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私達がお泊まり会を楽しんだりなんてしないっ!


「うわぁ~……。まさか、ここまでとはぁ……」

「そ、そんなにジロジロ見られると恥ずかしいですよぉ……」

「そんな恥じらいも素敵! 今すぐアタシが揉んでしんぜよう!」


 カポーンっという音が風呂場に響いた。


「貴様は絶対に触らせん」

「アンタの所有物じゃないでしょ!」

「いや、私の恋人候補だからダメだ」

「何よぉ、アタシだって候補なんだから!」

「二人共。私は同性愛者になった覚えはありませんよ」


 結局お風呂に入る事になったのだが、麗と優香が一緒に入ると言って話を聞かなかったので、仕方なしに私は三人で入る事を了承した。本当は美羽も私と一緒に入りたがっていたのだが、「美羽はいつも美樹とお風呂に入ってるから平気だよな?」「そんな事ないもん!」「平気だよな?」「うぅ……」っというやりとりで、黙らせたのだ。

 ちなみに、浴槽に浸かっている麗と優香は私の身体をジロジロと眺めている。眼福眼福と先ほどから呟いているのが聞こえる。


「美樹っ! 私が身体を洗うぞ!」

「いいや、アンタは引っ込んでなさい! アタシが洗うわ!」


 喧嘩を始めた二人。私はその喧嘩中に身体を洗い終える。

 そんな私に気付いたのか、二人は私が身体を洗い終えてしまった事に関して、深い溜息を吐いてから、自分の身体を清掃する作業に入った。

 何でだろう。喧嘩ばっかりする二人なのに、行動が妙に同調している気がした。


「それにしても、美樹の身体にはどうやったらなれるんだ?」

「え? 私は特別何かをしているわけじゃないですけど……」

「違うわよ美樹ちゃん。どうすれば、胸が大きくなるか聞いてるのよ」

「おい、牛女。シバクぞ」


 どうやら優香は麗の触れてはいけないところに触れたらしく、お怒りを買ったらしい。風呂の中だからか、麗から尋常じゃない量の湯気が浮かび上がる。背景に音をつけるとしたら『ゴゴゴゴ』だろう。そんな麗の腕には、水を汲む為の桶が握られている。

 それを見て、私はお風呂から出る事にした。


 リビング。全員が麗から借りたパジャマに身を包んでいる。……のだが、私と優香の胸元はかなり窮屈だし、美羽に至ってはぶかぶかだった。麗は私の事を見て、頬を染め、優香を見ては舌打ちし、美羽を見ては笑いを堪えるのだった。

 ちなみに、優香は桶で叩かれたのか、頭にたんこぶを作って涙目であった。そんな優香を見て美羽は、胸をなでおろしていた。きっと、美羽の思考を読むのなら『あたしは一緒にお風呂に入らなくて良かった~』だろう。まぁ、美羽が入っても直接的はなかったと思う。

 ちなみに、唯一ジャストサイズでパジャマを着用している麗は、一度部屋に戻ってから、トランプを持ってきた。


「よし! では、これから大富豪をやろうじゃないか!」

「でも、大富豪ってローカルルールありますよね? 麗の方ではどうだったんですか?」

「うむ、友達なんていなかったから、ルールに関しては色々あり過ぎて分からない」


 大富豪をやりだそうと言った張本人が、まさかのルールを知らないとは。いや、ツッコむべきは、麗の発言なのだろうか。でも、こんなに笑顔で「友達なんていなかったから」なんて言われてしまっては、私達もどう対処しようか悩んでしまう。実際、美羽や優香達は口を固く閉じて、暗い空気が漂っていた。正直、私にもこれはフォローできそうにない。

 そんな私達を知ってか知らずか、麗はトランプを卓上に置いてから携帯を取り出して、操作を始める。

 操作が終了したのか、卓上の中心部に携帯を置いた。


「色々ルールがあるらしいのだが、どれを適用しようか?」

「とりあえず、適当に選んじゃう?」

「もう何でもいいわよ。アタシはそれでもアンタに勝つし」

「ほほぅ? 挑戦状か。貴様にしては面白い事をしてくれるではないか」

「まぁまぁ。とりあえず、どれにするか決めてから始めましょうか」


 大富豪なんていつ以来だろう。それこそ、中学の時に授業中やってから忘れてるから、腕は落ちたかもしれない。


「じゃあ、大貧民は明日の朝食を作るという特別ルールを追加する!」

「ここは何としても美樹ちゃんを大貧民にしなくては!」

「ちょ、優香? そういうのは良くな――――」

「やっぱり、ご飯を食べるのなら、美味しいのが良いよね!」

「美羽まで……もぅ、私だって、たまには誰かのご飯を食べたいんですよ? っていう事で全力を出させてもらいますからね!」


 大富豪が早速始まった。

 のだが、一回戦で最下位になったのは麗で、一位は私だった。しかし、駄々をこねた麗に応戦し、私達は再度大富豪をする。またしても結果は同じで、美羽と優香が二位三位になったりと、勝負は結局私が一位で麗が最下位となり、延々とゲームは繰り返されたかに思えた。

