私が神様を探したりなんてしないっ! ごっ
神社の明りが心もとなく私を照らし、瑠花と雅紀の顔が視界に入る。
肌寒くなってきた昨今の気温の中、私は制服なので寒さを直に感じていた。さらに言うのなら、二人の姿を発見してしまった事により、現在の私の体感温度も下がっているのかもしれない。
白海を追跡していたつもりが、そこには雅紀と瑠花が揃っていた。
「ま、雅紀さん達こそ、ここで何をしてるんですか……」
二人が怪しいのは分かっていた事だ。
けど、どうしても何をしていたのか私は気になって仕方がなかった。
それに、二人は私達の部活――美人部のメンバーだ。白海に協力しているだなんて思いたくもなかった。
しかし、私の期待とは裏腹に、雅紀は重い口を開く。
「何って、白海さんに集められたから来ただけだよ」
「そ、それって……」
「雅紀、良いの?」
雅紀が何かを言おうとしている。
それを遮る瑠花。
だが、雅紀は言った。
「単刀直入に言うと、俺達は白海さんに協力している」
「……え……」
「白海さんは言ったんだ。もし、協力してくれれば、俺達の願いを叶える、とね」
私は目を見開いた。
酷い。
私は心の中で、その言葉だけを呟いた。
という事は、最初から白海の思惑通りに私達は動かされていた事になる。
最初から、私達を騙す為に美人部に入部したのかもしれない。それでは、あんなに嬉しそうに歓迎会をした麗の気持ちはどうなるのだろうか。
白海に対して、敵対している私達の事を知っていながら騙した雅紀と瑠花が、私は許せなくなっていた。
徐々に頭に血が昇っていく。
「あなた達は、最初から私達を騙す為に美人部に入部した、そういう事なんですかッ!」
怒り口調で叫ぶ。
しかし、雅紀も瑠花も首を振る。
「最初からじゃない。けど俺達は゛願い゛を叶えたいだけなんだ」
「願いを叶えたい? それだけで、あんなに嬉しそうに美人部に歓迎していた麗や優香を裏切れるんですか!?」
私の怒りはついに表に出る。
いつの間にか、私は雅紀の胸倉を掴んでいた。
美少女にあるまじき行為ではある、けれど我慢できなかったのだ。
麗を優香を、そして、美人部を裏切った雅紀と瑠花が。
だが、雅紀は私を突き放した。
「……悪いけど、これは俺達の問題なんだ」
「そうよ、谷中さんには悪いけど、邪魔しないでもらいたいの」
突き放された私は、地面に尻もちを着く。
けれども二人を睨みつけた。
もし、麗達が子供化していなければ、もしかしたら大目に見て、これ以上は突っ掛からなかったかもしれない。けれど、現に被害者が出ている。
私はすぐに立ち上がる。
「嫌です。既に被害が出ているんです。あなた達が私達、美人部を邪魔するのなら容赦しません」
誰にも負けない。麗が子供である今、私しか美人部の為に動ける人間はいないのだ。絶対に白海達に負けるわけにはいかないんだ。
強い志を持ち、私は雅紀と瑠花を前にして宣戦布告をした。
「あらあら、誰が誰に対して容赦しないんですか~?」
その声は雅紀のモノでもなく、瑠花のモノでもない。
私はすぐに我に返り、ヤバい、と内心で呟いた。
つい、熱くなり過ぎて忘れていた。
ここには白海本人がいた。
振り返ると、そこには白海と牧。その他大勢の下品で低俗な男達が揃っていた。
私は雅紀と瑠花から視線を移し、白海を睨みつける。
「白海 麗香ッ!」
「これはこれは、噂の超美少女の谷中 美樹じゃ、ありませんか。良いんですか? 美少女がこんな時間に外にいて」
白海の芝居がかったセリフに、背後にいたチャラ男達は笑う。
完全に私を挑発しているとしか思えない。
けれど、牧は笑わずに私を見つめる。
大方、好きな人をバカにして笑われたのが面白くないのだろう、牧は白海の肩を掴んだ。
「白海さん、そういうのは良くない」
真面目な顔つきで言われた白海は、一瞬頬を赤く染めて硬直するも、誰の為に怒ったのか気付いたのだろう、すぐに不機嫌になり、牧から顔を逸らした。
