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美人部が閉鎖したりなんてしないっ! いちっ


 夜の首都高速を駆け抜けた大型二輪車は、中谷家へと停車する。

 爆発的な音を消し、エンジンを切るとその人はヘルメットを脱いだ。

 先ほど、私もヘルメットを貸して貰ったので、被っていたのだが、自宅に到着したので外した。

 家の前には一人の姉と、子供が二人立っていた。

 三人とも、腕組をしながら眉間に皺が寄っている。


「……ただいま……」


 私が呟くと、三人とも溜息を深く吐いた。


「……おかえり、美樹たん。こんな時間まで何やってたの」

「すいません……」

「とりあえず、中で話を聞くから入ろう」


 姉が玄関の扉を開けて、私に入るように促す。

 私を送ってくれた綾子も、ライダースーツのまま、自宅へと足を進める。


 外の気温が低下していたからか、家の中は暖かく、自然と警戒心が緩んでくる。

 その様子を見た、子供の麗と優香はソファに腰を降ろした。

 外にいたのは、麗と優香だ。どうやら出迎えてくれたようだ。

 姉と麗と優香がソファに座り、その対面にあるソファに私が座る。隣には美羽が座っていた。

 綾子は壁に背を預けながら、話を聞くつもりなのだろう。

 とりあえず、全員が座ったのを姉が確認すると、私をキツく睨みつけた。


「こんな時間まで何をやっていたか、教えてもらいましょうか」

「……はい」


 まるで掟を破った者に罰を与えるかのような粛清人のような雰囲気を醸し出す姉。だが、今日の私には、そんな姉に抵抗する意志などなかった。

 私は今でも、蘇る光景に思わず身を震わせてしまう。

 そんな私を見て、綾子は姉に言う。


「美鈴、今、美樹は相当怖い目に遭ったんだ。少しだけ落ち着く時間をくれ」

「……わかった。けど、美樹たんがもし言わないようなら、先生から何があったのか教えてよね」


 姉はぶっきらぼうに綾子に言うと、綾子はただ、ああ、とだけ答えた。

 最初は目くじらを立てていた麗・優香・美羽も、徐々に状況が喜ばしくないと分かったのか、私から視線を逸らし始める。

 現在、家に父と母と兄がいないのか、このリビングには無言だけが数分続いた。

 今でも蘇る、犯されそうになった恐怖。

 綾子が助けに来てくれなければ、私はあのまま……考えたくもない。

 だけど、このままじゃ、またあの恐怖に巡り遭う事になってしまう。それだけはどうしても避けたかった。

 なので、私は覚悟を決めて、話をする事にした。


「……最初に謝っておきます」


 それから、私は事の顛末を話した。

 麗達を子供化させた神様と神社。

 美人部を裏切った雅紀と瑠花。

 全てを裏から糸を引いていた白海。

 そして、私自身が処女喪失のピンチに陥った事。

 いつもは、ナンパされただけで怒る姉や麗。しかし、状況が状況なだけに二人共、私の話す事を心から聞いてくれているようであった。

 話を終え、姉はまず立ち上がる。行先は家の電話がある場所だ。


「お姉さん?」

「美樹たん。これはれっきとした犯罪だよ。悪いけど、美樹たんや麗ちゃんに片付けられるような問題じゃないよ」


 真剣な顔をする姉。きっと、私を犯せと命令した白海が許せなかったのだろう。そういう所は素直に嬉しかった。

 だが、壁に背を預けていた綾子は呟いた。


「やめなさい、美鈴」

「先生は黙ってて。これはもう――――」

「無駄だ。美鈴、あなたは知らないだろうけど、白海って言って思い出すモノはない?」


 綾子に言われ、少しだけ考える姉。

 だが、いくら考えても姉には思い当たる節はない。

 しかし、ここにいる全員は綾子の言葉の真意に気付いていた。


「ホテル白海グループ」

「……たしか、あいつは、そこのごれいじょうだ」


 拙い口調で喋る麗。

 ホテル白海グループ。都内を中心に、日本全土に一つはあるホテルメーカーである。その店舗数は二百件。大手企業ではなく、超大手企業である。

 その名を知らぬ日本人の方が珍しいだろう。

 姉が知らないのは、多分、あまり興味がないからだと思う。


「……なるほどね、なっとくがいくわ。じゃなきゃ、あれだけ、すきかってやっておいて、おとがめなしっていうのはむりだからね」


 優香が喋る。

 つまり、色々と自由に行動している白海ではあるのだが、超大手企業社長の娘だとしたら、事件沙汰になってる事もお金の力で帳消しにしてしまうのだろう。

 悪の根源、と言っても良い。


「でも、おねえさんなら!」

「無理だって。どうせ大金を積まれてお終いだよ。私も少しだけ白海グループについて調べたけど、過去に金で揉み消した事件は沢山あるらしい。殺人とかはないけど、それでも酷い事がほとんど。無暗に手を出して良い相手はないわ」


