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美人部が閉鎖したりなんてしないっ! よんっ

 風が吹く神社。今月、ここに何回来たのだろうか。

 神社は中学三年の冬、合格祈願をしたときと何ら変わりはない。だけど、半年前の私だったら、きっと今の状況を理解できないだろう。なんて言ったって、私は美少女で、この神社には部活の存亡をお願いしに来ているのだから。

 冷たい風が、私の頬を撫でる。さっきまで泣いていたからか、涙が通った頬は冷たくなっている。多分、目元も腫れていることだろう。

 しかし、そんなの関係ない。今は、神に頼る他、宛はないのだ。

 太陽が完全に沈み、夜の神社。ライトアップされた道には私一人しかいない。

 昨日のような事があったから、怖くないと言えば嘘になる。だけど、ここは私の願いを必ず叶えてくれる神がいる。だから、安心して一人でも歩けるのだ。

 やがて、神社の賽銭箱の前に辿り着く。その奥――――社の中にいるのは、かつての私の姿をした神だった。


「……来る頃だと思っていたよ」


 神――――幹は短く言った。

 表情はどこか、悲しげで、だけど優しい。その微笑みを目に入れただけで、私の涙腺はまた崩壊しそうになった。

 だけど、ここで泣いて長話になっては、今度は姉だけでなく父や母にも怒られる事になる筈だ。

 流れそうになる涙を、制服の裾で拭いてから、真剣に幹を見つめる。


「全て、見ていたんですか」

「うん、君がどういう状況になっていたかも、俺は全部見ていた。安心するといい、あっちにいる神の所在はこれで明らかになった」


 胡坐をかいていた神は、立ち上がる。

 そのまま、裏手へと歩み、外にいる私の元へとやってくる。


「何から話していいものか」


 何から話すのかを迷っていた幹。しかし、すぐに紙を取り出すと、何かを思い出したように、口を開いた。


「……君は、人の性格が生まれた時から決まっているものだと思っているかい?」


 不意にそんな事を聞かれる。幹は私を試すつもりなのだろうか。だが、答えは決まっている。そんなものはノーだ。

 人は生まれた時、からではなく、生まれてから人生を少しずつ歩む事によって性格が定まって行く。もちろん、定まっていない人間も、私と同い年くらいではいると思う。

 私は首を横に振った。それを見た幹は、首を一度頷かせてから「うん」と言う。


「これは、俺達のような神の世界での常識なんだ。神は違うけど、人っていうのは生まれたその瞬間から性格が決まっているわけじゃない。その人の人生――――つまり、家族構成や友人によって決まってくるんだ」

「それと、これと何が関係あるんですか」


 幹は鼻で軽く笑いながら、私を見つめる。


「大体人間の性格が決まってくる年頃っていうのは、年齢で表すと十四歳か十五歳。それまでに過ごした人生によって性格は完成する」

「はぁ……」

「そんでもって、今回の件――――つまり、白海 麗香に関する事だ」


 私は息を呑んで、幹の話に耳を傾ける。


「彼女の性格は、俺達――――神々から見ても酷い。それはもう慈悲なんてものではなく天罰を与えたくなるほどね」


 確かにそれは分かる。私もあまり性格が良い方じゃないから、悪くは言えないけれど、普通女が女を犯せだなんて口が裂けても言えない。多分、性格が悪い女子に部類される麗ですら言えた事じゃない。

 加えて、御嬢様だったのか。白海は何でも自分の思い通りに事が運ばなければ、怒りなどと言った負の感情を表に出すし、なんなら自分が手に入れたいと思ったものが手に入らなければ、またも性格の悪さが滲みでてくる。

 要は神ですら、許し難い存在なのだろう。


「しかるに、俺の元に奴がお参りなんてしに来たら、天罰でも加えてやろうかと思ってしまう。だが、それはできない」

「……できない?」


 私の疑問に「ああ」と返す幹。そのまま、自身の胸に手を当てながら話し続ける。


「神は幽霊と同じく、人間の守護をする事が可能なんだ。すなわち、彼女には神が憑いている。と言った方がいいか」

「……でなければ、麗達が子供になった説明がつきません」

「だな。それで話は元に戻るが、白海 麗香の性格完成は意外にも早かったんだ」

「え?」


 話を百八十度変えられた私は、一瞬硬直する。


「彼女の性格――――あれは、神が造り出してしまったものなんだ。故意ではないにしろ、許される話じゃない」

「ちょっと待ってください。造り出すって一体どうやって、性格を完成させるんですか!? 話だと中学生くらいじゃ――――」

「通常だとそうだ。君もそれくらいだったと思う。だが、神に憑かれた人間は違う。よく言うだろう、多くを知った者の精神年齢は高いのだ、とね」


 多くを知った者……? 一体どういう事なのだろう。


「つまり、神が憑く事によって色々な願いを叶えられるわけだ。もちろん、俺は例え君が多くを願ったって叶えるつもりはない。人間とは、何でも当たり前になればなるほど、図々しくできているんだ。白海はそれの最も典型的な一例に過ぎない」

「典型的な例……」


 話をまとめると、白海は何かがあって神に気に入られて取り憑かれてしまったのだ。そうする事によって、願いを自由に叶えてもらい、彼女の性格は悪化した。それが、幹の言わんとしている事なのだ。


