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部員達が大人になったりなんてしないっ! いちっ

 晴天の空のもと、私は公園に来ていた。夏が終わり、秋を感じさせる昨今の気温は、過ごしやすいものだ。長袖が丁度良い季節である。

 私の子供達も――――いや、違う、私が面倒を見ている子供達も、長袖で充分なようだ。ただ、風邪をひかないかだけが心配である。

 久光君と鷹詩君はひたすらゲームで通信対戦を、ベンチに座りながらやっている。二人とも仲が良いのか、ハイタッチとかしている。可愛い。

 他に拓夫君なんかは、本を読みながら「めがねがなくても、もじがみえる!」と叫んで感動している。可愛い。

 砂場の方に視線を向けると、黒髪ショートの女の子である麗ちゃんが、木の枝を握り、高々と上げ「わたしたちは、びじんぶだ! せいぎのひーろーなんだぞ!」とガキ大将のように自慢げに謳っている。そんな麗に子供の皆は目が離せなくなっているようだ。

 美羽も正男も直弘も、麗に「たいしょうすごーい!」と言いながら、どこかへ戦いに行った。可愛い。


 そんなわけで、学校を抜ける事に成功した私は、皆を連れて近所の公園に遊びに来ていた。別に学校が近くにあるからって通報はされない。なぜなら、私は保育園の先生のように薄いピンクのエプロンをしているからだ。おまけに靴はスニーカーだ。

 さらに言うのならば、麗達には、母にお願いして小さい頃私や姉が着用していた衣服を着させている。まだ服が残っていたから良かったものの、なかったら裸で遊ぶしかないのだ。

 ちなみに、全員私や姉の御古を使っている為、名字が『やなか』である。女子はピンク。男子は水色で分けられている。可愛い。


 そんな麗達を監視という名目の眼福していた私の洋服が引っ張られる。

 引っ張られた方へと視線を移すと、金髪碧眼のツインテールである優香ちゃんが、何かを言いたそうに私の事を眺めていた。

 麗達に気を配りつつも、私は屈んで優香の途轍もなく華奢な両肩を優しく握った。


「どうしたのかな? 優香ちゃん」

「え、えーっと、ね。み、みきちゃんは、ぱぱにあったの?」

「え?」

「……いってなかったよね? あたちのぱぱが、こうちょうなの……」


 そんな事知ってます。

 優香はしょぼくれた顔で、申し訳なさそうに俯いた。

 しかし、私の疑問はそこじゃありません。


「ダメですよ、優香ちゃん」

「え?」

「私の名前を呼ぶのはダメです! 私の事は先生かママって言いなさい!」

「え? み、みきちゃ――――」

「先生かママって言いなさい」


 すると、優香は餅のように柔らかそうな頬を赤く染めて、小さい唇で「じゃ、じゃあ……まま……」と掠れるような声で呟いた。何を恥ずかしがっているのだろうか、私達は家族同然である。

 心の中での私は悶え死んだ。


「可愛ッ!」

「み、みきちゃん!?」


 我慢の限界を超えた私は優香の事を力任せに抱き締めてしまった。いや、それくらい可愛いんだもの。天使よ天使! あ、私もよく言われてるけど、そういう意味じゃないわ。

 理性が崩壊した私を見た麗達、全員が私の元にやってきた。


「うしおんな! わたちのみきをとるな!」

「と、とってなんかないんだからねっ! あたちのままなんだからねっ!」

「えぇぃっ! はなれろ! みきとむすばれるのは、わたちなんだからな!」

「コラ! 麗ちゃん、私の事は先生かママと呼びなさい!」

「み、みき……!?」

「いいから、先生かママと御呼び」

「は、はい……まま」


 麗は肩をガックリと落とした。何か怖いものでも見たのだろう。しかし、いつも強気な麗がここまで小さくなり、ガックリとしている姿を見ると、何かくすぐられるものがある。何だろうか、これが幼女の力だと言うのかッ!? 

