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私の友人が縮んだりなんてしないっ!


――――身体が重い。


 目が覚めると、麗の住んでいる松丘総合高等学校の寮にいた。昨日、麗による相談を受けた私は泊まっていたのだ。

 何時に寝たのか、明確な時間は分からないが、何故か身体が重い。それだけは言える。まるで大人が二人くらい私の身体に乗っかっているような感覚。その心当たりが一つだけあった。

 月一回の憂鬱。まさかとは思ったが、この気だるさはそれだ。

 いつの間にか眠っていた布団の中で、私は溜息を吐いた。


(まさか、今日に限って……。ナプキン持ってきたかな……)


 なんて思いながらも、再び溜息を吐いた。この事に関して、姉や母に相談したところ、私は月一のコレが結構重い方らしい。だから、あまり無理はしない方が良いのだとか。

 それにしても、先月より来るのが早い気がする。不定期だから仕方ないのか、それとも、単に早くなったのか。こんな時に麗の家に宿泊したのは間違いだったかもしれない。パンツが鮮血で真っ赤に染まってなければいいのだが……。

 そう思って、布団を捲ろうとしたら、中々布団が捲れなかった。

 不思議に思った私は、布団の上に何か重い物でも、乗っかってるのかと思い、視線を移動させると、そこには三人の小さな少女達がいた。

 

 ――――え、子供?

 

 この重みは月一回の憂鬱ではなかった。原因は三人の少女が私の身体に乗っかっている事であろう。その事に安堵しつつも、目の前の幼稚園児にしか見えない子供達を起こす事にした。

 まず、一番近くにいた黒髪ショートの女の子を起こす事にした。


「起きてください、あなた、どこの子ですか?」


 肩を揺さぶって起こしてみるも、返答はない。まるで石像のように起きようとしない彼女は、死んでるように眠る。呼吸はしているから、一応問題はない。けれど、早く退いてもらいたいのだが。

 仕方ないので、次は金色のロングヘアーの少女を起こす事にした。


「起きてください。お姉ちゃん、これじゃ学校に行けないよ?」


 またしても、スルー。というか意図的に無視されているような気もしてきた。子供というのはそういう恐ろしさがある。金髪の子は顔をフルフルと横に振って、私の呼びかけに、鬱陶しそうに手を弾いた。

 この子は一瞬だけでも起きた。けれど、退かすのも悪いのかなと思い、これ以上声をかけるのを止めておいた。

 最後に薄氷色の髪をした少女を軽く叩いた。


「起きてください」

「むにゃ……? ぁれ? みきちゃん?」


 最後の子は起きたのだが、私の事を知っているようだった。眠そうな目を擦って私の事をじーっと眺めて、しばらくするとまた瞼を閉じた。

 どの女の子にも共通しているのは、皆途轍もなく可愛いという事だ。一人一人が幼稚園でトップレベルの可愛さを誇る。眠気が覚めてきた私は、全員をハグしたい欲求にかられるが、無理に起こしてしまいそうで、行動に迷った。

 いや、一刻も早く布団と子供達を退かしたいけど、こうも可愛い寝顔を見させられては、動くに動けない。

 あまりの可愛さに、ちょっとだけなら抱きしめても良いかな? なんて悪魔の囁きが聞こえてくる。

 そんな中、どこに置いていたのか。携帯のアラーム音が鳴り響いた。そのアラーム音は私の知っているもの。つまり、私の携帯が鳴っているのだ。

 シンっと静まり返った部屋で音を放ち続ける携帯。その音を辿って行くと、丁度私達が散らかしたトランプやUNOがあるテーブルに放置されていた。

 心の中で『ごめんね』と呟きながら、子供達三人を無理矢理退かし、布団から脱却した。

 ようやく携帯を掴んだ瞬間にアラームの音は終わった。


「はぁ……もう学校ですか……。っていうか、麗達はどこにいるんだろう……」


 虚しい独り言を呟きながら、辺りを見回す。麗達の姿は見えないが、子供三人ならいる。これは私だけ置いて行かれたパターンか。それとも皆で朝ごはんを買いに行ってるのだろうか。疑問が疑問を生む。

 とりあえず、玄関に靴があるかないかだけでも確認しようと思い、そのまま視線を移すと、全員分のローファが並んでいた。という事は皆は家のどこかにいる筈だ。

 私はくまなく部屋全体を探した。

 風呂やトイレも探したのだが、誰もいなくて、ただ私が歩き回る音だけが響いた。


 ――――本当に何処に行ったんだろう?


