし達で話しあって決めた事なの。だから、お願い」


 優香も頭を下げた。


「皆、お姉ちゃんが戦ってた事、知ってるんだよ」

「美羽……」


 麗達がいない事によって、頑張ろうと思っていた私の決意。それは全て白海の手によって踊らされていたと神に言われた。

 だけど、本当は違う。

 皆、私が頑張っている事を知っていたんだ。

 例え、子供の姿になろうとも、麗達――――美人部のメンバーは本当の意味で私を支え、見守ってくれている。

 私は嬉しくて、枯れた筈の涙が溢れた。


「み、皆……」

「美樹、安心しろ。仇は討つ!」


 麗はキメ顔で言った。


「まだ死んでませんけどね!」


 相変わらず、美人部は残念で――――最高だった。

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