牧に救われた、と私はそう思った。
しかし、安堵の瞬間はすぐに終わりを告げた。
白海はニヤっと笑い、雅紀と瑠花に視線を移した。
「ねぇ、雅紀さん、瑠花さん。今すぐ谷中 美樹を縛りなさい」
「「え!?」」
二人はすぐに虚を突かれたような顔をする。
その二人を目にし、白海は瞳を細める。
「早くしなさい。願いを叶えて欲しいんでしょ?」
白海はまるで嬢王のように、上から二人を見下した。
雅紀は一瞬瞼を閉じ、何かを決意するかのように瞼を上げる。
隣にいる瑠花は躊躇わずに、近くにいた白海の下僕と思しき人物から縄を受け取る。
その二人が近づいてくる。
「……ほ、本気なんですか」
「ああ、大人しくしていてくれ」
雅紀は真剣な目で訴えてくる。
しかし、黙って縛られるわけにもいかない。
私はすぐに逃げようと振り返るが、そこには白海の下僕が立ち止まっていた。
「待て、君達は何をしようとしてるのか、分かっているのか!」
牧が叫ぶ。その身体は今にも私を救出しようと動こうとしている。けれども、白海の下僕が牧の行動を封じている。
私は奥歯を噛み締め、白海に向かって言った。
「あなたは、本当に最ッ低な人間ですね!」
「最低で結構! アタシはあんたみたいな猫かぶりの方がよっぽど性格悪いと思うけど」
白海はニヤニヤと笑い、私に一歩一歩確かめるように近づく雅紀と瑠花を見つめる。
「あ、言うの忘れてたけど、今逃げだそうとしたら、後でその二人がどうなっても知らないわよ?」
「……こ、この外道ッ!」
私は叫んだ。
しかし、覇気だけしか逆らえなかった。
冷静になれ、と言われてもできるわけがなく、私は今すぐ白海を殴りたい衝動にかられるが、そんな行動をしてしまえば後で雅紀や瑠花に仕打ちが来てしまう。
いくら裏切った部員だとしても、私は雅紀と瑠花の二人を蔑ろにする事ができなかった。
雅紀と瑠花は、私の近くにて立ち止まり、手足を縛りあげて行く。
そんな二人は、私が大人しく縄で締めあげられている間、小さく囁いた。
(ごめんな)
(ごめんなさい……)
私は二人に視線を向けるが、二人の顔は真顔で何も考えていないかのようだった。
やがて、私の手足を完全に縄で縛られた。
これで逃げる事は不可能となった。
「良い様ね、谷中 美樹ッ! 今の感想はどうかしら!?」
「すぐにでも、あなたを殴りたいです」
「あ゛あ゛!?」
身動きが取れなくなった私。
けれども、絶対に白海なんかに屈しないと私は決意していた。
許さない。
その思いが次第に膨れ上がっていく。
「ホント、分かってないなぁ。谷中 美樹。アンタは今、縛られてるんだよ? もっと人質らしいセリフとか吐けないの?」
「吐くだなんて、やっぱり白海さんは低俗な人間ですね」
「……つくづく思うよ、アンタの性格悪いってな。教えてあげるわ、立場ってものをね!」
白海が首で男共に命令をする。
牧を抑えている男達は、そのまま待機。
けれども逃げ道を塞いでいた男達が、携帯を片手に私の傍にやってくる。
男共は誰もが携帯のカメラを起動し、フラッシュを放つ。
次々と放たれるフラッシュが眩しいが、私は白海から視線を移さなかった。
「良いねぇ、そうやって下から見られるっていうのは。これが美しさの差、っていうのかなぁ?」
「どうでしょうか、美しい美しくないと言えば、完全に白海さんの心は下水道のように濁って異臭を放ってますけれどね」
白海は私のセリフを聞いて、拳を震わせる。
「ホント、バカで性格悪いって救いようがないわ! アンタ達、襲いなさい」
「なっ!?」
私はその言葉を聞いて、目を見開く。
この女は最低、いや本当に最低中の最低だ。
まだ、五億歩譲って男が女性に対して襲えというのなら、まだ分かる。けど、白海は女だ。なのに同性を襲え、などとよく平然と言える。
怒りを通り越して、私は驚愕してしまった。
その姿を見て、白海は怖がっていると思ったのだろう、怒りが喜びに変わっていくのが目に見えて分かった。
