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美人部が閉鎖したりなんてしないっ! にっ


 翌日。学校の昇降口に入ると、そこには多くの生徒が集まっていた。

 男女問わず、何かに注目しているようで、私は野次馬根性で人の密集地に割り込もうとする。

 そのとき、多くの生徒達が私の姿を見て、道をあける。次々と後に下がる生徒達を見て、私は怪訝に思いながらも先へと進んだ。

 そして、生徒が注目していたものの前に、私は辿り着く。


「――――ッ!?」


 私は絶句した。

 そこに写し出されているのは、私が縛られている写真。手首を縄で締めつけられ、身動きが取れなくなっている様子。フラッシュをたいていたからか、背景は神社だと分かる。

 その写真には忌々しい男達が映り、ゲスな笑みを浮かべている。その写真を見て、震えそうになるほど昨日の記憶が鮮明に蘇る。

 写真から目を逸らそうとした時、そこには雅紀と瑠花の姿も映っていた。二人は俯いていたが、写真にはキチンと収まっていた。


「……何これ、酷くない? つか、誰の仕業だし」

「谷中さん可哀相……」

「そもそも、これ、後にいるの岸本じゃね」


 先輩や同じくらいの生徒の話声が聞こえる。

 幸いな事に、この学校の生徒で私の事を嫌うような輩はいないらしく、私への攻撃的な小言は囁かれていない。

 しかし、問題なのは雅紀や瑠花の方である。

 瑠花は一見冴えない女の子だ。それが私を救出しようともせず、俯いているだけでは他の生徒には悪影響を与えかねない。

 雅紀も同じだ。言うならば、雅紀の方が悪印象だろう。何せ、途中転校でこの学校にやってきているし、何よりこの学校は元は女子高だった為に、ハーレム狙いだろ、と噂されているくらい不評の人間だ。特に男子には。

 だからか、瑠花の悪口は少しだが、大半は雅紀の悪口だ。

 そんな中、瑠花と雅紀が登校する。

 雅紀は肩に鞄をかけ、瑠花は両手で鞄を持っていた。その二人の表情は、写真の拡大コピーを、目を見開いて見ていた。

 唖然とする二人。


「な、何これ……」

「………………」


 瑠花が呟き、雅紀は沈黙する。

 あれこれ悪口を囁いていた生徒達も、雅紀と瑠花の登場を目にして話すのをやめた。その中には気にしないようにして登校をする者もいる。

 瑠花は両肩を上げながら、拡大コピーの前まで歩こうとする。

 一歩で遅れた雅紀も同じように剥がそうとする。

 だが、そこに誰だか分からないが、生徒が現れる。


「邪魔だ、退いてくれないか」

「黙れ! 俺らの谷中さんが縛られてるっていうのに、何をやってるんだ!」


 私と同い年の男子が雅紀に向け、叫んだ。怒りが詰まっている声音で、言われた雅紀は後ずさる。何も言えない、それが雅紀自身の答えなのだろう。

 すぐに、私が雅紀に対しての弁護を図ろうとするものの、他の生徒達の同情の眼差しを浴びる。何かを言おうとしても、今の生徒達に何を言っても無駄だ、と私は悟った。

 そんな中、雅紀の代わりと言わんばかりに、瑠花が人垣を進もうとする。しかし、そこには男子生徒ではなく、瑠花のクラスメイトか、私にとっての先輩が道を塞いだ。


「何やってんのよ、私達の後輩が縛り付けられてるっていうのに、黙って見てるわけ?」

「ち、違うわ! こ、これは……」

「これはって何よ、言いたい事でもあるの?」

「えっと……」


 困惑した瑠花。白海に口止めされて何も言えません、では話にならない。それはきっと瑠花自身分かっている事だ。けれど、先輩後輩に言われるのではなく、クラスメイトにここまで言われれば、瑠花も委縮してしまうのだろう。その証拠に、握っていた鞄を胸のあたりでギュッと抱える。

 生徒達のいろんな視線が瑠花と雅紀を突き刺す。その眼光は、いかにも「瑠花と雅紀の性格は最悪」と物語っていた。

 あの時点で、私と立場が逆だったら、止めていたと思う。だけど、二人には二人のそれぞれ弱みを白海に握られていたのかもしれない。

 私は二人を救おうと、前に出る。


「待ってください、この写真は誰かのいたずらです」


 二人を助ける為に前に出た。

 だが、生徒達は首を横に振った。


「無理しないで谷中さん、この人達を庇う必要なんてないのよ」

「そうよ、可愛い後輩がこんな姿を晒されているというのに、助けない方が異常だわ」

「谷中さん、怖かったでしょ? だから少しくらい怒っても良いのよ」


 途轍もなく慈愛に満ちた先輩達。私はこの学校に入って良かった、と思う反面、少しくらい話を聞いてもいいんじゃないかな、と思ってしまった。

 だが、先輩達は容赦なく雅紀と瑠花を嫌悪する。その眼差しを私自身が受けたら、折れてしまいそうなくらいである。

 瑠花は肩を震わせ、雅紀は何も言えずに固まっていた。


「おい、お前ら何やってるんだ!」

「昇降口に溜まってたら、先生達が通れないだろうが!」


 そう言ってやってきたのは生徒指導の先生達。その中には綾子も混ざっていた。

 綾子は私の顔を見つめ、その後雅紀と瑠花に視線を移す。綾子は何か言いたそうな顔をしつつも、すぐに視線を逸らして、生徒が多く集まる私の縛られた姿が写っている写真を見つける。