 時間は迫っているものの、ここは女子寮だから学校までは、ものの五分で行ける。とにかく今やるべきは、消えた友人達を探す事である。

 どこにもいなかったので、私は携帯で麗に電話をかけた。コール音は私にも聞こえる事から、近くにいるという事なのだろう。

 リビングにて携帯を鳴らしていると、眠っていた黒髪の少女が麗のものと思われる携帯電話を掴み、電話に応答する。

 そこで、私は電話を切って黒髪の女の子に近づく。


「人の物触っちゃダメですよ?」

「……なにをいっているのだ? これはわたちのだぞ?」

「ダメです。私の友人の携帯ですから、勝手に弄ったら怒られますよ?」

「いや、わたちのなんだけど」

「知りません。悪い子には、私。怒っちゃいますよ?」

「ん? みき?」

「とりあえず、麗は携帯を持たないで、どこかに行っちゃったんですね……」


 仕方ない。とりあえずの所、麗がいないのであれば優香にかけるしかない。黒髪の少女だけが起きて、不思議な顔をしているが、起きたので良しとしよう。

 私は次なる相手である優香の携帯を鳴らす。またもリビングにてなる携帯。それを眠たそうな目を擦りながら、金髪少女が電話に出た。

 私は溜息を吐きながら、少女の元へと歩んだ。


「何で、あなたが人のものを使うんですか?」

「みきちゃん? なんでおこってるの?」

「あなたが勝手に人のを使ってるからです。ダメですよ、勝手に他の人の物使っちゃ!」

「……これ、あたちのだと……」

「ダメです。私の友人のです。ですから、勝手に使うのは許しません!」


 少しだけ心がチクっと針を何本か射したような痛みがあったけど、でも優香のを子供に扱わせるわけにはいかない。私はさっきの黒髪の子からも携帯を取り上げて、金髪の子からも優香の携帯を取った。二人共、「かえちて~」と涙目で言いながら、ぴょんぴょんと小さなジャンプをしている。その姿に私は悶え死にそうになりつつも、人の物だから返してあげられないのだ。

 なんとも良心が痛む。

 最後に、美羽に電話をかけようとしたが、今度も薄氷色の髪をした女の子が電話に出ようとして、私が取り上げる。

 友人達の姿は一向に見つからないまま、子供達が全員起きてしまった。


「……あんた、ちいさいわね」

「なにをいっている、このうしおんな!」

「ふたりともちいさいけどね」


 三人して会話が始まった。子供同士の会話ってどうしてこんなに可愛いんだろうか。私を朝から殺す気なのだろう、絶対にそうに違いない。今にもハグしたい気持ちが徐々に高ぶってきて、私は理性が吹き飛び、我慢できずに近くにいた黒髪の子をガバッと抱きしめた。

 

「な、なんだみき……?」

「可愛いっ! この誰かに似てる眼とか可愛過ぎですぅっ!」

「む、む……。えへへ」

「ちょっと、なににやにやしてるのよ! みきちゃん、あたちもだきちめて!」

「良いですよぉ~、むしろハグさせてくださいっ!」

「ふわっ! みきちゃんいいにおい……」

「こっちもはぐちて!」

「あらら、ゴメンなさいね? 今、抱きしめますからねッ!」


 勢いで全員をハグしてしまった。けど、反省も後悔もしてない。あるのはただ、ひたすら抱きしめてチューしたい欲求だけです。

 皆が私を悶えさせている中。一人の女の子からぐぅぅぅっという音が聞こえた。腹の虫が鳴いたのだろう、私はまだご飯を食べていない事に気づき、朝食を作る事にした。麗には後で謝っておいた方が良いだろう。

 私が朝食を作る間、全員がワクワクしながら私が料理している姿を見つめている。可愛過ぎる。

 所要時間十分くらいで、通常の食卓に並ぶ朝食を作った。小さいお皿に個別に料理を盛って各自に出した。


「全く、麗達はどこに行っちゃったんだが……」

 

 なんて呟きながら、料理を出すと子供三人がひまわりのような笑顔を咲かせた。そんな顔をされたら、私はまた死んでしまう。いや、実際何回死んでるのか分からない。もう可愛いっ。

 子供達には、それぞれフォークやスプーンを渡した。それで食べるのだが、黒髪の子が呟いた。


「……なんかきょう、からだがちいさくなったきがする……」

「何か言いましたか?」

「うむ、なんかてとかちいさいきがするのだ」

「というか、小さいですよ? それよりもお名前を聞いていませんでしたね?」


 黒髪の子は若干ムスっとしながら、スクランブルエッグを取りにくそうにしている。

 スクランブルエッグに苦戦しながらも、黒髪の子は言った。


「なにをいっている、わたちのなまえをわすれたというのか?」

「忘れたも何も、初対面ですよね?」

「む、みき。なにかおかしくないか?」

「おかしい? 子供はそんな事言っちゃいけません!」

「……」

 

 私がそう言うと、子供達は三人共固まってしまった。それぞれ食事していた手を止めて、自分の身体を眺めている。


「いや……まさか……」

「そんなことって……」

「さらにちぢんだ……」


 三人共まるで夢であって欲しいみたいな顔をしている。

 金髪で碧眼な少女が私を睨みつけるように見つめる。


「みきちゃん!」

「は、はい?」

「あたちのなまえは?」

「まだお名前を聞いていませんよね?」

「いやいや、あたちはゆうかだよ!」

「ゆうか? えーっと……」


 脳内変換中……。

 検索ヒットしました。私の友人に『ゆうか』は一人だけ。坂本 優香だけだ。

 すると、すぐに薄氷色の髪をした少女も私に喰らいつくように、近づいてくる。


「あたちは、みう!」

「みう? 美羽ですか!?」


 薄氷色の髪は美羽だった。

 そして、最後の一人は。


「わたちは、みきのしんゆう。れいだ」

「……えーっと……、その……何がどうなってるんですかね……」


 子供達三人――――いや、昨日までは高校生だった麗、優香、美羽は、なんと身体が極限に縮まってしまい、姿は幼稚園児と言っても遜色はない。いや、実際それぐらいなのだろう。

 私も箸を休め、三人の顔を見つめた。

 

 ――――こんな事態を通常の人間に起こるなんて……。いや、何かウイルス性のものだったら納得いくけど、これは違う。こういった事ができる私の知り合いは一人しかいない。

 

 哀れにも、子供になってしまった麗達。このままでは、学校に行く事すらもできない。どうしようと悩む私は、結局、皆が可愛過ぎてまたハグをするのだった。

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