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私が神様を探したりなんてしないっ! さんっ


「ま、毎度ありがとうございます……」


 夕刻が過ぎ、漆黒が空を染めた頃。

 カラオケ店のお会計所には、店員含め、六人の人が存在していた。

 同じような色をした金髪のナンパをしてきた男二人。

 私と沢渡さんと立花さんの三人。

 先に会計をしている金髪の男二人は、私の顔を見てバツが悪そうに、そそくさと帰ろうとする。二人の容姿に共通しているのは、どちらも金髪であり、尚且つ身体に物理的ダメージを負った跡が残っている事だった。

 その二人が私から逃げるように帰ろうとする。

 私の冷ややかな視線を受けた二人は、大人しく店を後にした。


「それにしてもさ、谷中さんって何でもできるんだね!」

「驚いたとしか言いようがないわ。ホント、主が言っていた通り」

「その主が誰なのか詳しく教えてもらいたいんですけれど」


 沢渡さんが私を褒め、立花さんは主(麗)から私が武道にも精通しているのを聞いていたのだが、イマイチ信じていなかった様子。だが、これで立花さんも私が肉体的にも強いと知った事であろう。

 私は苦笑いしながら、いい加減に主が誰なのかを、立花さんの口から聞きたかったのだが、答えてくれる様子は皆無である。

 店員さんが困った顔をしながら伝票を私達に渡す。


「お会計が――――」


 それぞれの財布からお会計にて提示されている料金を三分割したお金を取り出す。

 立花さんがまとめ、店員さんが受け取る。

 自分の財布を鞄の中にしまっていると、店員さんは苦笑いしながら尋ねてきた。


「あ、あの……、先ほどのお客様から迷惑かけられなかったでしょうか?」

「へ?」


 店員さんが私達に問う。それに対して沢渡さんがポカンとしていた。多分、話しかけられると思わなかったのだろう。

 何かを言い辛そうにしていた店員だったが、私達に耳打ちを始めた。


「……ここ最近、この辺りのカラオケで、ああいうナンパが流行っていまして。犯罪スレスレになるケースまで増えてるんです……」


 私達三人は耳を傾け、店員さんの話を聞く。

 店員さんの言葉が終了してから、沢渡さんと立花さんは先刻の金髪男二人を思い出したように「あー」と言う。


「……そういえばナンパされてたんだよね、あたし達」

「うん、谷中さんのハイキックが衝撃的過ぎて、ナンパされてた事が霞んじゃったわよね」


 沢渡さんは思い出したように呟き、それに対して立花さんも頷いた。

 実際、私にとってナンパを撃退する行為など取るに足らないので、別段気にしている事はない。

 店員さんが沢渡さんと立花さんの呟きを耳に入れ、目を見開く。


「え、ハイキック!?」

「うん、ズバンっと」

「あれは露骨が折れてたわね」

「ちょ、二人とも!?」


 そんな感じでカラオケ店員と私達は少し仲良くなった。


 秋風が吹く。

 私達はお会計から一時間くらい会話を交わし、店の外に出た。

 目的も特になく、歩く私達女子高生三人。


「はぁ~! 喋ってたらお腹空いちゃった!」

「同意。私もそれなりにお腹が空いたわ」

「確かに、そろそろお腹が空く頃ですよね」


 夜の道中、私達三人はカラオケで歌い、ガールズトークを満喫した事により、空腹が発生していた。

 このところ、お腹が減るのが早い。やはり、食欲の秋だからだろうか。体重的にはまだ余裕があるものの、油断は禁物である。

 そんな中、私達の視線の先にはファミリーレストランが止まった。


「どうせなら、ご飯食べて行かない?」

「賛成。私もお腹が空いたしね。谷中さんは?」

「え、えーっと……」


 どうしようかと一瞬悩む。

 食事の件に関しては、母にメールの一つでも寄越せば、許可が簡単に降りる。

 けれど、私の実家は現在、尋常ならざる事態が発生している。

 天使が何人もいる、あの空間に子育ての鬼と化した母に預けたままなのは、私的に不満だ。

 かと言って、二人からのお誘いを無碍にするのも悪いだろう。

 私は今日だけは、麗達が子供化した事を忘れる事にして、母に晩御飯はいらないと即座にメールをした。


「今のって、彼女の黒樹さんにご飯はいらないってメールしたの?」

「違います」

「あ、ごめん、もしかして彼氏だった?」

「麗が後で聞いたら怒りますよ?」

「そうよ。主を怒らせるものじゃないわ」


 やっぱり立花さんの主は麗であったか。一体麗は、どこで人脈を広げているのだろうか。謎は深まるばかりである。

 母から了解のメールが帰ってきて、晴れて私達三人は食事を共にする事になった。

 店内に入ると、やや暖房が効いているからか、過ごしやすい快適な温度であった。

 この時間帯だと平日でも利用客は多く、お年寄りから家族連れまで、多くの人でにぎわっていた。

 案内された席へと座り、まず頼むのはドリンクバー。食事はそれからだろう。

 先に沢渡さんと立花さんにドリンクを取りに行かせてから、私も自分のドリンクを取りに行く。

 ドリンクをテーブルに置いてから、料理を注文するとしばらくの時間があった。


