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私が神様を探したりなんてしないっ! よんっ

 暗闇が空を覆い始めてから数時間が経過した。

 麗と同じ中学に通っていた、性悪女の白海 麗香。その隣には、私に求愛行動を毎日必ず仕掛けてくる美人部副顧問教諭の代永 牧。その二人の後をナンパ男二人が後を追う形になっている。

 この四人が何故、ファミレスで会話をしていたのかは分からない。けれど、尋常ならざる会話をしていた事に違いはない筈だ。

 今、私は四人を尾行している。

 電車を乗り継いで来た場所は、以前に雅紀と瑠花がお参りをしに来た場所だ。

 無数に立ち並ぶ神社。

 歩道を照らす街灯は、都会から少々離れた田舎だからか、電球が今にも消えそうであった。

 少々の肌寒さを感じながらも、私は瓦礫や大樹の陰に隠れながら、四人の動きを見つめていた。


「どう? 牧先生、あたしと一緒に泊まりません?」

「遠慮しておくよ。明日も学校だし、第一僕と君は教師と生徒。手を出していい相手と悪い相手くらい判断は容易だ」

「じゃあどうして谷中さんには、手を出そうとしてるの?」


 先頭を歩く白海と牧。その雰囲気はカップルと言っても変ではない。

 後方のナンパ男二人は白海と牧の会話をただ黙って聞いている。


「僕は別に手を出そうとしているわけじゃない」

「どういう事?」

「ただ、僕を見てもらいたいだけなんだ。あの人は僕よりも遥か高みにいる気がするんだ」

「……別に牧先生の上司ってわけじゃないでしょ」

「うん、そうだけど」


 牧は夜空を見上げた。


「最初は外見だけで彼女を恋人にしたい、って考えてたよ。けど違う。内面的にも彼女は美しい。誰よりも、ね。彼女の事を幸せにしてあげたいし、僕も幸せになりたい。真実の愛には壁などというものは、あってないようなモノさ」


 趣味を語るような口調で言った牧。その様子を白海は黙って見ていた。

 最初は外見から入ってきたというのは、私的には流せない話だが、ここで出て行ってしまえば、この四人がどこへ向かっているのかを探るのが困難になってくる為、私はしばし見守る事にした。

 沈黙を保ってきた白海は、私の事を嬉しそうに語る牧を見てつまらなかったのだろう、機嫌を悪くさせながら口を開いた。


「……真実とか、愛とか、あたしには分かりません」

「そうだね。まだ高校生なら分からなくて当然だ。この僕でさえ最近気付いたようなものさ」

「あたしにも、そういう相手いるとしたら、誰だと思います?」


 白海は機嫌が悪くなったかと思えば、牧に試すかのように聞いてきた。

 運命の相手がいるとしたら、という事なのだろうか。

 私は民家の塀に隠れながら、二人の会話に耳を澄ました。


「どうだろうね、君とそこまで親しいわけでもないし、それに君の交友関係も知らない。だから、僕には誰が君のそういう相手だと判断する事は難しいよ」

「あくまで模範解答、なんですね」

「それが教師としてあるべき姿なら、僕はずっと同じ解答をするよ」


 牧は苦笑いしながら白海に返した。

 一瞬普通の女子に戻りかけた白海だったが、すぐに不機嫌になってしまった。牧は乙女心が分からない人間なのだろうか。見た目的には遊んでいそうな男だが、案外奥手だったりするのかもしれない。

 二人の会話は、それで終わりだと言わんばかりに、足を止めた。

 まるで雲の上にまで届きそうな程長い階段。石が一段一段積まれているのを見ると、足元は決して安全とは言えなく、かなり体力を消耗しそうであった。段差も高く、運動部に入っていない帰宅部の連中ならば、すぐに息が上がってしまいそうである。