「あららー、さすがに怖いんでちゅかね? まだ処女だから怖いんでちゅかね?」
「驚いてるんですよ、あなたが本当に本当に最低過ぎて」
「……強がっていられるのも今のうちよ、精々最後の処女を楽しみなさい! あはははは!」
大笑いする白海。
その瞬間、いくつも叫びが聞こえる。
「今すぐ、僕を解放しろォォォォォオオオオオッ!」
「あら、代永先生はまだダメですよ。あなただって協力してくれるって言ったじゃありませんか」
「話が違う! 君は、君は何をしようとしてるのか、分かっているのか!?」
「アタシは別に何もしてません、するのは、アタシの下僕」
「くっ! 僕は君を許さないぞ!」
「許さなくても結構。アタシはあなたの為にやっているんですから。好きな人が犯されるのなんて見たら、興醒めするでしょ?」
白海は嬉しそうに牧に話しかけた。
そうした会話の中、私へと魔の手が伸びる。
「やめなさい!」
今度は瑠花が叫ぶ。
だが、白海は瑠花の方へと視線を向けるわけではなく、口だけで答えた。
「……願いを叶えたいんじゃないの?」
「それはそうだけど、これはやり過ぎよ!」
「黙っていなさい。アンタも言ったじゃない、願いを叶えてくれるのなら、何でもするって、なら、何もしない事がアンタにできる事」
白海はそう告げると、他の男が瑠花を抑える。
その隣には雅紀がいる。
「今すぐやめさせろ! こんなところを、弟が見たら……」
「知らないわ、アンタも言ったでしょうが。最後に会わせてくれるのなら、何でもするって。どいつもこいつも、都合のいい時ばっかり。嫌になるわ」
雅紀の言葉にも、瑠花の言葉にも、牧の言葉にも動かない白海。
かえって尊敬の念すら覚えそうだ。
そうこうしている内に、男達の手は私の制服に伸びる。
四人ぐらいの男達は、私の服を今まさに脱がそうとしている。
顔はだらしなく、涎が垂れている者までいる。
遂に、私の制服のリボンが解かれる。
「……こ、このおっぱいを揉めるのか!」
「おい、誰から揉むよ?」
「お、俺からでもいいか?」
「誰でもいいから、早く脱がせよ!」
男達の会話が嫌になる。
こんな女の子に四人で群がってくるとは正気の沙汰とは思えない。
けれど、このままじゃ、私は犯される。
私は遂に怖くなり、目を閉じた。
――――嫌だ、嫌だ、嫌だ!
いつしか、私の目からは涙が流れていた。
初めては好きな人としたかった。
けれども好きな人はもういない。
でも、このままだと私は知らない男に犯される。
もう、ダメだ。
何もかも、どうでも良くなって――――――――――――――――――――――――。
「美樹ィィィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
その瞬間、神社の高い階段を、何かが昇ってきた。
ブォンブォンという音を周囲に撒き散らし、その者は現れた。
バイクだった。しかも大型の。
彼――――いや、彼女は大型のバイクに乗って現れたのだ。
「諦めるな、美樹」
そう言って、私のシャツのボタンを外そうとした男達四人を、バイクの前輪で薙ぎ払う。
あまりにも重い衝撃が男達の頭部を襲う。
「な、あんた誰!?」
「誰って、通りすがりのただの教師さ。白海 麗香」
「あ、アタシの名前!?」
彼女はそれだけ白海に告げると、私の身体を強引に引っ張り、バイクの後部座席に座らせる。
「な、何で……」
「細かい事は帰り道に教えてやる」
ヘルメットを被るのは、私の担任の綾子だった。
彼女はニコっと笑い、バイクのアクセルを握った。
「ちょ、逃げるな!」
叫ぶ白海。
だが、白海の叫び声が遠くなる。
私は綾子の身体を抱きしめた。
怖かった。
もちろん、男達に犯されそうになったのが一番怖かった。
けれども、それと同じくらい神社の階段をバイクで降りるのは怖かった。
あと、綾子先生、本当にありがとう。そして、カッコ良かった。




