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私の元親友達が子供になってたりなんてしないっ!

「みきっ! わたちたちをおいていくのか!? わたちはずっといっしょにいたいのだぞ!? そ、その、はぐちてあげたっていいんだぞ!?」

「みきちゃん、あたちたちをおいていかないで! いっちょにあそんでよぉ……」

「みきおねえちゃん……、はやくかえってくる? さんぷんごくらいにはかえってくるよね?」

 

 三人の子供達、もとい美人部の麗、優香、美羽が子供姿となってから早数分。私は念のため、学校に足を運ぶ事にした。最も、この三人を置いていくなど、とても非道にして外道な行為でできないのは、重々承知である。しかし、もしかしたら、学校に顔を出せば、麗達が子供となってしまった原因が分かるかもしれないのだ。

 正直、麗の自宅にて私が学校に行くのを阻もうとしている三人の子供達は可愛過ぎる。今すぐにでも卒倒してしまいそうでもあるし、なんなら今日一日ずっと遊んであげても良い。いや、お風呂なんかも私が全員面倒を見てあげたい。ウフフフ……。

 自分の中に潜んでいた可愛い者好きへの本質が顔を出してしまい、引っ込まない私の自制心は今すぐにでも学校を休みそうになる。

 だが、麗達もいくら何でも子供の姿でずっと過ごすのは嫌だろうから、動ける私が行動するのだ。

 でも、麗達も私とイチャイチャするのは、まんざらでもなさそうではある。


「ごめんなさい……。本当は凄く、すごーく、すごーっく、遊んだり、お風呂に入れたいんですが……、今日は……」


 自分の中にある、学校へ行かないといけないという使命感と子供版麗達と遊びたい気持ちが戦い、私の胸中では葛藤している。その戦争はまるで天使と悪魔の第二次世界大戦である。

 そんな私を知ってか知らずか、黒髪ショートの麗が私のスカートをちょいちょいと引っ張る。


「みきは、わたちたちのことがきらいなのか?」


 差し指を咥え、首を傾げる麗。瞳は潤んでいて、今にも泣きそうである。――――あざとい。

 だが、さすが麗。私のツボポイントを抑えているのか、途轍もなく可愛い。どうやら、麗は私の胸中に潜む悪魔を応援しているようだ。

 私は我慢できなくなり、麗を思いっきり抱きしめた。


「あ゛あ゛いぃッ”」

「みき? やっぱりあそんでくれるの?」

「か゛わ゛い゛い゛ッ!」

「みきちゃん、きゃらこわれてる……」


 もうダメだ。今日は学校休もう。公園に皆連れてって、それから昼ご飯を作って皆で食べて、また遊んでお風呂に入って、皆で今日は寝るんだ!

 固い決意を胸に、私は右拳に力を入れるのであった。

 私の中での第二次世界大戦は、悪魔の勝利で幕を閉じた瞬間であった。


「みき、きょうはずっといっちょ?」

「ずっと一緒です! 今日は沢山、たくさーん、遊びましょ――――」


 その時、不意に携帯電話が鳴った。

 とりあえず、麗達から少し距離を取り、携帯を確認すると相手は知らない番号。だが、このタイミングだし、何か分かるかもしれないと思い、誰だが知らないけど電話に出た。

 しかし、私の邪魔をするとは結構な度胸があると見える。


「はい、谷中です」

『あ、もしもし。私は生徒会長の朝霞 蕣です』

「あ、はい。私に何か用ですか?」

『え、ええ。ちょっとだけお話をしたいんですけど……』

「手短にお願いします。私の今日のスケジュールは詰まっていますので!」


 もはや行く事を諦めた学校になど、今さら行く気になどなれない。むしろ、今は何をして三人と遊ぼうかと苦悩しているのだ。私の今日一日の幸せを奪う行為など万死に値する。

 朝から何で生徒会長なんかとお話しないといけないのだ、そう考えていると自然と怒りが沸いてきて、携帯を握り締める力が次第に強くなっていく。

 電話の向こうからは、とても困惑した蕣の声が届いてくる。


『じ、実は、朝の挨拶をしていたら、小さい男の子五人が校門を通れなくて、文句を言ってるの。それで、お父さんやお母さんはいるのかな? って聞いたら、皆して『お母さんは谷中 美樹です!』なんて言うから、何か知ってるんじゃないかなって……』