 階段の脇には草や木々達が荒れんばかりに生えている。手入れがされていないのか、緑の無法地帯と化しているのだ。

 もちろん、街灯は点滅しておらず、電球を換える僧職すらこの神社にはいないのだろう。

 だが、この階段を私はつい先日昇っていた。

 雅紀と瑠花の尾行をした時に、この神社にて私はお祈りを済ませたのだ。

 何故、ここに来たのか。色々と謎は深まる。

 けれど、白海がここに牧を連れてきたという事は、何かしらの事情を話すつもりなのだろう。

 私は生唾を飲み込み、四人が神社に足を踏み入れる姿を見つめた。


「……君は言ったね、僕が協力すれば、邪魔者は消えると」

「はい、牧先生があたしの計画(・・)に協力してくれれば、間違いなく邪魔者はこのまま消せます」

「そうか。ならば、僕も喜んで協力しよう」


 二人は会話を交わし、そのまま石段を上がっていく。

 後方にいるナンパ男二人は、先に昇る二人を見つめたかと思うと、私のいる方向に視線を飛ばしてきた。

 動き出しそうになった私はすぐに足を止めて、民家の塀に身を隠した。


「……視線を感じたんだけど……」


 ナンパ男の一人が呟いた。

 もう一人のナンパ男は自分の身体を抱きしめながら言った。


「お、おい……こういう所でそういう事言うなよ。ゆ、ゆ……」

「幽霊じゃないよな?」

「ばっ!? お前信じてるのかよ!」

「い、いや……でもさ……」

「もういい! 先に行くぞ!」

「ちょ、待てよ!」


 私は自分の胸を撫でおろした。

 尾行がバレたのかもしれない、そう感じた。けれど、あのナンパしてきた男がバカだったからか、幽霊だと思ってくれたようだ。

 確かに、ここら一帯は民家が所々にあるとはいえ、薄暗いし人気もない。視線を感じたら幽霊だと思いこむのが普通なのかもしれない。

 急ぐように階段を昇る男二人。その姿が見えなくなり、私はいよいよ神社へと向かう階段の前に立った。

 改めて見ると、長い。

 それが感想である。

 しかし、いつ、どこで、どんな時に襲われるか分からない美少女レベルの私は、姉のオススメで鍛練を決まったペースで実行している。それもこれも、過去いろんな事があってからは、姉に言われるまでもなく私は肉体鍛練を自ら進んでやってきた。

 これしきの階段では、息を上げる事すらないだろう。


 案の定、体力を奪われることもなく、神社の社に到着した。

 足音を消しながら、ここまで到着するのは少々面倒であったが、それでも静かに階段を昇ってきて正解だったようだ。

 賽銭箱の前に、白海と牧。そしてナンパ男二人が突っ立っていた。


「……それより、あんた達も御苦労様ね」

「し、白海さんの命令っすからね……」

「で、でもハイキックは痛かったっす……」


 ここで初めて白海はナンパ男二人に話しかけた。

 二人はお互いを見つめ合ってから、数刻前の出来事を思い出したようで身震いをしていた。

 多分、私に蹴りを入れられたのが、だいぶ痛かったと見える。あれはあれで、攻撃しておいて正解だったのかもしれない。

 白海は笑いながら、二人の肩を叩いた。


「まぁいいじゃない、あなた達も身を持って経験したわけなんだしさ」

「そりゃそうっすけど……」

「女子の力じゃないっすよ……」


 嘆きながらナンパ男二人は、白海を見つめた。だが、白海は自らも私の攻撃を受けた経験があるからか、同情の眼差しを向けていた。


「……一理あるわね」

「何言ってるんだい、そこが美しいんじゃないか」


 と、まぁ牧は空気を読まないのも私には見えていた事だ。

 一通り会話を交えてから、白海は賽銭箱に五百円玉らしきものを投下した。

 ナンパ男二人は五百円玉の投下に目を見開いた。多分、勿体ないとかそんな事を思ってるのだろう。

 牧は何も言わずに、じっと神社の奥を睨みつけた。

 そして、沈黙。

 だが、誰もいなかった筈の神社の奥から、何者かが現れた。


「今日は友人も一緒なのかい?」


 まるで父のような話しかけかたをして現れた。

 実体のない、幽霊のような人間が出現したのだ。男二人は目を見開き、驚いた様子だ。しかし、牧は動じずにじっと現れた者を見つめている。


「そうよ、たまにはね。この人があたしの言ってた人」

「初めまして。代永 牧と言います」

「知ってるよ。あなたの話はよく麗香から聞いていますから」

「そうですか」


 牧は営業スマイルを造り出し、何者かと対峙する。

 だが、そんな余裕を持つ牧とは真逆の反応を露にしている二人は、人差し指を向けて口から言葉を漏らした。


「ゆ、幽霊……だ」

「ま、まだ死にたく……」

「違うわよ、神様よ。神様。この神社でずっとあたしだけを見守っててくれた神様なの。挨拶が先でしょ?」

「あ、あわわわわ……」


 さすがについて行けないのだろう。男二人は怯えて、腰を抜かしていた。

 私相手に尻尾巻いて逃げた事といい、神様を見てビビる事といい、この人達は本当にどうしようもないほどお馬鹿さんなのだと気付いた。

 そんな二人に飽きれる中、神様は口を開いた。


「麗香、子供化の件はどうだ? 言われた通り、子供化を解くのには、僕と同等か、それ以上の神様の力が必要になる。恐らく、半永久的に彼女達は子供のままだろう」

「ええ、おかげで助かってるわ。残りは一人だけ」


 白海は嬉しそうに呟いた。

 この神様の話を聞くに、多分、この神様が消滅、あるいは神的な力を解除する方法が麗達を元に戻す事に繋がるのだろう。さらに言えば、もしかしたら幹にお願いすれば、なんとかなるかもしれない。

 私は握り拳を作り、神社を後にしようと思い振り返る。

 だが、足は再び動きそうにもなかった。


「……何してるの」

「夜分遅くに、一人で何をしている」


 そこには瑠花と雅紀が立っていた。

 私は良い言い訳も見つからなくて、ただ二人の姿だけを凝視してしまった。

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