「それで、今回の話に戻る。君は部活を学校側から休部を出されてしまった。それは、簡単に言ってしまえば、君達のバッドエンドのシナリオを歩いているに過ぎない。最悪の結末を教えようか?」


 私は生唾を飲み込み、首を縦にも横にも振らずに、幹の返事を待つ。


「最悪の場合、君の事が大好きな仲間達は子供の姿のまま、生涯を過ごす事になり、部活は廃部、君達と仲良くしていた教師及び生徒は全員クビ。さらに言えば、君は白海に憑いている神によって殺される。性格の悪い人間が考えるんだ、これくらいはまだヌルい方だろう」

「そ、そんな……ッ!」


 再び熱くなる涙腺。これまで、ずっと白海の掌の上で遊ばれていたのかと思うと悔しくて、枯れ果てた筈の涙が溢れそうだった。

 そんな焦る私の前に、人さし指を突き立てる幹は、待て、と口ではなく行動で言った。


「焦るのは早い。これは白海が組んだシナリオの過程だ。まだシナリオは覆せる。もちろん、それは君自身には不可能な事だけど」

「じゃ、じゃあどうすれば!?」


 幹は一度俯き、今までの優しい顔を一変させ、途轍もなく恐ろしい表情を垣間見せる。


「白海に憑いている神を消せばいい。ただ、それだけの事だ」

「か、神を消す……?」

「そうだ。人間と同じように神にも寿命は当然ある。ま、俺らの方が全然長いけどな」


 再び優しい表情に戻る幹。コロコロと顔を変えられては、こちらの心臓が保ちそうにない。


「神を……その、どうにかした場合、どうなるんですか」

「そうなった場合とは消えた場合か。そうすれば、当然今まで当たり前になっていた事ができなくなり、精神状態が錯乱する事だろう。それに神が力をかけていた現象は消える」

「つ、つまり……」


 一度咳払いした幹は、笑って答えた。


「君の仲間達は元に戻る」

「そ、それなら――――」

「だが、早まるな。同時にそれは、混乱状態の白海を相手する事になる。簡単に言えば、精神状態が混沌な白海と対峙するのなら、それ相応のリスクが必要だ。そうなった場合、最悪の場合君も殺されるぞ」


 背筋がぞっとした。

 その言葉は、きっと幹が私を本気で心配して告げた言葉なのだろう。それだけに、怖いのは神が消えてから、だという意味がしっかりと胸の奥まで伝わってくる。


「べ、別の方法はないんですか?」

「彼女達――――美人部のメンバーが元に戻るのには、後は白海に憑いている神に土下座なりなんなりするしかない。言っておくが俺には、どうにかする力はないし、そんな事の為に()を使いたくない」

「……そう、ですか」


 土下座、か。それはできれば一生したくはなかった。何せ、相手は白海に憑いているような神様である。そんな得体の知れない者に土下座するくらいなら、麗に跪いた方がまだマシな気がしないでもない。……極論だが。


「……それに、俺が調べた限りなら君が土下座をする必要もない」

「え? それってどういう意味ですか?」


 幹は真剣な顔をしながら、先ほど取りだした紙を眺める。そこに調査資料でも書いてあるのだろうか。


「さっき言っただろ。俺ら神にも寿命はあるのだと。人間の寿命は時の流れによって消費され、成長し時には生命機能を低下させる。だが、神の寿命は厳密には違うんだ」

「どう違うんですか?」

「簡単だ。言ってしまえば、神は人々の願いを叶えずに仕事をサボれば長生きできる。つまり、人の願いを叶える為に元々持っている力を使い果たせば、俺らは死ねるんだ。ま、言い方は悪いけど」

「それと土下座をしなくていいっていうのは……」


 話をつなげようとする私を見て、幹はハァ……と長い溜息を吐いた。どうやら、私の事をアホだと思っているようだ。成績表を見せてやろうか、と一瞬思った。


「ここまで言えば簡単だろう。白海に憑いている神は力を使い過ぎたんだ。残りの願いを叶えられる力もないし、もうじきこの世界から消えるだろう」

「それなら確かに、可愛い私が土下座しなくてもいいですね!」

「……いつの間にか元気を取り戻しやがったな」


 そうと知れば私はポジティブになれる。だって、白海があとは自爆するのを待つだけなんだ。そうなると美人部が廃部になった事で悩む必要もなかった気がする。

 しかし、幹は溜息を吐いた。


「バカか。話を思い出してみろ、神がいなくなった場合の白海がどうなるか説明したばかりだろ。君に暴走した白海を止められる自信でもあるのか?」

「……そう言われると、難しいですね」

「大体なぁ――――」


 幹が呆れた溜息を吐こうとすると、息を吐くのを止め、私に視線を移す。だが、その視線を少し眺めていると、私ではない誰かを見ているようだった。

 振り返ると、そこには見覚えのある者がいた。

 私との会話を中断させた幹は、鼻で笑いながら言う。


「ちょうど君の話をしていたところだったんだ。極悪性格少女に取り憑いてる神様」


 私の背後には、白海専属の神様が立っていた。

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