「そういえばさ、谷中さん知ってる?」

「何がですか?」


 沢渡さんが何かに憧れるような眼つきで私を見てくる。


「イケメン五人衆の話!」

「イケメン五人衆?」

「そうそう! ほら、この谷中さんに入学式の日に告白してきた人達!」


 それってもしかして、正男達の事じゃ。


「あの人達、中学で一緒らしくてさ、凄い人気があるんだよね!」

「そ、そうなんですか」

「その五人が学校を休んでから丸三日経ってるんだって! これはBLの匂いがするとは思わない?」


 瞳を輝かせて話す沢渡さん。

 BL的な匂いって一体何なのだろうか。イカ臭いのは嫌だなぁ。

 私は苦笑いをしながら、スルーしようとすると立花さんが口を挟んだ。


「あんたって、本当に見た目だけ良ければ良いのね」

「そ、そんな事ないって!」

「だって、前の彼氏もそこそこ見た目だけは良いわよね。実際、あんたってば、五人衆の誰でも良いから付き合いたいとか言ってたものね」

「だって、あれだけイケメンなんだよ!? いいじゃない! 夢を持ったって!」

「別に夢を見るなとか言ってるわけじゃなくて、あの人達は谷中さんみたいな人とじゃないと釣り合わないって言ってるの」

「むぅ……」


 沢渡さんと立花さんで何やら抗議が始まった。

 だが、訂正してほしい。私と彼らでは釣り合わないと思う。

 正男はスポーツ系だから、私のようなタイプじゃまず無理だろう。理想としては健気な子の方が似合うだろう。

 鷹詩はどちらかというと、麗やそれこそ立花さんのようなタイプが似合うし、直弘はお姉さん系の女性がベストである。

 拓夫に至っては、男尊女卑みたいなところがありそうだから、私では到底付き合うのは難しい。久光は典型的なチャラさが全面に出ているから、合わないだろう。それこそ、友達止まりである。

 結論。全員、私とは釣り合わない。


「で、でもさ、知ってる!?」

「何がよ」

「その五人衆なんだけど、実は全員同じ部活に所属してるんだって!」

「へぇ、それは興味深いわね。何せ、全員タイプが違うから本当だったら友達にすらなれなさそうだけど」


 はい、その部活私も所属しています。

 ちなみに、元親友達は全員仲が良いです。それこそ、喧嘩するほど。


「そんな部活、夢みたいだなぁ……」

「確かにあんたにとっては夢みたいな場所かもしれないわね」

「夢みたいじゃなくて夢だよ……。だけど、坂本さんもいるしなぁ……」

「坂本さんって坂本 優香?」

「そうだよ」

「……牛女か」


 私は聞き逃さなかった。

 立花さんは優香の事を牛女と称した。どれだけ麗の色に染まっているのだろうか。

 そんなガールズトークが繰り広げられる中、私達の料理が到着し、食事を開始するのだが、やはり立花さんと沢渡さんは元親友達の話で持ちっきりである。沢渡さんはともかく、立花さんもそれなりに元親友達に興味があるのだろう。一々返事をするのが早い気がする。

 会話が弾み、私はドリンクのおかわりを取りに行く為席を立った。

 ようやく店内が落ち着いたのか、店員が『休憩入りまーす』と言っているのが耳に入る。

 そこで店内に新たな入客が発生する。


「はぁ……今日は散々だぜ」

「初っ端から外れを引いちまうとダメだな」


 入店したのは金髪の男二人。

 会話から読みとるに、あの後ナンパをしたのだろうが、結局全て失敗に終わっているのだろう。

 店員さんが二人に、禁煙席か喫煙席かを聞いている。だが、二人はそんな店員の事など無視して、店内を見回す。


「あ、あそこにいるぜ」

「おう、じゃあ行くか」


 店内に知り合いを見つけたのだろうか。

 二人は店員の言葉を全て無視し、そのまま席へと勝手に歩いていく。

 私は二人が行く先を目にして、喉を詰まらせた。

 そこには、昼にしつこく食事を共にするのを強要してきた代永 牧教諭。その隣に座っているのは、諸悪の根源である白海 麗香。

 珍しい組み合わせだな、と思いながら、私はしばし監視する事にした。

 白海は金髪の男二人を目にして、何やら親しげに話していた。その隣の牧も同じように二人と会話を交わす。この様子だけを見ていると、牧は白海側の人間だったのかと思ってしまいそうだ。

 だが、そこまで考えてそれはない、と思い至る。

 牧はあれでも、絶対に好きになった女性に対して、仕打ちをするような人間ではない。多分、白海にハメられたのだろうか。

 色々と気になるが、入店してから五分と経たずに、白海達は席を立った。

 そのまま会計へと足を進ませ、これから四人でどこかへ向かう様子だった。

 四人は何かをしようとしている。直感で感じとった私は、一先ず沢渡さんと立花さんの席へと戻り、財布を取り出す。


「ど、どうしたの?」

「谷中さん?」

「本当に申し訳ないのですが、急用を思い出したので帰ります。お金は置いておくので、お願いします」


 札を二枚手渡し、私は店から出る四人の人間を睨みつける。

 もしかしたら、麗達の姿を戻す方法が何か分かるかもしれない。

 私は夜の街を歩く。

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