 美羽の期待を、へし折る綾子。もちろん、そのつもりはないだろう。けれど、それだけ白海グループの力は強大なのだろう。

 どう考えても、今の白海は止められない。私はそう考えていた。

 いつもの麗がいたなら、少しは強くなれたかもしれない。だけど、麗は御覧の通り子供だ。

 だからこそ、私はいつも以上に皆の力になりたい。しかし、その結果が私自身がその身を危険に晒してしまい、逆に皆に迷惑をかけてしまった。

 結局、私は何もできない、ただの人間なんだ。

 沈黙が中谷家に続く中、綾子は壁から背中を離す。


「……とりあえず、明日、校長先生と理事長にはかけあってみるよ。もし、一歩譲って話が通っても、白海の退学は恐らく不可能だ」

「……ぱぱ……」


 綾子は、呟いた優香を見つめた。

 きっと、優香は自分の父である校長が、綾子の話をキチンと聞いてくれと願っているのだろう。

 しかし、優香には失礼だが、あの校長では白海をどうにかできるとは思えない。私としては、綾子の優しさに感謝はすれど期待はしていなかった。

 そのまま綾子はリビングを後にして、玄関へと向かう。

 後を追って行くと、綾子はヘルメットを被っていた。


「先生!」

「ん、どうした? まだ何かあるのか?」


 首を傾げる綾子。ヘルメットを装着し終えている。

 私は腰を大きく曲げて、頭を下げた。


「今日は、ありがとうございましたッ! 先生には、どうやって恩を返したら……」


 謝罪をすると、綾子は溜息を吐きながら、私の頭にポンっと手を置いた。


「恩がどうとかじゃない。私は教師で美樹は可愛い生徒だ。私は教師として生徒を守るという途轍もなく普通の事をしたまでだ」

「それでも……」


 私の言葉を遮るかのように、綾子は私の頭を撫でる。


「良いんだ。それが私、杉本 綾子なんだから」

「先生……」


 なんだか、安心してしまった。

 普段は合コンがどうのこうのとか言ってふざけているけど、生徒の事を想う気持ちは人一倍強い気がする。

 私は、どんな教師よりも最高な先生に出会えて良かった。

 それだけ言うと、綾子は親指を立てて家を出て行った。

 リビングに戻ると、そこには姉が凄まじく落ち込んでいた。


「お、お姉さん!?」

「……クッ、あたしとした事が……美樹たんのフラグを持っていかれるとはッ!」

「はい?」


 いつもの様子に戻っていた姉。

 どうやら、本当に悔しがっている様子ではないようだ。


「美樹たん。一つだけ聞いて良いかな」

「はい」

「もし、今日あたしが美樹たんを救いに来ていたら、どうした?」


 姉が至極真剣な顔をして聞いてきた。

 そう言われても難しい部分がある。

 綾子はカッコ良かった。さらに言うのなら、私の中で綾子の株は大幅に上がった。同じ女性なのに単体で、集団を蹴散らす綾子には憧れていない、と言ったら嘘になるだろう。

 私は答えた。


「多分、惚れていた、という表現が一番正しいかもしれませんね」

「「「「な!?」」」」


 姉に対して答えたというのに、まさかの子供化した美人部女子メンバーズまで反応した。

 あれ、何か可笑しかったかな?


「み、みみ、みみき! ほ、ほれるって、そ、その、せいてきにか!?」

「性的にって、麗は子供何ですからそういう発言は慎んでください」

「みきちゃん! あたちだって、みきちゃんのぴんちは、かけつけるよ!」

「逆に心配するので、優香は大人しくしててください」

「みき! あたちも、かっこよくなったら、ほれてくれる?」

「それはありませんよ、美羽」


 全員を宥める私。

 皆子供だからか、各々が深夜だというのに「ええ~」と大声で不満を表に出していた。

 そんな中、一人だけ、子供じゃない人が叫ぶ。


「美樹たん、お願いだから、先生に惚れるとか言わないでよ」

「言いませんよ、先生は同性なんですから。それに先生の方が迷惑だと思うし……」


 綾子は生粋の男好きだから、両想いになる事はないし、それに私自身も惚れるとは言ったものの、性的にと言われたら微妙である。一番近いのは多分尊敬だろう。

 しかし、私の言い方がまずかったのか、姉は私の華奢な両肩を掴んだ。


「お姉さん?」

「それってさぁ……つまりだよ? 先生が美樹たんに告白してきたら、どうすんのよぉぉぉぉ」


 顔がまるでホラー映画のように怖い姉。

 けれども、答えは決まっている。


「お断りするに決まってるじゃないですか。同性なんですから」

「……」


 ちゃんと答えたのに、姉は無言だった。

 子供達の方にも視線を送ると、何やら期待していた答えとは違ったようで微妙な顔をしていた。

 でも、いつも通りに接してくれて私は嬉しい。

 皆気遣ってるのかもしれないけど、私は日常が好きだ。

 だから、精一杯の感謝をこめて、姉と子供達に向けて言った。


「大好きですよ、皆!」


 笑顔で言うと、皆がまるで私を神様のように崇める。

 その後、私が就寝するまで、もう一度同じセリフを言って、と皆にせがまれるのは別の話である。

 この日の夜、私は気持ちを切り替える事にした。

 今までは一人で何とかしないと、なんて思ってたけど状況が違うんだ。

 これ以上、一人で無茶をしても皆に多大な迷惑をかけるだけだ。

 とりあえずは、白海の行動に最大限に警戒するしかないだろう。


 私と白海の喧嘩は始まったばかりだ。

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