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部員達が大人になったりなんてしないっ! よんっ

 翌日、麗達の朝食を私と母で、どっちが作るかで喧嘩をした。結局作る事になったのは私だったが、母がとても悔しそうに暴れていた。

 今日も、私は一人で学校に行く事になる。最近じゃ美羽も一緒が多かったが、今は子供になっているので、大人しくしててもらうしかないのだ。

 制服に着替え、身支度を済ませた私は、玄関にてローファーを履くと、とてとてと可愛い足音が響いてきた。幼稚園児がよく着用しているスモックを揺らしながら、私の元へとやってきた。


「みきちゃん! おべんとうもった?」

「あ、忘れてました! 優香ちゃんはおりこうさんですね!」


 わざわざ玄関までお弁当を持ってきてくれた優香の頭を撫でると、嬉しそうに無邪気な笑顔を、私に照らしてくれた。マジ天使。

 優香以外にも、麗と美羽が私の元へとやってきて、麗は腕組をしながら優香を睨みつけていた。


「……わたちがきづいたのに……このうちおんなは、せいかくがわるい」

「こら麗ちゃん? そういう言葉使いしちゃダメですよ?」

「む……。うちおんなばっかり、なでなでちて、ずるいぞ!」

「いや、そういうつもりはないんですけど……。麗ちゃんもなでなでして欲しいのかな?」

「ち、ちがうもん! みきにあたまさわってほしいだけだもん!」


 撫でるのと頭を触るのと、どう違うのだろうか。

 仕方ないので、イジけている麗の頭を優しく撫でてあげる。いつもは無愛想な麗だけど、子供だからか、頭を撫でると純真無垢な笑顔を見せた。

 こんな可愛い麗も、優香も私からしたら、もう戻らなくてもいいんじゃないかと思えてくる。いや、とてもイケない考えではあるけれど、一生私の子供になったら良いのにな、って頭に浮かんでくる。

 だが、さすがに私の本当の娘ではないし、それに麗達も一応は高校生であったわけだし、元に戻る方法を探してあげないといけない。

 でもでも、やっぱりこのままでいて欲しい……。

 どうしようもない可愛さを放つ子供達。その可愛さをいつまでも眺めていたいと思う半面、いつものような美人部の麗や優香に戻って欲しいという願望もある。

 私には決められない。


「美樹、学校遅れるわよ」

「あ、じゃあ、お母さん」

「わかってるわよ。この子達は私が預かっておくわね。うふふ」

「……変な事したら許しませんからね」

「大丈夫よ、本当のお母さんが誰なのかをハッキリさせてあげるだけだから」

「余計ですね。そんな事なら――――」

「いいから学校に行きなさい」


 先ほどまでは死んでいた母なのに、私が学校に行こうとすると突然元気になったようだ。どうやら、私がいなくなる事によって、麗達の親は母だと洗脳するつもりなのだろう。

 私が視線のレーザービームを飛ばすと、今度はドタドタと慌ただしい様子で姉がやってきた。


「およ? 美樹たんとお母さんが喧嘩するなんて珍しいね?」

「珍しくお姉さんも朝早いんですね」

「そりゃあ、今日はちょっとした用事があるからね! そうだ! 美樹たん車で送ってあげるよ!」

「いいんですか?」

「もちのろんだよ! んじゃ、お母さん、その子達の洗脳――じゃなくて子守りお願いね!」

「ちょっとお姉さん!?」


 そんなわけで、私は最後に麗達に洗脳されないように気をつけてください、と言い残し、家を後にした。

 家を出て停めてあるベンツのSL63AMGに乗り込もうとした。二人乗りのオープンカーである為、私は右側のシートに座ろうとした。そこで、再び玄関が開き、美羽が追ってきた。


「どうしたんですか美羽?」

「あ、あのね……」


 何かを言いにくそうにしている美羽が、人差し指をクネクネさせながら、私の事を見ている。


「はい」

「あたち、やっぱりもとにもどりたい。こうこうせいのあたちに、もどりたいの! だから……」

「…………」


 私は美羽の小さな身体を持ち上げて抱き締める。

 胸が大きいってこういう時に邪魔だと凄く思った。

 小さな身体を抱きしめてあげると、美羽は私の胸に顔を押し当てた。


「……あたちは、もっとおおきくなりたいの……」

「分かってます。昨日だって、ちゃんと美羽や麗、優香の為に戻る方法を探してたんですから」

「もどるほうほう?」

「はい、ちゃんと、皆が元に戻れるように、ですね」


 私は笑顔で言った。

 すると、誘爆するように美羽の天使スマイルが炸裂する。


「ありがとっ! やっぱり、みきはあたちのおうじ――じゃなくて、おひめさまだね!」

「え、ええ。それは褒め言葉なのか……」

「じゃあ、いってらっしゃい!」


 美羽が一番現状に不安なのだろう。

 何しろ、生まれた時は未熟児。さらに成長は周りと比べて圧倒的に遅く、その上身体能力には恵まれていない。大多数の人間は、基本的に中学三年間を過ごすと、外見が大人びてくる。だが、美羽の場合は、全く身長が伸びず、見た目も小学生のように幼いままだ。

 コンプレックスは誰にでも存在する。それが美羽にとっては、あり得ないほどの若さなのだろう。今の見た目は五歳児。きっとようやく成長したのに、小さくなってしまった事に、かなりのショックを覚えているのだろう。