 驚いたように目を見開いた綾子は、すぐにその拡大コピー写真を壁から引き剥がす。


「おい誰だ、こんな事やった奴は」


 生徒指導のゴリラっぽい男がそう言うと、生徒達は皆黙りつつも、「その写真に写っている奴です」と言いたそうにしていた。

 そんな視線を受けた生徒指導の教師は、瑠花と雅史を睨みつけるように見つめ、呟いた。


「お前らか」

「ち、違います!」


 鋭い眼光を飛ばす生徒指導の先生の質問に対して、首を横に振る瑠花。だが、教師は否定的な態度をとられても、瑠花の言葉を信じる素振りはまるで見られない。それどころか、熟年刑事のように「お前がやったんだろ」と言わんばかりに睨みつける。

 その隣にいた雅紀が瑠花を守るように、先生の前に現れる。


「ハッキリ言ったらどうですか、お前らが撮ったんだろって。でも先生、俺らはそこに映ってるんです。他に写真を撮った奴がいることを探った方がいいんじゃないですか」

「そうだな、確かに岸本の言うとおりかもしれん。じゃあハッキリ言わせてもらう。お前は昨日、我が生徒がこんな目に遭っているというのに、何をしてたんだ。何もせずに突っ立ってるっていうのは、どういう事だ」

「………………」

「お前、男だろ? 何で目の前の困ってる女の子を助けられないんだ。それでも男か? なさけない」


 この生徒指導の先生はかなり怒っていた。

 女性を助けられない男は男じゃない。と言っているのだ。

 確かに一理ある。けれど、雅紀達にはそれなりに動けない事情があったのだ。

 そこで、黙っていた綾子が口を開いた。


「とりあえず、お前達。職員室に行くぞ」


 それだけ言われ、私達三人は職員室に連れて行かれた。

 今まで散々雅紀と瑠花に、野次を飛ばしていた生徒達も、校舎に入って行った。


 職員室に連れていく、と言われたが、連れて行かれたのは職員室ではなく校長室であった。

 校長の座る席には、坂本――――つまり優香の父親が校長なので座っている。

 私達三人の姿をそれぞれ、視界に入れ、溜息を吐いた。


「夜遅くに、こんな事をしていたのか。君達三人は」


 坂本は説教を自らする。

 雅紀と瑠花は、すぐに否定する。


「こんな事ってなんですか! そこにあたしは写ってますよね! 第三者の仕業だって考えられないんですか!」

「瑠花の言うとおりです。俺らはそこに映っているんだから、疑うべきは第三者の存在です」

「黙れ」


 坂本はギロっと睨みつける。その鋭さは、まるで任侠映画の悪役のようであった。

 瑠花と雅紀はすぐに怖じ気つき、何も言えなくなってしまう。

 そこで、坂本は私に視線を移す。


「……君は何でこんな目に遭ってるんだ」

「それは……」


 白海の追跡をした結果だ。

 昨夜、綾子も言っていたが、白海の所業を話せば、もしかしたら何か罰を与えられるかもしれない。そう思い、私は口を開いた。


「白海 麗香さんに縛られた写真です。昨夜、私が神社に行ったら、白海さんとガラの悪い人達が集まっていて、それで私は縛られたんです」

「……そうか」


 そうか? それだけ?

 私はすぐに、首を傾げそうになる。

 もっと自分の学校の生徒が縛られたんだから、何か言っても良い筈だ。それなのに、そうか、って一言だけで終える意味が分からない。

 私はすぐに抗議の声を上げようとした。

 だが、そこにノックが響く。

 そのノックをした者は、校長の返事を待たずにやってきた。


「あら、皆さんお揃いなのね」


 そこに現れたのは、昨夜、私を犯そうとした白海 麗香。

 その瞬間、今朝からの全ての仕業が彼女のものだと判明する。

 すぐに白海の頬を殴ってやりたい衝動にかられ、私は動き出す。

 拳を振り上げ、白海の頬へと走らせようとした。

 だが。


「やめなさい、谷中さん。殴れば、君を退学にしなきゃいけなくなる」

「……な!?」


 校長が私を睨みつける。だが、その顔は幾分疲れているようにも見える。

 殴ろうとした相手――――白海は、私に向かって不敵な笑みを浮かべる。怒りは今にも噴火しそうになり、殴ってやりたいという思いが溢れ出す。

 そして、白海は校長の隣まで歩く。


「そういえば、白海さん。君は今朝、谷中さんを縛っていた写真が貼り出されていたのを知っているか?」


 校長は白海に尋ねる。


「ええ、知っていますよ」

「本当か、誰が貼ったのか、分かるか?」


 校長は熱心に白海に聞いている。

 だが、白海は首を横に振る。


「いいえ、知りません」


 でも、と白海は付け足す。


「これって、この人達が所属している美人部とかいう部活の活動らしいですよ」


 笑う白海。

 私は目を見開き、白海を見つめる。

 雅紀や瑠花も同じように、一瞬何を言われたか分からないような顔をしていた。

 そして、校長は机を叩いた。


「君達、いくら部活とはいえ、少しやり過ぎじゃないか?」

「な、そんなの真っ赤な嘘に決まってるじゃないですか! それを撮ったのは――――」


 瑠花が返答しようとするも、そこで白海の視線が鋭く瑠花に突き刺さる。

 それから、何も言えなくなってしまう。


「……そうか、まぁいい。今回は、君達三人を処分するのはやめておこう。だがこれは言っておく」


 校長は私達、三人の顔を順番に見つめる。

 重苦しく、その言葉は校長室に響いた。




「美人部は廃部だ」





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