 またも理性崩壊。私は麗を抱き枕のように抱きしめる。


「く、くるしい……」

「ごめんなさい! で、でも、今だけは、今だけは麗を抱き締めたいッ! 許して!」

「ゆ、ゆるすまえにしぬ……」


 グッタリしてしまった麗。どうやら抱き締める力が強かったようだ。おかげで、さっきまでガキ大将を気取っていたのに、現在の麗はソファで眠るサラリーマンそのものであった。

 ガキ大将を失った部下達は一斉に私の元へと集まる。その中には正男や鷹詩、久光などもいる。


「みきさん! おれもだきしめて!」

「お、おれもみきさま!」

「だめだだめだ! みっきーはおれのままなんだぞ!」


 そんなわけで、私は全員をハグした。

 結果、男性陣は抱き締められている途中に、皆頬を落としながら天国に召されそうであった。実際、抱き締めた後、どこに持っていたのか謎なバシンバシンハンマーによって反省させられていた。

 そんなわけで、平日ではあるが、今日も美人部は平常運転(?)である。ちなみに、現在時刻はお昼前。皆もそろそろお腹が空いている頃だろう。


「じゃあ皆さん、お昼ご飯を作りますので、スーパーに行きますよ!」

『は~い!』


 完全な幼稚園へと化した私の身辺。皆でスーパーへと行き、今日のお昼は何にするかを考える。母は友人と買い物に行っているっぽいので、私的には帰っても何の問題もない。さらに言うのであれば、母も子供好きだから尚更問題ない。

 スーパーへとやってきた私達。子供達は大人しくするわけがなく、麗と優香はお肉に牟子が釘つけになり、正男達の目線はウィンナー売り場のおばさんによって奪われていた。

 あのおばさん、餌付けしたら許さない。

 スーパーは主婦の人が多く、皆年配の人ばかりだ。その中でもやはり麗や正男達は目立つ程可愛い。なので、よく声をかけられる。


「お子さん可愛いですね? 何歳になるんですか?」

「ごさいっ!」

「へぇ~、綺麗なお母さんに恵まれて良かったねぇ!」

「うん、わたちにはおかあさんが、ふたりいるんだ! なまえは、れいっていうの!」

「え? お母さんが二人? それって、お父さんが違うのかしら……」

「ちがうよ! わたちはね、みきおかあさんと、れいおかあさんの、こどもなの!」

「麗。後でちょっと来なさい」


 どうやら、買い物中のおばさんに余計な事を吹き込んだ麗。子供の無邪気さを完全に生かして、美樹と麗の子供と言い張っていた。いや、普通に女同士じゃ結婚できないから。日本ではね!

 そんな中、正男達がいなくなったので、周囲に視線を張り巡らせると、また絡まれていた。


「ねぇ、ボクどこから来たの?」

「おれはみきさんのいえからきた!」

「美樹さんの家?」

「うん! おとうさんは、まさおっていうんだよ!」

「じゃあ、ボクはカッコいいお父さんと綺麗なお母さんに恵まれたんだね!」

「うん!」

「正男さん、後で話があります」


 これが男共全員分続いた。皆はどうやら、既成事実を作りたいのだろう。全く、子供達の正男達ならば、まだ結婚してあげなくもないけど、高校生の正男達とは付き合いたくないのよ。

 子供であれば、良いわ。むしろ、結婚させて! できるなら。姿形は一生、そのままでいいから。

 ようやく、既成事実を作る作戦に飽きたのか、全員私の近くに戻り、買い物かごに入った材料を見ている。恐らく、お昼に何を作ってくれるのか楽しみなのだろう。ここで一番良い子だったのは美羽と優香だ。といっても、美羽は私から逸れないようにエプロンをずっと小さい手で握っているし、優香に至っては何か考えごとがあるようだ。

 まぁ、子供のうちに無理はいけない。私は何も言わずに優香の頭を優しく撫でてあげた。すると、嬉しかったのか、優香は私の手を両手でしっかりと握った。

 そんな私達が会計のレジに並ぶと、そこには見慣れた変質者の姿が。


「あ」

「……何してるんですか」

「いや……」


 現れたのは満――――つまり、私の兄である。外見は正男達を凌ぎ、ファッションセンスも悪くないし、頭も良いし、金もある男。ただ、痛いところを突くならば、それは超がつくほど鈍いという事か。ちなみに、この変質者は究極のシスコンである。