「……」

『谷中さん?』

「……それって、皆カッコいい感じの男の子ですか?」

『え、ええ……。皆美人部の男の子にそっくりで……』


 私は息を飲み、瞳を閉じた。

 これは覚悟を決めた顔だ。


「すぐに迎えに行きますッ!」

『え、は、はい!?』

「ちょっと待っててください!」

『は、はい――――』


 すぐに電話を切った。

 私は麗達に向き直り、小さい彼女達と目線が合うようにしゃがんだ。

 今の電話がどういう電話だったのか、想像は容易な筈だ。何せ、皆目を潤わして聞いていたのだから。

 皆して『行っちゃうの?』といううるうる目線攻撃を開始するが、これは仕方ないのだ。決して、幼児ハーレムを作り上げるなどという目的の為に学校に行くのではない。……多分。

 

「……ごめんなさいね、今、お友達を迎えに行ってきますから」

「みきは、わたちたちじゃふふくなのか!?」

「いいえ、むしろ、私は皆と遊びたいんです。小さな幼稚園……ウフフフ……」

「みきちゃん、すぐにかえってくる?」

「もちろんです、皆を一時間も置いておく事なんて私にはとても無理です。ああ、優香可愛ッ!」

「みきねえちゃん、あたちもいっしょについていくー」

「ダメですよ、今日は良い子で待っていてください? あ、そしたら、皆にアイス買って帰ってきますね! 良い子にはハーゲンダッヅをあげますよぉ!」

「……わかった。いいこにしてる」


 ああ、これは確定的である。何がって? 私の幼児ハーレムがである。このまま行けば、小さな男の子も加わって、私の小さな幼稚園が出来上がる。こんなに嬉しい事はない。

 さて、そんな私は麗から自宅の鍵を受け取って、玄関を出る。皆してバイバイと手を振る切なさと可愛さと言ったらもう……、私を失神させる気なのだろうか。

 扉を閉めてから、すぐに部屋に引き返したい気持ちにかられるが、今はとりあえず迎えに行く事が先決であろう。

 ……しかし、この女子寮のセキリュティって本当に厳しいな。鍵がいっぱいあり過ぎて、どれがどれなんだかサッパリ分からない。

 