 その後もテレビを見ながら、トランプをしていた美羽が寝落ちし、麗も寝落ちし、いつの間にか、私までもが睡魔に負けていた。




 ◇




「……あれ?」


 瞳を開けると、電気が消されているリビング。私の肩にはタオルケットがかけられ、他の二人――美羽や麗にも同じようにかけられている。二人共静かに寝息を漏らしながらも幸せそうに眠っていた。

 涼しい風が私の髪の毛を揺らしてきたので、風の入ってきた方向へと視線を向けると、白地のレースカーテンが靡いていた。湿気が抜けてきた風は夏の終わりを語っている。

 カーテンが揺れているという事は、窓が開いているという事だ。私は美羽や麗を起こさないように、静かに起き上がってカーテンの向こう側へと顔を覗かせてみる。

 そこには、満天の星空の下。ベランダには、いつもツインテールにしている黄金に煌めく髪がストレートとなって揺らめいていた。その人物は手すりに肘をつけて、頬杖をつきながら夜空を眺めていた。彼女の碧眼が宝石のように透き通っていて、夜空に浮かぶ星達を反射させている。

 まるで芸術品のような風景と一体となった優香を、しばらく見つめてしまった。いつも、心の中では私は優香を自分より下に見てしまっている事があるのだが、それを撤回したくなるような美しさを放っていた。

 黄金の毛先を揺らした優香は、ようやく私からの視線に気づき、視線を向けてくる。


「……ごめん、起こしちゃったかな?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 私は微笑みながら、優香の隣に立って、同じように夜空を見上げた。


「……アタシさ、今までアイツと同じで友達なんていなかったんだ」

「……」

「だからさ、今が信じられないんだよね。全部夢なんじゃないかって思っちゃう。美人部での出来事は全部、アタシにとってプラスに働いていく。美樹ちゃんも、正男達も、ムカつくけど、部長のアイツもね」

「もちろんですよ、それが私達美人部の活動ですから」


 優香は星を一つ一つを記憶するように眺めている。その口元は笑っている。


「そう……だね。アタシのワガママに付き合ってくれる人なんて今までいなかったからさ。でも、アイツはともかく、正男達はちゃんとアタシと遊んでくれたんだ」

「……そうなんですね」


 そういえば、夏祭りの時。雅史と私が待ち合わせする前に、優香と親友達は一緒にいた気がする。最近、私にとって優香が親友達と仲が良いのが疑問だった。

 なんだか、胸がモヤモヤするけど、優香にとっては彼らが友人として必要なのだ。だったら、私の彼氏なわけじゃないのだから、とやかく言う場違いだと思った。


「海でもさ、皆と一緒にふざけ合ってさ。楽しいんだ。毎日が」

「……」

「アタシはね、感謝してるんだよ。美樹ちゃんに」

「私にですか?」

「うん。だって、あの時、私に手を差し伸べてくれなければ、私はきっと今もまだ、あの女子高で惨めに虐められていたと思うし、それに白海さんだっけ? あの人の毒牙にもかかっていただろうしね」

「そんな事……私がさせません」

「ん、ありがと」


 そう言うと、優香は私の事をギュっと抱きしめた。いつものようなふざけたハグではなく、真面目な――――真剣な感謝が受け取れるハグだった。お互いの胸が邪魔をしているのは、ここでは黙っておく。

 あの時。それは優香と初めて出会った時の事だろう。私は感謝の気持ちを素直に話された事によって、自然に頬が綻び、笑顔になっていた。


「優香は、私の親友ですから」

「えへへ、なんか美樹ちゃんに言われると、嬉しいな」

「じゃあ、私は優香にとって、どうですか?」


 一度ハグを解いてから、優香の蒼い瞳を見つめる。

 すると、視線を私から逸らして、口をもごもごさせ始める。

 怪訝に思った私は首を傾げると、そんな私の頬に優香の暖かい手が触れる。


「あ、アタシにとって……み、美樹ちゃんは……」


 顔が途轍もなく赤くなっている優香。なんだか、凄く切羽詰まっている様子だった。そんな優香の言葉を私はちゃんと聞こうと思った。

 だが、突然の侵入者によって、その言葉の続きは聞く事ができなかった。


「美樹ぃ……トイレどこ?」


 それは眼を覚ました美羽だった。眠たそうに瞼を擦っている。


「ごめんなさい、優香。ちょっと、美羽をトイレに連れて行きますね」

「う、うん。行ってらっしゃい」


 それからトイレへと案内すると、美羽は一人で用を足して、再びリビングで大の字になって眠っていた。それを見て苦笑いするのだが、優香の続きの言葉を聞こうと思い、ベランダに出ようとすると、優香も丁度戻ってきた。


「あの、私は優香にとって……?」

「ん、美樹ちゃんはアタシにとっても親友でしょ?」

「でも、さっきは何か言おうとしてたんじゃ……」

「気にしないで! 明日も学校だしさ、今日は寝よ?」

「あ、はい……」


 肝心な話を私は優香から聞く事ができなかった。

 確かに私と優香。もちろん麗もだけど、親友同士だと信じている。けれど、優香はそれ以上に私に何か想いを秘めているのだろうか。

 そう考えると、優香は一体何を伝えようとしていたのか凄く気になった。

 だが、今は言うべき事じゃなかったのだろう。無理矢理、私は自分を納得させて再びタオルケットを自分の身体にかけた。

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