 もちろん、私にもある。完全無欠の美少女である私にも、だ。その時点で完全無欠ではないというツッコミはご容赦いただきたい。

 私のコンプレックス。それは元男だという事である。

 だが、それすらも消えようとしているのは、私にも分かる。

 何者の仕業かは知らないが、徐々に私の記憶を誰かが奪って行くかのように、中学の思い出が消えていく。


 ――――今では、中学の修学旅行で、どこに行ったのかすら謎だ。


 美羽とバイバイをして、姉の運転する車に無言で乗る。

 姉はチラチラと私の様子を確認してくるが、話を振りにくいのだろう。気まずそうにして、運転に集中していた。

 私の頬には、流れ星のように涙が溢れていた。


「……美樹たん」


 我慢の限界なのだろうか。姉はティッシュを取り出して、助手席に座る私に一枚差し出してくれた。


「ううぅ……美羽が、美羽が大人に……ぐすん」

「美樹たん……」


 だって仕方ないじゃないか。

 あんなに天使のように可愛いのに、大人になりたいだなんて、私に何か不満があるみたいじゃないか。もちろん、私には不満なんてないだろうけれど、でも嫌なのだ。私はいつまでも、ずっとこうして麗や美羽も優香も交えて過ごしていきたいんだ。

 それをあんな風に、悪気もなく「このままは嫌だ」と遠回しに言われると、私が望んでいた理想なんてありえない、と完全拒否されたように悲しくなってくる。


「美樹たん、皆も人間なんだからさ、大人になるって……」

「分かってます……分かってますけど……うぅ……」


 皆がこのまま、私の理想を叶えてくれるみたいに幼いままで、いてくれる事を望んでいるわけじゃない。分かっている、分かってるけど涙が止まらないんの。

 だって女の子だもん。


 姉の運転するSLは、学校の正門前に停まり、私は降りてそのまま学校へと足を向かわせた。

 わざわざ私を送ってくれた姉が渋い顔をしていたのは、言うまでもない。

 昇降口に入って、私が靴を履き替える。


「おはよう、谷中さん」

「おはよう」


 瑠花と雅紀の二人が、このタイミングで登校してきたのだ。

 朝の昇降口は多くの生徒で賑わっている。だが、私の聴覚は他の生徒達の会話を雑音と判断し、シャットアウトした。その代わりに瑠花と雅紀の言葉を集中して聞こうとする。

 視界に入る瑠花と雅紀は至って普通。恐らく、二人とも昨日、尾行されていた事など知る由もないだろう。

 昨日までの私は何かを企んでいる二人を怪しいと思って尾行したのだが、それは好奇心からくるもの。だが、今日の私は違う。

 幼い美羽からの願いなのだ。だから、今日からは本気で元に戻る方法を探す。


 美樹転生。部員が幼女になったら本気出す。


「おはようございます、雅紀先輩、瑠花先輩」

「ん? どうしたの? 谷中さん泣いてたの?」

「それは関係ないです。私は今、二人に質問をします」


 至極真剣な顔を作り、私は二人の双眸を視線の槍で突き刺す。


「……何かしら?」


 雅紀と瑠花は一度、お互いの顔を確認し、それから私の事を怪訝に思ったのか、首を傾げながら見た。


「昨日は何をしてたんですか?」

「え、き、昨日? ……き、昨日は実家のお手伝い、だよ。ほら、自営業だからさ! 昨日は疲れちゃったよ~……」


 愛想笑いを浮かべる瑠花。

 嘘を吐いたな。瑠花はアウトだ。

 次に雅紀も、髪の毛を弄りながら、昨日何をしていたのかを思い出しているのだろう、視線を上に向けていた。


「昨日は……家に帰って寝てたような……」

「そうですか、では、これはなんでしょうか?」


 私は昨日、姉にお願いをして、撮ってもらった写真のデータを見せた。

 そこには、神社が密集する田舎の駅で歩く二人の姿。

 きっと、今日二人に何をしていたのかを問いただしても、私は何も知らないフリをするのだろうと感じていた。だから、姉に監視カメラをハッキングしてもらい、わざわざデータを盗んできてもらった。

『バレたら犯罪だから、報酬は高いのを求めるよ!』との事なので、報酬は私の下着になった。乙女としてのプライドは失った気がするけれど、麗達を子供にした超常現象の正体を突き止められるのなら、安いものである。

 写真を眼に入れた二人は、牟子を縮め、(まぶた)を大きく開く。

 何かを口にするかと思ったが、瑠花は真っ先に私から姿を眩まそうとした。逃しはしないと思い、腕を伸ばして瑠花の華奢な手を掴む。


「……確か、実家の手伝いをしてたんですよね? なのに、この時間帯にこんな場所にいるのは変ですよね? ……何をしてたのか吐いてください、先輩」

「あ、あたしは……」


 瑠花に告白させようと、眼でも脅す。だが、その雰囲気を雅紀にあっさりと斬られた。


「やめなよ、もしかしたら別人かもしれないし」

「雅紀先輩、これが別人だというのですか?」

「いや、そういうつもりはないんだけど……」

 

 フォローを入れたつもりの雅紀も、まさかの逆効果。そのせいで、お互いに無言の重い空気が流れる。

 そんな空気を逃れる為に、瑠花は私から手を振り払い、自分の教室へと向かう為に駆けだした。


「瑠花先輩ッ!」


 逃げようとする瑠花を私は呼びとめる。

 すると、一瞬だけ足を止め、私に言った。


「これが最後のチャンスなの……」


 それだけ言って、瑠花は教室へと向かった。

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