 こうして、私は学校に向かうのであった。


 ◇


「おはようございます!」

「なぁ、なんでおまえらもちっちゃいんだ?」

「ふん! まさおにいわれたくないな」

「そんなこといってるたくおも、ちっちゃいぞ?」

「なおひろ、おまえいつから、そんなにちいさくなったんだ?」

「ひさみつ、げーむやりながらだと、あぶないぞ」

「たかしもおなじようなもんじゃん!」


 私が足を運んだ先には、生徒会長(女子四名、男子一名)の皆が朝の挨拶をしている正門。そこには、朝登校する女子生徒九割の男子生徒一割が小さな男の子の相手をしていた。

 だが、すぐに男の子達は無愛想にプイっとそっぽを向いてしまい、学校の生徒達は「つれないなぁ~」なんて言いながら、正門を後にしていく。

 いつもと違う光景に、蕣達は渋い顔をするのだったが、私が登場するとすぐに顔を明るくさせた。


「おはよう、谷中さん」

「おはようございます、生徒会長」


 凛々しいという表現がぴったりな朝霞 蕣生徒会長。その姿は今日も美しい。もちろん、小さな麗達を愛する私の足元には到底及ばないのは周知の事実。

 蕣は私が到着すると、小さな男の子達に声をかけた。


「この人が君達のお母さんなのかな?」

「うん! まちがいないよ! まさおおとーさんのおかあーさんのみきさんだ!」

「ちがうよ! みきさまは、たかしおとーさんのおよめさんだよ!?」

「ちがうちがう! ぼくのおかあーさんだって! なおひろおとーさんのじまんのおよめさんだもん!」

「ふん、みきどのは、たくおおとーさんのつまだ。それいじょうでもそれいかでもない」

「みんななにいってるんだよ! ひさみつおとーさんがうそはよくないっていってたよ!? みっきーおかあーさんは、ひさみつおとーさんのよめ!」

「…………」

 

 私は戦慄した。まさか、元親友達の子供姿を目に入れる事になろうとは思わなかった。

 体育会系……いや、このいかにもヤンチャそうなのは正男だし、大人しそうだけど、遊ぶのが好きそうなドMは鷹詩だろう。それに子供でも可愛い系を貫くのは直弘だし、ふてぶてしいけど、頭が良さそうなのは拓夫である。さらに言うのなら、ゲームをしているのは久光だろう。

 ふふ、まったく。友人も私の気持ちが分かった事であろう。私が突如として女になってしまったような不思議な出来事が皆にも降り注いだのだから。

 私は皆をじーっと眺めた。


「…………いっ!」


『へ?』


 どうやら、何を言ったか分からなかったようだ。

 しかし、私は毅然としてもう一度言い放つ。


「可愛いッ!」


 理性が吹き飛んだ私は、高校の正門前だというのに、五人の小さな友人を力強く抱きしめる。麗達には本当に申し訳ないんだけど、男の子も可愛いよねッ! ごめん、本当に浮気じゃないから……ちゃんと、最後は皆の元に帰るからッ! いや、でも、この子たちも……。あ、ダメ! 私にどっちか選べなんて難しくて無理だわ! そうだ、皆私と一緒に暮らしましょ? え、父親? そんなの多分存在自体いらないと思いますわ!

 というわけで、私は脳内妄想を終えた。


「み、みきさんにだきつかれてるぅ!?」

「し、しねる……」

「ぼ、ぼくいきててよかったぁ……」

「う、うれしくなんかないんだからなっ!」

「うへへ! こどもいべんとばんざい!」


 小さな男の子たち、大感激状態。私も大感激状態。このまま、お持ち帰りは決定事項である。

 私は皆の手を繋ぎ、麗の自宅に帰ろうとして、踵を返した。

 だが。


「ちょっと、谷中さん? あなた、私達を前にして堂々と学校をサボるつもり!?」


 蕣が凄く取り乱した表情で私の肩を掴む。

 もちろん、私も生徒会長を前にして下校しようとするのは確かに、ちょっとした問題行動だと分かっている。だが、高校と子供達で言えば天秤にかけるまでもなく、私は子供達を選ぶ。

 そこで私は振り返ると、そこには蕣がいたのだが、その背後にはもう一人、ヤバい人間が存在していた。


「こ、校長先生!?」


 代永 牧と並ぶくらいのイケメン校長先生。ロン毛でありながらも、不清潔ではなく、金色に煌めく毛質がとても似合っている、五十代だとは思えないハーフの人間。

 その名は、坂本・アリス・ヘガート。

 優香の実の父親にして、この学校のトップだ。


「おはよう、優香の友人の美樹ちゃん? お話は沢山聞いてるよ。私を前にして学校をサボるなんていい度胸しているね。いくら娘の友人でも、大人しく返すつもりはないよ」


 ニコやかに言われたが、私はすぐに絶望した。

 

 ――――こ、このままじゃ、一時間以内に帰れない……。み、皆のハーゲンダッヅを無邪気に食べる姿が見れないじゃない!

 

 校長にして優香の父親を前にしても、私は幼児化した友人達を可愛がる事しか考えていなかった。

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