 私の邪険な視線を受けているにも関わらず、彼のヒットポイントは減っていない。それどころか、鷹詩のようにM属性があるからか、徐々にダメージはヒットポイントに変わっていく。

 悔しいけれど、これ、ドMなシスコンなのよね。

 私が胸中ツイッターをしている間、兄は前髪を掻き分け、私に良い角度で見れるようにキメ顔を作った。


「こんな所で出会うって事は最早運命だよね! 美樹たん!」

「ささ、皆さん、家に帰りますよ」

『は~い!』


 ザ・無視。


「ちょっと待ってよ~ん、美樹た~ん!」


 その後、私と子供達は兄から死に物狂いで逃げまくった。


 お昼ご飯は季節外れではあるが、冷やし中華だ。なんせ、スーパーでは安かったからだ。それだけで決めたわけじゃないけれど、この人数であれば、例え子供でもかなりの量が必要になる。それだと冷やし中華という結論は、限りなく正解なのだ。完全な正解は、恐らく白米にふりかけとか、そんなコスパ的な正解になるだろう。

 さて、皆は天使だからか、食事を終えると疲れてリビングに雑魚寝している。こうして見ると、なんだか兄妹のようにも思える。

 ふふっ、写真は永久保存。


「美樹たん、俺の分もありがとう」

「ええ、ついでですから」

「そんな事言って、実はツンデレなの知ってるんだよ? 『あ、味はどうだったのよ、ちゃ、ちゃんと教えなさいよね』とか言っても感想は教えないよ?」

「ええ、結構です。麗達から散々美味しいって言われたので」

「ツンが多いね~! たまにはデレも見せてよ」


 麗達が寝静まった後に、仕方なく家にあげたら、こんなにうるさい兄。さて、どう処分しようか。そんな事を考えていたら、麗のバシンバシンハンマーが尻目に入った。

 私はもじもじしながら、上目使いをして兄を見つめる。

 すると、兄はパチンコでビッグが当たったかのように、座っていた椅子から半立ちになる。まさに、これは来たか!? っていう顔である。


「お、お兄さんのだけは特別なんだからねっ……」

「み、美樹たん……ごくりっ」


 途轍もない反応をする兄。現在は、宝くじの一等が当たった、平均年収が低いサラリーマンのような顔だ。

 そこで、私は照れ混じりの笑みを浮かべる。


「毒入りですからねっ」

「――――なん、だとっ!?」


 そこで兄は倒れた。


「って、ノリが良いのはお兄さんの少ない魅力ですが」

「あ、はい」

「何で、帰って来たんですか?」

「そりゃあ、暇だから?」

「はぁ」

「それより、コイツ麗とかいうまな板だろ?」


 驚いた。こんな兄でも麗だと見破る事ができるとは!?


「ま、寝れば元に戻るでしょ。それがギャグ・コメディーの鉄則だしな」

「何を言ってるのか分からないんですが」


 兄は相変わらず何を言っているのか分からない。

 だが、問題は別にある。

 そう、兄のポケットには見覚えのある布切れ――――もとい、男にとってのロマンが入っていた。


「それよりも、お兄さん。そちらに入っているピンク色の布は何ですか?」

「……バレてしまったか、これは俺が異世界に転生した時に持っていた最強武器でな、魔王と戦ってる最中に姿を変え――――」


 私はバシンバシンハンマーを拾い、それを握り締め、大きく振りかぶる。


「ま、待て美樹たん! 早まるな! お、俺を誰だか分かって――――」


 私はニッコリと笑って、バシンバシンハンマーを振るった。


「ド変態なお兄さんですよね」


 その日、兄の部屋を捜索したら、いつの間にか消えていた私のパンツを五点ほど見つけた。その分だけ兄のイケメンフェイスを叩いた。

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